2010年6月25日

事業仕分けが必要なのは国会議員の数

蓮舫氏、事業仕分け第3弾は特別会計

 民主党の枝野幸男幹事長と玄葉光一郎政策調査会長、蓮舫行政刷新担当相は23日、党本部で記者会見し、10月中旬から政府の行政刷新会議の事業仕分けの第3弾を、特別会計を対象に行うことを明らかにした。
 菅直人首相が参院選の公約として、消費税増税を打ち出しており、行政の無駄遣いの削減や財源捻出(ねんしゅつ)にも取り組む姿勢をアピールするねらいがありそうだ。
 蓮舫氏は「特会が既得権益になっている。(制度と)目的が一致しているかどうかも含めて制度の仕分けを行う。18会計51事業のすべてをゼロベースで見直したい」と語った。
 特別会計は、国が公共事業や社会保険などの分野で、特定の事業を実施するため一般会計と区別した会計。平成22年度の総額は約180兆円にのぼる。
 蓮舫氏は平成23年度予算の概算要求で、過去に行った仕分けの指摘が反映されていない事業について、「再仕分け」を実施することも表明した。

産経新聞6月23日18時20分配信



参議院選も公示され、選挙活動も本格化しています。
各党が選挙公約を掲げる中、
事業仕分け第3弾の目標設定もされています。
事業仕分けは、今まで闇の中で行われてきた予算配分決定を、
国民に見える形にした、
という意味で非常に画期的だと思います。
 
3回目は特別会計がターゲットとなっていますが、
もっと優先順位が高い仕分け対象があります。
それは国会議員の数です。
先日、舛添氏が「国会議員数を半減すべき」
といった趣旨の発言をしていますが、
果たして半数削減は妥当な数でしょうか。
私はそれでも多いと思います。

米国を例にとって見てみましょう。
アメリカの上下院合わせた議員数は535です。
では日本はというと722です。
アメリカの人口は日本の約3倍、国土の広さは約20倍です。
この数字から見れば、日本の国会議員数は
現在の3分の1以下で十分だ、ということになります。

議員の数を減らすと、民意を十分に拾いにくい、
そのため国民無視の政策決定が行われる危険性がある、
という意見もあります。
しかし、ここで言う民意とは何でしょうか。
何処どこに橋をかけて欲しい、道路をつくってほしい、
という要望でしょうか。
あるいは一部の営利団体に便宜を図るといったものでしょうか。

殆どの国民は汗水たらして働き、
国会議員に陳情に行く時間もないのです。
ですから、国会議員数が多いから本当に国民の声を聞けるか、
といえば大いなる疑問が残ります。
また、個々の意見を全て聞きいれるのではなく、
必要であるかどうかを選択することも求められます。
政治家とは、何が国にとって必要なのかという大所高所に立って、
物事を決める人たちなのですから。

日本の国会議員の給与は世界でもトップレベルにあります。
約2000万円の議員歳費の他、
秘書給与、政党助成金、事務方費用、交通費などを合わせると、
国会議員全てにかかる費用は約800~1000億円と言われています。
これが毎年必要であれば、10年で8000億円から1兆円になります。

数が多すぎるもう一つの弊害は、
意見がなかなかまとまらないという事です。
大勢でやっても少数であっても、
答えは法案可決か否決の2通りしかないのですから、
「会議は踊る」状態であっては、必要な法案もなかなか成立せず、
国民生活に影響が出ることもあります。
それなら少数精鋭の方が良いのは一目瞭然です。

ギリシャ経済破たんの原因は、
国家公務員天国による国の経営破たんです。
日本の国会議員は政治家とは言っても、
国家公務員(特別国家公務員)です。
日本の経済の将来は決して楽観できるものではありません。
日本を第2のギリシャにしないためにも、
国会議員数を3分の1に減らすことを、
事業仕分けの最優先課題にすべきであり、
消費税アップなどより、こちらこそ、切り込むべき案件ではないでしょうか。

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マリーゴールドが存在感見せます。花はすでに夏本番です。


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2010年6月22日

「乳がん検診、TBSに医師らが中止要望」はどんな意味があるか

番組きっかけの乳がん検診 TBSに医師らが中止要望

乳がんのため24歳で亡くなった女性を取材した番組「余命1カ月の花嫁」をきっかけに、TBSが展開している20~30代女性を対象にした乳がん検診を中止するよう求める要望書を、医師や患者ら38人が9日、同社に提出した。20~30代への乳がん検診の有効性に科学的根拠はなく、不必要な検査につながるなど不利益が大きいと指摘している。

 要望書を提出したのは、中村清吾・昭和大教授や上野直人・米MDアンダーソンがんセンター教授ら、乳がん治療の第一線で活躍する医師のほか、がん経験者、患者支援団体のメンバーら。

 「科学的根拠のない検診を、正しい情報を発信すべきテレビ局が行うことは倫理的に問題が大きい」として、検診の中止を含め活動の見直しを求めた。また検診を20~30代女性に限定している理由などを問う公開質問状も内容証明郵便で送った。

 国は指針で、乳がん検診は40歳以上を対象に、マンモグラフィー(乳房X線撮影)検査と、医師が胸の状態を診る視触診の併用を推奨している。要望書は、20~30代女性への検診は、放射線被曝(ひばく)やストレスを増やし、がんを見逃す場合もあると指摘。メディアの役割は、異常を感じたら医療機関へ行くべきと呼びかけることだとした。

 TBSは2008年から検診を実施。これまでに約7千人がマンモ検診を受けた。今年も、15日から舞台で上演されるのと連動し、東京や大阪などでエコー(超音波)検診を実施している。(岡崎明子)

     ◇

 TBSのコメント 要望書で指摘されている点は、現在の医学界の基準的な考え方で、反論するところはない。ただ、40歳未満の乳がん罹患(りかん)者は年々増えており、あくまでも自己責任・自己負担で検査を受けることは意味があると考えている。 asahi.com 2010年6月10日



TBS「余命1ヶ月の花嫁・乳がん検診キャラバン」の
内容見直しを求める要望書提出について
http://www.cancernet.jp/kenshin/index.html


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乳がんのスクリーニング検査を行ったとき、
検査を行わなかった場合と比較して
どの程度、効果があるか、と言うことについては
以前の記事にも書いたとおりです。
(「乳がんスクリーニングは効果があるか」vol.1 vol.2

この場合の効果と言うのは、
スクリーニングを受けることによって、
どれだけ命が助かるかどうか、を言います。

これを調べるには、スクリーニングを受けた群と受けない群を、
将来に向かって追跡調査し、
2つのグループの乳がんによる死亡率の違いを
比較することが必要です。

アメリカでは大規模な追跡調査が行われ、
現在出された結論は「スクリーニングによって、
乳がん死亡が低下したとする明らかな根拠無し」ということです。

今回医師らが、テレビ局に対して
要望書を出したのはこの研究結果によるものです。

スクリーニングは税金で行われます。
ですから効果のないスクリーニング検査は無駄です。

それだけでなく、病気でないのに、
病気だと誤って診断される確率(擬陽性率)も
検討されなければなりません。

今回の研究結果では、10年受け続けると約半数の人が、
どこかで間違って「あなたはがんの疑いがあります」と
言われる可能性があると言われています。
最終的に間違いであっても、精神的なストレスは大きいですよね。

がんの発生には様々な要因があります。
年齢、人種差、生活習慣の違い、などなど、
分かっていないものも多くあると言われています。

今回の報道でもっとも重要なのは、
科学的根拠に基づかない報道がされたというだけでないと思います。
日本では、アメリカが行ったような大きな調査(疫学研究調査)が、
殆どなされていないという大きな欠点があります。
例えば肺がん検診は、日本で広く行われていますが、
主要先進国では「有効でない」として行われていない代表例です。
しかし、日本で大規模な追跡調査がなされたという話はききません。

前にも書いたとおり、
がんには人種差や食生活などの生活様式が
大きく影響していることが分かっています。
アメリカ人での結果が即日本人に当てはまるか、
といえばそうではありません。

がんは放っておけば命を落とす病気です。
しかし、有効でないスクリーニングをしても、
無駄なだけでなく、いらぬ副産物ももたらします。

今回の報道をきっかけに、
政府はスクリーニング検査に関する大規模調査が出来る予算と、
インフラを整える事が必要でしょう。

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2010年6月15日

HIVスクリーニングは医療従事者の感染を防げる?

患者負担でHIV検査 院内感染防止で聖隷横浜病院

 横浜市保土ケ谷区の聖隷横浜病院(300床)が、院内感染予防を目的に、エイズウイルス(HIV)の感染の有無を調べる検査を入院患者のおおむね全員に患者の自己負担で実施していたことが10日、分かった。厚生労働省の「一律的な検査は不適切」との指摘を受け、該当者約五千人に検査費を返金する。

 同病院によると、HIV検査は未成年者を含む入院患者のおおむね全員に同意を得た上で実施した。治療目的ではないため、検査費約1300円は保険適用外となり、全額を患者の自己負担としていた。該当する患者数は、3年間で少なくとも約五千人に上るという。

 厚労省関東信越厚生局神奈川事務所が今年1月に行った調査で「半強制的になっている可能性がある」と指摘。自主返金と事実の公表を促した。

 病院側は「医療従事者への感染予防に成果があった。同意を得ていたが、検査費は病院で負担すべきだった」と指摘を認めているが、これまで事実関係を公表していなかった。公表が遅れている理由については「該当する患者数の調査に時間がかかった」と説明している。

MSN産経ニュース 2010.6.10



今回はHIVスクリーニング検査の記事について
考えてみたいと思います。
HIVはHuman Immunodeficiency Virusで
AIDS(Acquired Immuno Deficiency Syndrome)を
引き起こすウイルスです。

日本のHIV感染者は1万7千人以上いると
考えられていますが、
新しく感染する人は2006年度で、約1500件です。
http://www.yaaic.gr.jp/yaaic/centerinfo/808.html

これは、世界的に見ると多い数字ではありません。
しかし、日本は主要先進国の中で、
HIV感染者ならびにAIDS(AIDSとはHIV感染して、
白血球の1つであるTリンパ球が減り、
カポジ肉腫、カリニ肺炎、結核などの病気を併発した時に
付けられる診断名です)の新しい患者の数が、
主要先進国の中で増加している国だという事を
ご存じでしょうか。

この状況を考えると、HIV感染については
国が積極的に対策をとってゆかなければならない病気の一つ
だということがわかります。

 

今日の記事の内容は、
病院がHIVの院内感染を予防するために、
患者の同意を得て自費でHIVスクリーニングを検査させた、
というものです。

ここには2つの問題があります。
第1に、HIVのスクリーニングは
「職員への感染予防として必要なのか」どうか。
第2に、この検査は「自費ではなく健康保険で支払われるべきなのか」
ということです。


まず、病院内でのHIV感染についてですが、
HIVの院内感染は極めて少ない、
言い換えれば、とても稀だということです。
これに関してはAIDS/TB Committee of the Society for Healthcare Epidemiology of America が
ガイドラインの中で説明しています。
http://www.journals.uchicago.edu/doi/pdf/10.1086/650298  

また、HIVスクリーニング検査は「早期診断」のため、
というのが国際的な理解であり、
「医療従事者の感染予防になる」
という名目でスクリーニング検査をしているのは、
日本意外にお目にかかったことがありません。


そしてお金の問題ですが、
全例スクリーニングには莫大な費用がかかりますから、
疫学的にみて意味があるかどうか
(費用対効果分析も含めて)という議論が必要です。
議論するためには当然元となるデータが必要です。

米国CDCは、医療機関で受診する患者のうち、
疫学的にスクリーニングに意味があるのは、
13-64歳であることを2006年の勧告で付け加えました。
この年代ではスクリーニングにより
HIVを早期発見して治療をすることが有効であると
疫学的データをもとに、判断したのです。
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5514a1.htm


しかし、このスクリーニング検査も、
あくまでも「早期診断」のためであって、
医療従事者の院内感染予防、ではありません。
いったい院内感染予防の概念がどこからわいて出たか不思議です。

日本の献血者でのHIV陽性者数は、
1年間で、10万人あたり2人(0.002%)ですから、
無症状の人に、病院に来たから検査を受けましょう!
といっても費用と効果のバランス(費用対効果)が
とても悪いことが分かります。
ですから、これをすべて健康保険でまかなうのは
無理があります。

輸血前後の検査は
HIV感染症被害を救済するために
厚労省が積極的に勧めています。
最近アメリカでは救急外来や入院時の受診者に
スクリーニング検査が開始されました。
日本では手術前医学管理料に含まれています。


こうして見ると、HIVスクリーニングを
「医療従事者の感染予防」としてルチンとすることには
問題があると言えます。


しかし、もっと大きな問題は、
何故このような事例が持ち上がったか、
という背景にあります。
HIVに限らずスクリーニング検査を
1.何の目的で
2.どんな疫学結果に基づいて
3.どれくらいの予算を投入するのか
という明確な説明付けが必要です。
これが、すなわち国の対策方針になります。
ですから、HIVスクリーニングは
各病院が自由に方針を決めて行うものでなく、
国の方針のもとに行うべきものです。


ところが、HIVスクリーニング検査は、
各病院ごとの考えで行われている、というのが現状です。

なぜこのような状況になるのでしょうか。
それは、日本におけるHIV対策全般が、
何の目的で、どんなデータに基づいて、何を行うか、
という最も大切な部分が抜け落ちているからなのです。
公衆衛生という概念が
この国に根付いていないということ示す、典型例です。

もし、「医療従事者の感染予防のために、
患者のスクリーニングが有効」というのであれば、
疫学研究でこの有効性を立証させることを
先ずやらなければなりません。


公衆衛生とは患者個人の健康問題ではなく、
国家国民というマスを対象にします。
今までこのブログでも、ワクチンやスクリーニングの有効性など、
公衆衛生対策の代表例について論じてきましたが、
今回のHIVスクリーニングも同様の問題に突き当たります。

ワクチンやスクリーニングは手間も費用もかかります。
すべては税金からねん出されます。
貴重な税金が正しく使われているかを監視するためにも、
厚労省だけでなく、私たち一人一人が、
公衆衛生の知識をもって物事をみることが大切ですね。

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夏の花、芍薬があでやかです。


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2010年6月13日

口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.6

清浄国(FMD free)のお墨付きは意味があるのか。

国際的に、FMD freeであることが
貿易の面で重要とされていますが、
今回はFMD Freeとはどういうことか、
果たしてそれ自体、達成可能なものなのか、
という事について書いてみます。

現在の清浄国の定義は、OIE(国際獣疫事務局)の定義に基づき、
我が国では農林水産省が規定しています。(http://www.maff.go.jp/j/syouan/kijun/wto-sps/oie6.html
http://www.maff.go.jp/j/syouan/kijun/wto-sps/oie/pdf/rm5fmd.pdf
これを見る限り、
ある一定期間FMDの発生が抑えられているというのが
「清浄国」という条件のようです。

しかしながら、本当にdisease freeというのであれば、
この世界からFMDウイルスがなくなる事が必要です。
これは根絶(eradication)といい、
制圧(control)とは明確に分けられている概念です。

それでは、ウイルスを根絶するためには
どうしたらよいでしょうか。
ウイルスに特効薬はありませんから、
治療薬で退治することは不可能です。
となれば、感染経路を遮断する以外にはありません。

感染経路を潰すには2つの条件があります。
第1に感染経路が明らかであり、
物理的に遮断できること。
第2に有効な予防手段が存在することです。


この条件を満たし、
実際に地球上から根絶されたウイルス感染症は天然痘です。
ヒトの天然痘ウイルスは
感染したヒトの口や鼻から排出されるウイルス、
あるいは水疱が破れてかさぶたになった部分から
まき散らされるウイルスを吸い込むことによってうつります。

天然痘には、ほぼ100%効果的な予防方法である、
天然痘ワクチンがあります。
このため、天然痘患者を隔離し、
患者の周りにいる人20人にワクチンを打つことによって、
1980年、天然痘患者はこの地球上から消えました。
ポリオも感染経路が分かり、まだ根絶には至っていませんが、
WHOの取り組み方が間違っていない限り
近い将来根絶しうるウイルス感染症です。

それではFMDはどうでしょうか。
感染経路は明らかになっている中でも、多岐にわたります。
同種の動物間だけでなく、
他の動物、昆虫、水、風などです。
動物には人間も含まれますから、
これらの感染経路を全て遮断するためには
人間までも殺しつくさなければなりません。
たとえそうしたとしても、
水や空気の流れを遮断することは不可能です。
また、予防法についても、
ワクチンを含む有効な手立てはありません。


こうなると、FMDウイルスを
地球上から根絶することは無理だ
と言うことがわかります。
根絶できない以上、一度流行が収まっても、
必ずまたやってきます。
そのようなウイルスに対して、
「FMD free」という概念は当てはまらないのです。

ここでもう一度、FMDがどういう病気か振り返ってみましょう。
蹄が2つに割れている動物を襲う感染力の強い病気だが、
多くの動物は治癒します。
ヒトにうつることはなく、感染した肉を食べても問題ありません。
流行が収まっても、
またちょくちょくやってくる感染症であり、
super killerでもないウイルスに対して、
清浄国のお墨付きを与えること自体、
理にかなったことではありません。


科学的根拠に基づかない、
清浄国(FMD free)という概念は不適当だ、
と声を上げるのは「和牛」という希有なブランドを生産する、
我が国こそが先頭に立ってするべきことではないのでしょうか。


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2010年6月11日

口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.5

止まらぬ感染拡大、10年前の成功で油断

 宮崎県で口蹄疫(こうていえき)の感染拡大が止まらない。10日には日本トップクラスの畜産基地、都城市で感染が確認されたほか、日向市や宮崎市でも新たな感染の疑いが浮上した。戦後最大の家畜被害を生んだ背景には何があるのか。

 畜舎の床一面に剥(は)がれた豚の爪が無数に散らばっていた。蹄(ひづめ)を傷めた親豚が何度も立とうとしては崩れ、横には息絶えた子豚たちが折り重なっている。

 「こんな状態で生かしておいてもつらいだけ。いっそ早く殺してやりたいが、埋める場所もなく身動きがとれない」。宮崎県川南(かわみなみ)町で30年以上養豚業を営む男性(52)は涙ぐんだ。

 止まらない被害を前に、男性は「これほど広がるなんて。これは人災ではないのか」と憤った。



 「これじゃ無理だ。感染は防げない」

 同県都農町で感染第1例が発表された4月20日。都農町から川南町、宮崎市と県東部を縦断する国道10号を眺めながら、宮崎市の畜産業、尾崎宗春さん(50)は焦った。消毒ポイントは設けられているものの、消毒するのは畜産農家の車ばかり。一般車両は素通りしていた。尾崎さんの危惧(きぐ)通り、感染はその後、10号沿線に広がっていく。

 10年前の2000年3月、宮崎県は国内では92年ぶりとなる口蹄疫に見舞われた。この時は封じ込めに成功し、殺処分は3農家35頭にとどまっている。尾崎さんは「当時の方が対応が迅速で徹底していたような気がする」と振り返る。

 発生初日に設置した通行車両の消毒ポイントは、10年前は13か所だったが、今回は4か所。前回は、家畜の移動制限区域を20キロ圏内、搬出制限区域を50キロ圏に設定したが、今回はそれぞれ10キロ圏内、20キロ圏と大幅に縮小した。

 危機意識の薄さも目立った。感染が分かった4月下旬には、感染の飛び火を恐れ、県内外では様々なイベントの自粛が始まった。こうした動きに、県の渡辺亮一商工観光労働部長は4月28日の対策本部会議の席上、「ちょっと過剰な反応なのかな、とも思います」と語っていた。県が非常事態宣言で県民に活動の自粛を求めるのは、それから3週間も後のことだ。



 蔓延(まんえん)の背景には、埋却地や人手不足による処理の遅れもある。

 赤松前農相は6月1日の記者会見で、「(県に要請して)今週中には、感染した牛や豚の殺処分を終えたい」と、早期処理を明言した。ところが実際には、川南町周辺などで感染したとされて殺処分対象になった約19万頭のうち、殺処分も埋却もされていない家畜は6月9日時点で3万1820頭も残っている。

 このうち約1万7000頭は豚だ。豚はウイルスを体内で増殖させやすく、牛の100~1000倍も拡散させやすいとされており、「いわばウイルスの火薬庫を放置している状態」(農水省幹部)だ。蔓延の原因について、農水省や県は「今回のウイルスの感染力が10年前に比べて格段に強かったこと」と説明する。だが、口蹄疫問題の対策などを決めてきた同省の牛豚等疾病小委員会の委員は明かした。「甘かった。10年前はうまくいったという自信が、失敗の始まりだった」(東京社会部 十時武士、畑武尊、西部社会部 本部洋介) 最終更新:6月11日3時5分

読売オンライン




FMD(口蹄疫)が広がりを見せています。
今までFMDに関しては4つのブログ
口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.1~vol.4-
を書いてきましたが、
今一度FMDとはどういう病気かをまとめてみたいと思います。

1.蹄が2つに割れている動物に罹る、感染力(他にうつす力)が強い感染症
2.牛の成体の場合、死に至ることは殆ど無く、通常動物は2週間程度で回復する(豚は牛よりも致死率高い)
3.罹った動物の他、carrierと呼ばれる生物や風等、不特定多数によって伝搬されるため封じ込め不可能
4.人にうつったという報告はない
5.感染した動物を食べても人には影響ない
6.治療法はない
7.ワクチンは100%の効果無し

感染経路は多岐にわたるため、
「封じ込めは不可能」ですから、
ニュースにある「これじゃ無理だ。感染は防げない」は
当然のことなのです。
どれくらい広がるかはウイルスに聞いてみないと分かりませんし、
10年前のウイルスと今回のFMDウイルスは全く同一ではありませんから、
広がり方も違ってくるのは致し方ないことです。

しかし、広がったからといって、
多くの動物は回復し、
感染した肉を食べたところで人には影響ないのです。
これは農水省のHPにも書かれています。


2001年にイギリスでFMD大流行が起こりました。
その際のBBCニュースには多くの人の意見が挙げられています
パニックを起こした英国政府とは裏腹に、
多くの視聴者の声は、的を得ています。

「人にうつらないし、食べても安全。
殆どの動物は病気から回復すると言うのに、
なぜ殺す必要があるのか」

「1940年代まではFMDにかかっても治るまで放置してきた。
それが殺処分するという政策転換をし、
他のヨーロッパ諸国も同様の政策をとるよう説き伏せた」

「感染源はたくさんある。
全ての家畜を殺し、トリや昆虫を殺し、
はたまた人間をも殺すまで殺し続けるのか」

「埋められずに放置された家畜の肉をカラスなどがついばみ、
感染を広げているではないか」

「経済損失の大きさを考えているのか」

ケニアの獣医師のコメントは冷静です。
「ケニアではFMDはごくありふれた病気だ。
イギリスの対応は大げさすぎる」


今、日本のニュースで流れてくるのは
「なぜ防げなかったのか」「人災だ」といったものばかりです。
しかし9年前に多くの議論がされているのですから、
なぜ日本のメディアはこうした番組を作ってゆかないのか不思議です。

メディアだけでなく、
研究者からも多量殺処分に関する否定的な報告も出ていますが、 ※1)※2)
日本では殺処分が有効、と言ったものばかりですから、
違和感があります。

イギリスでの多量殺処分の結果、
経済損失は1兆6千億円程度と言われています。
日本の牛は国際的ブランドですから、
被害の程度はこれ以上になる可能性もあります。

 
今回流行しているのは突然変異を起こして、
人間にも感染するsuper killer ウイルスではありません。
そうであれば、多くの経済損失とともに農家の負担、
獣医師や担当者の疲弊を生み、
文化的価値も大きい種牛を失いながらも、
効果があるかどうか分からない多量殺処分をする意味は
全くないと思います。

動物の感染症として恐れられる感染症として
H5N1トリインフルエンザがあります。
このウイルスはヒトにも感染すると言うことで、
WHOが最も恐れている病気の一つです。
現在499人の症例がありうち295人が亡くなっています
(致死率約60%ですからこちらはsuper killer ウイルスといえます)。

繰り返しますが、FMD流行の歴史の中で、
ヒトが罹って死んだという確定例はありません。

今のままゆけば、H1N1豚インフルエンザに続く
「政府が生んだパニック=人災」になってしまいます。
今日本がすることは、殺処分をやめ、
世界に向けて「不必要な殺処分対策をやめる」よう訴えることでしょう。



=参考文献=
※1)
Thrusfield M, Mansley L, Dunlop P, et al
The foot-and-mouth disease epidemic in Dumfries and Galloway, 2001. 2: Serosurveillance, and efficiency and effectiveness of control procedures after the national ban on animal movements.
Vet Rec,156(9):269-78,2005


※2)
Honhold N, Taylor NM, Mansley LM, et al
Relationship of speed of slaughter on infected premises and intensity of culling of other premises to the rate of spread of the foot-and-mouth disease epidemic in Great Britain, 2001.
Vet Rec,155(10):287-94,2004


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2010年6月8日

政治家と官僚の関係はどうあるべき?

菅直人新総裁のもとで新しい体制が始まりました。
そこで、今回は民主党の掲げる、
「脱官僚依存」に関連して、
政治家と官僚の関係について書いてみようと思います。


官僚とは国家公務員で、
技官などの例外を除いては、
国家公務員試験に合格した人たちです。
これに対して政治家は、
国民による選挙の結果選ばれた人たちです。

官僚は公僕で、ある特定の企業ではなく、
国家国民に対しての仕事をすることが責務です。
ですから、官僚は国民の代表である
政治家のために働きます。
この関係は、官僚がPCで政治家がOSとでも
例えれば分かりやすいかもしれません。
OSがMacからWindowsに変わったのが
昨年の政権交代だ、とも言えるでしょう。


脱依存というからには、
今まで依存してきたという実態があるからです。
これは旧自民党政権の負の遺産であることは否めません。
長らく続いた政権の中で政と官のなれ合いが生じ、
結果的にPCであるべき官僚に
AI(Artificial Intelligence)を与えてしまったのですから。

政権が変わったことで、
AIを獲得した官僚との関係が
大きく変わる機会がもたらされました。
今やらなければならないことは、
政と官との関係を本来のものに戻す事です。
すなわち、官僚を政治家がきちんと使いこなすことです。

しかし、それは単に官僚を切り離す、
官僚を叩くという事ではないと思います。
勿論、現在の官僚制度は替える必要があります。
一部の高級官僚たちが、
自分たちの利権だけを求めたり、
天下りを繰り返したりする悪しき習慣は
断ち切るべきです。

そのためには、課長クラス以上の幹部と呼ばれる人は
政治任用として、
政治家が自ら任命することが必要です。
また、公務員というだけで、
どんな事をしても法に触れなければ責任が取らされないのは
全くおかしなことと言わざるを得ません。
H1N1豚インフルエンザで誤った対策をした健康局長が
何の責任も問われない、のが良い例でしょう。


そこで、幹部は公務員枠から外して、
自分の顔を出して仕事をするようにしてはどうでしょうか。
民間企業の役員を思い浮かべれば分かりやすいと思います。
もし、個人の責任を取るのが嫌な人は
幹部への昇進を諦めればよいのです。

こうした大鉈を振るうような改革は、
政治家がやらなければならないことです。
ごく一部を除けば、
多くの官僚は国民のために働きたいと思っている人たちです。
官僚は知識があります。
それ故その知識を使わない手はありません。
やる気のある若い世代を登用し、
政治家はもっと官僚との対話をすることが必要です。

国民はこうした政治家の取り組みを
しっかり見据えてゆかなければなりません。
それはPCやOSを実際に使うのは
ユーザーである国民なのですから。



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2010年6月6日

映画上映拒否から見る捕鯨問題

<米映画>「ザ・コーヴ」都内上映館ゼロに イルカ漁批判


 和歌山県太地町のイルカ漁を批判的に取り上げた米ドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」(ルイ・シホヨス監督)の上映中止問題で4日、東京と大阪の2館も中止を決め、東京都内での上映館はなくなった。2年前にドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」の上映中止が相次いだ際は、街宣活動実施後に中止が決定されたが、今回は抗議活動の予告だけで中止の動きが広がり、表現の自由の萎縮(いしゅく)を懸念する声が上がっている。

 「反日映画の上映は許せない。中止を求める」。今年3月、ザ・コーヴの配給会社「アンプラグド」(東京都目黒区)に、ある団体から電話が入った。この団体は、首相の靖国神社参拝を求める活動などをしている。電話は、米アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞した時期に重なる。

 4月になると、社長の自宅前や事務所の周辺でマイクを使った抗議活動が早朝から行われるなど、抗議活動がエスカレート。同社は抗議活動の中止を求める仮処分を東京地裁に申請し、認められた。

 ただ、最近までは東京や大阪などの全26館での上映方針に変更はなかった。中止のきっかけは、この団体がホームページで今月2日、上映を予定していた「シアターN渋谷」や同館を運営する出版取り次ぎの日本出版販売(東京都千代田区)に対する街頭宣伝や抗議活動の実施を予告したことだった。3日に中止を決めた同社は「観客や近隣への迷惑がかかる可能性があり、上映を中止した」と理由を話す。

 また、4日に中止を決めた東京の「シネマート六本木」と大阪の「シネマート心斎橋」を巡っては、両館を運営する「エスピーオー」の関連会社に対し、5日に街宣活動するとの予告があった。エ社は「関係各所に迷惑をかける可能性があるため」と中止を決めた。関係者は「自宅への抗議が中止の大きな要因になった」と明かす。

 フリージャーナリストの綿井健陽さんは「こんなに簡単に中止が決まっていいのか。『面倒な映画の上映はやめておこう』という萎縮を生みかねず影響は大きい。上映を待ち望んでいる人もいるという声を関係者に伝えることが重要だ」と指摘する。

 シホヨス監督は4日、「一部の過激な人たちが東京の映画館を脅かしていることを知り大変残念だ」とのコメントを発表した。

6月4日20時59分配信 毎日新聞




イルカ漁を描いた映画上映が
賛否両論を呼んでいます。
今回はイルカ漁問題と非常に近しい
捕鯨問題とともに考えてみたいと思います。


イルカ漁と捕鯨が何故近いかというと、
生物学的に似通った種類であることと、
我が国はイルカもクジラも採っており、
それを食用としているからです。
イルカ肉はクジラ肉と混ぜて販売されることが多いので、
捕鯨問題≒イルカ漁と置き換え得ることができます。
では、日本だけが捕鯨をしているかというと、
そうではありません。
ロシア、ノルウェー、アイスランド、カナダなど35の国があります。
一方捕鯨に反対している国は
オーストラリア、ニュージーランド、ラテンアメリカ等です。

なぜ、捕鯨やイルカ漁がこんな大きな問題になるのでしょうか?


第1に鯨やイルカは種として
絶滅の危機に立たされているのにもかかわらず、
それを採り続けるのは
自然保護の観点から違法だという意見です。
確かに、シロナガスクジラ、ヨウスコウカワイルカなどは
絶滅の危機にあり、国際的に保護されていますし、
種類も少なくなってきているのは事実です。
しかし、鯨やイルカは食物連鎖の頂点にあり、
鯨やイルカが増えすぎれば
中小の魚たちが少なくなるという大きな弊害があります。

自然界でいえば食物連鎖の頂点に立つ、
predatorは人間なのですから、
人間を保護するためには何をしても良い、
もっと言えば、バイオマスを一番必要とする
先進国の人間だけを保護するためには何でもすべきだ、
という議論と同じように思えます。


第2に鯨やイルカは他の海洋生物と比べて
知能が高いから殺してはいけない、
という主張です。
知能の問題と捕獲を一緒に論じるのは無理がありますし、
だったら知能が低い魚たちは採って食べてもいいのか?
という反論が当然出てくるところです。
むしろこの主張はホエールウォッチング等の
商業活動と関わってくる議論といえます。


第3に、鯨やイルカを食べることに対する
安全性に関する点です。
海洋でいえばプランクトンといった
一番小さなものを小さな魚が食べ、
次にもう少し、大きな魚が順々に食べ、
最後に鯨やイルカが自分たちより小さな魚を食べます。
現在の海洋汚染の問題から、
鯨やイルカは水銀などの有害物質が蓄積している分量が多いから
食べては危険だ、ということです。
これは鯨に限らず、
マグロなどの大きな魚についても同じことが言えます。
最後に食べるものほど、有害物質が濃縮してくるからです。
しかし、これは食べる量の問題です。
どんなに小さな魚でも量を食べれば有害物質は多くなります。


私は、鯨やイルカを採って食べるのは
その国の食文化の違いによるものだと思います。
例えば、オーストラリア等ではカンガルーを食べます。
しかし私たちにとってカンガルーを食べることは
馴染みのないことであり、
「食べたら可哀そう」という声も聞こえてきそうです。

 
実際、現在捕鯨に反対している国々も、
18~19世紀にかけては捕鯨を行っていました。
それは鯨から油を採るためです。
しかし油田ができて必要なくなったから、
鯨を採る国を非難するというのは
何ともしっくりこない話です。


捕鯨やイルカ漁が動物保護の立場から許されない
と言うのであれば、
人間は全ての動物を食べるのを
やめなければならないでしょう。
植物でさえ、食べられる際に「痛い!」
というという人もいるくらいですから、
そうなってくると人間は何も食べてはいけないことになります。


映画の上映を禁止するのではなく、
日本の捕鯨やイルカ漁に対して批判をする国々に対しては、
文化の違いであることをきちんと政府として伝えることが必要です。
外交とは海外からの意見を鵜呑みにすることではなく、
バランス感覚をもって
対等の主義主張をすることも必要なのですから。


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