2012年5月28日

生活保護制度は誰のため?


生活保護も不正も増、自治体調査に限界  2012.5.26 01:13  msn産経ニュース 
人気お笑いコンビ「次長課長」の河本(こうもと)準一さん(37)の母親が今年4月まで受給していたことでクローズアップされた生活保護制度は、生活困窮者に対し、最低限度の生活を保障する“最後のセーフティーネット”といえる。高齢化や不況を背景に受給者数が過去最多を更新し続ける一方で、不正受給も増加の一途をたどっている。厚生労働省によると、今年2月に全国で生活保護を受給した人は209万7401人。戦後の混乱の余波で過去最多だった昭和26年度の数字を昨年7月に上回って以降、8カ月連続で最多を更新している。平成24年度は生活保護費として約3兆7232億円が当初予算に計上された。不正受給も22年度までの5年間、増加し続けている。22年度は過去最悪の2万5355件、計約128億7426万円が不正に支給された。不正で最も多いのは収入がありながら「ない」と偽って申告するケース。今月18日には年収が1億円以上あるのに熊本市から生活保護を受けていた投資勧誘業の男が熊本地裁で懲役3年、執行猶予5年、罰金3000万円の判決を言い渡された。不正が絶えない背景には扶養義務を親族がどこまで負えるかについての判断や確認が難しいこともある。生活保護は原則として世帯単位で決定されるため、河本さんと別居する母親は、別世帯として判断される。民法では親族間の扶養義務が定められ、保護が申請されると、保護決定を行う自治体が親や子供など扶養義務者による仕送りの可否などの調査を実施する。 

ただ調査への回答は自己申告で、離れて住んでいる親族には文書で調査を行うことも多い。申請者親族の資産調査は可能だが、調査で照会を受ける親族らには法律上の回答義務はなく、銀行などに個別に確認するにはとても手が足りない。河本さんは会見で「収入が安定せず、いつ仕事がなくなってもおかしくない不安の中でやっていた」と説明し、自分の判断で母親への援助額を決め、その一方で生活保護を受けさせ続けていたと説明した。東京都のある自治体の担当者は「立派な家に住んでいる親族に『住宅ローンがあるから』『子供の教育にお金がかかる』と断られたこともあった」と話す。厚労省の担当者は「収入が不安定でも、その時点で扶養可能な収入があるのに扶養いただけない場合は、文書だけでなく職員が出向き状況を確認して相談する必要がある」としている。 
■生活保護 最低限度の生活を保障し自立を助ける制度。国が定める最低生活費に比べ収入が少ない世帯に差額分を支給する。食費や光熱費に充てられる「生活扶助」、家賃に当たる「住宅扶助」などがある。費用は国が4分の3、地方自治体が4分の1を負担するが、自治体、家族構成、年齢により保護を受けられる基準額は違う。例えば、東京23区に住む夫33歳、妻29歳、子供4歳の家族が保護を受けた場合、生活扶助は17万2170円。民間住宅を借りる場合は、さらに上限6万9800円の住宅扶助が出る 。  
他、「生活保護制度めぐりさまざまな問題 「マニュアルDVD」も」  フジネットワークニュース 2012.5.25 18:51などもご参照ください。


今回は、生活保護について取り上げてみたいと思います。

厚労省によれば、「生活保護制度は、生活に困窮する方に対し、
その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、
健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、
自立を助長することを目的」とする趣旨で施行されています。
すなわち、社会保障のひとつです。


人間、どのように頑張っても、
様々な要因で自立した生活を送れなくなることがあります。
リストラ、病気、家族の問題などが、その代表例と言えるでしょう。
「困ったときはお互い様」で、
こうした状況にある人を公費で補助することは、
決して悪い事ではないと思います。
しかし、今回の報道で問題となっているのは、
生活保護の受給者が過去最大になり、公費を圧迫していること、
また、本来、生活保護がなくても自立できる人たちが、
その恩恵にあずかっている、という事です。

ただでさえ、切羽詰まった国や地方自治体の台所事情の中、
本来必要でない部分の支出を余儀なくされることは、
国の苦しさだけでなく、財政を支えている国民にとっても、
受け入れられられるものではありません。
それだけでなく、「自立を支える」ための制度が、
逆に自立しない、依存的な人たちを生んでいるという事は、
社会的に大きな問題です。

現在、生活保護の申請に関して、その窓口となる地方自治体は、
申請者の内情について調査を行う権限は大きくありません。
それは、資産調査などを行う場合、申請者の同意が求められるからです。
従って、仮に、申請者が虚偽の資産報告をしてきても、
その真意を明らかにする仕組みがないのです。
こうした現状は、是正されるべきだと思います。

しかし、今回の報道は別の側面からみた問題もはらんでいます。
それは、本当に生活保護を必要としている人が、
今後、申請しづらくなったり保護を受けられない、
といった状況を生むという事です。
繰り返しますが、自分個人の力ではどうしようもなくなった時、
それを一時期支え、自立を促す制度は、
国家にとって非常に重要なものだと思います。

厚労省審議会の委員である、長崎大学教授の林徹氏から、
以下のような私信が送られてきました。
 「社会保障分野の専門家に共通していると感じることは、
 マズロー流の低次欲求にしか関心を持っておらず、
 人が働くことと高次欲求との関係を軽視している、ということです。」

マズローは、人間の欲求を、5段階に分けた説を提唱しました。
低次の欲求とは、人間の本能ともいうべき、
「食べる、飲む、寝る」といったものです。
これに対して、高次の欲求とは、
人間関係を築いたり、人に認められたり、自己実現の可能性を追求する、
といったものです。
林氏の指摘は、非常に的を射ていると感じます。
なぜなら、本来、生活保護の目指すものは、自立であり、
とりもなおさず、それは「社会的」な自立です。
ところが、多くの議論は、
生物的に生きられる最低ラインの議論に終始しています。
憲法25条に謳われる「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する上では
労働=高次の欲求という側面からの議論が絶対に必要であると思います。

また、このような観点から、生活保護の見直しが行われれば、
誰が、それを必要とするのかといった、
合理的、理性的な見極めが今よりは出来るようになるのではないでしょうか。
少なくとも、現状の生活保護は、
「子ども手当」同様のばらまき政策である感は否めません。


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2012年5月27日

細菌性髄膜炎(Hib)ワクチン報道に関する、多いなる懸念


細菌性髄膜炎(Hib)ワクチンについて、以下のような報道がされました。



小児ワクチンで乳児3人死亡」5月26日 5時19分 NHK NEWS web

幼い子どもがかかる「細菌性髄膜炎」を予防するワクチンを接種した乳児3人が、接種のあと死亡したことが分かりました。

厚生労働省で25日開かれたワクチンの副作用についての調査会では、去年12月から先月までに幼い子どもがかかる「細菌性髄膜炎」を予防する、肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンを接種した6か月未満の乳児3人が、接種のあと死亡したことが報告されました。
これについて、厚生労働省は3人のうち2人は別の病気が原因で死亡したとみられ、ワクチンの接種との明確な因果関係は認められないほか、もう1人については医療機関から詳細な報告が来ていないと説明したということです。
細菌性髄膜炎を予防するワクチンを巡っては、接種して死亡したケースがこれまでに合わせて16例報告されていますが、いずれも接種との明確な因果関係は認められないことから、厚生労働省はワクチンの接種を行っても問題はないとしています*。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120526/k10015390531000.html

*http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000008fcs.html#shingi28



ワクチンに関しては、今までも発言してきましたが、
今回の報道に関しては、違和感を感じます。

ワクチンは、国民や、世界人口といった、大きな集団を、
疾患から防ぐための重要なツールです。
どの薬剤にもあることですが、必ず副反応はあります。
そのワクチンに対して、合わない体質を持っていた場合などで、
死亡したり、重篤な後遺症を残すことがあります。
多くのワクチンにとって、こうした重篤な副反応はまれですが、
ゼロではありません。
しかし、その可能性を鑑みても、マスを病気から予防する、
という利点が上回った場合に導入するのが、ワクチンです。

例えば、仮に、重篤な過敏反応で、10万人に1人は死亡する可能性があるが、
もしその病気にかかったら、約10%(10万人のうち1万人)は死亡する、
感染症があったとしたらどうでしょうか。
数だけで単純比較は出来ませんが、こんな病気の場合は、
ワクチンを全国民に打つのが、政府の役割だと思います。
それは、10万人に1人の確率で起こるリスク回避を優先したために、
それ以上の人たちが、死の危険性がさらされるという事になるからです。
これを「公衆衛生」学的考えと言います。

政府、すなわち厚生労働省は、国民というマスを
いかに危険にさらさないか、という政策を行うところですから、
まさしく、公衆衛生行政を行う役所です。

ところが、この報道をみると、Hibワクチンを国の責任において実施し、
子どもを、当該疾患から守ろうとしているのだろうか?
と頭をかしげるばかりです。

いったい、3人とは、何人受けたうちの3人なのでしょうか。
10人受けて3人亡くなったのであれば、大変なことです。
しかし、100万人に接種されて、となると、話は違ってきます。

因果関係について調査をするのは当然ですが、
あたかも、このワクチンが非常に危険な代物であるかのような
過大広告をしたいのか、と疑いたくなります。
かつて、”新型”インフルエンザが流行した際、
「1人亡くなった、2人亡くなった」という報道ばかりがされました。
集団における、健康被害を考えるとき、
個別症例(分子)ばかりを数えて、母数(分母)を示さなかったら、
社会的なインパクトは論じることが出来ません。

いつもながら、プロ意識が全く欠如した厚労省の行動と、
それと同じくらい稚拙なタイトルをつける報道機関に、
大いなる不信感を抱いたところです。
仮にも「公衆衛生」を司る行政機関がこのような姿勢では、
Hibワクチンを必要な子供に速やかに接種する、という重要な課題に対して、
要らぬ妨害が入ることを、非常に危惧しています。

今回の報道に関して、御意見あるかたは以下のサイトから、
ご投稿いただければ幸いです。
http://www.nhk.or.jp/css/

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2012年5月14日

医師国家試験問題から読み解く、厚労省の現実離れぶり


~阿呆はいつも彼以外のものを阿呆であると信じている~芥川龍之介

桜の季節も過ぎ、初夏を感じさせるこの頃です。
久しぶりにブログ更新します。
今回は、今年の医師国家試験問題を引用し、
そこから、今の厚生行政のおかしさを指摘したいと思います。

その問題とは、これです。

52歳の男性。糖尿病治療目的で外来通院中である。
体重を減量する必要性を本人も理解しているが、
これまでの5回の受診で体重が漸増している。
身長165 cm、体重82 kg。HbA1c 7.6 %(基準4.3~5.8)。
医師の発言として適切なのはどれか。
a  「何度説明しても無駄ですね」
b  「減量では何がつらいですか」
c  「体重が増えて透析になっても知りませんよ」
d  「次回までに体重が減らないと私は責任が持てません」
e  「今回できなかった分も加えて次回までに減量しましょう」

HbA1cというのは、糖尿病のコントロールの善し悪しを示すもので、
()にあるように、コントロールが良い場合は、低い数値に保たれます。
この症例は、明らかにコントロール不良な糖尿病患者です。

さて、みなさんはこの問題を読んでどの答えを選ぶでしょうか。
おそらく、正解は「b」です。
えー、どうして?と思われる方、自分が思ったとおりだった、と納得される方、
様々な反応があると思います。
なぜ、正解が「b」かというと、その背景は次のように考えられます。

まず、医師たる者、患者を突き放しネガティブな事を言ってはいけない、
という姿勢が求められる、という前提があります。
それとともに、患者の困っている事を把握して、
それを解決してゆくことによって、減量を達成させることが重要である、
という強いメッセージが受け取れます。
こんな解説をしていると、私自身、なんて優等生的な解答をしているのか、
悦に入ってしまいそうです。

でも、現実は本当にそうなのでしょうか。
患者の弱点を把握して指摘すれば、その人は減量に成功するのでしょうか。

この国試問題を見たとき、特定健診が頭に浮かびました。
特定健診とは、いわゆる、メタボ検診のことです。
具体的には、40歳~74歳までの公的医療保険加入者全員を対象に、
腹囲の測定及びBMIを計算し、
基準値(腹囲:男性85cm、女性90cm / BMI:25)以上の人は
さらに血糖、脂質(中性脂肪及びHDLコレステロール)、血圧、
喫煙習慣の有無から危険度によりクラス分けします。
そして、クラスに合った保健指導(積極的支援/動機付け支援)
を受けるというものです。


みなさん、ご自分の事として考えてみてください。
腹囲が多少大き目だから、コレステロール値が高いと言われて、
そんなに簡単に食生活を立て直し、規則正しい生活をするでしょうか。
たかが、検診医の一言だけで減量が成功するのだったら、
なぜ、ダイエット特集がこれ程「うける」のか、不思議でなりません。
たいていのメディアは、ネタが無くなったら「ダイエット特集」を組みます。
何度くりかえされても大人気の「ダイエットに関する話題」が続くことは、
それだけ減量できない人が多いことを示している、とも言えます。
また、指導をする医師自身がメタボ体型だったりすると、
その口からでる「ご指導の言葉」自体が、胡散臭さを醸し出すことだってあります。

このように、人の習慣をかえることはそんなに簡単なことではありません。



また、この検診は、メタボリック・シンドロームなるものが、
生活習慣病の大きな原因のひとつであって、
この症候群をコントロールすることで、医療費削減が見込まれる、
という前提にたっています。
しかしながら、この前提は推論であって、
メタボ検診が医療費を削減するなどという科学的根拠ははっきりしません。



国試問題の答えをもう一度みてみましょう。
答えは「b」だろうと書きましたし、おそらくそれが正解です。
しかし、現実の世界では、aからeまで、どれも有り得る解答です。
おそらく、この問題は、臨床現場をよほどわかっていないか、
あるいは、メタボ対策を推奨し、
厚生労働省のお褒めをいただきたい人が作ったのではないか、と思います。

私自身、この陳腐な問題をみて、現実の厚生行政も、
現実とはかけ離れた、机上の空論で作成されている事実がダブって、
笑うに笑えない気持ちになりました。

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