前回に続いて水際検疫に関する検証です。
サーモグラフィーを使って体表温度を測り、
これでインフルエンザ封じ込めをはかったのが
水際作戦だったわけですが、
この機械は1台約300万円かかります。
今回のH1N1豚インフルエンザに対応するため
300台のサーモグラフィーが購入されました。
機械を増やせば、その画面を見て
熱がある人を見つけるための“人”が必要です。
例えば羽田空港では1台のサーモグラフィーあたり、
実際に見る人が1人、
機械の前に乗客を停止させる人が1人、
それに、注意喚起の黄色い紙を渡す人が1人。
この黄色い紙は検疫を通過したという踏み絵のようなもので、
あまりに馬鹿馬鹿しく時間がかかる検疫に
腹を立てて握り潰した場合は、拾ってのばさないと、
次に通る入国管理局を通過することが出来ません
(民主主義国家でしょうか!)でした。
この他に、汚染地と称されたアメリカなどの国の人や、
そこを経由した人、熱がある人に、
個別に対応する医師や看護師が必要です。
このためトータルで2450の人員が動員されました。
通常の検疫職員の数は約500人ですから、
そのほぼ4倍のにわか検疫官が仕上がったわけです。
この検疫強化でもっておよそ10万人のスクリーニングが行われました。
その結果見つかった患者は何人だったかといえば、
たったの5人でした。
皆さんは「費用対効果」という言葉を聞いたことがありますか。
もともとは経済分野で使われていたもので、
現在でもコストベネフィトという言葉で使われています。
医療などの分野では
ベネフィットの代わりに「エフェクティブネス(効果)」
という指標を使いますが、
この指標はその解析対象によってまちまちです。
H1N1豚インフルエンザに関して言えば、
検疫総数あたりの患者数が適当な指標でしょう。
費用対効果分析は専用の統計ソフトもありますが、
要は、効果をかかった費用で割ったものです。
効果が高ければ費用対効果が高いので、
効率的な政策ということができます。
今回の検疫はといえば、
300万のサーモグラフィー300台と、
2000人分の日当×検疫をしていた日数を計算すれば
何十億というお金がかかっています。
これだけ力を入れても見つかった患者は高々5人ですから、
費用対効果は果てしなく悪い、
ということはお分かりになると思います。
「費用対効果が悪くてもやらなければならない時もある」
という意見もあります。
これはもっともな言い分です。
それしか方法がない場合、
あるいは社会的に必要な場合などです。
しかし検疫強化はそれに値するでしょうか。
インフルエンザである限り、熱をワンポイントで測っても
必ず患者はくぐりぬけます。
そして広がってゆきます。
低病原性であれ高病原性であれ、
インフルエンザ対策の基本は
重症化しやすい人に重点を置くことです。
となれば、国内の医療機関の医療スタッフの確保や、
感染症病棟などの整備に力を注ぐべきなのです。
こともあろうにただでさえ不足している現場の医師を
検疫のために連れてくるなどということは
あってはならないことです。
進んで国民の命を危険にさらす愚策といえるでしょう。
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