2011年3月7日

私が公務災害を申請したわけ-(1)

しばらく体調を崩しており、皆さまにはご心配おかけして、申し訳ありませんでした。

私は、平成23年3月2日付けで、厚労省に対して「公務災害」申請をしました。
公務災害とは、民間企業でいう、「労災」の事です。
現役の行政官(私の場合、医系技官ですが)が、
厚労省における労働環境に対して、公務災害の申請をする、
という事例は、極めて稀なことだと思います。
そこで、なぜ私が申請に踏み切ったのか、を書いてみたいと思います。


戦後の高度経済成長時代の日本では、
官庁、会社など多くの組織で、「滅私奉公は美徳であり、また当たり前のこと」
とされてきました。
そういう先人たちの貴重な努力の賜物として、現在の先進国の地位を築いたのは、
間違いのないことです。

一方で、最近は、「ワーク・ライフ・バランス」という概念が、
しばしば重要な社会問題として取り上げられるようになっています。
いったん成熟化した現代社会において、自分の健康(ライフ)を害してまで
(時には過労死、過労自殺に追いやられてしまうケースもあります)
やらなければならない仕事(ワーク)というものが、本当にあるのでしょうか。
明らかに、ライフとワークのバランスを失しているからこそ、
「ワーク・ライフ・バランス」という概念が、取りざたされるようになったのではないでしょうか。

「滅私奉公」ということは、官庁や会社などの組織のみの話ではありません。
医療現場でも、これまでは、医師をはじめとする医療従事者の献身的な犠牲の精神が、
当然のこととみなされてきました。
そして、いつでも、どこでも、誰でも、日本中で同じような治療が、
適正な費用で受けられる、世界に冠たる「国民皆保険」制度が成立したのだと思います。
言い直せば、国民皆保険制度が成立するためには、
医療従事者の「滅私奉公」の精神が不可欠だったともいえます。

医療崩壊を目の当たりにするとき、
医療従事者の「滅私奉公」に頼りすぎたことのしっぺ返しを示している、とも思います。

私は、厚生行政について、自分の信念を正直に社会に訴えてきました。
それが、社会のためになると信じていたからです。
しかし、「出る杭は打たれる」の諺の通り、有形無形の嫌がらせにさらされてきました。
タフと思われている私も、正直、さすがにこたえました。
その私ですら、体調を崩して仕事を休むほどに、有形無形の嫌がらせが、
口にするのもはばかられるくらいに、酷かった、ともいえます。

私は、現役の臨床現場の医師ではありません。
しかしながら、滅私奉公が当然視されるような古い体質の職場で、
さまざまな有形無形のストレスにさらされながら、
少しでも社会をよくしたいという一念で働いてきたという点では、
私の申し上げたいことを、皆様にもご理解いただけるのではないか、と信じております。

公務災害の申請に迷いがなかったわけではありません。
それでも、あえて私が公務災害を申請したのは、
このような理不尽な状況を解決する「蟻の一穴」になれば、との信念に基づくものです。


臨床現場でご活躍の医師のみなさん、以下のようなご経験はございませんでしょうか。
これらの出来事のため、心身の不調を崩した場合(例えば、抑うつ状態になった)、
公務災害(または労災)として認定される可能性があります。

過労自殺の裁判で有名な川人博弁護士のホームページにみられるように、
予想以上に、現場の医師、看護師などコメディカルの方々の労災認定事例は、
近年、増加傾向にあるようです。

医療現場における、医療従事者の労働環境は、深刻な状況に陥っています。
「医は仁術」の緒方洪庵の言葉に代表される通り、
医療は民に対する奉仕である、とされてきました。
自分自身のための時間も、時には経済的見返りも顧みず、
患者のために働くことこそ、美徳とされてきました。
所謂、「赤ひげ」診療が、医療の象徴とみなされてきたのです。

しかし、自分の健康(ライフ)を害し、最悪の場合は自分の命を絶ち、
家族をも犠牲にしてまで、やらなければならない仕事(ワーク)が、
本当にあるのか、と疑問に思うようになりました。

医療従事者といえども、一己の人間ですから、体力、精神力の限界があります。
この限界を超えてまで、仕事をしなければならない状況というのは、
正常な医療を提供できない、という問題にもつながります。
実際、当直で徹夜した後も通常勤務、という状態は、医師の日常です。
病院で勤務する私の兄も、「週1の当直で、そのまま勤務は辛い」と言っていますが、
還暦を過ぎての長時間勤務は、楽ではないと思います。
ましてや、患者の命を預かるため、神経が休まる暇はありません。

医療現場での労災認定事例は、近年、増加傾向にある、と書きましたが、
今まで述べてきた現状を鑑みれば当然のことと言えます。
それでは、具体的には、どのような出来事があれば、
労災認定される可能性があるのでしょうか。
「職場におけるストレス評価表」が公表されています(11~14ページ)。
これは、労災審査の際に使用されるものです。
ここから、医療現場で起こりうる、いくつかの例を挙げてみます。

●長時間残業
  (1か月の残業が100時間以上、または、2~6か月の平均残業が80時間以上)

●患者から、暴力、暴言を受けた。

●患者から、無理な医療行為を要求された。
(より重症の患者がいるときに、「後回しにされた」といって、患者からクレームを受けた。
処方が不適当だと思われるのに、薬物の処方を強要された。など)

●医療行為によるミスで、責任を問われたり、問われそうな事態に巻き込まれた。
(代理人弁護士との応対を迫られた。示談、訴訟に発展した。
自分自身が、懲戒処分を受けた、など)。

●医師不足のために、複数名で担当していた仕事を一人でやらざるをえなくなり、
仕事量が増大した。それに伴い、勤務時間が延長したり、休日出勤が増えた。
さらには、残業手当が、労働法規にしたがって、支払われない。

●上司から、パワハラ、セクハラを受けた。

●以上のような状態について、上司などに相談しても、
職場は、環境改善のために何の手立ても講じてくれず、支援、協力を得られない。


このような出来事により、精神的不調(例えば、抑うつ状態など)を生じた時、労災認定される可能性があります。
次回は、実際、どのような事例が労災と認定されたのか、お示ししたいと思います。



___________________________
宜しければご感想等を
私宛に(@kimuramoriyoと付けて)twitterにお願いします。