2010年8月31日

HPVワクチン騒動 vol.4 -政治とマスコミ主導でのワクチン導入についての疑問-

http://healthpolicyandreform.nejm.org/?p=11935&query=home
HPV Vaccination Mandates — Lawmaking amid Political and Scientific


2010年8月18日発行のThe New England Journal of Medicineで、
米国におけるHPVワクチン義務接種に関する記事があります。

アメリカでは、2006年に認可された4価のワクチンを、
11~12歳女児に打つことを勧めています。
接種する人が増えるためには、
学校での義務化が一番手っ取り早いのですが、
義務化は良いのでしょうか。問題は無いのでしょうか。

2010年2月の時点では、
小学校から中学へ入学する時点で全員接種を掲げているのは
バージニア州とワシントンD.C.の2つだけです。
バージニア州では、HPVワクチン接種を希望しなければ
辞退することができます(opt-outといいます)。
国としてワクチンを推奨しているのに、
その義務接種をしていない州が多いのか、
という原因を調べたのがこの論文の主旨です。

2008年8月から2009年9月の間に、
カリフォルニア、インディアナ、ニューハンプシャー、
ニューヨーク、テキサス、バージニア州の関係者73人について
45-60分面接するという調査がされました。
その結果としていくつかの原因が浮き上がってきたのです。

第1に、HPVワクチンはが新しいワクチンであり、
全員に打つことを義務化する前に、もっと時間をかけたデータをとり、
安全性を確立する必要がある。
また、市民もHPVワクチンの内容や効果、必要性などについて
理解していない点が多く、もう少し丁寧な説明をするべき、
といった指摘です。

第2に、性感染症としてのHPVの位置づけです。
HPVワクチンが義務化となれば、HPV感染がどうして起こるのか、
ワクチンを何故うつのか、といった問題を
保護者が理解する必要があります。
これと同時に子供達への説明、話し合いもしなければなりません。
しかし、11~12歳というのは、
性行為に関して話を受け入れられるかどうか、という微妙な年齢です。
また、そうした話をするのは早いと考える親もいるでしょう。
HPV感染が性行為による感染症である限り、
センシティヴな問題をはらみ、いきなり中学出るまでに必須!
などという議論は如何なものか、という問題点があります。

HPVワクチンが義務化されれば、
sex=感染症という考えがインプットされ、
所謂純血主義(性行為自体に対する極度な恐れ)が
はびこる可能性もありますし、
逆に、ワクチンさえ打っていれば、コンドームを付けなくても
性感染症にうつらない、という無防備さも生むことにもなります。


第3に、製薬会社の関与です。
アメリカではHPVワクチンを製造している会社が、
ワクチン政策に介入している問題が指摘されています。
具体的には、全員接種できるような法案を通すべく、
政治家に対して製薬会社が働きかける、ということです。
こうした動きにはお金も絡んできますから、
国民とすれば不快感を持つのは当然のことです。

第4に、経済負担の問題があります。
アメリカで、HPVワクチンを3回うつと320ドルと、
他のワクチンよりかなり高いです。
日本の場合、この高額なワクチンを公費助成にすることを謳っていますが、
一体、費用対効果分析はきちんとためされているのかと疑問を持ちます。

今回アメリカで使用されるワクチンは、
HPV6・11・16・18という4価のワクチンです。
欧米では16と18型が多いのですが、
欧米型ワクチンが日本人にとってどれだけ有効か、
という包括的なデータはまだ出ていません。
HPVワクチン騒動 vol.1  参照

我が国のワクチン行政が他の先進諸国に比べて
大きく立ち後れていることは、
前にも書いたとおりですが(日本と欧米諸国のワクチンギャップ 参照)、
その導入が、声の大きい人や利害関係のあるなしで決まってはならないと思います。
欧米でも、政治家を巻き込んだ動きがあることは、
正にこの論文が示しているところです。
しかし、あまりに政治的な動きになりすぎると、
学術分野からの牽制が入るのが通常です。
それがこの論文の意図でもあります。

ワクチン導入に関しては、有効性や費用対効果、
社会的重要性など多方面からの議論が必要です。
そのためには、基となるデータが必要であり、
議論する専門家が必要です。
日本には、専門家集団がいないことが大きな問題です。
それは、必要なデータをとるための疫学調査を行うときに、
国は本当の専門家である人でなく、
自分たちの意に叶う人たち、すなわち御用学者に研究費を与えるからです。
これでは優秀な頭脳は海外に流出してしまいます。

ワクチンは公衆衛生学的ツールの代表です。
ワクチン行政が脆弱なのは、
その国の公衆衛生行政がうまくいっていないことを示しています。
感情論や、扇動的な動きでなく、科学的根拠を基に
ワクチン導入は行うべきだ、ということを繰り返し申し上げたいと思います。


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2010年8月25日

HPVワクチン騒動 vol.3 -科学的根拠を基にワクチン導入は行うべき-

子宮頸がん対策実現を求め超党派集会、議員連盟結成へ松氏が代表呼び掛け人
 ワクチンへの国費助成など、子宮頸(けい)がん予防対策の実現に向けた超党派国会議員の緊急集会が6日、国会内で開かれた。公明党の松あきら副代表(参院神奈川選挙区)を代表呼び掛け人に開催。与野党から約40人が参加し、議員連盟を結成する方針を確認した。

 次の臨時国会での予防法成立を目指す。出席したのは民主党の桜井充政調会長代理、自民党の松本純副幹事長(衆院比例南関東)、みんなの党の川田龍平政調会長代理ら。松氏は「生命にかかわる問題であり、党派を超えて取り組みたい」と呼び掛け。桜井氏は「子ども手当見直しにつながる最適な現物支給政策」などと推進を表明した。

 また、闘病体験を持ち選挙戦で同がん対策充実を訴えてきた三原じゅん子氏(参院全国比例、同党川崎市連所属)は「この病気から若い世代をはじめとしたすべての女性を救いたい。それこそが真の少子化対策だ」と決意を表明した。

 集会では自治医大の鈴木光明教授、日本医師会の今村定臣常任理事が予防対策のポイントなどを解説。闘病体験を語りつつ予防啓発運を進めている女優・仁科亜季子氏が寄せたビデオメッセージも披露された。

2010年8月6日 カナコロ



今までいくつかHPVワクチンについての記事を書きましたが、
HPVワクチンの流れがおかしな方向に進んでいるのではないか、
と危惧しています。
それは政府でその有効性と優先順位を議論せず、
一部のマスコミや政治家などによるお祭り騒ぎによって、
ワクチン公費助成が叫ばれているからです。
厚生労働省ではHPVワクチン公費助成のため150億円予算請求します。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100817/plc1008170928006-n1.htm



HPV(Human Papilloma virus)は子宮頸がんの患者には100%存在します。
HPV感染を予防するのがHPVワクチンです。
しかし、子宮頸がんの原因は複数存在します。
単独で影響があるといわれている原因(危険因子)はたばこである、
という報告があります。
その他にも人種差、遺伝、食生活など様々な原因があるのです。
HPVはその中のひとつであり、HPV感染を抑えたからと言って、
子宮頸がんの死亡率が低くなるかは未だ明らかになっていません。
同タイトルvol.1参照

この理由から、私は子宮頸がん(予防)ワクチン
というのは誤った呼び方であると思います。
本来はヒトパピロマウイルス(HPV)感染予防ワクチンと呼ぶべきでしょう。
私はHPV感染予防に関して積極的に反対してはいません。
むしろ、どれだけインパクトがあるかは別として、
性交渉を経験していない女性に対しては接種を進めても良いと考えています。

問題はその進め方です。ワクチンには必ず副反応があります。
稀ですが重篤な副反応では命をおとすこともあります。
そうしたリスクをおかしても、国民や世界人口という集団を、
病気から救うという、公衆衛生の代表的ツールです。

日本はワクチン対策において、先進諸外国から大きく立ち後れています。
これは我が国の公衆衛生インフラが脆弱であることを
如実に示しています。
遅れているものは進めなければなりません。
海外では接種されているのにもかかわらず、
日本では導入の目処すら立っていないワクチンは数多くあります。
その導入についてある特定のワクチンを、
科学的検証無しに優先させる事はおかしいのではないでしょうか。

例えば、細菌性髄膜炎菌(Hib)ワクチン、
IPV(ポリオ不活化ワクチン)、
肺炎球菌ワクチン、
HBV(B型肝炎ワクチン)など、
疾患に対する予防効果が認められ、
世界の多くの国々で使われながら日本では使われておらず、
導入にむけて早急に議論する必要があるものです。

病気のインパクトを子宮頸がんとその他の病気と比べてみましょう。
細菌性髄膜炎に罹ると、後遺症を残す例が10~20%、死亡率が2~3%です。
5歳未満の発症が多く、この年代に限れば、
700人の患児の中で、15~20人が死亡することになります。

B型肝炎は日本に100万人以上の感染者がいると言われます。
感染者の10%程度が慢性肝炎になり、
慢性肝炎から肝細胞がんなどを発症して死亡する例が0.4%程度です。
細菌性髄膜炎にしてもB型肝炎にしても、幼児期のワクチン接種が有効です。

これに対して子宮頸がんはどうでしょうか。
性交開始後に約60%がHPV感染し、90%は自然治癒(消失)します。
残りの10%のうちの一部が、20年くらいかけて
扁平上皮(子宮頸)がんになります。
最終的に子宮頸がんになるのはHPV感染した女性の
0.1%程度と報告されています。

この数字を見る限り、
HPVワクチンがHibワクチンやHBVより先行して導入される理由は
見つかりません。

また、がんの一つの種類に特化して法律を作り
政策が決定されていくというプロセスもおかしなものです。
他のがんに対してはどうして同じように扱わないのでしょうか。
HPVワクチン導入に関する一連の流れをみる限り、
予防接種、がん対策といった、国の公衆衛生に対する
認識の欠如による結果ではないでしょうか。

有効なワクチンによって最も利益を得るのは子供達です。
政府は「Children first」を謳っているのですから、
次世代にとって最も恩恵を受ける政策決定をしていただきたいものです。
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