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2013年6月27日

我が国のワクチン行政は、“ずれて”いる -子宮頸がんと風疹の優先順位を巡って-

以下の文は、2013年6月26日発刊、『WILL』8月号に掲載された、「子宮頸がんワクチンの闇」に加筆したものです。



私が、HPV(Human papillomavirus:ヒトパピロマウイルス)ワクチンに関する問題を取り上げてから、3年が過ぎようとしています。
現在、このワクチンの重篤な有害事象などがメディアなどで取り上げられています。
私は、このワクチンの導入が非常に不自然な形で行われたことに対して違和感があり、今一度の議論が必要だと感じています。それと同時に、ワクチンの健康被害に関して、ワクチン推進派とアンチワクチン派という対立構図は、両者にとって良くない方向に進んでいると、大いなる懸念をもっています。

なぜ私がそう考えるのか、これから論じてゆこうと思います。

なお、HPVワクチンについては、諸外国では男女の生殖器周囲がんの予防のために接種が承認されていますが、我が国ではその適応が子宮頸がんだけ(2013年6月現在)となっているので、この文章の中で、特に明記することがない限り、子宮頸がんに関する効果等を示すことにします。

HPVと子宮頸がんの関連が言い出されたのは、1970年代のことでした(1)。その後、分子生物学、疫学分野での研究が行われ、HPVは、子宮頸がんだけでなく、主に性交渉を通じて発生する肛門生殖器周囲のがん発生の一原因であることが明らかになってきました(2)(3)。
また現在では、口腔咽頭がんや、呼吸器の良性腫瘍を発生させる可能性も示唆されています。HPVワクチンは、HPV感染を防御する役割があることが示されたため、欧米を中心とする諸外国では、HPVワクチンが、子宮頸がんのターゲットとなる女性だけでなく、男性のがんなどに関する予防が期待できるワクチンとして認可され、使用されるようになりました。今までワクチンといえば、麻疹や風疹に代表される感染症を予防するものですので、それが、がんまで予防すると言うことに対して、大きな期待が集まったのは、当然のことといえるでしょう。

HPVワクチンは2000年になってから、医療現場で使用されるようになりました。例えば米国では、2006年6月8日、世界初のHPVワクチンであるガーダシルを、HPVに対するワクチンとして、FDA(US Food and Drug Administration:アメリカ食品医薬品局)が承認しました。ガーダシルはこの承認と同時に、HPV6型、11型、16型、18型を標的とし、9歳から26歳の女性の子宮頸がんと前がん状態を予防すること、また、尖圭コンジローマ(生殖器に出来るいぼ)予防のためのワクチンとして、ライセンスを取得しました。2008年9月12日には、陰唇ならびに膣のがん予防ワクチンとしての承認、2009年10月16日、9~27歳男性のHPV9型11型に対する、尖圭コンジローマ予防ワクチンとして承認、2010年12月22日、男女(9~27歳)の肛門上皮内腫瘍ならびに肛門腫瘍予防ワクチンとしての承認を得ています。これらの承認結果を基にして、ACIP(Advisory Committee on Immunization Practices:予防接種諮問委員会)は、小児ワクチンプログラムの一つとしてHPVワクチンを導入することを決定し、2011年5月には、子宮頸がんなどの女性特有の疾患だけでなく、その適応を男性にまで広げることを勧告しました。ACIPというのは、ワクチンのスケジュールや種類、適応など、ワクチン全般に関して勧告を行う専門集団で、アメリカのワクチン行政は、全てこのACIPの意見に基づいて施行されています(4)。

WHOも子宮頸がんをはじめとする、HPV関連疾患予防のためにHPVワクチンの導入を推奨し、欧米を中心にHPVワクチンが導入され、WHO2010年報告によれば、認可をしている国は100カ国以上、公費助成などの国策としている国は22カ国です(5)。

我が国のワクチン行政は諸外国に比して大きく立ち後れており、そのワクチンギャップを埋めることは早急の課題です。
有効なワクチンは、当該疾患をワクチンだけで根絶することが出来ます。その代表例が天然痘ワクチンで、ワクチン接種を全世界的に行ったことによって、長年人類を苦しめてきた感染症は、1976年、ソマリアでの患者を最後に、地球上からなくなりました。またポリオワクチンもその有効性が確立されているため、WHOがポリオ根絶に向かって歩んでいるところです。
ワクチンには必ず副反応が伴います。それが健康に対して悪い影響を及ぼすものを、有害事象と呼びます。その多くは、接種部位が腫れたり、かゆくなったりすると言う軽微なものですが、時としては、ワクチンに対するアレルギー反応(アナフィラキシー)などによって、死亡したり、重篤な後遺症を残すこともあります。これらのマイナス面があったとしても、有効なワクチンによって、日本国国民あるいは世界というマスを当該疾患から守る、というベネフィットがあるから、ワクチンは使われるのです。この考え方の基礎となるのがpublic healthです。

Public Healthの考えは、臨床医が患者個人を相手に治療をするのと異なり、集団の健康問題をターゲットにするため、「Aさんという患者さんが、子宮頸がんに罹った。それ故、治療した結果、5年たった今でも再発していない」という表現を使うのではなく、「人の集団10万人のうち、20人が子宮頸癌に罹った。そのため、治療をした結果、5年たって生きている患者は、人口10万対何人である」という言い方をします。2つの表現で何が違うのかというと、前者は、Aさんという一個人の帰結を問題にしているのに対して、後者は、集団としてのインパクトを問題にしているという点です。

我が国は、このpublic healthの概念が非常に希薄な国です。それ故、何かの感染症が流行した際などに、人口何人のうち、何人の患者が発生し、死亡したのか、という報道がされず、1人、2人、という絶対数だけが取り上げられる傾向が強いです。例えば、新型インフルエンザが10人発生したと仮定します。しかし、100人の中の10人と、100万人の中の10人では、社会的な意味合いが全く違ってきます。日常生活で考えてみると、100円パンの10円引きなのか、それとも100万円する指輪が10円引きなのかでは、物理的にも心理的にも大きな隔たりがあると考えると、イメージしやすいかもしれません。


麻疹、風疹に代表される感染症は、感染力が強く、一人の患者が発生すると、多くの人に広がる危険性があります。広がりが大きくなるだけではなく、特に子どもは命を落としたり、脳炎などの重篤な合併症を生じたり、後遺症を残したりします。また、予防接種を受けていない妊婦が風疹にかかると胎児が風疹ウイルスに感染し、難聴、心疾患、白内障、そして精神や身体の発達の遅れ等の障害をもった子どもがうまれることがあります。ワクチンで予防可能な疾患(VPD:vaccine Preventable Diseases)をワクチンで予防することは、このような障害を未然に防ぐということにもなります。それ故、効果的なワクチンの導入は、集団や国家を守るために必要不可欠です。

子どもたちは親にとっての宝物だけでなく、将来の社会の担い手となりますから、その集団が小さくなってゆくことは、大きな社会の損失、すなわち国力を失うことになります。それ故、乳幼児のうちに決められたワクチン接種が求められます。ワクチンは、Public Healthの考えに則って行われると前にも書きましたが、Public Healthの概念は、マスを救うことであり、国防につながる考え方です。この考えがないと、効果的なワクチンに対しての副反応で重症例が出た場合、すぐにワクチン接種を止めてしまう、というスタンスになります。これでは、ワクチンで当該疾患を予防するという本来の目的を達成できないのは明らかです。日本のワクチン接種は、諸外国に比べて大きく立ち後れており、そのワクチンギャップのために、2007年大学生の間で麻疹が大流行し、海外に飛び火しました。それ故、日本は「麻疹輸出国」というありがたくないレッテルを貼られました。

米国はじめとする先進諸国は、ワクチンを非常に有効なツールと考え、10種類以上のワクチンを決められた時期に接種することが義務付けられています。アレルギーなどの特別な理由が無い限り、ワクチン接種は学校に入学する上での必要条件となっています。

このようにワクチンに対して、親和性が強い国々でも、HPVワクチンに関しては大きな疑問が投げかけられました。2010年に発表された論文でも、その義務接種化に関する問題点が論じられています(6)(7)。

まず、第一に個人の自由との相反性です。義務接種化には(HPVワクチンに限らず)、“個人の自由の制限”が常に伴います。Public Healthは国益を守る手法ですが、それを正当に使わないと、“人権侵害”にもなりかねない大きな問題をはらんでいます。MMR(麻疹・おたふく風邪・風疹混合ワクチン)、DTP(ジフテリアトキソイド・破傷風・百日咳混合ワクチン)、ポリオワクチンなどは、その有効性と社会的重要性を元に、義務接種が浸透しています。

ところが、ことHPVワクチンにはあまり明確でない点がいくつかあるのです。その一つに、子宮頸がんをはじめとする、HPVワクチンで予防可能だと言われている疾患の特殊性があります。麻疹や風疹は、口や鼻といった呼吸器からうつります。呼吸は人間が生きてゆくためにしなければならないことですから、感染経路を遮断することは難しいのです。しかし、子宮頸がんワクチンは、主に性行為によって感染しますから、特別な行為をしない限り、感染するリスクは低くなります。また、性行為をするにしても、コンドーム使用によって、HPV感染のリスクが低くなることが知られています。
HPVワクチン接種は通常11~12歳の若い世代に打つことが義務付けられているので、そんな若い子どもたちの中で、全く性行為に縁がない集団まで、義務接種を課すことに対する疑問があがるのは当然でしょう。

また、当然のことながらワクチンを打つに際して、これから防ごうとするのがどのような疾患なのか、保護者が子どもたちに説明する必要があります。11、12歳はこうした行為に関して、微妙な年頃ですから、話をするのをいやがる親も子どももいるわけです。

第二に、効果の問題です。子宮頸がんを引き起こす一因として、HPV感染があります。HPV感染率が高いのは、アフリカを中心とする途上国です。HPV感染率と同様、子宮頸がんの罹患率が高いのも、途上国です。
性交開始時に約60%がHPVに感染し、90%程度は自然治癒(消失)します。残りの10%のうちの一部が、20年くらいかけて子宮頸がん(主に扁平上皮がん)を発症します。すなわち、最終的に子宮頸がんになるのはHPV感染した女性の0.1%程度と推測されています。

HPVは100種類以上の型があることが分かっており、その中で子宮頸がんを起こしやすいのは、16型と18型と言われています。HPVワクチンは、これらのHPV感染を防御する能力があることが示唆されています。それ故、子宮頸がんの予防につながると期待されているのです。
がんがなぜ発生するのか、これについて明確な答えを出せる人はいません。それは、子宮頸がんに関しても同じです。HPV感染は、子宮頸がんの原因のひとつではあるけれど、HPV感染を防いだとしても、どの程度子宮頸がんの発生を抑えることができるのか、あるいは死亡率を低下させられるのかを、正確に証明することは容易な事ではありません。何しろ、がん発生には、年齢、人種、食事、喫煙、アルコール、発がん物質、遺伝子など、多種多様な因子が関わっています。まだ未知の遺伝子や発がん物質も多くあります。それ故、HPVの発がんに関するインパクトを完璧に評価することは不可能です。けれど、どの程度であるかという推論を、できる限り真実に近づけるためには、多方面からの研究が必要です。

ワクチンの効果を調べるためには、ワクチン接種群と、非接種群に分けてその後の、子宮頸がん発生率、死亡率を算出する、長期的な前向き研究以外はありません。しかし、HPVワクチンの場合は、子宮頸がんの原因となる因子が多数存在することから、純粋な効果判定は難しいと考えられます。また、効果が見込まれるワクチンの場合、打たない群に割り当てられることが、不利益を生じるという考えもあり、こうした疫学研究を行うためには、倫理面での検証もしっかり行う必要があります。Public healthインフラの欠如は、こうした大規模前向き疫学研究をする基盤がない、という弱点にも通じます。言い換えれば、確固たる「エビデンス」が得られないまま、施策がなされ、結果として、国家国民の利益に結びつかないいい加減な厚生行政が繰り広げられるのです。それは即ち、税金の無駄遣いということにもつながります。エビデンス無き政策決定が不毛であるのは、ワクチン行政だけでなく、新型インフルエンザ対策、放射線被害対策に関しても、当てはまります。

1人の患者を見つける間に、感染者100人が通過するという、極めて非効率的な水際対策で、「国内にインフルエンザを入れない」とのパフォーマンスを続けたこと、原子炉を冷却させるために、ヘリコプターで虫の涙ほどの水を撒き、国外の失笑をかったことなどを、思い出される方もいるかもしれません。
いずれにしても、HPVワクチンは2006年に始まった歴史の浅いワクチンであり、効果の見極めは、様々な疫学モデルを駆使したとしても、もう少し時間が必要であるのは明らかです。


三点目として、費用対効果に関する問題です。HPVワクチンは、ターゲットとしたHPVの型に関しては、その感染を防御する効果はありますが、その他に型に対しての、感染防御の効果は確立されていません。論文によっては、その他の型にも効果がみこまれる、という結論を出していますが、それを決定的に結論するには時期尚早といえるでしょう。
HPVワクチンのこのような弱点を補うために、子宮がん検診を併用して行う事を、WHOは推奨しています。そして、ワクチンを国策として導入している国も、このポリシーに沿っています。

ここで問題になるのは、子宮がん検診とHPVワクチンを組み合わせた時に、どれだけ子宮頸がんを減らすことができるのか、という事です。数ある悪性腫瘍の中で、子宮がんスクリーニングは最も効果的であることが分かっています。実際、子宮がんスクリーニング率の上昇は、子宮頸がんの罹患率を低下させていますので(HPVワクチン導入なしに)、スクリーニングの効果は実証されているといえます(8)。

HPVワクチンは従来のワクチンと比して高額です。例えば、B型肝炎ワクチン(日本では定期接種未導入)は約2500円で、3回接種をして7500円程度です。ところが、HPVワクチンの一つであるガーダシルは、約15000円です。ガーダシルも3回接種がスタンダードですから、5倍以上の差があります(9)。
それ故、既に子宮頸がんの予防効果が明らかなスクリーニングに加えて、HPVワクチンを導入すれば、どれだけのベネフィットが出るか、すなわち、HPVワクチン導入においての費用対効果は大きな問題となります。

さて、これまでHPVワクチンの現状と、指摘された問題点について論じてきましたが、次に、我が国特有の問題について述べたいと思います。

第一に、我が国のワクチン政策は、他の先進諸国と大きく異なっているということがあげられます。それは、WHOが世界的に導入を推奨しているワクチンの導入が、極めて立ち後れて来たという点です。これを“ワクチンギャップ”と呼びます。繰り返しますが、ワクチンはPublic healthのツールであるので、ワクチンギャップが存在することは、その国の、public healthインフラが脆弱なことを示しています。
HPVワクチンとともに公費助成になった、肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンは、小児の感染症を予防する上で、極めて重要なワクチンです。それが、経済大国、先進国と称される我が国で、国策として導入されてこなかったのは、かなり特殊だと言わざるを得ません。

それでも、ワクチンの重要性を訴える小児科医、また、世界標準のワクチンが日本に導入されていないことによって、ワクチンで予防できる病気(Vaccine Preventable Diseases :VPD)に罹り、重篤な後遺症を家族に抱えた方たちなどが中心となって、ワクチンギャップを埋めるべく活動を続けてきました。その甲斐あって、腰の重い行政もようやく動きを見せ始め、近年、ワクチンギャップは急速に縮小しています。
しかしながら、完全に世界標準に達したわけではありません(高畑さんの表)。日本との比較として載せている欧米ですが、承認されたワクチンは、国(米国の場合は州)のワクチンスケジュールに組み込まれているワクチンが殆どです。これに比してわが国の場合は、承認はされたけれど、国として勧告しているわけではない、すなわち、所謂「定期接種」に組み込まれていない、必要不可欠なワクチンがあります。特にB型肝炎の新生児への接種は、何にも増して早急に求められるところです。また、承認はされているが、「任意接種」という形で、国が公費助成を行っていない、ロタウイルスワクチン、おたふくかぜワクチン、水痘ワクチンなども小児のワクチンスケジュールに取り込むべきものです。

これらのVPDは鼻や口と言った呼吸器、あるいは、母体などからの血液を介して(B型肝炎)感染し、後遺症、死亡などの重傷な転帰をとる感染症ですから、ワクチンが絶対に必要なのです。こうした重要なワクチンで、未だ我が国が、国として勧告していない中、HPVワクチンという新しく、かつ、感染経路が特殊である疾患に対するワクチンを優先的に定期接種にするというやり方はおかしいと思います。我が国の台所事情は豊かではなく、公費すなわち国民の税金を効果的に使うには、ワクチンの優先順位を、社会的重要性、費用対効果などの観点から、決めるべきです。

第二点として、スクリーニング率が、他の先進諸国と比して低いと言うことです。子宮頸がんの検診の実施状況、必要な人たちがどの程度カバーされているか、という数字を正確に把握することは難しいですが、OECD2007年データによれば、20~69歳までの女性が子宮頸がんのスクリーニングを受けている人は、全体の23.7%です。これは、米国
84%、フランス74.9%、UK(2008年)78.8%と比べて群を抜いて低い値です。子宮頸がんはスクリーニングで死亡率を減らせる数少ないがんですから、HPVワクチンもさることながら、検診率を上昇させることを、第一目標にする必要があります。なぜ、このような低い受診率を保っているのか原因を探り、どうしたら良いかを具体的に探ることが大切です。

これらの点をふまえてHPVワクチンの動態を論じてゆくことは、定期接種となった今でも、極めて重要なことだと思います。特に、ワクチンギャップの解消に地道に活動を続けられてきた専門家集団、一般の方たちからすれば、もっと優先順位の高いワクチンがあるのに、なぜHPVだけが優遇されるのか、という感情を持つのは当然ではないでしょうか。3.11直後も、国家の大行事のように、HPVワクチンの事が繰り返し報道され、HPVワクチンが至上もっとも重要なワクチンであるかのような印象を、国民にアピールし続けてきた、政府、メディアのやり方にも大きな問題があると思います。

今現在、風疹発症が昨年の3倍という、過去最悪のペースで広がっています。風疹は、VPDの代表であり、ワクチン接種による予防が非常に重要です。感染力も強く、妊婦がかかれば、それが胎児におよび、先天異常などを引き起こすことが知られています。我が国のワクチンギャップに代表される疾患でもあり、世界標準のワクチン接種を行っていない世代も多く存在します。特に、おたふく風邪ワクチンの有害反応事例報告を受け、MMRワクチンだけでなくMRワクチンすら受けていない世代が存在します。そうした世代からの発症が目立っています。こうした重要なVPDに関して、現職の厚生労働大臣が、“予算の都合で”国として積極的な公費助成を実施しないなど、考えられない事です。政府は、HPVワクチンは大切だけれど、他の重要なVPDに対するワクチンはどうでも良いのか、国民を守る気があるのか、と言いたくなります。

今まで、HPVワクチンに関する問題を述べてきましたが、今後どうしていったらよいでしょうか。私は、HPVの公費助成を継続するかしないかは、議論が必要な問題だと思っています。それは、今まで述べてきたような我が国のワクチンギャップを、健全な形で埋めてゆくためには、ワクチンの優先順位決定は、もっとも重要な問題だと考えるからです。

ところが、現在のHPVワクチンを巡る話題は、ワクチン推進派、ワクチン反対派という構図の上に成り立っています。HPVワクチンを打った後、重篤な健康問題が引き起こされ、そのうちの一部の方は、ワクチンによる有害事象であると認定されました。こうした重篤な事例は、ワクチン接種を受けた総数から考えれば、こうした有害事象は希です(10)。

ここで、「数は少なくとも重篤な有害事象が存在する。費用対効果がはっきりしないHPVワクチンを定期接種として公費で負担し続けるつもりなのか?」という意見だったら理解できます。しかし、今の議論を聞いている限り、「HPVワクチンは危険だ。断種ワクチンであり、危険なアジュバントが入っているから打ってはいけない」という、アンチワクチンの極論にたった意見展開ばかりが目につきます。

私たちはワクチンに限らず、多くの物質に囲まれて生きています。その中には健康にとって有害な物質も多数存在します。私は都心に住んでいますので、ただ生きているだけでも、多数の有害な物質を吸っていることでしょう。また、食品にしても、100%安全な食材など、存在しないと言って良いでしょう。例えば、無農薬野菜といっても、農薬は使っていなくても、その土壌や水が100%安全だという保証はありません。また、よく防腐剤が入っているものは危険という人がいます。私も出来れば避けたいですが、防腐剤で防げるカビ毒は、個体を死に至らしめる危険性があります。薬も毒だから飲んではいけない、という声もありますが、科学的に合成された薬剤を使わなければ、死んでしまうこともあります。ワクチンにしても同様です。効果があるから使うのです。そして、副反応が存在しても、ワクチンの効果が有害事象を上まわれば、導入されるのです。全てはバランスの問題です。

少なくとも、HPVワクチンが断種ワクチンであり、アジュバントが重篤な有害事象の原因であるという根拠はありません。

不幸にして、ワクチン接種後、重篤な健康被害に遭われた人たちを、速やかに救済すべき事が、今、政府がしなければならない最優先課題の一つです。ワクチン被害の認定のプロセスには、大いなる大きな欠陥があり、速やかな救済のためには、そのプロセスを改善してゆく必要があります。なぜかと言えば、現在のワクチン禍認定は、「はっきりしないものは切り捨てる」という考えに基づいているからです。

ワクチンの真の効果判定が難しいのと同様に、ワクチンと有害事象との因果関係を確立するのも非常に難しく、時間がかかる問題です。本当にやろうとしたら、何十万人という被検者を募り、ワクチンを打つ群と打たない群に分け、何十年も前向きに追って、両群からの有害事象発生率の差を比較する以外ありません。

こんな手間のかかる事をやっていては、救済すべき人が救われないという事になりかねませんから、「疑わしきは救済する」という方法で、事を進めるべきと考えます。そのためには、アメリカやフランスなどで導入されている、無過失保障制度(補償を受けるためには、訴訟に持ち込まない)の導入は速やかに行われるべきでしょう。訴訟でしか、救済の道が得られないという現状では、被害者の救済がハードルの高いものであるだけではなく、必要なワクチンを速やかに導入し、接種率を上げる、という本来のワクチン行政の目的をも阻むことになります。

繰り返しますが、アンチワクチンとHPVワクチン推進派の対立という構図は、最大の問題の一つである、ワクチン被害者の速やかな救済には決して結びつきません。
感情的な議論を避けて、public healthインフラの役に立つ議論をすることが、ワクチン行政にとっても、健康被害を被った方々にとっても、もっとも有用であると確信しています。

今回のHPVワクチンに関する感情的な対立の背景として、ワクチン政策に関する責任の所在がはっきりしない、という致命的な問題があります。現在、社会的な問題となっている風疹の大流行にしても、各自治体や医師会が主体となって予防接種がすすめられています。
このように地域、医療現場の動きが活発なのは喜ばしいことなのですが、当の厚生労働省はといえば、何のメッセージも発信せず、経済的な助成すら躊躇している有様です。国際問題にも発展しかねない今回の流行に対しては何もせず、HPVワクチンだけは大々的にてこ入れする、という態度は、あまりに非科学的であり、納得できるものではありません。

予防接種に関する諸々の事項は、厚生労働省厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会というところで決められます。立て前は、審議会の委員が議論をして決めるという流れですが、実際は事務局である、厚生労働省が結論をあらかじめ決めており、あたかも「専門家に議論して決定していただいた」という隠れ蓑のために存在するのが審議会です。厚労省にしてみれば、実は全てとり、何か事があっても「専門家の決めたことだから」と逃げることが出来ます。すなわち、彼らたちが描く絵図面は、国益とは程遠いものになってしまいます。

このようなワクチンに関する無責任体制をなくすためには、冒頭に述べたACIPをわが国にも設立すべきです。ACIPは、米国疾病予防管理センター(Center for Disease Control and prevention:CDC)ならびに保健福祉省(US Department Health & Human Services:DHHS)に対して、予防接種に関する提言を行う機関です。どんなワクチンをどの時期に、だれを対象に接種するかという意見をまとめるのです。すなわち、ワクチンに関する実務集団です。ACIPは政府関係者だけでなく、ワクチンを受ける側の代表も1名含まれます。つまり、ワクチンサービスを提供する側だけではなく、利用者側からの意見が反映されるという事です。

厚労省の審議会では、ワクチンを受ける側、ワクチンを勧める一般市民、また、ワクチンによって健康被害を生じた側などは、傍聴はできても、公式な意見を言う場がありません(現在は意見を述べることができるような仕組みにすることが検討されているようですが、米国のACIPのように意思決定に加わるところまでは検討されていません)。

ACIPでは、ワクチンメーカーとの利害関係があるかどうかなどの監査も厳しく、利益誘導が持ち込まれないようなチェック機構が働いています。

我が国のワクチンギャップはまだ存在しています。これを適正に是正してゆくためにも、厚労省と真の意味で独立した組織を作り、国益と国際社会との協調を最重要課題として、国民に対して、責任あるワクチン政策を進めてゆくべきだと思います。それを厚生労働省の“使命”、と呼ぶのではないでしょうか。

2013年6月5日 脱稿

厚生労働省医系技官
木村盛世


References

(1) zur Hausen H. Condylomata acuminate and human genital cancer. Cancer Res 1976;36(2 pt 2):794
(2) Koutsky L. Epidemiology of genital human papillomavirus infection. Am J Med 1997;102(5A):3-8
(3)Bosch FX, Manos MM, Munoz N, et al. Prevalence of human papillomavirus in cervical cancer: a worldwide perspective. International biological study on cervical cancer(IBSCC) study group. J Natl Cancer Inst 1995;87(11):796-802
(6)Charlotte JH, Human papillomavirus vaccination-Reasons for caution. N Engl J Med 2008;359:861-862
(7) James C, Sara A, Michelle MM.HPV vaccination mandated-Lawmaking amid political and scientific controversy. N Engl J Med 2010;363:785-791
(8) Ferenczy A, Franco E, Cervial-cancer screening beyond the year 2000. Lancet Oncol 2001;2:27-32
(9)




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宜しければご感想等を
私宛に(@kimuramoriyoと付けて)twitterにお願いします。

2013年6月17日

風疹流行は国際問題!

NHKニュース特設「ストップ風疹 ~赤ちゃんを守れ~」 参照
http://www3.nhk.or.jp/news/stopfushin/


過去最悪の風疹の流行が治まりません。患者の9割は、風疹の予防接種を受けていない、20~40代の男性です。風疹は予防接種により防ぐことが出来ますので、受けていないか、あるいは受けたかどうかはっきりしない人は、予防接種を受けられることを強くお勧めします。


風疹は、風疹ウイルスが、口や鼻から感染することによって罹ります。最も重大な結末を引き起こすのが、妊娠初期の女性が罹った時です。

妊婦が風疹にかかると胎児が風疹ウイルスに感染し、難聴、心疾患、白内障、そして精神や身体の発達の遅れ等の障害をもった子こどもがうまれることがあります。


妊婦に予防接種をすることは出来ず、このような先天性風疹症候群(CRS)を防ぐためには、風疹の予防接種を妊娠する前に行うことです。そして、妊娠する可能性のある女性の周りにいる人たちで、予防接種をしていない可能性のある人は、速やかに接種を済ませることが極めて重要です。


かつて日本は「麻疹輸出国」と揶揄されました。これは、麻疹の予防接種をしていない日本人が海外で麻疹にかかり、それが広がったからです。麻疹もワクチンで防げる感染症で、もし罹れば、死に至る危険性もある病気です。それ故、諸外国ではワクチン接種が徹底され、アメリカなどでは、予防接種を受けていなければ小学校入学を許可されません。


このように、ワクチンで防げる病気に対して必要なワクチン接種をせず、その感染症を流行させることは、国内の問題のみならず、重大な国際問題をも引き起こします。


厚労省は、速やかにワクチンを海外から輸入し、必要な人たちに接種できるよう、財政面においてもバックアップ体制をとることが必要です。

これがまさに「危機管理」であり、その対応如何によっては、日本の危機管理体制を問われる事になりかねない、きわめて重要な問題であることを認識すべきだと思います。

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2013年4月26日

Evil eye and unequal hand ~インフルエンザ特措法



インフルエンザ特措法に関しては、前回のブログでもご紹介しましたが、重要な問題なので、再度取り上げます。


インフル特措法 「新型」流行への備えを万全に(4月14日付・読売社説) 
従来にないタイプのウイルスが大流行を引き起こす新型インフルエンザの発生に備え、特別措置法が施行された。 新法を踏まえ、政府や自治体は流行防止への体制整備に万全を期すべきだ。 新型インフルエンザは、鳥や豚の体内にあるウイルスが突然変異し、人から人へ感染しやすくなったものだ。免疫を持つ人がいないため、爆発的に流行し、多くの死者が出る恐れもある。 中国の上海周辺や北京で鳥インフルエンザウイルスの人への感染が問題となっているが、人同士の感染は確認されていない。現時点では、新法が規定している新型インフルエンザには該当しない。 しかし、警戒は怠れない。早期に体制を整えるため、政府が前倒しで特措法を施行したのは、適切な判断と言えよう。 2009年に新型インフルエンザが流行した際、集客イベントの開催などを巡って県や市町村の対応が異なり、混乱が生じた。 特措法は、こうした教訓から制定された。政府や自治体に行動計画の策定を義務付けた。新型インフルエンザの発生で大きな被害が予測される場合には、首相が緊急事態を宣言し、行動計画に基づく対策が講じられる。 ポイントとなるのが、知事の権限で学校や幼稚園を休校・休園にすることだ。劇場や博物館、百貨店などに対しても、営業制限や一時休業を指示できる。従わない場合は、施設名を公表する。 1か所に多くの人が集まると、感染が広がりやすい。経済活動が制約されることになるが、やむを得ない措置だろう。 だが、長期化すれば企業経営や景気などに影響が出る。制限は必要最小限にとどめるべきだ。そのためには、ウイルスの毒性の強さなどを正確に把握し、危険性を見極めることが重要になる。 医薬品や食品などの安定供給のため、国や自治体は、業者から物資を強制的に供出させることもできる。大地震などの災害時にも応用できる措置と言えよう。 特措法は、効率的なワクチン接種も求めている。医療関係者や鉄道、電気、ガス事業などの従事者に優先接種する。社会活動を維持するためには、必要な対策だ。 ただ、ワクチンは、発症や重症化の割合を減らすものの、感染自体を防ぐことはできない。 手洗いを励行する。症状の兆しがあれば外出を控える。政府が感染防止の注意点を国民に周知することが、まずは大切である。
(2013年4月14日01時37分  読売新聞)

今までヒトに感染したという報告の無い、H7N9インフルエンザが、中国を中心に広がっています。これを受けて、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(以下、「特措法」)が、2013年4月13日、前倒しで施行されました(2012年5月11日公布)。
特措法の基本は、「検疫で、インフルエンザの国内発生を食い止める」です。インフルエンザは風邪と同様に、口や鼻からウイルスが侵入することによって起こります。検疫所が行っているのは、サーモグラフィーという機械を用いて、熱がある人を発見し、国内に病気をもちこまない、ということです。今回のインフルエンザが指定感染症になれば(なるのは時間の問題ですが)、感染した人が見つかった場合、感染の疑いもある人を含めて、隔離・停留が出来ることになっています。

そもそも、インフルエンザを、このような方法を用いて「水際」で防ぐことが出来るのでしょうか。サーモグラフィーは体表温度を測るものですから、その設定温度によって、暑い部分が赤くでます。例えば、実際、熱があること以外にも、暑い外気温にさらされたり、アルコールを摂取したりしても赤くなります。また逆に、熱があったとしても表面温度が高くなければ、機械で検知されないこともあります。
それから、インフルエンザには「潜伏期」がありますから、症状が出ていない時期に感染者を見つけ出すことは不可能に近いといえます。実際、2009年のH1N1豚インフルエンザ流行の際には、成田空港において348万人のサーモグラフィチェックを行い、発見されたのはわずか10名でした。この結果を元にしたシミュレーションでは、空港で8名の患者が発見される間に、感染者100名が通過しているという結果も出ています。

水際作戦とはそもそも軍事用語であり、軍事的に効果が無いことは、硫黄島において栗林中将が自ら証明しています。
また、感染症対策においても、14から15世紀に流行したペストでは、汚染国から来た船を40日間沖に留め置きました。これが検疫quarantineの語源となってます。しかしながら、どの国もペストの脅威から免れることは出来ませんでした。
また、特措法に謳われている人の移動の制限や、国境閉鎖、学校閉鎖、集会の禁止なども、インフルエンザを含む感染症に風向だという科学的根拠は得られていません。

特措法は、小松秀樹氏が指摘するとおり、「国に巨大な権限を与えると、インフルエンザから国民を守ることができるという妄想」の元に作られています。インフルエンザである限り、H7N9は日本に入ってくるでしょう。そしてある程度の広がりを見せて、終息してゆきます。最も重要な対策の基本は、その被害の程度を抑える事にあります。すなわち、重症化を出来る限り防ぐことです。インフルエンザに罹って重症化しやすい人は、小さい子ども、高齢者、免疫機能が低下している人達です。これらの人達が、必要なときに、滞りなく医療サービスを受けられることがインフルエンザ対策の第一義であり、科学的根拠に基づかない検疫強化ではありません。

検疫は、検疫法に基づき行われます。これによれば、「隔離」とは英語のquarantineとほぼ同義で、有症者だけでなく、感染した恐れのあるもの(たとえ検査が陰性の健常人も含む)を、検疫所長の権限で留め置くことが可能です。この権限は、人の自由を制限する、すなわち基本的人権に関わる大きな権限です。

1900年、米国カリフォルニア州、サンフランシスコ市で、中国人コミュニティから数人のペスト患者が発生しました。この際、中国人というだけで隔離の対象となり、人道的にも経済的にも大きなダメージを生みました。米国連邦裁判所はこの措置に関して、「偏見に基づく違法な行為」としています。

繰り返しますが、インフルエンザを水際作戦で抑える、という科学的根拠はありません。そのような不確かな手法に対して、人権侵害をも引き起こす、「隔離・停留」という権力行使を許容する今回の措置法は、全く持ってナンセンスであり、廃止すべきであると考えます。
また、特措法の中心をなす検疫法は、昭和初期の時代遅れの法律であり、措置法の廃止とともに、検疫法の速やかな書き換えも、喫緊の仮題です。



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2013年4月15日

インフルエンザ特措法は官製パニックを生み出す悪法


新型インフル対策の特措法、12日にも施行 

 政府は8日、昨年4月に成立し、毒性や感染力が強い新型インフルエンザの対策を定めた特別措置法を12日にも施行する方針を固めた。特措法は流行拡大を防ぐため、都道府県知事が外出自粛や学校の使用制限などを要請できることが柱。5月10日までに施行する予定だったが、中国での鳥インフルエンザの感染拡大を受け、前倒しで調整していた。
日本経済新聞 2013/4/9 0:49配信
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0804S_Y3A400C1CC1000/?%22%20class=%22cmnc-continue



2012年4月に制定された、新型インフルエンザ等特別措置法(以下、特措法)は、4月12日に施行(法律として実行力を持つこと)されることになっています。通常、法律が国会を通過しても、その施行にはおよそ1年かかるので、今回の特措法は異例だといえます。

この法律について論じる前に、今回、中国で発生しているインフルエンザとは、どういう病気なのかまとめてみたいと思います。

(1) H7N9インフルエンザは、通常トリにかかる病気であり、ヒトへの感染が報告されたのは、今回がはじめて(4月16日現在、ヒトヒト感染は確認されていない)
(2) H5N1トリインフルエンザのように、50%以上の致死率をもつ、スーパーキラーウイルスではない
(3) インフルエンザはインフルエンザウイルスによっておこり、気道(鼻や口)から感染する
(4) ウイルスが体の中に入って(感染して)いても、咳や熱などが出る(発病する)までに、数日から1週間程度の「潜伏期」があり、この時期は、健常人と区別できない。しかし、ウイルスは出ているので、他の人を感染させる可能性がある
(5) ウイルスに、特効薬はない
(6) 治療の基本は、休養と対症療法(水分補充、解熱剤使用など)で、ウイルスが体の外に出るまで待つ以外はない

これらの事実を踏まえた上で、特措法を見てみましょう。
特措法の基本は、「検疫、隔離、停留」です。2009年H1N1豚インフルエンザが世界的に流行した際、防護服に身を包んだ検疫官が、魔女狩りのごとく、空港内の患者を見つけようとやっきになっていた姿を思い出される方もいらっしゃるでしょう。
ずいぶん勇ましい姿でしたが、実際、何を行っていたのでしょうか。それは、サーモグラフィーという皮膚の表面温度を測る機械で、熱が出ている人を探したのです。しかし、前述でまとめたとおり、インフルエンザには潜伏期があり、インフルエンザウイルスに感染していたとしても、症状がなければ、その場はすりぬけてしまいます。また、暑かったり、アルコールが入ったりすれば、皮膚温が高くなる人もいます。逆に、体の中の温度は高くても、皮膚温は低いままの人もいます。この様な事例があることを考えれば、サーモグラフィーが、インフルエンザに罹った人を正確に検出できる、万能なものでは無いことがおわかりになると思います。

また、もっとも憂慮すべきは、前に述べた、低病原性のインフルエンザに対して、「隔離、停留」といった戒厳令に匹敵するような法律を適応することです。このような内容は、効果のない手法を導入するという、方法論の立場からもおかしいだけでなく、国民の人権無視とも言える行為を含んでおり、国民は、この法律を見ただけで、「とんでも無く、恐ろしい病気」と錯覚してしまいます。実際は、まったくそうではないことは、繰り返しになりますが、述べておきます。
2009年の検疫強化による水際作戦は、「国に絶対の権限を与えれば、インフルエンザは防げる」という幻想のもとに成り立っており、科学的根拠はありません。すなわち、国が幻想の上で作り上げた、「官製パニック」といえるでしょう。

インフルエンザは頭の良いウイルスであり、自分が捕まって殺されないように、次々と顔を変えるのです。それを「変異」と呼びます。変異しやすい特性から、ヒトからヒトへの感染が起こりやすい「顔」に変異する可能性も十分あります。そうなれば、今までヒトの間で広がったことのない(ヒトにとっては免疫のない)ウイルスですから、通常の季節性インフルエンザよりは大きな広がりを見せるでしょう。そして、ある期間を経て、いずれは終息してゆきます。

インフルエンザ対策の基本は、重症例をできるだけ少なくすることにあります。そのためには、重症化しやすい人たちに手厚い医療体制を敷くことが、もっとも重要なことです。重症化しやすい人とは、高齢者、小さい子供、抗癌剤治療を受けているような、免疫機能が低下している人、糖尿病患者などです。このような人たちが感染症に罹れば、健常人と比べて重症化しやすいのは、インフルエンザでも、他の感染症でも同じことです。2009年には「発熱外来」なるものが登場しましたが、このような代物を作れば、通常、病院に来なくても、水分を摂って休んでいれば治るような健常人も押し寄せ、医療機関がパンクしてしまいます。となると、先ほど挙げた、重症化しやすい人たちがいざ病院に罹りたくても、十分な治療を受けられないという状態になりかねません。「発熱外来」は、国自ら重症化を推進しているようなものですから、絶対行ってはならないものです。

繰り返しますが、今回のインフルエンザは、H5N1トリインフルエンザのように、高い致死率を有する、スパーキラーではありません。たとえヒトヒト感染が起こったとしても、低病原性であることは変わりありません。水分が摂れない、息が苦しいなど、自分で「いつもと状況が違う」と感じられたときは、もちろん医療機関を受診する必要がありますが、健常人であれば、水分を良く摂り、十分な休養をすればよくなります。病院には、抗がん剤治療をしている方、術後の方など、インフルエンザに罹ると重症化してしまうような方が大勢います。そのような方たちに、インフルエンザが広がれば、多くの重症例が発生し、死亡例が出ることは必至です。

行政にとってやらなければならないのは、正しいインフルエンザの知識と情報であり、幻想の上に構築された、検疫強化ではないのです。この悪法は速やかに廃止すべきだと思います。

最後に、国民ひとりひとりが、煽りや、虚偽の情報に踊らされることなく、冷静に対処されることを切に望みます。

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2013年4月3日

第二の新型インフルエンザ『狂想曲』とならないようにーH7N9報道をうけて

<鳥インフル>ヒトへの感染しやすく変異 国立感染研が確認
 中国で鳥インフルエンザウイルス(H7N9型)の感染者7人が確認された問題で、国立感染症研究所の分析で、ウイルスがヒトへ感染しやすく変異していることが確認された。
 今回のウイルスを分析した国立感染症研究所の田代真人・インフルエンザウイルス研究センター長によると、ウイルスはヒトに感染できるように変異し、哺乳類の体内で増殖しやすくなっていたという。田代センター長は、ヒトからヒトへの感染は確認されていないが、上海市のケースでは可能性が否定できないとの見方を示す。
 東北大の押谷仁教授(ウイルス学)は、ウイルスに大きな変化が起きた可能性を懸念し、「ヒトからヒトへの感染の危険性が増していると考えることもできる。その場合、大きな被害をもたらす可能性はあり、かなり注意が必要だ」としている。【藤野基文】
毎日新聞 4月3日(水)12時58分配信




中国でトリ由来のインフルエンザ(H7N9)が発生しました。このウイルスによって、どの程度ヒトヒト感染が起こるのか、また病原性の度合い(高病原性か邸病原性か)を見極める必要があります。
高病原性という可能性があるのなか、自然発生的なものなのか、人為的なものなのか、という決定を政府は必ず行う必要があります。現在の病原体による流行に関しては、バイオテロの危険性が必ずつきまといますから、国家としての危機管理上、必ず疑ってかからねばならないのは、世界の常識と言えます。わが国の危機意識は世界標準から比べると段違いに低いので、政府がそれを認識する事が急務と言えます。

自然発生的なインフルエンザであれば、その侵入を食い止める事は不可能です。空港閉鎖、学校閉鎖、交通路の遮断、検疫強化などは、インフルエンザ流行を抑えたというエビデンスのないものです。特に、2009年に主要空港を中心に行われた検疫強化は、H1N1インフルエンザに罹った人に対して、不必要な社会的差別化を生む結果となりました。

現在の政府のインフルエンザ対策は、未だに「検疫強化」が中心となっているので、今回のH7N9インフルエンザ対策を行う際には、先ず、この方針を根本的に変更する必要があります。

インフルエンザが流行した場合、ある程度の犠牲を出して、その後かならず終息に向かいます。
ですから、その対策において最も重要なのは、その広がりの程度、犠牲の程度を出来るだけ縮小させることにあります。
具体的には、正しい情報を国民に周知すること(うがい、手洗い、体調管理の重要性など)が大切です。また、患者が医療機関に殺到して、真に治療が必要な、免疫能低下者、若年層、高齢者といった人達が、十分な治療を受けられない、といった状況を回避するために、地域を中心とした医療機関の取り組みが非常に重要なことです。

今までの政府のやり方はすべてトップダウンであり、それによって、現場の要らぬ疲弊と、対応の遅れという、副産物を生み出してきました。
過去の轍を踏まないこと、それはひいては国民の幸いに繋がることを肝に銘じて、厚労省は対応すべきだと思います。

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2012年5月28日

生活保護制度は誰のため?


生活保護も不正も増、自治体調査に限界  2012.5.26 01:13  msn産経ニュース 
人気お笑いコンビ「次長課長」の河本(こうもと)準一さん(37)の母親が今年4月まで受給していたことでクローズアップされた生活保護制度は、生活困窮者に対し、最低限度の生活を保障する“最後のセーフティーネット”といえる。高齢化や不況を背景に受給者数が過去最多を更新し続ける一方で、不正受給も増加の一途をたどっている。厚生労働省によると、今年2月に全国で生活保護を受給した人は209万7401人。戦後の混乱の余波で過去最多だった昭和26年度の数字を昨年7月に上回って以降、8カ月連続で最多を更新している。平成24年度は生活保護費として約3兆7232億円が当初予算に計上された。不正受給も22年度までの5年間、増加し続けている。22年度は過去最悪の2万5355件、計約128億7426万円が不正に支給された。不正で最も多いのは収入がありながら「ない」と偽って申告するケース。今月18日には年収が1億円以上あるのに熊本市から生活保護を受けていた投資勧誘業の男が熊本地裁で懲役3年、執行猶予5年、罰金3000万円の判決を言い渡された。不正が絶えない背景には扶養義務を親族がどこまで負えるかについての判断や確認が難しいこともある。生活保護は原則として世帯単位で決定されるため、河本さんと別居する母親は、別世帯として判断される。民法では親族間の扶養義務が定められ、保護が申請されると、保護決定を行う自治体が親や子供など扶養義務者による仕送りの可否などの調査を実施する。 

ただ調査への回答は自己申告で、離れて住んでいる親族には文書で調査を行うことも多い。申請者親族の資産調査は可能だが、調査で照会を受ける親族らには法律上の回答義務はなく、銀行などに個別に確認するにはとても手が足りない。河本さんは会見で「収入が安定せず、いつ仕事がなくなってもおかしくない不安の中でやっていた」と説明し、自分の判断で母親への援助額を決め、その一方で生活保護を受けさせ続けていたと説明した。東京都のある自治体の担当者は「立派な家に住んでいる親族に『住宅ローンがあるから』『子供の教育にお金がかかる』と断られたこともあった」と話す。厚労省の担当者は「収入が不安定でも、その時点で扶養可能な収入があるのに扶養いただけない場合は、文書だけでなく職員が出向き状況を確認して相談する必要がある」としている。 
■生活保護 最低限度の生活を保障し自立を助ける制度。国が定める最低生活費に比べ収入が少ない世帯に差額分を支給する。食費や光熱費に充てられる「生活扶助」、家賃に当たる「住宅扶助」などがある。費用は国が4分の3、地方自治体が4分の1を負担するが、自治体、家族構成、年齢により保護を受けられる基準額は違う。例えば、東京23区に住む夫33歳、妻29歳、子供4歳の家族が保護を受けた場合、生活扶助は17万2170円。民間住宅を借りる場合は、さらに上限6万9800円の住宅扶助が出る 。  
他、「生活保護制度めぐりさまざまな問題 「マニュアルDVD」も」  フジネットワークニュース 2012.5.25 18:51などもご参照ください。


今回は、生活保護について取り上げてみたいと思います。

厚労省によれば、「生活保護制度は、生活に困窮する方に対し、
その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、
健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、
自立を助長することを目的」とする趣旨で施行されています。
すなわち、社会保障のひとつです。


人間、どのように頑張っても、
様々な要因で自立した生活を送れなくなることがあります。
リストラ、病気、家族の問題などが、その代表例と言えるでしょう。
「困ったときはお互い様」で、
こうした状況にある人を公費で補助することは、
決して悪い事ではないと思います。
しかし、今回の報道で問題となっているのは、
生活保護の受給者が過去最大になり、公費を圧迫していること、
また、本来、生活保護がなくても自立できる人たちが、
その恩恵にあずかっている、という事です。

ただでさえ、切羽詰まった国や地方自治体の台所事情の中、
本来必要でない部分の支出を余儀なくされることは、
国の苦しさだけでなく、財政を支えている国民にとっても、
受け入れられられるものではありません。
それだけでなく、「自立を支える」ための制度が、
逆に自立しない、依存的な人たちを生んでいるという事は、
社会的に大きな問題です。

現在、生活保護の申請に関して、その窓口となる地方自治体は、
申請者の内情について調査を行う権限は大きくありません。
それは、資産調査などを行う場合、申請者の同意が求められるからです。
従って、仮に、申請者が虚偽の資産報告をしてきても、
その真意を明らかにする仕組みがないのです。
こうした現状は、是正されるべきだと思います。

しかし、今回の報道は別の側面からみた問題もはらんでいます。
それは、本当に生活保護を必要としている人が、
今後、申請しづらくなったり保護を受けられない、
といった状況を生むという事です。
繰り返しますが、自分個人の力ではどうしようもなくなった時、
それを一時期支え、自立を促す制度は、
国家にとって非常に重要なものだと思います。

厚労省審議会の委員である、長崎大学教授の林徹氏から、
以下のような私信が送られてきました。
 「社会保障分野の専門家に共通していると感じることは、
 マズロー流の低次欲求にしか関心を持っておらず、
 人が働くことと高次欲求との関係を軽視している、ということです。」

マズローは、人間の欲求を、5段階に分けた説を提唱しました。
低次の欲求とは、人間の本能ともいうべき、
「食べる、飲む、寝る」といったものです。
これに対して、高次の欲求とは、
人間関係を築いたり、人に認められたり、自己実現の可能性を追求する、
といったものです。
林氏の指摘は、非常に的を射ていると感じます。
なぜなら、本来、生活保護の目指すものは、自立であり、
とりもなおさず、それは「社会的」な自立です。
ところが、多くの議論は、
生物的に生きられる最低ラインの議論に終始しています。
憲法25条に謳われる「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する上では
労働=高次の欲求という側面からの議論が絶対に必要であると思います。

また、このような観点から、生活保護の見直しが行われれば、
誰が、それを必要とするのかといった、
合理的、理性的な見極めが今よりは出来るようになるのではないでしょうか。
少なくとも、現状の生活保護は、
「子ども手当」同様のばらまき政策である感は否めません。


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2011年10月9日

国はIPV(ポリオ不活化ワクチン)輸入を早急にすべき!

中国でポリオの症例が、27年ぶりに発生しました。
中国情報筋によれば、
9月28日現在、10人の確定例が報告されているとのことです。

http://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2011/10051613.html

ポリオには有効なワクチンがあります。
予防効果が100%近いワクチンがある病気は、
ワクチンを世界中の子供達に打つことによって、
その病気を地球上からなくす(根絶)ことが可能です。
ポリオはその代表例と言えるでしょう。

今まで、ポリオワクチンとしてOPV(生ワクチン)が広く使われてきました。
しかし、ポリオ生ワクチンを接種することにより、
ポリオが発生することがわかってきました。
そのため、世界100カ国以上では、IPV(不活化ワクチン)を導入しています。

わが国は、ワクチン途上国と称されるほど、
ワクチン行政が立ち後れた国です。
その状況で真っ先に取り入れなければならないのが、IPVです。
しかしながら、国はIPV導入を先延ばしにしてきました。
しかし、5月31日、OPVによるポリオ患者発生が報告されることもあり、
より安全で効果的なIPV導入についての議論が活発化しています。

厚生労働省は、早ければ来年度にIPV導入をめざす、としていますが、
わずか4時間弱で行かれる中国から、
いつポリオが輸入されるかわかりません。
私の勤務する羽田空港でも毎日10便の中国便がやってきます。

手に入りにくいワクチンならともかく、
世界でこれだけ多く使われているワクチンを、
なぜ、来年まで待たなければならないのでしょうか。
早急なIPV輸入を推し進めるべきだと思います。


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2011年9月8日

厚労大臣のタバコ料金引き上げ発言に思うこと

小宮山厚労相「たばこ1箱700円に」 増税を主張

 小宮山洋子厚生労働相は5日、たばこ税に絡んで「年100円ずつ引き上げ、(販売価格を)1箱700円ぐらいにしたい」と語った。厚労相はたばこ増税による禁煙推進が持論。「喫煙者の8~9割が本当は禁煙したいと思っている」と述べ、健康を守る目的から値上げが必要と主張した。

 厚労相は「いろいろなデータをみると、(販売価格で)700円までは税収が減らない」と強調。さらにたばこに関する行政について「税収のために財務省が所管するのはおかしく、健康のために厚労省が所管するようにしたい」と述べた。

 たばこ税は昨年10月に1本あたり3.5円引き上げられ、マイルドセブンの場合は1箱の値段が300円から410円に値上がりした。

 たばこ増税をめぐって、野田佳彦首相は財務相時代に「税制を通じたおやじ狩りみたいなものだ」と述べたことがある。首相は愛煙家だという。

http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C93819591E2E7E2E3828DE2E7E2EBE0E2E3E39797E0E2E2E2;at=ALL

2011年9月5日 19:31配信 日本経済新聞




厚労大臣のタバコ料金引き上げ発言が、
閣内での波紋を呼んでいるようです。

政治的な意味合いはともかく、
公衆衛生的には、喫煙は大きな問題であり、
この問題に関して、国民の健康問題を
司る監督官庁の長が言及したこと自体は、評価すべきと思います。

日本はタバコに対して、非常に甘い国です
(過去記事:たばこに甘いニッポン参照)。

タバコを吸うことは個人に自由である、という主張を聞くことがありますが、
タバコは多くの有害物質を出します。

その中には、発がん物質も多く含まれます。
タバコを吸うことは、自分の健康を損ねることだけでなく、
周りの人たちの健康にも影響を及ぼします。

自分の権利を最優先にし、他人への被害は顧みない行為は、
どんな場合においても認められる事ではなく、
タバコだけが免罪符を得る理由は、どこにも見当たりません。

また、喫煙はがん、心疾患、喘息など、様々な疾患の原因であることから、
喫煙者の増加は、医療費増加に直結する、大きな社会問題です。

9月7日の米国CDC発表によれば、
「喫煙と受動喫煙により、毎年44万3千人が死亡している」であり、
「喫煙による被害は、健康問題にとどまらず、
年間約18兆円の医療費増加に加え、労働力の減少を生む」としています。

日本の公衆衛生にたずさわる人たちは、
今回の発言に関して、どのように受け止めているのでしょうか。
今回の発言を、「単なる政治的なもの」とせず、
専門家としての積極的な発言を期待します。

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2011年5月27日

「人にやさしい政治」とは ―被災地での自殺防止を考える

震災後の復興に向けての取り組みが、様々なところで行われています。

「復興」というと、建物や、経済といった事に関してだけ注意が向けられがちですが、
忘れてはならないのは人(ヒト)です。

今回の震災で、自分の家を失ったり、会社が壊れたりし、
経済活動にも大きな被害がもたらされました。
それと同時に、人の心も大きな打撃を受けているのです。

今回の震災のように、今まで遭った事のない衝撃的な場面に遭遇すると、
人間の精神にも影響が出てきます。
肉体が「けが」をするのと同じく、心もけがをするのです。
これをPTSD(Post Traumatic Stress Disorder)と言います。
PTSDになると、夜眠れなくなったり、津波や建物の崩壊といった、
過去に見たり経験した事がフラッシュバックとなって出現したりします。

PTSDは、衝撃的な出来事を経験してから、すぐには起こりません。
大体1~2カ月以上経過して起こるのです。

PTSDがなぜ重要なのかと言うと、早期に発見し適切なケアをしないと、
PTSDに加えて、うつ病も発症し、
「自殺」という最悪の事態が起こる可能性があるからです。


震災による大きな影響を受けた地区として、岩手県があります。
被災地のうち、特に、岩手県は自殺「率」がもともと高い県です(全国第3位)。
(参照:「平成22年版 自殺対策白書」PDF)


心が痛むことですが、岩手県では自殺された被災者の方もいらっしゃいます。

mainichi.jp 東日本大震災:「精神的ケア必要」300人以上 岩手で ◇悲しみの連鎖…自殺のケースも 2011年5月22日


都市部と違って、地方の県では、もともと精神科を受診することに関して、
しり込みする人が多いようです。
被災地には、こころのケアチームが派遣されていますが、
「本当はつらいのだけれど、周りを気にしてなかなか言えない」
と言う人が多いと聞きます。

果たして、こうした状況が周知されているか、といえばそうではないのです。
健康に関する問題では、放射線による晩発性障害については、
メディアもこぞって取り上げます。
実際、私自身、非常に重要な問題としてブログ等で取り上げています。

同様に、PTSDによる自殺についても、今まさに起ころうとしている事であり、
政府や専門家、あるいはボランティアの関与が必要な問題です。
これは、以前ブログにも書いたとおりです。
(参照:「遅れて」やってくるPTSD-「心の傷は生涯癒えないことがある」)


民主党政策の要は、「ひとにやさしい政治」です。
今、誰にも見つけられないまま「自殺」という危機にさらされている命を、
すみやかに救ってあげることに、政府が責任をもって介入してゆくべきだと思います。

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2011年4月12日

ヒロシマ、ナガサキ、チェルノブイリから学ばない原子力政策 ―子どもたちに対する、的確な放射能被ばく対応を望む―

福島原発の状況は、今なお予断を許すものではありません。
今回は、放射性物質の人体への影響について書いてみます。
というのも、現在の政府対応は、妊婦や乳幼児に対してあまりにも「甘い」と感じるからです。
http://www.nsc.go.jp/bousai/page3/houkoku02.pdf
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r9852000001559v.pdf

人が放射線にさらされる事を「被ばく」と言います。
被ばくは、体の外側に受ける外部被ばくと、
体内に放射性物質がとりこまれる、内部被ばくに分かれます。
外部被ばくは、衣類を脱ぐ、あるいは洗う等により、影響を取り除く事ができますが、
体の中に入ってしまったものは、
放射性物質が自分で少なくなる(崩壊と言います)のを待つか、
尿や、汗、あるいは便から体外に排出されるのを待つ以外はありません。
このため、内部被ばくがより重要なのです。

放射能による最も重大な健康問題は、「がん」です。
がんは、細胞ががん化する事によって起こります。
その一つの原因が放射能なのです。
放射性物質は、遺伝子であるDNAを傷つけます。
傷ついた遺伝子は、がん細胞という、暴走する異常細胞を生みだすのです。

多量の被ばくをして、急性のがんが発症する事がありますが、
それ以上に問題なのは、将来起こるであろう細胞の「がん化」です。
がん化には約20年が必要と言われています。
このため、放射性物質が身体の中に居る期間が長いほど、
がん化する可能性は高くなるのです。
子どもは、大人より死ぬまでの時間が長いわけですから、
被ばくを受けた年齢が低いほど、がんになる確率も高くなってきます。

原発の事故等では、多くの種類の放射性物質が飛び散ります。
その中で、重要なのがヨード131、セシウム137、ストロンチウム90、といった物質です。
体内にどのように取り込まれるか、と言えば、
主に、鼻や口といった呼吸器から吸収されるものと、
食べ物から入る経路の2種類が挙げられます。

どちらから体内に入るのが多いか、というのは、
その放射性物質の種類によって異なります。
その種類ごとに、預託実効線量とか、等価線量等を用いて、
内部被ばくを計算する事が出来ます。
この計算は、想定する条件(放射性物質の種類、放射性物質の量、食べ物と、呼吸と、
どれくらいの確率で吸収するか、性、年齢、体重など)で、
違った計算式ができますし、同時に違った答えが出てきます。

ある人の計算では、そんなに高くない被ばく量が算出されます。
それをもとにして意見を言う人は、「特に健康問題には影響ない」と言うでしょうし、
シビアな状況を仮定した答えに対しては、「非常に危険である」と言う事になります。

この記事では、その答え一つ一つに対して意見を言うつもりはありません。
繰り返しますが、何が問題なのかと言えば、
今回の原発事故において、妊婦や小児(特に5歳未満の乳幼児)は、
大人以上に放射能の影響を受けやすいという事実を、
政府もメディアも、あまり認識していないのではないか、ということです。

忘れてはならないのは、子供は小さな大人ではないということです。
よく小児科医が私に言っていたことですが、
「子供は大人とは違った生物である」という言葉がぴったり当てはまります。
何が違うのかというと、放射能から受ける影響が、大人と比べてけた違いに大きい、
ということです。
お腹の中に居る時から、歩けるようになるまでどんどん成長します。
ですから、代謝すなわち、遺伝子の複写も活発に行われますから、
影響を受けやすいのも当然と言えます。


ここでは、放射性物質の代表格と呼べるヨード131とセシウム137の、
子どもへの影響について書いてみたいと思います。

まず、ヨード131です。
ヨード131の多くは、消化管から飲み物や食べ物と一緒に吸収されます。
吸収されたヨード131のうち、約20%は甲状腺に蓄積されます。
残りの80%は、体の外に出ていきます。

人類は過去、大きな放射能汚染を経験しました。
原爆、マーシャル諸島での核実験、チェルノブイリ原発事故、等です。
被ばくした乳幼児を追跡して分かった事は、
彼らたちは、大人と比べて、ヨード131の影響を受けやすく、
甲状腺がんになりやすい、ということです。 

特に新生児は、甲状腺機能が活発です。
生後10日は、成人の3~4倍のヨード取り込みが行われます。
また、小さければ、甲状腺の大きさも小さいですから、
成人と同じヨード131の被ばく量を受ければ、
小さな甲状腺に、大人より、高濃度のヨード131が凝縮します。
ヨード131は、食べ物から体内に入る経路が多い、と書きましたが、
子どもたちは大人と比べて、消化管から吸収しやすいのが特徴です。
すなわち、乳幼児、新生児などの小さな子どもは、
よりヨード131を体内に取り込みやすい、といえます。

ヨード131は、乳にも移行します。家畜も人間と同様に被ばくします。
一般的に、子どもの方が大人より牛乳を良く飲むので、
それだけ、被ばくを受ける機会が多い、と言えます。
また、母乳中にも出てきますから、ヨード131に汚染した母乳を飲んだ赤ちゃんにも、
放射性ヨードが蓄積されます。

ヨード131は胎盤を介して、お腹の中にいる胎児にも移行します。
甲状腺が機能し始める、妊娠12週ごろからは、活発にヨード取り込みが行われます。

http://www.atsdr.cdc.gov/toxprofiles/tp158.pdf
(The Agency for Toxic Substances and Disease Registry (ATSDR) , 米国保健省、毒物による疾患登録機構:ヨード)

ヨード131と小児甲状腺がんの関係はおわかりいただけたと思います。

それではセシウム137は、小さな子どもに、どのような影響を与えるのでしょうか。
セシウム137はヨード131以上に危険です。
なぜなら、ヨード131は比較的短い期間で体外に排出されるのですが、
セシウム137は長期間、体内に残ります。
放射性物質は、時間と共に減ってゆく(崩壊)のですが、
この目安となるのが、半減期(量が半分になる時間)です。
ヨードが約8日なのに対し、セシウム137は30年です。

セシウム137は、ヨード131と違い、
ほとんどが、口や鼻、といった呼吸器から体内に入ります。
甲状腺だけでなく、体内臓器にまんべんなく行きわたります。
特に、肝臓、腎臓、筋肉(特に心筋)に多く蓄積される、という放射性物質です。

原発事故などで放出されるセシウム137の量は、
他の放射性物質と比べて少ないのですが、健康への被害は大きなものがあります。
繰り返しますが、ヨード131と違って、長期間体内に残るためです。
長く体内にとどまるということは、がんを発生させる危険性が高くなるからです。

「セシウム137と発がんは関係ない」と言う人もいますが、
それは、原発事故等では多くの放射性物質が放出されるため、
どの放射性物質が原因だ、と決めることが難しいからです。

確かに、セシウム137は、ヨード131のように、甲状腺がんの発生を多くさせる、
といった、ある特定のがん発生に関する関係は証明されていません。
しかし、全ての放射性物質は、遺伝子であるDNAを傷つけるわけですから、
「発がん性がある」と考えるのが普通です。

子どもは外で遊ぶ機会が多いですから、
外気あるいは塵から舞い上がるセシウム137を吸い込む可能性が、
大人より多いということがあげられます。また、セシウム137は水に良く溶けます。
小さな子どもは、大人に比べて身体の水分割合が大きいので、
比率として、より多くのセシウム137を取り込む事になります。

また、母乳への移行も多い、という報告があります。
新生児と1歳児における調査では、40~50%の確率で、母乳から移行したという報告があります。
これは、ヨード131の25%程度と比べると多い数字です。

動物実験では、胎盤を介して胎児へ移行する事も認められています。

http://www.atsdr.cdc.gov/ToxProfiles/tp157.pdf
(The Agency for Toxic Substances and Disease Registry (ATSDR) , 米国保健省、毒物による疾患登録機構:セシウム)

所謂専門家と呼ばれている人たちや政府は、「直ぐには影響はない」と言います。
その背景には、有害放射能による、中長期的な研究があまりなされていない、ということがあります。
しかし、明らかに放射性物質は、ある一定期間体内にとどまります。
そして、遺伝子を傷つけていくのです。

その影響を最も受けるのは、新生児、乳幼児であり、お腹の中にいる赤ちゃんです。

危険性の程度が不確定、と言うのであれば、
最悪の状況を想定する事が必要なのではないでしょうか。
「最悪の状態を考えて行動するのが危機管理の基本だ」と言う事は、
前の記事でも何度も述べている事です。

日本の将来を担う、小さな子どもたちを守ることは、国を存続させるために必要です。
正に、大人の責任である、と言えます。
そのためには、現状のような、「屋内避難」といった、あいまいなことをせず、
乳幼児と妊婦については、半径30キロメートル圏内から安全なところに避難させる、
などの、思い切った対応が必要だと思います。

もうひとつ忘れてはならないのは、被ばくした子どもたちの追跡調査です。
今後どのような疾患が起こってくるか、いつ発症したかなどは、
長期的な疫学調査を行う以外にはありません。
しかし、一向にこのような調査を開始したという話を聞きません。
また、不幸にして、がんを発生した場合のがん登録なども、
都道府県単位で行われているのが現状です(行っていないところもあります)。
追跡には、どこに移り住んでも追えるような枠組みが必要ですが、
これも未整備と言ってよいでしょう。

今回の原発事故は、不幸な出来事です。
しかし、この事故で何が起こったか、そして将来何が起こっていくかという調査をし、
それを発表することは、今後の患者補償のためにも、
そして、世界の原子力開発に置いても、非常に重要な事です。

将来に向けて正確なデータを残すことは、危機管理の一つといえます。
失った命を無駄にしないために、そして、将来を担う世代を守るために、
政府と研究者は速やかに対応して欲しいと思います。

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2011年4月11日

原子力安全委員会の存在意義はどこに? ―御用学者は必要ない―

原子力安全委員会は1978年に原子力の安全体制を充実させるためできた、
専門家集団です。
現在の、原子力行政は、経済産業省原子力安全・保安院、文部科学省と共に、
原子力安全委員会が関わっています。
経産省、文科省には、原子力に関わる審議会があり、
所謂「専門家」と呼ばれる人たちで構成されています。

既に、専門家の集まりがあるにも関わらず、
なぜ、もう一つの専門家集団が必要かと言えば、
行政から独立した中立的な立場で原子力行政をチェックする、
という意味合いを持っています。
原子力安全委員会だけでなく、食品の安全について政府に意見を言うための
「食品安全委員会」というものもあります。
果たして、このような委員会は必要なのでしょうか。

本来の目的である「行政と一線を画し中立的な立場での専門家」
というのは必要な事です。
しかし、現実はといえば以下のような状態です。

原子力安全委員会。定例会議は週1回。委員は常勤の特別職公務員。
委員への報酬は年間約1650万円(月給93万6000円とボーナス)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E5%AE%89%E5%85%A8%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A
しかも、その議事録を見れば、「本当に必要なのか」と頸をかしげたくなる状況です。
http://www.nsc.go.jp/anzen/shidai/index.htm

原子力や食品などの安全を確保すべく立ちあがった委員会が、
なぜ、このような「開店休業」状態にあるのでしょうか。
それは、委員会が中立ではなく、
官僚たちの意向を代弁するために作られた組織だからです。

こうした委員会にはたくさんの人たちが働いています。
事務局のポストは官公庁からの出向です。
そうした中で、官僚たちの意向に反して異を唱える事が出来るかと言われれば、
難しいところがあります。
なぜならば、官僚たちは委員会のメンバーを牛耳るすべを持っているからです。

委員会のメンバーは、大学の教官が主です。
官僚たちは、こうした研究者たちに、研究するための費用(科研費)を、
誰に分配するかという裁量権を持っています。
つまり「お金を誰に、どれだけ与えるか」という事を決められるのです。
この、科研費配分を決めるプロセスは誰にも明かされていません。
つまり、官僚たちが秘密裏に行うのです。

「ホームページ等に、なぜこの人が選ばれたのか理由が書いてある」
という意見もあるでしょう。
しかし、理由づけなど後で何とでも出来る事です。
官僚の得意技は「文書を作成すること」にありますから、
何となく、もっともらしい文章にみな惑わされてしまうのです。
そして、結果的には、官僚の意に染まぬ研究者は排除されてゆくのです。

具体的な例を挙げれば、ある委員会のメンバーが、
事務局(官僚)が用意した筋書きに反対意見を唱えるとします。
委員の任期は、大抵2、3年程度です。
官僚にとって特に問題がない人材であれば、次も「継続」して委員任命されますが、
問題児は次回からは入れない、と言う事になります。
このような排除プロセスを繰り返す事によって、
一部の高級官僚の言葉を「専門家」として代弁してくれる「御用学者」が生まれ、
委員会は御用学者の塊になるわけです。

審議会の委員も、同じようなやり方で選ばれます。
こうなってくると、審議会と委員会と言う2つの専門家集団は、
どちらも官僚の言葉を伝えるイエスマンの塊と言う事が出来ます。

例えを少し日常的なことにしてみましょう。今回の震災でも多くの情報が流れました。
例えば放射性ヨードについても「イソジンをのめば大丈夫」という意見がありました。
イソジンにヨードが含まれています。
ヨードは甲状腺に取り込まれやすいので、
あらかじめ放射能を発しないヨードをたくさん摂っておけば、
有害な放射性ヨードが入る余地がない、という考えです。
これは「ヨードブロック」と呼ばれ、実際、医療現場で使われる事です。
私自身は特別な状況下以外は、イソジンを服用する必要はないと思っています。
ところが、「イソジンが効果がある」という噂が伝わると、
その真偽は別にして「効果があるかも」と信じてしまいがちです。
すなわち、言っている人が1人だけでなく、複数になると、人は納得してしまうものです。

専門家集団にしても同じような事が言えます。
つまり、審議会と委員会、という2つのグループが同じ事を言っているとしたら、
「その意見は正しい」と思うようになります。
それが如何に、科学的に間違っていたとしてもです。
何しろ、「専門家」と呼ばれる人たちが集まっているのですから、
普通は信じてしまうのではないでしょうか。
これが、官僚の手のうちです。

そんな事を、専門家たる人たちがすべきではない、という声が聞こえてきそうです。
全くその通りだと思います。
このような、御用学者だけが重宝されると
「正しい事を言っているが、官僚の意見と合わないもの」や、
「国益を考えて、反対意見を述べるもの」が排除されてゆくのです。

「これを読まれた方は、「本当にそんなことあるのか」と訝しがるかもしれません。
しかし、実際、私は厚労省で新しい審議会を立ち上げた事もあります。
委員を選ぶ際には、事前に「根回し」という事をし事務局が、
委員から発言して欲しい事に関して打ち合わせをします。
つまり、審議会自体が官僚の意見を通すためのセレモニーなのです。

また、科研費についても、分配担当の同僚のやり取りをよく見ていました。
科研費は、表向きは公募になっていますが、
実際は、既に厚労省の担当者が人を選んでおくのです。
そして、その人に「公募」という名目で科研費申請をさせるのです。
選ばれる人のほとんどが厚労省が内諾済みの、
「政策に反対しない」研究結果を出してくれる人たちなのです。


こうした仕組みは、早急に変える必要があります。
原発問題は、人の命に関わるものです。官僚を抑える事が出来るのは政治家です。
そして、その政治家を選ぶのは、国民です。
私たち一人一人が、この事実を認識し、
問題意識をもって政治家を選ぶ、という事が必要な事なのです。

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2011年3月17日

福島原発を、危機管理の立場から考察する vol.2

アメリカ大使館が、「福島第一原発から、半径50マイル(約80km)圏内に居るアメリカ市民」
に対して、事実上の退去勧告を出しました。
この、80kmという数値は、アメリカ原子力規制委員会の勧告に基づくものです。
http://www.nrc.gov/about-nrc/radiation.html
すなわち、「核施設から50マイル半径内にいると、
平均1年間に0.01ミリrem(レム)の放射能汚染を受ける可能性がある」
というデータに基づいたものです。

日本では現在、放射線被ばく量の単位として、
Svが使われていますが、以前はremを使用していました。
1Svは、100remに相当しますから、Svになおすと、0.0001Sv、
つまり、0.1ミリSvの放射線を受けることになります。
これは、日本でも定められている、放射線被ばく量の上限です。

放射線量は核心からの距離の他、風向きや、天候によって左右されますから、
当然この値より低くもなり、高くなる可能性もあるわけです。

このデータに基づき、原発付近の人たちに対する対応を考えるべきだ、
というのは、前回のブログにも書いたとおりです。

さて、原発の状況を見る限り、決して楽観視できない状況にあります。
その最も大きな原因として、「誰も内部でなにが起こっているかわからない」
という状況にあるからではないか、と思います。

すなわち、政府の「一生懸命やっている」というメッセージだけで、
具体的なデータが殆ど示されていない状態なのです。
原発に関わっているのは、主に東京電力の職員たちですが、
彼らたちは、技術者ではあるけれども、所謂、原子力の専門家ではありません。
また、経済産業省にも、専門家集団がいるとは思われません。

前のブログで、危機管理の基本は、
(1)最悪の事態を想定し、(2)冷静に行動する、と書きました。
続けて、今回は、(3)臨機応変に行動する、事と、
(4)詳しいデータ収集、解析をし、後世の役に立てる
ということについて、論じたいと思います。


猫の目のように刻々と移り変わる状況下において、
既存のやり方が、通用しなくなることはしばしばあります。
それに気がつきながら、方向転換をしないと、「想定外」という人災を引き起こしかねません。
まさに、今の状況がそれに当たると思います。
東電と政府だけで、抑えきれない状況なのであれば、
それ以外に協力を求めることが重要です。
すなわち、状況に応じた柔軟な方向転換が必要だということです。
前回にも書きましたが、このような危機的状況では、自分たちの容量を超えたため、
他に助けを求めることは、決して恥ではありません。
逆にそれをしなくて、多大な被害を生じたとしたら、元も子もなくなります。


内外の専門家を招聘する必要性についても、前回書いたとおりですが、
海外の専門家を入れることにより、マンパワーが増え、
的確なデータが取れるようになります。
推察するに、現状下では、目の前にある出来事に対応するのが精いっぱいで、
政策決定の根拠となる、正確な情報が把握されていないのではないかと思います。
海外の専門家とは、所謂先進国の人たちばかりではありません。
日本のODAの助けで、欧米で学んだ開発途上国の人材は、世界のトップクラスです。
彼らたちをODAの一環として招聘し、技術的な支援を要請するとともに、
正確なデータをとり、それを分析して発表してもらう、というのは、
このような未曾有の危機にされされた、我が国だけができることです。

今回のデータをきちんと公表し、将来に向けての危機管理に役立てることが、
危機管理の大きな目的の一つと言えるでしょう。
このたびの震災で、被害にあわれた方、
尊い命を落とした方たちの犠牲を無駄にしないよう、
後世に役立てることこそ、私たちがしなければならないことなのですから。



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2011年3月16日

福島原発を、危機管理の立場から考察する vol.1

福島原発の状況について(危機管理の立場から)

福島原子力発電所は、1960年代に建設された、比較的古い施設です。
史上最大級と言う大震災において、
爆発等による放射能汚染が懸念されています。

福島原発については、メディアなどで様々な報道がされています。
そのため、危機感を抱いている人も多いと思います。
そこで、原発の状況について、危機管理の立場からまとめてみたい、と思います。

放射線は、自然界にも存在し、私たちは日常的に放射線をうけています。
問題はその量です。
なぜなら、多量の放射線を浴びることにより、健康被害をうけるからです。
放射線量はSv(Sievert)という単位が使われます。

多くの被ばく量を浴びると、様々ながんの発生が多くなります。
それ故、原子力発電をするための原子炉は、
何層もの頑丈なステンレス鋼で覆われています。

http://www.fepc.or.jp/learn/hatsuden/nuclear/genshiro/index.html

それでは、今回の震災における、原子炉のダメージによる、
放射線量はどれほどだったのでしょうか。
例えば、数日前に発生した、一時間当たり500マイクロSvと言うものでした。
これがどの程度の量か、と言えば、原発から20km離れたところでは、
一時間あたり、1.25マイクロSvくらいです。
もし、この地点に1カ月立ちつくしたとしても、国の安全基準である、
1年間に1000マイクロSv、という値には届かない事がわかります。
ちなみに、東京からシカゴに向けて10時間のフライトで浴びる放射線量は、
50マイクロSvです。

さて、3月15日、新たなる爆発とともに、
1時間当たり、400ミリSvという放射能被害が確認されました。
これは20Km離れたところでは、1ミリSvに相当します。
すなわち、瞬時にして、1年間に浴びる線量と同程度、と言う事が出来ます。
場所によっては、1年間に浴びる上限の10倍以上の被ばく量、と言えます。

そうはいっても、こうした線量を、毎日浴び続けると言う事自体は考えにくい事ですし、
現状では、受けたとしても、人生のある一時期の出来ごと、と言えるかもしれません。
そうなれば、それによって受ける健康被害は、特に重篤なものは予想されません。
報道で、「400ミリSvに惑わされるな」というのは、こうした理由によります。
http://www.kimuramoriyo.com/moriyotsubuyaki-medicine/20110314.html

しかし、危機管理の第一義は、「最悪の事態を想定する」と言う事にあります。
故に、これ以上悪くならない、と言う保証はないということです。
また、危機管理上の第二の掟は、「常に冷静に行動する」、と言えるでしょう。

こう考えると、「全く問題がない」という超楽観的な報道や、
「東電が1時間も官邸に連絡しない」といって怒りをあらわにしたり、
首相自ら、原発を訪れる、と言う事は、国民に対して、いらぬ不安を与える事になります。

政府と東京電力だけでこの事態をまかなえないのであれば、
国内、国外に向けて、専門家を要請することを、積極的に行うべきだと思います。
今回は、史上最悪の震災ですから、
世界的危機として、国外に援助を求めることは、恥ではありません。
むしろ、日本人特有の「身内の事」として処理してしまう事により、
「適切な危機管理対策を怠った」として、
国際社会から非難を受けることにもなりかねません。

日本は、ODA先進国として、国際貢献をしているわけですから、
その一環として、原子力関係の専門家を招へいする、という事も
十分可能な事だと思われます。

また、国内、特に原発付近の住民にとっては、
「今後どんな事が待ち受けているのか。政府はどうした対応をしてくれるのか」
という不安が大きくなっていると思われます。
繰り返しますが、危機管理の基本は、
「最悪の事態を想定し(1)、冷静に対応する(2)」ことにあります。

とすれば、もっとも悪い事態を想定し、念のため、
「特にとどまる理由のない人以外は、県外へ移動する」
という勧告を出しては如何でしょうか。
もし、仮に大げさな措置だったとしても、「政府はここまでやってくれるのだ」
という国民の安堵感をもたらすことにもなるでしょう。

実際、国によっては、「当面の間、関東からはなれるように」との勧告を出しています。
そのため、日本を離れる人たちも、私の周りにちらほら見かけます。
他国や他の地域に旅行に出かける人もいれば、自国に一時帰国する人もいます。
いずれも、特に大きなパニックはありません。

こうした取り組みは、「寝た子を起こすな」という、
日本の今までの考えとは、相反するものかもしれません。
しかし、これからも起こるであろう、国家の危機に置いて、
発想の転換が必要な時期に来ていると思います。



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2010年10月4日

HPVワクチンの公費助成にかかるもう一つの懸念

なぜそんなにHPVワクチンの導入を急ぐのか、
という問題については今まで様々な媒体で発信してきました。
今回は、その性急な活動に関する
新たな気がかりを問題提起したいと思います。

HPVワクチンの任意接種費用を助成する地方自治体数は、
2010年7月まではヒブワクチンの費用助成実施自治体数を下回っていたのですが、
現時点では逆転し、任意接種費用助成自治体数では
HPVワクチンがトップの座に躍り出たもようです。

長年、予防接種行政の改善を訴えてきた小児科医から見れば、
HPVワクチンの取り上げられ方は
その背景に十分な費用対効果等の検証も無いまま「極めて異常な増え方」であり、
お祭り騒ぎと揶揄されています。

HPVワクチン公費助成の費用対効果について、
地方自治体の大きな懸念の一つは、
接種した女児が、ワクチンの予防効果がでる10年、20年先に
地元に残っているかどうか分からないということです。
そうであれば、予防効果の有効性が確立されている、
ヒブや小児用肺炎球菌、水痘、ムンプスを進めたい、
と感じているところも少なくないようです。

このような効果判定の検討なしに助成に踏み切った自治体は、
遠くないうちに費用対効果を含めた成果を求められるでしょうし、
その段階で、その不適切な政策決定プロセスも含めて、
問題視される可能性もあります。
その場合、それ以降の任意接種ワクチンへの費用助成を
新たに起こしにくくなるというデメリットが残ります
(そもそも定期だの任意だのという考え方自体がおかしいのですが)。

我が国がワクチン後進国であることは、これまで書いてきたとおりですが、
科学的根拠に基づかないやりかたは、
早期に導入が必要な他のワクチンへも影響が及ぶことを考える必要があると思います。



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2010年9月30日

ワクチン導入の意義を厚労省は理解しているのだろうか

子宮頸がんワクチン概算要求、専門家が課題を指摘

 厚生労働省の来年度予算概算要求に盛り込まれた子宮頸がん対策は、予防ワクチン(HPVワクチン)の普及につながると評価する声がある一方で、「病気の根絶」という観点からは課題も指摘されている。国会議員向けに「子宮頸がん征圧をめざす専門家会議」が9月28日に開いた勉強会では、45%程度の接種率を想定している概算要求に対し、「社会全体の予防としては効果が低い」との見解が研究者から示された。

 厚労省の概算要求では、HPVワクチンの接種費用を補助する市町村に対し、その3分の1を国が補助する仕組み。要求額150億円は、市町村が行う補助事業について「補助対象は中学1年-高校1年の女児(約234.8万人)で、接種率45%」と想定して積算された。

 これに対し同専門家会議では、想定する接種率では集団免疫が十分に機能しないと指摘。概算要求の予算規模を変えないのであれば、▽対象を中学1年(約58.7万人)に絞る▽全額公費負担で無料化する-ことで、社会全体に予防効果が見込めるほどの高い接種率を目指すのが効率的だと提案している。

 この提案に基づき勉強会では、吉川裕之・筑波大産婦人科教授、今野良・自治医科大さいたま医療センター産婦人科教授、福田敬・東大大学院臨床疫学経済学准教授が講演。「一定の年代で接種率100%を狙うのが、世界共通の戦略」「医療経済学の面からも、(同専門家会議の提案は)経済性に優れる」「国費を投じるからには、最も無駄の少ないやり方を選ぶべきだ」などと述べた。

 同専門家会議議長の野田起一郎・近畿大前学長は、今回の予算要求を「大変ありがたい」と高く評価した上で、「ただし、われわれ専門家から見ると、いろんな問題がある。同じ金額を使うのでも、『ここをこう変えれば、もっと効果的なのに』という部分がかなりある」と語った。
医療介護CBニュース 9月29日(水)22時23分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100929-00000012-cbn-soci



HPVワクチンについての議論は、とりあえず振り出しに戻ったといえます。
すなわち、導入に関しては、有効性や社会的インパクト、
費用対効果などを検証が必要だということです。

日本はワクチンに関しては世界から取り残された途上国ですから、
追いつかねばなりません。
しかし、未だに、ワクチンは何のために使うのか、
という意味を理解していないのではないでしょうか。

個々の患者を対象にする臨床(みなさんが病院などで診て貰う)医学と
対比される物として公衆衛生(Public Health)があります。
公衆衛生は個々の症例ではなく、マスとしての国民全体の健康問題を扱います。
ワクチンには必ず副反応が伴いますが、
そのリスクを国民にとっての利益が上回った時に導入されるものです。
利益とは、ワクチンを打つことによってその病気に罹ることを防ぐ、というものです。
この概念は公衆衛生そのものです。
それ故、ワクチンは公衆衛生的ツールの代表と言うことが出来ます。


ワクチン政策は途上国だと書きましたが、
それは、其の国の公衆衛生行政が良くないことを示しています。

日本の予防接種にかかる法律をみてみればよくわかります。

予防接種法(1948年制定)第一章 総則 第一条
「この法律は、伝染のおそれがある疾病の発生及びまん延を予防するために、予防接種を行い、公衆衛生の向上及び増進に寄与するとともに、予防接種による健康被害の迅速な救済を図ることを目的とする」
となっていますが、ピントずれまくりです。
ワクチンに副反応は必発(程度の差はあれど)なのですから、
その救済が接種法の目的になること自体おかしいのです。

ちなみにWHOはワクチン行政について、
「ワクチンで予防可能な疾患(Vaccine Preventable Diseases)は、ワクチンで予防する」
と、極めてわかりやすくシンプルな表現です。

HPVワクチンは良くも悪くも国民の関心を引いたワクチンです。
ですから、これを機に日本のワクチン政策が正しく進むステップとすべきです。
現実的な話では、世界で広く使われている4価のワクチン(万有のガーダシル)の認可を待ち、
議論する必要があるでしょう。
ガーダシルは、HPV感染だけでなく尖形コンジロームなど、
他の性感染症を予防する効果も期待されているワクチンですから、
ワクチンを打つ本人がどちらかを選ぶ、
という選択肢があっても然るべきだと思います。


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2010年8月31日

HPVワクチン騒動 vol.4 -政治とマスコミ主導でのワクチン導入についての疑問-

http://healthpolicyandreform.nejm.org/?p=11935&query=home
HPV Vaccination Mandates — Lawmaking amid Political and Scientific


2010年8月18日発行のThe New England Journal of Medicineで、
米国におけるHPVワクチン義務接種に関する記事があります。

アメリカでは、2006年に認可された4価のワクチンを、
11~12歳女児に打つことを勧めています。
接種する人が増えるためには、
学校での義務化が一番手っ取り早いのですが、
義務化は良いのでしょうか。問題は無いのでしょうか。

2010年2月の時点では、
小学校から中学へ入学する時点で全員接種を掲げているのは
バージニア州とワシントンD.C.の2つだけです。
バージニア州では、HPVワクチン接種を希望しなければ
辞退することができます(opt-outといいます)。
国としてワクチンを推奨しているのに、
その義務接種をしていない州が多いのか、
という原因を調べたのがこの論文の主旨です。

2008年8月から2009年9月の間に、
カリフォルニア、インディアナ、ニューハンプシャー、
ニューヨーク、テキサス、バージニア州の関係者73人について
45-60分面接するという調査がされました。
その結果としていくつかの原因が浮き上がってきたのです。

第1に、HPVワクチンはが新しいワクチンであり、
全員に打つことを義務化する前に、もっと時間をかけたデータをとり、
安全性を確立する必要がある。
また、市民もHPVワクチンの内容や効果、必要性などについて
理解していない点が多く、もう少し丁寧な説明をするべき、
といった指摘です。

第2に、性感染症としてのHPVの位置づけです。
HPVワクチンが義務化となれば、HPV感染がどうして起こるのか、
ワクチンを何故うつのか、といった問題を
保護者が理解する必要があります。
これと同時に子供達への説明、話し合いもしなければなりません。
しかし、11~12歳というのは、
性行為に関して話を受け入れられるかどうか、という微妙な年齢です。
また、そうした話をするのは早いと考える親もいるでしょう。
HPV感染が性行為による感染症である限り、
センシティヴな問題をはらみ、いきなり中学出るまでに必須!
などという議論は如何なものか、という問題点があります。

HPVワクチンが義務化されれば、
sex=感染症という考えがインプットされ、
所謂純血主義(性行為自体に対する極度な恐れ)が
はびこる可能性もありますし、
逆に、ワクチンさえ打っていれば、コンドームを付けなくても
性感染症にうつらない、という無防備さも生むことにもなります。


第3に、製薬会社の関与です。
アメリカではHPVワクチンを製造している会社が、
ワクチン政策に介入している問題が指摘されています。
具体的には、全員接種できるような法案を通すべく、
政治家に対して製薬会社が働きかける、ということです。
こうした動きにはお金も絡んできますから、
国民とすれば不快感を持つのは当然のことです。

第4に、経済負担の問題があります。
アメリカで、HPVワクチンを3回うつと320ドルと、
他のワクチンよりかなり高いです。
日本の場合、この高額なワクチンを公費助成にすることを謳っていますが、
一体、費用対効果分析はきちんとためされているのかと疑問を持ちます。

今回アメリカで使用されるワクチンは、
HPV6・11・16・18という4価のワクチンです。
欧米では16と18型が多いのですが、
欧米型ワクチンが日本人にとってどれだけ有効か、
という包括的なデータはまだ出ていません。
(HPVワクチン騒動 vol.1  参照)

我が国のワクチン行政が他の先進諸国に比べて
大きく立ち後れていることは、
前にも書いたとおりですが(日本と欧米諸国のワクチンギャップ 参照)、
その導入が、声の大きい人や利害関係のあるなしで決まってはならないと思います。
欧米でも、政治家を巻き込んだ動きがあることは、
正にこの論文が示しているところです。
しかし、あまりに政治的な動きになりすぎると、
学術分野からの牽制が入るのが通常です。
それがこの論文の意図でもあります。

ワクチン導入に関しては、有効性や費用対効果、
社会的重要性など多方面からの議論が必要です。
そのためには、基となるデータが必要であり、
議論する専門家が必要です。
日本には、専門家集団がいないことが大きな問題です。
それは、必要なデータをとるための疫学調査を行うときに、
国は本当の専門家である人でなく、
自分たちの意に叶う人たち、すなわち御用学者に研究費を与えるからです。
これでは優秀な頭脳は海外に流出してしまいます。

ワクチンは公衆衛生学的ツールの代表です。
ワクチン行政が脆弱なのは、
その国の公衆衛生行政がうまくいっていないことを示しています。
感情論や、扇動的な動きでなく、科学的根拠を基に
ワクチン導入は行うべきだ、ということを繰り返し申し上げたいと思います。


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2010年8月25日

HPVワクチン騒動 vol.3 -科学的根拠を基にワクチン導入は行うべき-

子宮頸がん対策実現を求め超党派集会、議員連盟結成へ松氏が代表呼び掛け人
 ワクチンへの国費助成など、子宮頸(けい)がん予防対策の実現に向けた超党派国会議員の緊急集会が6日、国会内で開かれた。公明党の松あきら副代表(参院神奈川選挙区)を代表呼び掛け人に開催。与野党から約40人が参加し、議員連盟を結成する方針を確認した。

 次の臨時国会での予防法成立を目指す。出席したのは民主党の桜井充政調会長代理、自民党の松本純副幹事長(衆院比例南関東)、みんなの党の川田龍平政調会長代理ら。松氏は「生命にかかわる問題であり、党派を超えて取り組みたい」と呼び掛け。桜井氏は「子ども手当見直しにつながる最適な現物支給政策」などと推進を表明した。

 また、闘病体験を持ち選挙戦で同がん対策充実を訴えてきた三原じゅん子氏(参院全国比例、同党川崎市連所属)は「この病気から若い世代をはじめとしたすべての女性を救いたい。それこそが真の少子化対策だ」と決意を表明した。

 集会では自治医大の鈴木光明教授、日本医師会の今村定臣常任理事が予防対策のポイントなどを解説。闘病体験を語りつつ予防啓発運を進めている女優・仁科亜季子氏が寄せたビデオメッセージも披露された。

2010年8月6日 カナコロ



今までいくつかHPVワクチンについての記事を書きましたが、
HPVワクチンの流れがおかしな方向に進んでいるのではないか、
と危惧しています。
それは政府でその有効性と優先順位を議論せず、
一部のマスコミや政治家などによるお祭り騒ぎによって、
ワクチン公費助成が叫ばれているからです。
厚生労働省ではHPVワクチン公費助成のため150億円予算請求します。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100817/plc1008170928006-n1.htm



HPV(Human Papilloma virus)は子宮頸がんの患者には100%存在します。
HPV感染を予防するのがHPVワクチンです。
しかし、子宮頸がんの原因は複数存在します。
単独で影響があるといわれている原因(危険因子)はたばこである、
という報告があります。
その他にも人種差、遺伝、食生活など様々な原因があるのです。
HPVはその中のひとつであり、HPV感染を抑えたからと言って、
子宮頸がんの死亡率が低くなるかは未だ明らかになっていません。
(同タイトルvol.1参照)

この理由から、私は子宮頸がん(予防)ワクチン
というのは誤った呼び方であると思います。
本来はヒトパピロマウイルス(HPV)感染予防ワクチンと呼ぶべきでしょう。
私はHPV感染予防に関して積極的に反対してはいません。
むしろ、どれだけインパクトがあるかは別として、
性交渉を経験していない女性に対しては接種を進めても良いと考えています。

問題はその進め方です。ワクチンには必ず副反応があります。
稀ですが重篤な副反応では命をおとすこともあります。
そうしたリスクをおかしても、国民や世界人口という集団を、
病気から救うという、公衆衛生の代表的ツールです。

日本はワクチン対策において、先進諸外国から大きく立ち後れています。
これは我が国の公衆衛生インフラが脆弱であることを
如実に示しています。
遅れているものは進めなければなりません。
海外では接種されているのにもかかわらず、
日本では導入の目処すら立っていないワクチンは数多くあります。
その導入についてある特定のワクチンを、
科学的検証無しに優先させる事はおかしいのではないでしょうか。

例えば、細菌性髄膜炎菌(Hib)ワクチン、
IPV(ポリオ不活化ワクチン)、
肺炎球菌ワクチン、
HBV(B型肝炎ワクチン)など、
疾患に対する予防効果が認められ、
世界の多くの国々で使われながら日本では使われておらず、
導入にむけて早急に議論する必要があるものです。

病気のインパクトを子宮頸がんとその他の病気と比べてみましょう。
細菌性髄膜炎に罹ると、後遺症を残す例が10~20%、死亡率が2~3%です。
5歳未満の発症が多く、この年代に限れば、
700人の患児の中で、15~20人が死亡することになります。

B型肝炎は日本に100万人以上の感染者がいると言われます。
感染者の10%程度が慢性肝炎になり、
慢性肝炎から肝細胞がんなどを発症して死亡する例が0.4%程度です。
細菌性髄膜炎にしてもB型肝炎にしても、幼児期のワクチン接種が有効です。

これに対して子宮頸がんはどうでしょうか。
性交開始後に約60%がHPV感染し、90%は自然治癒(消失)します。
残りの10%のうちの一部が、20年くらいかけて
扁平上皮(子宮頸)がんになります。
最終的に子宮頸がんになるのはHPV感染した女性の
0.1%程度と報告されています。

この数字を見る限り、
HPVワクチンがHibワクチンやHBVより先行して導入される理由は
見つかりません。

また、がんの一つの種類に特化して法律を作り
政策が決定されていくというプロセスもおかしなものです。
他のがんに対してはどうして同じように扱わないのでしょうか。
HPVワクチン導入に関する一連の流れをみる限り、
予防接種、がん対策といった、国の公衆衛生に対する
認識の欠如による結果ではないでしょうか。

有効なワクチンによって最も利益を得るのは子供達です。
政府は「Children first」を謳っているのですから、
次世代にとって最も恩恵を受ける政策決定をしていただきたいものです。
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2010年7月29日

たばこに甘いニッポン

厚労省は1999年当時、2010年までに喫煙人口半減という見通しを発表したが、これまでわずか7%減にとどまっている。
日本では毎年10万人超が喫煙関連疾患の合併症で亡くなり、英国のデータでも入院を必要とする疾患の40%がタバコに起因している。
医療経済研究機構が1999年度のデータに基づいた試算では、喫煙関連疾患による経済的負担(約7兆円)は、タバコ税収(約2兆円)をはるかに上回る。5兆円の損失ということになる。
先進国の大半は喫煙によるリスクとタバコの宣伝に対して厳しい姿勢を取っている。日本はWHOのたばこ規制枠組み条約(FCTC)に調印、批准したにもかかわらず、価格は先進国で最も低く、欧州の半分から四分の一。日本はFCTCに沿った行動を起こすべきだ。

日本経済新聞 サノティス・アベンティス日本社長(当時)フィリップ・フォシェ
2007年12月4日 夕刊5面掲載




たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約
(WHO Framework Convention onTobacco Control:略称WHO FCTC)は、
たばこを直接吸うことにだけでなく、
副流煙の被害をへらすことを目的とした条約です。
2003年5月21日に世界保健機関(WHO)
第56回総会で全会一致で採択され、
2005年2月27日に発効となりました。
この条約締約国は、たばこ消費の削減に向けて、
広告・販売への規制、密輸対策が求められます
(外務省による日本語訳あり)。
http://www.tbcopic.org/signature/

なぜこんなにたばこが問題視されるかというと、
たばこはがん、脳血管障害、心臓血管障害など
様々な健康被害をもたらすことが分かっており、
公衆衛生学的に大きな脅威だからです。
公衆衛生という概念は国や世界を病気から守るというものです。
たばこによる死者は毎年10万人以上というのですから、
社会的に大きな影響を与えていることがわかります
(2007年の死亡総数は1,108,334人)。

たばこは税収増加になるという意見もありますが、
労働力低下や医療費などによる7兆円の経済損失は
2兆円のたばこ税収を差し引いたとしても、5兆円のマイナスとなります。
これが毎年積み重なるわけです。

日本の大きな特徴として、
男性の喫煙率が年々低下しているのにもかかわらず、
女性の喫煙率が高くなっているということです。
http://www.health-net.or.jp/tobacco/product/pd100000.html
特に、20代、30代の若い世代の女性が
毎年約10%程度増えているのです。
1965年と比べるとなんと4倍となっています。
このような先進国の例を私は知りません。

女性の喫煙は、不妊や奇形児の確率を増加させることが
報告されていますから、
日本の少子化を助長する要因としても、
非常に重要です。

近頃、HPV(Human Papilloma virus)ワクチンの接種がさけばれていますが、
HPVウイルスの感染を予防することが、
どの程度子宮頸がんの死亡を減らすかは、
はっきりとは分かっていません。
(※ HPVV(子宮頸がんワクチン)公費助成とワクチン行政 参照)
ワクチン接種に関しては、異を唱えるつもりはありませんが、
たばこが子宮頸がんを増加させるという報告も出されている中で※、
たばこを吸いながらHPVワクチンを受けに行くのは
本末転倒という気がします。
 
たばこは国際的に、大麻と同列にランクされている麻薬です。
日本は、大麻を厳しく取り締まるのに対し、
たばこに対して非常に甘い国です。
「たばこは有害物質である」という認識の欠如は、
厚労省の対策に反映されています。
FCTCに批准しているのですから、
それに見合った喫煙対策をする国際的義務があります。

消費税をあげるよりも、たばこ税を年10%増加させる、
という議論がまずなされるべきでは無いでしょうか。

※Kapeu AS, Luostarinen T, Jellum E, et al
Is smoking an independent risk factor for invasive cervical cancer?
A nested case-control study within Nordic biobanks.
Am J Epidemiol, 15;169(4):480-8, 2008


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