2010年4月28日

乳がんスクリーニングは効果があるか vol.1


「がん検診受けてください」中村市長が市民に手紙



紀の川市はこのほど、今年度新規事業の「がん検診向上」を図るため、中村愼司市長直筆の手紙の複写914枚を対象者に発送した。主に国保加入者やその扶養者などの中で、 今年度満40歳になる男女。中村市長は「那賀病院とも協力し、今後本市だけでなく、県、また世界を動かすくらいに、がん検診向上推進に努めていく」 と話している。
同事業は、ことしが全身麻酔を使い世界で初めて乳がんを摘出した華岡青洲生誕250年を記念して企画。
手紙はB5の便せんに市長が考えた言葉がつづられている。 担当の健康推進課によると 「このような取り組みは、県内で初めて」という。封筒には、そのほか、青洲の功績を紹介したチラシと、集団検診の日程表などが同封された。
同市は、国保加入者などの対象者から算出した検診率が4割を越えるなど、乳がんの検診率は全国的にも高水準。しかし、検診申し込みに対し、「がんが見つかるのが怖い」などの理由で申し込んだにもかかわらず受診を断る人が約3割いるのが現状という。
同課は今後、がん初検診者向上と、検診申し込み者の受診率100%を目指した啓発を図るという。
わかやま新報Daily News  2010年4月20日



がん検診とは早期のがんの
なるべく早い段階に見つける検査で、
がんスクリーニングとも呼ばれます。
スクリーニング検査は、
国や地方自治体が「やろう!」と決めて導入するのですが、
やって意味があるかどうかを、どのようにして決めるのか、
といった話をしてみたいと思います。

国全体としてみれば貴重な労働力が病気にならないことが、
国を維持するためには大切なので、
がんや、心臓疾患系の障害をなるべく早く見つけて、
早いうちに治療をすることを考えます。

とはいっても1ミリに満たない
小さながんを発見するための高価な検査を
国民すべてに行うのは労力もお金もかかりすぎます。
また、検査を受ける側も
1日がかりの検査をしょっちゅうやられていたのでは
たまったものではありませんから、
スクリーニングはなるべく簡単に、
時間もお金もかけずに、
かつ精度が高い検査がのぞまれます。


検査の正しさ(有効性)はどうやって測るのかといえば、
「妥当性」と「信頼性」の2つの指標でみます。
妥当性とは本当に病気の人をきちんと病気だと認識できるか、
そして正常な人を正常だと認識できるか、ということです。

信頼性というのは、
何回か検査をしたときにどれだけ同じ結果が得られるか、
ということです。
ある人がはかると陽性、違う人がはかると陰性、
というのでは結果がてんでばらばらです。
信頼性とは正しい(真実の)数値を
誰がはかっても同じような結果が出る検査の能力であり、
再現性と呼び替えることができます。
妥当性も信頼性も高いのが良い検査ですよね。



(講談社新書「厚労省と新型インフルエンザ」木村盛世著よりP.156一部改編)






それでは妥当性に関してもう少し、見てみることにしましょう。
妥当性が低い、言い換えれば
正しい値が検査で出てきにくい、ということです。
それ故、妥当性というのは検査の生命に関わる
もっとも大切な特性です。
ですから、スクリーニング検査は
この妥当性がいかに高いかがとても重要なのです。


少し専門的になりますが、
妥当性をあらわす物差しとして、
「敏感度」と「特異度」という2つがあります。
敏感度とは、本当に病気を持っている人たちの中から
どれだけ検査で陽性(+)と出すか、ということであり、
特異度とは本当に病気を持っていない人を
どれだけ正しく陰性(-)と示すか、
という検査の能力のことです。

敏感度も特異度も高ければ高いほどよいのですが、
残念ながらどっちも完璧という検査は無いのです。
一般的に特異度が上がれば敏感度が下がる
というシーソーのような関係になっているので、
100パーセント妥当なスクリーニング検査は存在しないのです。
 

(講談社新書「厚労省と新型インフルエンザ」木村盛世著よりP.160一部改編)





それでは次回は、スクリーニング検査が実際どれだけの人を救えるか、
ということについての話をすることにしましょう。


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春のブーケです。かわいらしい花がブーケになりました。バラ、ガーベラ、モカラ、オーニソガウム、ヒペリカム!


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2010年4月23日

H1N1豚インフルエンザ対策総括を検証する vol.4

このタイトルについてお話しするのも最終回となります。
1回目2回目3回目を読む)
最後は「学校閉鎖の効果」についてです。


検疫とともに力を入れたのは学校閉鎖ですが、
はたして効果はあったのでしょうか。
WHOは1959年に
「北半球では夏休みが終わって学校が始まることが
大流行の引き金を引くように思われる」としながらも、
「学校閉鎖の効果は限定的」と結論しています。
これは1957年に流行した
新型インフルエンザ「アジア風邪」の流行による
解析の結果です。

今回のH1N1豚インフルエンザでも
海外では学校閉鎖がそれほど積極的には行われませんでした。
しかしわが国では当初から1人の生徒でも患者が出たら
学校閉鎖が徹底されました。
しかし、ある高校では学校閉鎖が行われたと同時に
暇を持て余した生徒たちがカラオケ店に並びましたから
これでは何のための学校閉鎖かわかったものではありません。


カラオケに生徒が押し掛けたように
人間の行動を規制するのは難しいものです。
インフルエンザなどの呼吸器感染症で子供たちが休み始め、
ある一定以上の数の学童が休むと学級閉鎖をします。
学級閉鎖は、学校などで人が集まる場所は
お互いにうつしあうので
この場をなくせば病人も減る、
という理念にもとづくものです。

しかし、1週間の学級閉鎖の後
まだ治りきっていない子供達が
咳をしながら登校してきます。
こうなってくると学校は始まった途端に
また病気のうつしあいが始まり、
喜んだのは元気な子供たちだけでしょう。

今回行われた学校閉鎖の有効性を示す話として、
1920年にアメリカの小さな島で
インフルエンザが流行った時に学校閉鎖が行われ、
「学校閉鎖は完全に感染をシャットアウトできないかもしれないが
流行を遅らせることができた」
という報告が持ち出されます。
しかし、これはあまり人口密度が高くない場所だったから、
かもしれません。


1918年のスペイン風邪が流行した際、
学校を休みにしたアメリカ大都市部と、
授業が行われていた田舎を比較した際、
都市部の学校ほうがインフルエンザ罹患率が高かった
という研究報告もあります。
この理由としては学校が休みであっても
映画館等で生徒間の交流が活発だったからかもしれません。
今回のカラオケ店に並んだ生徒の姿と
重なるところがありますよね。

学校閉鎖だけでなくコンサート、
集会の自粛なども行われました。
同じような試みはスペイン風邪が流行した
90年前にも行われました。
カナダのエドモントンでは徹底的な患者隔離とともに、
全ての集会禁止、学校、教会、映画館等
人が集まるところはことごとく閉鎖されました。
加えて職場における就業時間も短縮されたのですが、
インフルエンザ流行が抑えられたという話は聞きません。


歴史的に見てみると、
インフルエンザなどの呼吸器感染症で、
特別な治療法がない病気に関しては
学校閉鎖や集会の自粛などは、
効果があるとはいえないことがわかります。
たとえ人の行動を徹底的に制限したとしても、
必ず誰かは包囲網を潜り抜けるからです。

咳や熱のある人を片っ端から捕まえて隔離したとしても、
熱や咳だけがインフルエンザの症状ではありません。
たとえば体がだるいとか、
頭痛などから始まる人もいます。
とすれば、H1N1豚インフルエンザを
完全に封じ込めるためには、
他人との接触が全くないであろうヒマラヤの奥地へ行くか、
呼吸をやめること以外にはないように思えます。

(学校閉鎖に関する一番新しい総括:Caushemez S, Ferguson N, Wachtel C et al, “ Closure of Schools during an Influenza Pandemic”. The Lancet Infect Dis, Aug;9(8):473-81.2009)


常識的に考えても完璧な封じ込めは不可能なのですから、
不可能なことを行えば様々な弊害を生じます。
その一つが経済的ダメージです。
国交省によると、首都圏の感染拡大を防ぐため
車内で乗客同士がある程度以上の間隔を空けられるよう
乗車制限した場合、
乗車率が通常の1割程度の落ち込むとのことです。

そうなるとたとえば
山手線の内側回りの電車では、
日中の乗客がいつもの3分の1になるといいます。
同省国土交通政策研究所試算によれば、
山手線の内回りで電車通勤する人は1日に約300万人です。

2%の致死率を示すスペイン風邪なみのインフルエンザでは
4分の1の人が出勤しないというアンケート結果がでています。
その他にも田舎に避難するなどして
乗車人数が減れば
山手線内回りに乗る人は197万人としています。
加えて、2メートルの間隔を空けて乗車するとなると、輸送人員は53万人に減り、
鉄道会社の乗員が4割欠勤という事態になれば27万人を運ぶのが精いっぱい
ということですから商売あがったりになります。

輸送機関だけでなく旅行も減りますから
旅行業界はじめとするサービス産業は
大きな痛手を受けることになります。
今回のような検疫、学校閉鎖などを繰り返せば
その経済損失は数兆円といわれています。


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先日作ったスイートポテトムースです!焼き芋を焼いた残りと、水切りしたヨーグルト、生クリーム、卵というシンプルなものですが、娘たちに好評でした^^



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2010年4月16日

H1N1豚インフルエンザ対策総括を検証する vol.3

前々回前回と引き続き、3回目となります。
疫学的には「検疫は有効だった」と言えるのかということについてです。



理論的にも、費用対効果的にも意味もない、
今回の水際強化ですが、
せっかくですからもう一つ別の側面から
切り込んでみたいと思います。


厚労省の記事などで、
「公衆衛生学的」といった文言を
目にする機会があると思いますが、
公衆衛生とはいったいなんでしょうか。
一言で言えば「森を見る」学問です。
これではなんだか分からないですか。
 
例えば、皆さんが病気になって病院に行くと
お医者さんが注射や薬などを出して治してくれます。
これを臨床医学と言います。
ところが公衆衛生の場合は、
個人ではなく国民全体の病気を治そう、
あるいは予防しようというスタンス
です。
インフルエンザが流行したとき、
重症化しやすい人に重点的なケアをして、
インフルエンザの被害を
なるべく小さくしようというのが、
公衆衛生学的立場です。


そして公衆衛生学的立場に立ったとき、
どんなことをしたらよいのかという
科学的根拠を与えてくれる学問を疫学(epidemiology)

といいます。
疫学は「人間集団における因果関係のあるなしを調べる学問」
といえるでしょう。
(偉い先生はもっと難しい定義をしますが、
難しすぎてよくわかりません。)


因果関係があるかないかを調べるには、
Aの結果Bになったという「仮説」を立て、
これが正しいかどうかを証明する、
という手段をとります。
例えば、「“スリム茶モリヨン”を飲んだら体重が減少した」
というのが仮説となります。

今回の記事は、痩身に関するものではありませんので、
「検疫をやったら国内のH1N1患者発生が少なくなった」
という仮説になります。
仮説をどのように証明するかについては
また別の機会に説明することにしますが、
今回は、この仮説自体に意味があるかどうかを
検証する一つの指標があります。
アメリカ公衆衛生局長諮問委員会がまとめたもので、
5つの項目があります。
この5項目に基づいて、
検疫仮説が意味のあるものかどうか
見てゆくことにしましょう。


第1に普遍性(Consistency)です。
すなわち違った場所や集団、
あるいは時代が違っても
検疫は有効であることが言えるかどうかと言うことです。
サーモグラフィーを使った
SARSスクリーニングはほとんど意味がありませんでした。
 
第2に強固性(Strength)です。
検疫を行えば行うほど患者の国内発生は少なくなるかどうか、
ですが、このような事実はありませんでした。

第3に特異性(Specificity)です。
検疫をやったところは患者発生が少なく、
かつ患者発生が少ないところは
必ず検疫を行っている。
国内でこのような差があったとは聞きません。
関西では検疫を強化しながら、
国内初の患者が発生しました。

第4として時間の順番が間違っていないか(Temporality)です。
原因(検疫)と結果(患者発生が減る)を調べるとき、
検疫行った→患者発生減ったという時間軸を
無視していないかどうかと言うことです。

最後に今から調べようとする仮説が
既存の事実とかみあっているか(Coherency)
です。
過去のインフルエンザも、SARSもペストも、
そして栗原中将も水際作戦に成功しませんでした。


これら5つを満たすものが
仮説として適当とされるのですが、
この5つを総合的に見ると、
仮説が常識的に正しいかどうか、ということでしょう。
とすれば歴史的に成功した試しもなく、
常識的に考えて効果のあるとは思えない検疫に関して
「有効であったかどうか」という
仮説を立てて議論すること自体、
あまり意味のないことだと思いませんか。
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2010年4月13日

H1N1豚インフルエンザ対策総括を検証する vol.2

前回に続いて水際検疫に関する検証です。


サーモグラフィーを使って体表温度を測り、
これでインフルエンザ封じ込めをはかったのが
水際作戦だったわけですが、
この機械は1台約300万円かかります。
今回のH1N1豚インフルエンザに対応するため
300台のサーモグラフィーが購入されました。

機械を増やせば、その画面を見て
熱がある人を見つけるための“人”が必要です。
例えば羽田空港では1台のサーモグラフィーあたり、
実際に見る人が1人、
機械の前に乗客を停止させる人が1人、
それに、注意喚起の黄色い紙を渡す人が1人。
この黄色い紙は検疫を通過したという踏み絵のようなもので、
あまりに馬鹿馬鹿しく時間がかかる検疫に
腹を立てて握り潰した場合は、拾ってのばさないと、
次に通る入国管理局を通過することが出来ません
(民主主義国家でしょうか!)でした。

この他に、汚染地と称されたアメリカなどの国の人や、
そこを経由した人、熱がある人に、
個別に対応する医師や看護師が必要です。
このためトータルで2450の人員が動員されました。
通常の検疫職員の数は約500人ですから、
そのほぼ4倍のにわか検疫官が仕上がったわけです。

この検疫強化でもっておよそ10万人のスクリーニングが行われました。
その結果見つかった患者は何人だったかといえば、
たったの5人でした。


皆さんは「費用対効果」という言葉を聞いたことがありますか。
もともとは経済分野で使われていたもので、
現在でもコストベネフィトという言葉で使われています。
医療などの分野では
ベネフィットの代わりに「エフェクティブネス(効果)」
という指標を使いますが、
この指標はその解析対象によってまちまちです。
H1N1豚インフルエンザに関して言えば、
検疫総数あたりの患者数が適当な指標でしょう。

費用対効果分析は専用の統計ソフトもありますが、
要は、効果をかかった費用で割ったものです。
効果が高ければ費用対効果が高いので、
効率的な政策ということができます。


今回の検疫はといえば、
300万のサーモグラフィー300台と、
2000人分の日当×検疫をしていた日数を計算すれば
何十億というお金がかかっています。
これだけ力を入れても見つかった患者は高々5人ですから、
費用対効果は果てしなく悪い、
ということはお分かりになると思います。


「費用対効果が悪くてもやらなければならない時もある」
という意見もあります。
これはもっともな言い分です。
それしか方法がない場合、
あるいは社会的に必要な場合などです。

しかし検疫強化はそれに値するでしょうか。
インフルエンザである限り、熱をワンポイントで測っても
必ず患者はくぐりぬけます。
そして広がってゆきます。
低病原性であれ高病原性であれ、
インフルエンザ対策の基本は
重症化しやすい人に重点を置くことです。
となれば、国内の医療機関の医療スタッフの確保や、
感染症病棟などの整備に力を注ぐべきなのです。

こともあろうにただでさえ不足している現場の医師を
検疫のために連れてくるなどということは
あってはならないことです。
進んで国民の命を危険にさらす愚策といえるでしょう。
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2010年4月10日

H1N1豚インフルエンザ対策総括を検証する vol.1

【キブンの時代】危険はどこに 新型インフル「偏執病」
(4/4 産経新聞紙面掲載)

「『もう言わんとこ』って決めたんです。話したくないのは当然だけど、思いだしたくもない」
 大阪府寝屋川市にある公立高校の校長は、やんわりと取材を断った。
 昨年5月、この高校は、新型インフルエンザの大騒動に巻き込まれた。短期留学で訪れたカナダから帰国した生徒4人が、成田空港での検疫で新型インフルに感染していることが判明。同じ航空機に乗っていた同級生ら乗客48人が空港近くのホテルに停留される羽目になった。
 新型インフルの日本での初の感染確認だった。
 高校が追われたのは、生徒らへの対応ばかりではなかった。「謝れ!」「大阪へ帰ってくるな!」「バカヤロー」。伏せられていたはずの高校名をどこで知ったのか、電話が殺到した。
 「まるで危険物扱い。誹謗(ひぼう)中傷も、マスコミの取材もすごかった。でも1週間もして、日本各地で感染が確認されると誰も騒がなくなった。あの雰囲気、世間の気分は、いったい何だったのか」。校長は1年近くたった今でも納得がいかない。
     ◇
 厚生労働省では、国内での感染が確認された時点など要所要所で、当時の厚労相、舛添要一(61)が深夜、早朝を問わず自ら会見を開いた。
 国が騒ぎ過ぎたので、日本中が大騒ぎになったのではないか-。そんな声は当初からあった。舛添から「緊急時なのに連絡がつかない」と指摘された横浜市長(当時)の中田宏(45)が発した「大臣自身が落ち着いた方がいい。カリカリし過ぎ」という言葉が反発を象徴している。

 厚労省幹部によると、首相官邸からも「何で大臣が深夜に会見するんだ」といった牽制(けんせい)があったという。
 これに対し舛添は今年2月、日本環境感染学会で講演し、「反省点は山ほどある」としながらも、「見えない敵との戦争だ。危機管理の問題で情報を公開することが大切。位が上の人が言うほど情報の信頼性が高まる」と反論。「ワクチン対応などで長妻昭厚労相が国民の前で語るのを見たことがない。これではだめだ」と切り返した。
 国の対策の事務方の責任者である厚労省健康局長の上田博三(60)は一連の情報発信について、「大臣が会見したことで、国民にしっかりとメッセージが伝わった」と肯定的に振り返る。一方で、「情報が強く伝わってしまった点もあった。われわれがもっと積極的に情報の背景説明などをすべきだった」と語る。
     ◇
 マスク、手洗い、そして感染者が出た学校への誹謗中傷…。米紙ニューヨーク・タイムズは、新型インフルをめぐって日本中を覆った雰囲気を奇異にとらえ、「パラノイア(妄想症)の国」と伝えた。
 記事は「下着からボールペンに至るまで抗菌性」と日本社会を揶揄(やゆ)し、「もともと衛生状態への強迫観念がある」と分析する。
 なぜ、日本中で「パラノイア」と称される光景が生じたのか。ものものしい防護服に象徴された検疫体制を検証してみる。

“新型インフル・パニック” 恐怖心、国全体を支配
 「空港の検疫体制は過剰ではなかったのか」。メキシコでの新型インフルエンザ感染確認から約1年がたった今年3月31日。厚生労働省で開かれた新型インフル対策を検証する委員会で、そんな批判が紹介された。
 新型インフルの“恐怖”を視覚的に日本中に伝えたのが、メキシコでの感染確認から間もない昨年4月29日から5月22日まで続けられた航空機内での検疫だ。ゴーグルをつけ、白い防護服を着た検疫官が機内で乗客の健康状態をチェック。島国・日本だからこその“水際作戦”だった。
 だが、当初から専門家は検疫強化による効果に懐疑的な見方をしていた。
 政府の新型インフルエンザ対策本部専門家諮問委員長を務める尾身茂(60)は今年3月、日本記者クラブ(東京都千代田区)での会見で、「水際作戦に限界があったことは皆が承知していた。だが病気についてよく分かっていなかった時点で、水際作戦をやめることに国民は耐えられただろうか」と、世論の動向が検疫強化につながったという見方を示した。
 当時厚生労働相だった舛添要一(61)もインフル対策を振り返る中で、「水際作戦の継続のように、医学的にみれば『あまり合理的でない』ということはあるかもしれない。しかし、人間の心理や感情を考慮しなくてはいけない」と語っている。

 厚労省内でも感染確認直後から、「ものものしい検疫をいつまでも続けるより、早く病院など国内の体制整備に力を向けたい」という声が聞かれるようになっていた。同省健康局長の上田博三(60)は「5月の連休明けにも検疫体制を縮小することも考えた」と振り返る。
 しかし、まだ連休中だった5月9日。成田空港の機内検疫で感染者が見つかった。カナダへの短期留学から帰った大阪府寝屋川市の高校の生徒たちだった。
 上田は「検疫で見つかることが分かった途端、『もっとやれ』という声がいろいろなところから届き始めた。風向きが急に変わった」と話す。
 検疫の強化は、国内で感染者が確認された後も継続されていくことになる。
     ◇
 羽田空港検疫所で働く医師、木村もりよ(45)は、厚労省のとってきた政策を正面から批判する。インフル対策で歯にきぬ着せぬ発言をし続け、国会に参考人として呼ばれたこともある現役の厚労省職員だ。
 「そもそもインフルエンザの感染を封じ込めるなんて無理な話で、検疫を強化しても仕方ない。季節性インフルでも何千人と死ぬことがあるのだから、腹をくくり、重症化しやすい人への対策に力を入れるべき」。木村はそう主張する。
 そして「公衆衛生や医療現場を分かっていない役人が、誤ったメッセージを国民に伝えるからパニックになった。この騒動は『官製パニック』。国民は踊らされた」と一刀両断にする。
 世界的にみて、今回のインフルで、これほど検疫強化に努めた地域はない。厚労省の立ち上げた検討会では、その評価も含めた検証が始まるが、昨年の日本社会が官僚も国民も含め、新しいウイルスへの恐怖感で満ちていたといえる。
 検疫業務に参加した女性スタッフ(42)が話す。「『大げさだ』と怒られたこともあるが、検疫を受けた人や、多くの国民から『安心した』『頑張って』という声を随分かけてもらったことも事実。少しでも安心な気分になってもらえたなら意味があった、と思う」(敬称略)
     ◇
 新型インフル、中国製ギョーザを契機とした冷凍食品問題など、日本人の健康や安全に影響が出るような事象が相次いでいる。マスクをしたり、購入をやめたりと、敏感に反応する日本人。その反応に“キブン”的なものはないのか。健康や食の安全をめぐるキブンを考える。

2010年4月4日産経新聞紙面掲載 (ここまで引用):
http://sankei.jp.msn.com/life/trend/100404/trd1004040800002-n1.htm



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2009年に流行したH1N1豚(新型)インフルエンザについての
政府総括が始まりました。
いわゆる新型インフルエンザと呼ばれているこの疾患に関して、
政府の主導中心として活躍した尾身茂氏は
「やりすぎもあったが、大成功だった」と結論しています。
(木村盛世オフィシャルサイト:日本記者 クラブ石岡荘十氏「現役医系技官がインフル総括に反論」参照)


すべての政府の活動は行動計画に基づいています。
すなわち、箸の上げ下げにいたるまで
政府が決定するということです。
行動計画の中心となったのは水際対策と学校閉鎖でした。

尾身茂氏のいうとおり、
今回のインフルエンザ対策は大成功といえるのかどうか、
検証してみることとしましょう。

先ずは水際対策ですが、
成田空港などの主要空港を中心とした機内検疫、
防護服を着込んで勇ましく空港を駆け巡る
検疫官の姿を思い浮かべる方も
多いのではないでしょうか。

ある経済界の集まりで話をしたとき、
「検疫とはみなさん何をしていると思いますか?」
という質問をしたところ、
「何か特別な検査で、H1N1豚インフルエンザに
罹っているかどうかを調べているのではないか」
という答えが大半でした。

実際、水際検疫とは何をしているかと言えば、
サーモグラフィーと呼ばれる機械で、
体表温度をはかることです。
え!まさか、それだけですか?
と言われるかもしれませんが……
では、熱が出る病気はH1N1豚インフルエンザだけでしょうか。
そんなことはありませんよね。
カゼ、インフルエンザ以外による
気管支炎、肺炎、細菌性胃腸炎などなど数えればきりがありません。

サーモグラフィーという体の表面を測る温度計が
どれだけ脇の下や舌下で測る体温と
同じような数値を示すのか本当のところわかりません。
病気でなくても、アルコール飲んでも
暑い場所を歩いてきただけでも
サーモグラフィーでは真っ赤っかになることもあります。

これに加えて、インフルエンザに限らず、
細菌やウイルスによる感染症には
必ず潜伏期間というものがあります。
これは体の中には病原体が入っていても、
症状がないため見た目は健康な人と同じです。
当然熱も出ません。
これでは潜伏期の時にサーモグラフィーを
通過しても捕まえられるわけはありません。
インフルエンザではこの潜伏期から
人に病気をうつすことが知られていますから、
検疫すなわちサーモグラフィーだけで
全ての感染源をシャットアウトすることなど
不可能な事がお分かりいただけるでしょう。

もし、検疫が有効であったということを
証明するのであれば、
検疫をやった場合とやらなかった場合にわけ、
2つのグループにおけるインフルエンザ発生率の違いを
比較する以外にはありません。
しかし今回の騒動では「検疫を行わなかった」
という事例は存在しませんので
比較自体、あり得ないことになります。
ですから、「検疫が効果があった」と結論するのは、
なんとなくそう思うから、
という程度の信ぴょう性しかなくなります。
カゼの時、みかんをいっぱい食べたら良くなった(ような気がした)
というのと同じレベルのものなのです。
そうはいっても、それでもやったよりは
やらないほうがましだった、という人がいるかもしれません。

では、次回は「費用対効果」という観念から
検疫の有効性について説明することにします。
vol.2へ


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