2011年10月9日

国はIPV(ポリオ不活化ワクチン)輸入を早急にすべき!

中国でポリオの症例が、27年ぶりに発生しました。
中国情報筋によれば、
9月28日現在、10人の確定例が報告されているとのことです。

http://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2011/10051613.html

ポリオには有効なワクチンがあります。
予防効果が100%近いワクチンがある病気は、
ワクチンを世界中の子供達に打つことによって、
その病気を地球上からなくす(根絶)ことが可能です。
ポリオはその代表例と言えるでしょう。

今まで、ポリオワクチンとしてOPV(生ワクチン)が広く使われてきました。
しかし、ポリオ生ワクチンを接種することにより、
ポリオが発生することがわかってきました。
そのため、世界100カ国以上では、IPV(不活化ワクチン)を導入しています。

わが国は、ワクチン途上国と称されるほど、
ワクチン行政が立ち後れた国です。
その状況で真っ先に取り入れなければならないのが、IPVです。
しかしながら、国はIPV導入を先延ばしにしてきました。
しかし、5月31日、OPVによるポリオ患者発生が報告されることもあり、
より安全で効果的なIPV導入についての議論が活発化しています。

厚生労働省は、早ければ来年度にIPV導入をめざす、としていますが、
わずか4時間弱で行かれる中国から、
いつポリオが輸入されるかわかりません。
私の勤務する羽田空港でも毎日10便の中国便がやってきます。

手に入りにくいワクチンならともかく、
世界でこれだけ多く使われているワクチンを、
なぜ、来年まで待たなければならないのでしょうか。
早急なIPV輸入を推し進めるべきだと思います。


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2011年9月8日

厚労大臣のタバコ料金引き上げ発言に思うこと

小宮山厚労相「たばこ1箱700円に」 増税を主張

 小宮山洋子厚生労働相は5日、たばこ税に絡んで「年100円ずつ引き上げ、(販売価格を)1箱700円ぐらいにしたい」と語った。厚労相はたばこ増税による禁煙推進が持論。「喫煙者の8~9割が本当は禁煙したいと思っている」と述べ、健康を守る目的から値上げが必要と主張した。

 厚労相は「いろいろなデータをみると、(販売価格で)700円までは税収が減らない」と強調。さらにたばこに関する行政について「税収のために財務省が所管するのはおかしく、健康のために厚労省が所管するようにしたい」と述べた。

 たばこ税は昨年10月に1本あたり3.5円引き上げられ、マイルドセブンの場合は1箱の値段が300円から410円に値上がりした。

 たばこ増税をめぐって、野田佳彦首相は財務相時代に「税制を通じたおやじ狩りみたいなものだ」と述べたことがある。首相は愛煙家だという。

http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C93819591E2E7E2E3828DE2E7E2EBE0E2E3E39797E0E2E2E2;at=ALL

2011年9月5日 19:31配信 日本経済新聞




厚労大臣のタバコ料金引き上げ発言が、
閣内での波紋を呼んでいるようです。

政治的な意味合いはともかく、
公衆衛生的には、喫煙は大きな問題であり、
この問題に関して、国民の健康問題を
司る監督官庁の長が言及したこと自体は、評価すべきと思います。

日本はタバコに対して、非常に甘い国です
(過去記事:たばこに甘いニッポン参照)。

タバコを吸うことは個人に自由である、という主張を聞くことがありますが、
タバコは多くの有害物質を出します。

その中には、発がん物質も多く含まれます。
タバコを吸うことは、自分の健康を損ねることだけでなく、
周りの人たちの健康にも影響を及ぼします。

自分の権利を最優先にし、他人への被害は顧みない行為は、
どんな場合においても認められる事ではなく、
タバコだけが免罪符を得る理由は、どこにも見当たりません。

また、喫煙はがん、心疾患、喘息など、様々な疾患の原因であることから、
喫煙者の増加は、医療費増加に直結する、大きな社会問題です。

9月7日の米国CDC発表によれば、
「喫煙と受動喫煙により、毎年44万3千人が死亡している」であり、
「喫煙による被害は、健康問題にとどまらず、
年間約18兆円の医療費増加に加え、労働力の減少を生む」としています。

日本の公衆衛生にたずさわる人たちは、
今回の発言に関して、どのように受け止めているのでしょうか。
今回の発言を、「単なる政治的なもの」とせず、
専門家としての積極的な発言を期待します。

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2011年6月29日

メディアが取り上げない、被災地の感染症対策

2011年3月11日に発生した、巨大大地震は、
3カ月が経過した今でも、大きな後遺症を残している。
仮設住宅2万8千戸が完成したものの、
避難者数は、9万人、不明者約8千人、といった状況である。

このような状況が続く中で、
感染症対策は大きく立ち遅れている分野の一つである。

何故、感染症対策が問題になるかと言えば、大きく分けて2つある。
一つには、衛生状態が決して良いとはいえない、避難所生活を続けることにより、
肺炎や、下痢性疾患などが流行することである。

もう一つは、予防接種の不徹底により、
ワクチン予防可能疾患(Vaccine Preventable Diseases)の蔓延が起こり、
子供たちが、当該疾患で死亡したり、重篤な後遺症に、
生涯苦しめられ、可能性が生じる。

まず、避難生活を営む人たちの中で、
今後注意をすべきであろう感染症について、論じてみる。

まず、重要なのは、急性胃腸炎である。
急性胃腸炎の原因としては、種種のウイルスや細菌がある。
まず、流行が懸念されているのが、ウイルス性の腸炎であり、
代表的なものは、ノロウイルスやロタウイルスによるものだ。
これらのウイルスは、感染力が強く、
少量のウイルスで感染すると考えられている。
感染経路は、主に不適切なし尿による、糞口感染である。
予防のためには、し尿や、吐物の適切な処理、手洗い、
汚染された衣類を捨てる、などがある。

ノロウイルスやロタウイルス性腸炎は、震災初期の、衛生状態が悪い中で、
もっとも流行が懸念されたものであるが、
震災から3カ月が経過した現在でも、流行が報告されている。
http://www.kaiteki-kadenlife.com/virus/virus_002/205450.html

実際、被災地といっても、既に仮設住宅が整っている場所もあれば、
未だに、上下水道の整備されていない、避難所が乱立する地域もあり、
その差による、感染症発生率の違いが、今後、もっと顕著になってゆくであろう。

ウイルス性腸炎に加えて、梅雨を迎えたこれから、
病原性大腸菌やサルモネラ菌による食中毒も多くなってくる。
特に、衛生状態の悪い避難所生活を続けている人たちの間での流行は、
もっとも懸念されるところである。

感染症の問題は、人間間だけにとどまらない。
家畜や、ペットなどの死骸が放置されている地区では、
ハエや蚊が多量発生している。
本来動物に寄生する病原体が、ハエや蚊、
場合によってはゴキブリ、ネズミ等を介して、人にうつることがある。

こうした病気を、「動物由来感染症」と呼ぶが、
コレラ、チフスなど、かつて日本で流行を起こした感染症が、
猛威を振るわないとは限らない。

また、昆虫を媒介とした、「ツツガムシ病」も流行のおそれがある。
ツツガムシ病は、リケッチアであるツツガムシに刺されて感染する。
熱が出て死亡する例もある。
3月に、福島でツツガムシ病が報告されており、
これから夏に向かう季節には、増えることが予想される。

今まで述べた感染症は、被災地のどこで、どの程度の規模で起こっているのか、
正確に把握できていないのが、実情である。
その、大きな理由としては、被災地の他の問題が多すぎて、
こうした、感染症にだけ、注意をむけられない、
という被災地の現状があるからだ。

被災地の医療活動は、感染症も含めて、
DMAT、FETPや医療ボランティアの活動に支えられてきた。
災害が起こった1,2カ月は、ボランティアも多く入り、物資も届く。
メディアも関心を持って、取り上げ、
被災者も、周りの助力に関して、感謝の念を抱く。
所謂、「ハネムーン期」と呼ばれる時期である。

しかし、3カ月が過ぎた今、メディアの関心も薄くなり、
ボランティアも自分たちの本来の仕事に帰ってゆくようになった。
インフラが速やかに回復した地域と、
そうでないところの格差感が広がっている。

整備が立ち遅れたところからは、
以上述べたような感染症のリスクが高い。
こうした地域への、専門家派遣などの重要性は、
多くの人が指摘するところである。
それはもちろん大切であるが、我が国に多くの人材がいるか、
といわれれば、そうではない。

被災地の行政は、疲弊している。
それは、彼らたち自身も、被災者であるからだ。
震災後に、避難所のトイレが、し尿であふれ返っている状況を見かねた医療者が、
地方自治体に改善を求めたところ、
「し尿の衛生管理は保健所(厚生労働省)だが、
処理施設自体は、国土交通省の管轄であり、
環境省にも連絡しなければ、動けない」
趣旨の事をいわれ、大変困ったという、話を聞いた。


縦割り行政の弊害、といってしまえばそれまでであるが、
し尿であふれ返ったトイレを放置すれば、
感染症が広がることは明らかである。
そして、それを処理するための枠組みがややこしすぎるために、
現場も、地方行政も、要らぬ労力を使うはめになる。

国が、平常時のような、法の枠組みを順守することに固執せず、
地方行政と、被災地の現場が、動きやすくするための、
「規制緩和」を速やかに、実行することが、最も求められることである。
これは、震災に限らず、どんな危機においても、当てはまる。

次に、第二の問題である、「ワクチン」である。
私は、この問題を、最も重要視し、
かつ、国として早急にとりくまなければならない、と思っている。

ワクチンには、必ず副反応がともなう。
稀ではあるが、重篤な副反応により、命を失うこともある。
しかし、その危険性を差し引いても、国民あるいは世界全体というマスと、
当該疾患から守るという、利益が上回るときに導入されるものである。
これは、正に、公衆衛生(Public Health)の概念そのものである。

日本は、諸外国に比べて、ワクチン対策に置いて大きく後れを取っている。
このことは、我が国の公衆衛生行政が立ち遅れていることを、明確に示している。

WHOが勧告しているワクチンの中で、
我が国が未だに導入していないものは多い。
その中には、接種しないことによって、
子供の命が失われる危険性があるものが多い。
例えば、細菌性髄膜炎(Hib)、B型肝炎、肺炎球菌、
ロタウイルス性下痢症、である。
また、接種によって、実際の病気が引き起こされることが明らかになって、
他国が取りやめている、ポリオ経口生ワクチン(OPV)を、
未だに使い続けている、珍しい国でもある。

また、導入しているワクチンも、「任意接種」という、
「打っても打たなくても良い」といった印象を与えかねない、
名のもとに、接種率が上がっていない、重要なワクチンもある。
Hibや、小児用肺炎球菌ワクチンが、この代表格であろう。

このように、平時においてもいい加減なワクチン政策が、
震災によって、より、悲惨な状況になっている。
それは、必要なワクチンスケジュールを管理する、
行政窓口が立ち行かなくなったり、
被災により、ワクチンを打つ医師がいなくなったり、
あるいは、ワクチンそのものが無くなってしまった、などの理由からである。

平時と違う状況としては、建物の倒壊や、瓦礫などによってけがをし、
汚れた傷から、破傷風が生じる、という例があげられる。
幼少時にワクチン(DPT)を打っていれば、
免疫が数年持続する、と言われているが、
震災によってこれが接種できない場合、
あるいは、決められた回数打てない、といった場合には、
感染する危険性が高まる可能性がある。
また、けがによって感染する疾患として、B型肝炎があげられる。
B型肝炎は血液を介してうつり、諸外国では、
出生とほぼ同時に打つことが、ルチンになっている。
しかし、我が国では、公費化されておらず
(ワクチン行政の一部に組み込まれていない)、
今後、将来にわたって、どの程度B型肝炎が発症するかは、
未だ不明である。調査が行われる、という話もきかない。

このような、「けが」などの震災前期に多く起こる病態に加え、
これから、長期的に考えてゆかなければならない疾患がある。
それらは、麻疹(はしか)、細菌性髄膜炎、
肺炎球菌と言った、重篤な疾患である。

いずれも、小児において、重要な病気である。
それは、罹った場合、命をおとしたり、
重篤な後遺症を残すことがあるからだ。
被災により、体力が低下した子供たちに、
今後広がる可能性が指摘されている病気である。

幸いにも、効果的なワクチンがあり、
VPD(Vaccine Preventable Diseases:ワクチンで予防可能な疾患)の代表であるが、
「幸い」という文言が、日本にはあてはまらない、のは、前述したとおりである。

また、もうひとつの懸念は、「日本脳炎」の流行である。
日本脳炎は、豚から、コガタアカイエカという蚊を媒介して、人間に感染する。
日本脳炎ウイルスは、ほとんどの場合、人間に感染しても、
無症状ですむが、約1/100 から1/1000の確率で、脳炎を発症する。
その場合の致死率は20から40%と高率である。

これまでは、コガタアカイエカが生息する、
南や西日本地帯が危険だとされてきたが、
病気を媒介する、コガタアカイエカの分布が、
北上している傾向があり、今後被災地でも、起こる可能性はある。
http://idsc.nih.go.jp/disease/JEncephalitis/QAJE02/fig02.gif

日本脳炎は、ワクチン接種で予防できる感染症の一つである。
しかし、2005年5月30日の、厚生労働省による、
日本脳炎ワクチン積極的勧奨の差し控え以降、
3~6歳での日本脳炎ワクチンの接種率が減っている。
現在では、徐々に回復していると推測されるが、
未だ100%接種をのぞむのは無理だろう。
http://idsc.nih.go.jp/disease/JEncephalitis/QAJE02/fig04.gif
 
繰り返すが、我が国の公衆衛生のインフラ整備は立ち遅れている。
それが、ワクチン政策に如実に表れている。

現在、被災地には、UNICEFが入って、活動をしている。
半世紀ぶりの日本への支援である。
その活動は、以下のサイトに紹介されている。
http://www.unicef.or.jp/osirase/back2011/1103_09.htm

「被災地の復興は、ボランティアの活動なしにはあり得ない」というのは、
誰もが実感するところであろうが、
日本は、GO(ボランティアとはよばないかもしれないが)、NGO問わず、
外部からの支援を効率的に活用することが、あまり上手くないのではなかろうか。

特に、海外のNPO受け入れについては、
もう少し、効率的に行ってもよいのではないか、というのが個人的な感想である。
言葉の障壁は、我が国にとって大きな問題であるが、
それ以前の問題として、政府や地方自治体が、
こうした「助けの手」を、なかなか受け入れられない、
「文化」のようなもの、が存在しているのではないか、と感じている。

繰り返すが、被災地における「感染症対策」は、十分ではない。
しかし、それが表立ってこないのは、
被災地の状況があまりに酷過ぎて、隠れてしまっているからである。
感染症対策の中で、最も重要なのは、衛生状態悪化による感染症の流行と、
ワクチン政策不備による、子供たちの重篤な感染症罹患である。
特に後者は、「次世代を担う世代を守る」、という国の根本的責任そのものだ。
被災地の感染症対策を、みて見ぬふりをせず、
国の最重要課題として取り組むよう、希望する。


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2011年5月27日

「人にやさしい政治」とは ―被災地での自殺防止を考える

震災後の復興に向けての取り組みが、様々なところで行われています。

「復興」というと、建物や、経済といった事に関してだけ注意が向けられがちですが、
忘れてはならないのは人(ヒト)です。

今回の震災で、自分の家を失ったり、会社が壊れたりし、
経済活動にも大きな被害がもたらされました。
それと同時に、人の心も大きな打撃を受けているのです。

今回の震災のように、今まで遭った事のない衝撃的な場面に遭遇すると、
人間の精神にも影響が出てきます。
肉体が「けが」をするのと同じく、心もけがをするのです。
これをPTSD(Post Traumatic Stress Disorder)と言います。
PTSDになると、夜眠れなくなったり、津波や建物の崩壊といった、
過去に見たり経験した事がフラッシュバックとなって出現したりします。

PTSDは、衝撃的な出来事を経験してから、すぐには起こりません。
大体1~2カ月以上経過して起こるのです。

PTSDがなぜ重要なのかと言うと、早期に発見し適切なケアをしないと、
PTSDに加えて、うつ病も発症し、
「自殺」という最悪の事態が起こる可能性があるからです。


震災による大きな影響を受けた地区として、岩手県があります。
被災地のうち、特に、岩手県は自殺「率」がもともと高い県です(全国第3位)。
(参照:「平成22年版 自殺対策白書」PDF


心が痛むことですが、岩手県では自殺された被災者の方もいらっしゃいます。

mainichi.jp 東日本大震災:「精神的ケア必要」300人以上 岩手で ◇悲しみの連鎖…自殺のケースも 2011年5月22日


都市部と違って、地方の県では、もともと精神科を受診することに関して、
しり込みする人が多いようです。
被災地には、こころのケアチームが派遣されていますが、
「本当はつらいのだけれど、周りを気にしてなかなか言えない」
と言う人が多いと聞きます。

果たして、こうした状況が周知されているか、といえばそうではないのです。
健康に関する問題では、放射線による晩発性障害については、
メディアもこぞって取り上げます。
実際、私自身、非常に重要な問題としてブログ等で取り上げています。

同様に、PTSDによる自殺についても、今まさに起ころうとしている事であり、
政府や専門家、あるいはボランティアの関与が必要な問題です。
これは、以前ブログにも書いたとおりです。
(参照:「遅れて」やってくるPTSD-「心の傷は生涯癒えないことがある」


民主党政策の要は、「ひとにやさしい政治」です。
今、誰にも見つけられないまま「自殺」という危機にさらされている命を、
すみやかに救ってあげることに、政府が責任をもって介入してゆくべきだと思います。

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2011年5月23日

事実を国民に知らせるのは、政府の義務である。 「フクシマがチェルノブイリ事故を超えていることは間違いない」

―「国を建てるには千年の歳月でも足りない。だが、それを地に倒すのは一瞬で充分である」 by George Gordon Byron―

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すでに3月30日に、放射能の危険に関する欧州委員会( the European Committee on Radiation Risk, ECRR )の学術部局長、スウェーデンのクリス・バズビー博士が発表した福島原発事故の影響に関する報告書では、以下のような結論と勧告が示されている。

1.ECRR
の危険評価モデル(危険率モデル)を、福島原発惨事から半径100キロメートルの範囲に住む300万人に適用した。これらのひとびとが1年間同じところに留まると仮定した場合、予測される癌増加数は今後50年で約20万人、そのうち10万人は今後10年以内に診断されることとなる。即座にこの地区から退避した場合、増加数は著しく減少する。事故原発から100~200キロメートルの範囲に暮らす700万人について予測される癌増加数は、今後50年で22万人を若干超えるものとなり、今後10年に約10万人が発症する、とみられる。この予測は、ECRRの危険評価モデル、ならびにチェルノブイリ事故後のスェーデンにおける癌危険率に関する調査結果に基く。

2.国際放射線防護委員会 ( ICRP )
のモデルを用いた場合、半径100キロメートル範囲に住む人間の癌増加数は2,838となる。従って、最終的な癌増加数が ECRR と ICRPの危険評価モデルの優劣を決める新たな試験となろう。

3.日本の文部科学省が公表したガンマ線量に基く計算値を使い、認知されている科学的な方法により、計測地点の地表汚染を逆算することができる。その結果が示すのは、国際原子力機関( IAEA ) の報告は汚染レベルを著しく過小評価していることである。

4.放射性同位体による土壌汚染の計測を早急に行い、注意を喚起してゆくことが求められる。

5.福島原発から100キロメートル圏内で、北西地域の住民は即座に退避し、この地域を危険区域(立ち入り禁止)とすることが求められる。

6.ICRP
の危険評価モデルを使うことはやめて、すべての政治判断を「放射能の危険に関する欧州委員会」の勧告に従って下すべきである。www.euradcom.org これは「2009レスボス宣言」に署名した、放射線の危険に関する著名な専門家の出した結論である。

7.故意に情報を一般市民から隠した者に対する捜査と法的制裁を行うべきである。

8.報道においてこの事故が健康に与える影響を矮小化して伝えた者に対する捜査と法的制裁を行うべきである。

 この7は東電と保安院に対して、8はマスメディアの情報操作に対して向けられたものである。このECRRの勧告に対比すると、政府が現在取っている措置は、広島原爆投下後の政府・大本営の状況認識および対策との差とあまり違いがない。米国と文科省が共同で行った地上1メートルのセシウム137(半減期30.3年)の汚染度を見ると、原発から北西の方向に半径30キロを超えて、300万~1,470万ベクレル/平方メートルという超高濃度汚染ベルトが広がっている。(チェルノブイリ事故の汚染は避難地区がわずか13万5,000ベクレル。事故処理に当たった労働者の平均被爆量が165ミリシーベルト)。福島では、原発から40キロ離れた飯館村でも外部被爆線量が年間26ミリシーベルトになる。10年住めば、厚労省の「緊急被爆基準値」の250ミリシーベルトを超えてしまう。

ともかく放射能汚染度が、チェルノブイリ事故を超えていることは間違いない。政府はそのことを率直に認め、住民に安易な帰宅計画の希望などもたせず、「広島、長崎と同じことが起こったし、いまも続いている」ことを告げるべきだ。広島長崎の被爆者も「核兵器廃絶は原子炉廃絶なくしてありえない」ことを自覚すべきだ。

 半減期というのは放射能が半分になることで、1,470万ベクレルのセシウム137は30.3年経っても735万ベクレルになるにすぎない。100年経って元の4分の1=367万5,000ベクレルだ。チェルノブイリの13万5,000まで落ちるのに何百年かかるか?相馬市、いわき市、福島市に挟まれた広大な無人の荒野を想像すると、寒気がしてくる。

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これは、広島大学名誉教授、難波鉱二氏が、あるメーリングリストに送ったものです。
転送自由ということで、引用しました。


放射性物質には様々な種類(核種)があります。
今回の原発事故で放出された核種は、100のオーダーと言われています。

その中で、最も注意が必要なのは、ヨード131 、セシウム137、ストロンチウム90です。
ヨード131は小児の甲状腺疾患を引き起こす原因とされていますが、
半減期が約8日と短いため、事故から2か月以上経過した今、
問題となるのは、セシウム137、ストロンチウム90です。

セシウム137は、主に呼吸によって体内に入り、カリウム(K)と同じ動態を示します。

これに対して、ストロンチウム90は、カルシウム(Ca)と同じような動態を示します。
すなわち、カルシウムの多い食品は、ストロンチウムを多くとりこむ、と言うことです。


このように、放射線が、体内に取り込まれることを、「内部被ばく」といいます。
外部被ばくに比して、内部被ばくの割合は多く、
その影響は、長期的に追跡をしないと分からないところがあります。

しかし、確実に言えることは、セシウム137やストロンチウム90などの
放射性物質の影響をもっとも大きく受けるのは子どもたち
(特に5歳未満の小さなこども)です。



子どもは外で活動します。家の中でじっとしていることはおかしいです。
そうなれば、大気中に漂う、あるいは土壌から舞い上がるセシウム137を
吸い込む可能性が、大人に比べて高いと言えます。

また、子どもは体内の水分比率が大人より大ですから、
身体の水分に溶け込むセシウムの割合も、必然的に大人より高くなります。

また、子どもは、大人より、牛乳をのむ機会が多いのが一般的です。
となれば、ストロンチウム90の内部被ばくにさらされる機会も多い、
と考えられます。
(参照:ヒロシマ、ナガサキ、チェルノブイリから学ばない原子力政策 ―子どもたちに対する、的確な放射能被ばく対応を望む―

しかしながら、放射線は遺伝子であるDNAを傷つけることが分かっています。

傷つけられたDNAが正常に修復されない場合、
異常な細胞が産生されてゆきます。
こうして生じるのが「がん化」です。

ヨード131を除いて、ある特定の核種が、
特定のがんを特異的に引き起こす事が多い、
と言うことは証明されていません。
しかし、放射線の一般的な特性を考えれば、

どの核種による被ばくにおいても、将来のがん発生の可能性を考えることは、
当然のことと言えます。


がん化には、10年から20年以上が必要だといわれます。
子どもたちは成長の過程にありますから、それだけDNA複製も活発に行われます。
つまり、放射線の影響を受ける機会も大人より多いわけです。

また、平均余命を考えれば、将来、子どもたちが、がんに罹る確率も高くなります。

子どもたちは将来の国を背負う、貴重な人材です。
この2か月の、政府の無策は、この子どもたちを最も危険な状態にさらしてきた、
と言えます。



原子力発電による経済効果、各国との調整、地元の生活基盤の問題など、
様々な事柄が渦巻いているのは理解できます。

しかし、どんな事項を差し引いても、子どもたちの将来を奪う権利は、
だれも持ち合わせていません。

各国から寄せられるシミュレーションや、散発的なデータ、
気象条件を鑑みれば、核種は大気中に放出され、
多くは海に流されたと考えられます。
今後、どのような状況になるかは、政府の速やかな情報開示が必要です。

それは、今までの厳しい状況を見て、
個人の責任で判断する事項も多く存在するからです。


そして何よりも、正確なデータに基づいて、
子どもたちの安全を最大限に考えた具体的、速やかな行動を政府がとることを
要望いたします。

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2011年4月19日

義捐金はどこへ行く ―被災者のために有効に使われているのか?-

東北地方太平洋沖地震に際し、「義捐金」を集める運動が盛んに行われています。
義捐金とは、日本赤十字社に対する寄付です。
被災では、家や家族を失った人がたくさんいます。
そのために、寄付を募る事はごく当たり前の事です。

しかしながら、その集めたお金なるものが、
果たして、被災者にとって良い方向性を持って使われているのでしょうか。
(参照:日本赤十字社義援金は能力なりの規模に:免罪符的寄付から自立的寄付へ

そんな疑問を抱いている折、一通のメールが飛び込んできました。
それは、アメリカに住む日本人医師からの「義捐金」を巡る動きをつづったものでした。


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今回の震災後に、多くの「組織」が、「アメリカの医療者」に「日本でのボランティア活動」の募集を繰り返ししています。

「義捐金を元」に、アメリカからの往復の交通費と宿泊費と食費が全額支給されるそうです。1週間ずつの滞在で交代するそうです。1チームが医師1-2名、看護士3-4名、理学療法士他、他の医療者1-2名の計6-7名を1週間毎に送る計画を立てているそうです。(もう始まっているそうです。)

アメリカ人の医療チームが被災地に入っても、医療体制の違いや、治療薬剤名の違いなど、なかなか「スムーズに行く」とは思えませんが、アメリカ人には「被災地をこの目で見てみたい」という「衝動」に駆られる人が多いようです。

「話題つくり」としては「インパクト」もあるし、アメリカで「被災地の現場の写真」をみなの前で「上映」すると、多くのアメリカ人が興味を持って聞いてくれます。

「相当額の義捐金」がこういう形で「アメリカに流れて来て」、飛行機代とホテル代と食費に消えているのを目にすると、これが「有効な使い方なのだろうか???」と疑問に思うことがあります。

多くのアメリカの若い独身の医療者が「ボランティア期間」の給与を、自分の病院から確保して、「ただで日本へ往復できる」と思っている「不届き者」もいるように聞きます。

とある日本のNPO団体が、義捐金から相当額を確保して、この「アメリカからの医師の派遣」を実現したとのことです。

今回の震災では義捐金の額も巨大で、また、それに群がるNPO団体も多数あり、その「使い道」をどうするかを決める人が誰なのかも不透明なのではないでしょうか。

アメリカにも「日本のNPO団体」と称する団体から、たくさんの人が「アメリカ支部勤務」として住んでいますが、、、、多くが「何をやっているのか不明」さらには「その団体の設立目的が不透明」なところが多々あります。
私個人としては信用できない団体ばかりで、関わり合いになりたくないと思っています。(多くが政府の外郭団体で、役人の天下りで占められているようなところばかりです。お金はふんだんにあるようで「日本からのお客さん」を招待したり、、、招待されたり、、、)

震災後に「日本の闇の部分を目の当たりにするよう」で、私個人としては「とても暗い気持ち」になっています。

私の所へ「日本へのアメリカ人医師派遣の誘い」をしているのはProject HOPE という団体です。
http://www.projecthope.org/where-we-work/humanitarian-missions/japan.html
http://www.projecthope.org/news-blogs/In-the-Field-blog/volunteers-assess-needs-in.html

彼らによれば、「資金の確保を日本のNPO団体からできているので、旅費、ホテル代、食費は全部まかなう。その手配も日本側で行ってもらえる。日本で医者の足りない病院に入って診療を行う」とこのことでした。
日本側の「政府の要請」だそうで、具体的な日本側のNPO団体の名前は知りません。

彼らのサイトに「アメリカ人医師が現地入りして、日本で何が必要かの調査を行っている」とあります。
また、「通訳として、その派遣団に同行したい」という「在米日本人通訳」も名乗りを挙げているようですが、、、、。私自身、「調査団」が「通訳を連れ立って」現地入りし、その全ての旅費・滞在費を日本側が「至れり尽くせり」で賄うというのは、やり過ぎのような気がしました。

まるで「アフリカの無医村へ、調査団を派遣して、医療テントを立ち上げる」かのような計画です。「日本の被災地」で「アメリカ人医療団」が「この村では何が必要か?」と調査する必要性があるのか?と疑問に感じました。

また、今回「アメリカ人医師でも自由に日本で医療行為ができるように」ということで、「超法規的措置」で「外国人医師の診療行為許可」が日本政府から出たそうです。ですので、「日本の医師免許を持たない」「日本の薬を使ったことが無い」アメリカ人医師でも、自由に診療行為が出来るとのことでした。


アメリカを含めて、世界中には「医療チーム派遣を積極的に行っているボランティア・チーム」が多数あります。
たぶん、一番有名なのが、フランスの「国境無き医師団」でしょう。勿論、こういった派遣ボランティアは重要な職務ですが、どうしても「お金」が絡んでくると「グレーな部分」「闇の部分」が出てくるのはしょうがないのでしょう、、、、。
「国境無き医師団」は、欧米では「短期間に驚異的な知名度と、資金を集めた組織」として、その方法論が「ビジネスモデル」として「研究対象」になっているほどです。彼らは「資金集め」「知名度向上のための宣伝活動」などを効率よく行うため、こういった「宣伝・資金集めのプロ」を多数雇用して、成功したとされています。(プロ集団による「知名度向上の成果」が「ノーベル賞受賞」という形になり、これが「更なる」知名度の向上と「金集めの成功」につながって、無限の「ポジティブ・スパイラル」に入っていると評されます。)

まあ、ボランティア団体に個人的な恨みは無いので、彼らがどうしようが「距離」を置いておけば良いかな、、、と思っています。


ただ、今回「募金したお金」がこういった形で使われているのを偶然知って、「ちょっと悲しくなっている」のが正直なところです。
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被災地の医療スタッフは不足しています。
ですから、海外の医療スタッフが手伝いに来てくれるというのは、
非常に喜ばしい事です。
政府も、超法規的措置をとり、日本の医師免許を持たない医師であっても、
診療行為が出来るようにしています。
しかし、このアメリカ在住医師のメールを見る限り、
善意で集められた寄付が、あまり良いやり方で消化されていないのではないか、
と感じます。
世界に名高い(悪い意味で)、我が国のばらまきODAを彷彿させます。

繰り返しますが、被災地の医療スタッフは、不足状態です。
ボランティアとして赴く医療スタッフたちは、交通費は自ら払い、報酬もありません。
彼らたちの作業は過酷であり、長時間にわたります。
それを「ボランティア」と言うだけで、お金を払わなくて良い、という考えでは、
活動自体長続きしません。
そもそも、ボランティア=無償、ではないのですから。

多額の義捐金が、海外の医療スタッフに出回る余裕があるのなら、
まず、ボランティアとして赴く医療スタッフに対しての金銭的補助と共に、
職場をある一定期間休めるようにするなどの整備に使ってほしいものです。

そのための具体的な方法として、集めた義捐金を、一度、
国庫金としてプールできるような仕組みを作るべきだと思います。
(参照: 日本政府の援助拒否ー危機管理の立場から考察する

義捐金とは、まさしく、人々の善意で集められたお金です。
それを、被災地の復興のために、最大限有効に活用する事が、
政府の責任であると考えます。

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2011年4月12日

ヒロシマ、ナガサキ、チェルノブイリから学ばない原子力政策 ―子どもたちに対する、的確な放射能被ばく対応を望む―

福島原発の状況は、今なお予断を許すものではありません。
今回は、放射性物質の人体への影響について書いてみます。
というのも、現在の政府対応は、妊婦や乳幼児に対してあまりにも「甘い」と感じるからです。
http://www.nsc.go.jp/bousai/page3/houkoku02.pdf
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r9852000001559v.pdf

人が放射線にさらされる事を「被ばく」と言います。
被ばくは、体の外側に受ける外部被ばくと、
体内に放射性物質がとりこまれる、内部被ばくに分かれます。
外部被ばくは、衣類を脱ぐ、あるいは洗う等により、影響を取り除く事ができますが、
体の中に入ってしまったものは、
放射性物質が自分で少なくなる(崩壊と言います)のを待つか、
尿や、汗、あるいは便から体外に排出されるのを待つ以外はありません。
このため、内部被ばくがより重要なのです。

放射能による最も重大な健康問題は、「がん」です。
がんは、細胞ががん化する事によって起こります。
その一つの原因が放射能なのです。
放射性物質は、遺伝子であるDNAを傷つけます。
傷ついた遺伝子は、がん細胞という、暴走する異常細胞を生みだすのです。

多量の被ばくをして、急性のがんが発症する事がありますが、
それ以上に問題なのは、将来起こるであろう細胞の「がん化」です。
がん化には約20年が必要と言われています。
このため、放射性物質が身体の中に居る期間が長いほど、
がん化する可能性は高くなるのです。
子どもは、大人より死ぬまでの時間が長いわけですから、
被ばくを受けた年齢が低いほど、がんになる確率も高くなってきます。

原発の事故等では、多くの種類の放射性物質が飛び散ります。
その中で、重要なのがヨード131、セシウム137、ストロンチウム90、といった物質です。
体内にどのように取り込まれるか、と言えば、
主に、鼻や口といった呼吸器から吸収されるものと、
食べ物から入る経路の2種類が挙げられます。

どちらから体内に入るのが多いか、というのは、
その放射性物質の種類によって異なります。
その種類ごとに、預託実効線量とか、等価線量等を用いて、
内部被ばくを計算する事が出来ます。
この計算は、想定する条件(放射性物質の種類、放射性物質の量、食べ物と、呼吸と、
どれくらいの確率で吸収するか、性、年齢、体重など)で、
違った計算式ができますし、同時に違った答えが出てきます。

ある人の計算では、そんなに高くない被ばく量が算出されます。
それをもとにして意見を言う人は、「特に健康問題には影響ない」と言うでしょうし、
シビアな状況を仮定した答えに対しては、「非常に危険である」と言う事になります。

この記事では、その答え一つ一つに対して意見を言うつもりはありません。
繰り返しますが、何が問題なのかと言えば、
今回の原発事故において、妊婦や小児(特に5歳未満の乳幼児)は、
大人以上に放射能の影響を受けやすいという事実を、
政府もメディアも、あまり認識していないのではないか、ということです。

忘れてはならないのは、子供は小さな大人ではないということです。
よく小児科医が私に言っていたことですが、
「子供は大人とは違った生物である」という言葉がぴったり当てはまります。
何が違うのかというと、放射能から受ける影響が、大人と比べてけた違いに大きい、
ということです。
お腹の中に居る時から、歩けるようになるまでどんどん成長します。
ですから、代謝すなわち、遺伝子の複写も活発に行われますから、
影響を受けやすいのも当然と言えます。


ここでは、放射性物質の代表格と呼べるヨード131とセシウム137の、
子どもへの影響について書いてみたいと思います。

まず、ヨード131です。
ヨード131の多くは、消化管から飲み物や食べ物と一緒に吸収されます。
吸収されたヨード131のうち、約20%は甲状腺に蓄積されます。
残りの80%は、体の外に出ていきます。

人類は過去、大きな放射能汚染を経験しました。
原爆、マーシャル諸島での核実験、チェルノブイリ原発事故、等です。
被ばくした乳幼児を追跡して分かった事は、
彼らたちは、大人と比べて、ヨード131の影響を受けやすく、
甲状腺がんになりやすい、ということです。 

特に新生児は、甲状腺機能が活発です。
生後10日は、成人の3~4倍のヨード取り込みが行われます。
また、小さければ、甲状腺の大きさも小さいですから、
成人と同じヨード131の被ばく量を受ければ、
小さな甲状腺に、大人より、高濃度のヨード131が凝縮します。
ヨード131は、食べ物から体内に入る経路が多い、と書きましたが、
子どもたちは大人と比べて、消化管から吸収しやすいのが特徴です。
すなわち、乳幼児、新生児などの小さな子どもは、
よりヨード131を体内に取り込みやすい、といえます。

ヨード131は、乳にも移行します。家畜も人間と同様に被ばくします。
一般的に、子どもの方が大人より牛乳を良く飲むので、
それだけ、被ばくを受ける機会が多い、と言えます。
また、母乳中にも出てきますから、ヨード131に汚染した母乳を飲んだ赤ちゃんにも、
放射性ヨードが蓄積されます。

ヨード131は胎盤を介して、お腹の中にいる胎児にも移行します。
甲状腺が機能し始める、妊娠12週ごろからは、活発にヨード取り込みが行われます。

http://www.atsdr.cdc.gov/toxprofiles/tp158.pdf
(The Agency for Toxic Substances and Disease Registry (ATSDR) , 米国保健省、毒物による疾患登録機構:ヨード)

ヨード131と小児甲状腺がんの関係はおわかりいただけたと思います。

それではセシウム137は、小さな子どもに、どのような影響を与えるのでしょうか。
セシウム137はヨード131以上に危険です。
なぜなら、ヨード131は比較的短い期間で体外に排出されるのですが、
セシウム137は長期間、体内に残ります。
放射性物質は、時間と共に減ってゆく(崩壊)のですが、
この目安となるのが、半減期(量が半分になる時間)です。
ヨードが約8日なのに対し、セシウム137は30年です。

セシウム137は、ヨード131と違い、
ほとんどが、口や鼻、といった呼吸器から体内に入ります。
甲状腺だけでなく、体内臓器にまんべんなく行きわたります。
特に、肝臓、腎臓、筋肉(特に心筋)に多く蓄積される、という放射性物質です。

原発事故などで放出されるセシウム137の量は、
他の放射性物質と比べて少ないのですが、健康への被害は大きなものがあります。
繰り返しますが、ヨード131と違って、長期間体内に残るためです。
長く体内にとどまるということは、がんを発生させる危険性が高くなるからです。

「セシウム137と発がんは関係ない」と言う人もいますが、
それは、原発事故等では多くの放射性物質が放出されるため、
どの放射性物質が原因だ、と決めることが難しいからです。

確かに、セシウム137は、ヨード131のように、甲状腺がんの発生を多くさせる、
といった、ある特定のがん発生に関する関係は証明されていません。
しかし、全ての放射性物質は、遺伝子であるDNAを傷つけるわけですから、
「発がん性がある」と考えるのが普通です。

子どもは外で遊ぶ機会が多いですから、
外気あるいは塵から舞い上がるセシウム137を吸い込む可能性が、
大人より多いということがあげられます。また、セシウム137は水に良く溶けます。
小さな子どもは、大人に比べて身体の水分割合が大きいので、
比率として、より多くのセシウム137を取り込む事になります。

また、母乳への移行も多い、という報告があります。
新生児と1歳児における調査では、40~50%の確率で、母乳から移行したという報告があります。
これは、ヨード131の25%程度と比べると多い数字です。

動物実験では、胎盤を介して胎児へ移行する事も認められています。

http://www.atsdr.cdc.gov/ToxProfiles/tp157.pdf
(The Agency for Toxic Substances and Disease Registry (ATSDR) , 米国保健省、毒物による疾患登録機構:セシウム)

所謂専門家と呼ばれている人たちや政府は、「直ぐには影響はない」と言います。
その背景には、有害放射能による、中長期的な研究があまりなされていない、ということがあります。
しかし、明らかに放射性物質は、ある一定期間体内にとどまります。
そして、遺伝子を傷つけていくのです。

その影響を最も受けるのは、新生児、乳幼児であり、お腹の中にいる赤ちゃんです。

危険性の程度が不確定、と言うのであれば、
最悪の状況を想定する事が必要なのではないでしょうか。
「最悪の状態を考えて行動するのが危機管理の基本だ」と言う事は、
前の記事でも何度も述べている事です。

日本の将来を担う、小さな子どもたちを守ることは、国を存続させるために必要です。
正に、大人の責任である、と言えます。
そのためには、現状のような、「屋内避難」といった、あいまいなことをせず、
乳幼児と妊婦については、半径30キロメートル圏内から安全なところに避難させる、
などの、思い切った対応が必要だと思います。

もうひとつ忘れてはならないのは、被ばくした子どもたちの追跡調査です。
今後どのような疾患が起こってくるか、いつ発症したかなどは、
長期的な疫学調査を行う以外にはありません。
しかし、一向にこのような調査を開始したという話を聞きません。
また、不幸にして、がんを発生した場合のがん登録なども、
都道府県単位で行われているのが現状です(行っていないところもあります)。
追跡には、どこに移り住んでも追えるような枠組みが必要ですが、
これも未整備と言ってよいでしょう。

今回の原発事故は、不幸な出来事です。
しかし、この事故で何が起こったか、そして将来何が起こっていくかという調査をし、
それを発表することは、今後の患者補償のためにも、
そして、世界の原子力開発に置いても、非常に重要な事です。

将来に向けて正確なデータを残すことは、危機管理の一つといえます。
失った命を無駄にしないために、そして、将来を担う世代を守るために、
政府と研究者は速やかに対応して欲しいと思います。

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2011年4月11日

原子力安全委員会の存在意義はどこに? ―御用学者は必要ない―

原子力安全委員会は1978年に原子力の安全体制を充実させるためできた、
専門家集団です。
現在の、原子力行政は、経済産業省原子力安全・保安院、文部科学省と共に、
原子力安全委員会が関わっています。
経産省、文科省には、原子力に関わる審議会があり、
所謂「専門家」と呼ばれる人たちで構成されています。

既に、専門家の集まりがあるにも関わらず、
なぜ、もう一つの専門家集団が必要かと言えば、
行政から独立した中立的な立場で原子力行政をチェックする、
という意味合いを持っています。
原子力安全委員会だけでなく、食品の安全について政府に意見を言うための
「食品安全委員会」というものもあります。
果たして、このような委員会は必要なのでしょうか。

本来の目的である「行政と一線を画し中立的な立場での専門家」
というのは必要な事です。
しかし、現実はといえば以下のような状態です。

原子力安全委員会。定例会議は週1回。委員は常勤の特別職公務員。
委員への報酬は年間約1650万円(月給93万6000円とボーナス)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E5%AE%89%E5%85%A8%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A
しかも、その議事録を見れば、「本当に必要なのか」と頸をかしげたくなる状況です。
http://www.nsc.go.jp/anzen/shidai/index.htm

原子力や食品などの安全を確保すべく立ちあがった委員会が、
なぜ、このような「開店休業」状態にあるのでしょうか。
それは、委員会が中立ではなく、
官僚たちの意向を代弁するために作られた組織だからです。

こうした委員会にはたくさんの人たちが働いています。
事務局のポストは官公庁からの出向です。
そうした中で、官僚たちの意向に反して異を唱える事が出来るかと言われれば、
難しいところがあります。
なぜならば、官僚たちは委員会のメンバーを牛耳るすべを持っているからです。

委員会のメンバーは、大学の教官が主です。
官僚たちは、こうした研究者たちに、研究するための費用(科研費)を、
誰に分配するかという裁量権を持っています。
つまり「お金を誰に、どれだけ与えるか」という事を決められるのです。
この、科研費配分を決めるプロセスは誰にも明かされていません。
つまり、官僚たちが秘密裏に行うのです。

「ホームページ等に、なぜこの人が選ばれたのか理由が書いてある」
という意見もあるでしょう。
しかし、理由づけなど後で何とでも出来る事です。
官僚の得意技は「文書を作成すること」にありますから、
何となく、もっともらしい文章にみな惑わされてしまうのです。
そして、結果的には、官僚の意に染まぬ研究者は排除されてゆくのです。

具体的な例を挙げれば、ある委員会のメンバーが、
事務局(官僚)が用意した筋書きに反対意見を唱えるとします。
委員の任期は、大抵2、3年程度です。
官僚にとって特に問題がない人材であれば、次も「継続」して委員任命されますが、
問題児は次回からは入れない、と言う事になります。
このような排除プロセスを繰り返す事によって、
一部の高級官僚の言葉を「専門家」として代弁してくれる「御用学者」が生まれ、
委員会は御用学者の塊になるわけです。

審議会の委員も、同じようなやり方で選ばれます。
こうなってくると、審議会と委員会と言う2つの専門家集団は、
どちらも官僚の言葉を伝えるイエスマンの塊と言う事が出来ます。

例えを少し日常的なことにしてみましょう。今回の震災でも多くの情報が流れました。
例えば放射性ヨードについても「イソジンをのめば大丈夫」という意見がありました。
イソジンにヨードが含まれています。
ヨードは甲状腺に取り込まれやすいので、
あらかじめ放射能を発しないヨードをたくさん摂っておけば、
有害な放射性ヨードが入る余地がない、という考えです。
これは「ヨードブロック」と呼ばれ、実際、医療現場で使われる事です。
私自身は特別な状況下以外は、イソジンを服用する必要はないと思っています。
ところが、「イソジンが効果がある」という噂が伝わると、
その真偽は別にして「効果があるかも」と信じてしまいがちです。
すなわち、言っている人が1人だけでなく、複数になると、人は納得してしまうものです。

専門家集団にしても同じような事が言えます。
つまり、審議会と委員会、という2つのグループが同じ事を言っているとしたら、
「その意見は正しい」と思うようになります。
それが如何に、科学的に間違っていたとしてもです。
何しろ、「専門家」と呼ばれる人たちが集まっているのですから、
普通は信じてしまうのではないでしょうか。
これが、官僚の手のうちです。

そんな事を、専門家たる人たちがすべきではない、という声が聞こえてきそうです。
全くその通りだと思います。
このような、御用学者だけが重宝されると
「正しい事を言っているが、官僚の意見と合わないもの」や、
「国益を考えて、反対意見を述べるもの」が排除されてゆくのです。

「これを読まれた方は、「本当にそんなことあるのか」と訝しがるかもしれません。
しかし、実際、私は厚労省で新しい審議会を立ち上げた事もあります。
委員を選ぶ際には、事前に「根回し」という事をし事務局が、
委員から発言して欲しい事に関して打ち合わせをします。
つまり、審議会自体が官僚の意見を通すためのセレモニーなのです。

また、科研費についても、分配担当の同僚のやり取りをよく見ていました。
科研費は、表向きは公募になっていますが、
実際は、既に厚労省の担当者が人を選んでおくのです。
そして、その人に「公募」という名目で科研費申請をさせるのです。
選ばれる人のほとんどが厚労省が内諾済みの、
「政策に反対しない」研究結果を出してくれる人たちなのです。


こうした仕組みは、早急に変える必要があります。
原発問題は、人の命に関わるものです。官僚を抑える事が出来るのは政治家です。
そして、その政治家を選ぶのは、国民です。
私たち一人一人が、この事実を認識し、
問題意識をもって政治家を選ぶ、という事が必要な事なのです。

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2011年4月2日

「遅れて」やってくるPTSD-「心の傷は生涯癒えないことがある」

3月11日、東北地方を襲った世界最大級の地震が発生してから、3週間が過ぎました。
けが等の目に見える障害とともに忘れてはならないのが、
被災を受けた人たちの精神的痛手です。

震災が発生した直後は、自分の住んでいた家を失ったり家族を亡くしたりといった、
予期せぬ出来事に対して、あまりのショックで「まさか、嘘だろう」といった、
現実を受け入れらない気持ちになります。
また、被災者自身も、「今度余震が来たら、今度は自分が命を落とすかもしれない」
といった死の恐怖に直面します。

心的外傷(あるいはトラウマとも言います。)という状態です。
体だけでなく、「心もけがをすることがある」と言えば分かりやすいかもしれません。

一方で、救助活動が活発になり、物資や寄付が各地から届くようになります。
メディアもこぞって報道をします。
被災者は、自分の置かれた状況にストレスを感じながらも、
こうした援助に対し、感謝の心を抱きます。
所謂、“ハネムーン期”と呼ばれる時期です。

しかし、援助に来た人たちも、いつまでも支援活動にたずさわれるわけではありません。
ボランティアはいずれ自分たちの仕事場に戻らねばなりませんし、
避難所も、永遠の棲家とはなり得ません。
また、メディアでも、被災地の報道が徐々に減っていく傾向にあります
(特に今回は、原発事故のことがありますから、なおさらです。)。
一般に、震災後1か月を経過しようとする時期から始まるのが、
“幻滅期”と呼ばれる時期です。
(今回は、あまりの被害の大きさのため、
ハネムーン期がもう少し長く続くと思いますが。)

みなさんは、PTSD(Post Traumatic Stress Disorder)をご存知でしょうか。
「危うく死ぬ、または重症を負うような出来事」を経験した後に起こります。
症状としては、強い不安や恐怖、イライラした気持ち、不眠、
そして、震災直後の状況がその時の恐怖心とともに生々しく記憶の中で蘇る、
フラッシュバックなどがあります。

なぜPTSDが問題かと言うと、震災のような重大な出来事の後、
1カ月以上経過してから発症し、人によっては長期化することもあるからです。
年単位で症状に苦しむ方もいらっしゃいます。

-「身体の傷は何カ月かで癒えるのに心の傷はどうして癒えないのか。
四十年前の傷がなお血を流す」 (ポール・ヴァレリー)

以前にもご紹介した精神科医の中井久夫氏
(阪神淡路大震災の当時の神戸大教授)は、
その著書で、ポール・ヴァレリーの詩を引用して、次のように述べています。
「心の傷は生涯癒えないことがある」

もうすぐ、大震災から1カ月が過ぎようとしています。
阪神淡路大震災の教訓を生かして
多くの精神科医たちが被災地に当初から入っています。
しかし、実際に現地で活動している精神科医たちからの話では、
人手が足りず、3次予防(震災前から治療中の精神科患者さんの悪化の予防)や、
2次予防(震災をきっかけに不眠、不安などを発症した患者さんの早期発見、早期治療)
に追われていて、1次予防(精神疾患が新たに発症しないよう予防すること。
今回は、PTSDなどの発症予防)には、十分に対応できていない、とのことです。

PTSDは、先ほど述べたように、震災後1か月を経過しようとする、
まさに今の時期に、顕在化してくる病気です。
「遅れて」やってくるのです。的確な対応や治療がされなければ、強いうつ病を引き起こし、
場合によっては、自殺等の悲劇的な結果を生むことさえあります。
これは、なんとしてでも防ぎたいところです。

しかし、PTSDに対応が出来る人手が絶対的に不足しているのが現状です。

精神科医でなければ、PTSDような重篤な精神疾患を予防できないのでしょうか。
予防できないにしても、病気をなるべく軽くすませることはできないのでしょうか。

そんなことはありません。災害時における精神科的なケアや対応については、
マニュアルが作成されています。
もし、精神科医が身近にいれば、話を聞いて、理解を深めることが得策ですが、
そうでなくても、以下のような文書が公開されています。

「心的トラウマの理解とケア 第2版」(じほう)
http://www.japan-medicine.com/jiho/zasshi/35433/k1.pdf
http://www.japan-medicine.com/jiho/zasshi/35433/k2.pdf
http://www.japan-medicine.com/jiho/zasshi/35433/k3.pdf

これをもとに精神科を専門としない医師、あるいは看護師はじめソーシャルワーカーなども、
被災者のPTSD予防に役立つ事が出来ます。
一般の方においても、被災者の方に接するとき何に注意すればよいのかについて知識を得ることで、
PTSDの予防に役立つことができます。

ただし、「いつ精神科医につなぐべきか」だけは、心得ていてください。
例えば、被災者の方が、
「自殺したい気持ちが強い」
「アルコールの量が増えている」
「食べ物を食べられないほど落ち込んでいる」
という事であれば、速やかに精神科医に紹介してください。

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2011年3月30日

where there is no will, there is no way (意志なきと​ころに道は出来ず)

被災地で活動していらっしゃる現場の方々に少しでも助けになればと思い、
以下のエピソードをご紹介します。



天然痘が流行していた当時、
天然痘根絶は、各国だれもが不可能だと考えていた事です。
天然痘を根絶させるかどうかは、僅差でWHA(世界保健総会)で可決されました。
初代WHO天然痘根絶対策部長はDAHenderson氏、2代目が蟻田功氏でした。

いかにWHAの承認を受けたとはいえ、反対も多く、
スタッフも満足にあてがわれませんでした。
そのため、天然痘根絶チームは、
既存のWHOの枠組みを超えた動きを余儀なくされました。
しかし、WHOと言えどもお役所、ある日蟻田氏は事務局長から呼ばれました。

「勝手な事ばかりして。すぐさまWHOを辞めろ!」

これに対して蟻田氏は答えました。
「わかりました。辞めましょう。しかし、それは天然痘を、地球上から根絶した時です。」

「いったいいつ出来るんだ?!」

「2年後です。」

僅か40人程度のスタッフを率いて、蟻田氏は、ソマリアの患者を最後に、
この世から天然痘患者をなくしました。
そして、WHOは1980年、天然痘根絶宣言を出したのです。
約束通り、蟻田氏はじめとする天然痘根絶スタッフは、WHOを去りました。

初代部長であるHenderson氏は、根絶後、
天然痘ウイルスを残す、というノーベル賞学者の意見に反対しました。
「ウイルスを残すことは、研究の重要性よりも危険性が上回る」という理由からです。
WHOは結局、ウイルスを残す事に決めたため、
Henderson氏はWHOと大喧嘩をしました。

私が、WHOに行きたいと言ってHenderson氏に推薦状を頼んだ時、
「僕が書くと、印象悪くなるかもしれないよ」と笑いながら言っていました。

その後、コリン・パウエル時代、保健省の最高責任者として君臨し、
現在、ピッツバーグ大学、バイオデフェンスセンターのご意見番として活躍しています。


このメールのタイトルにある、言葉を刻んだのは、
私の3人目の恩師である、GW Comstock博士です。
彼は、Henderson氏と親友でしたが、まったく違った生き方をしました。
BCGについての疫学研究に従事し、「BCGの効果は不明」として、
アメリカ政府にBCG導入を思いとどまらせた人物です。
長らくAmerican Journal of EpidemiologyのChief editorをつとめ、
最期ま で、「学生に教える時間が無くなる」事を理由に、
Johns Hopkins大学公衆衛生大学院長のポストを拒み続けた人です。
没後、現在でも彼を偲ぶ様々な行事が後を絶ちません。

私は、世界のビッグ・ガイを恩師に持ちました。

彼らたちから学んだことは、
「権力に屈することなく、国益あるいは世界にとって正しい事をすべき」と言う事です。

今、私がするべき事は、彼らたちから受け継いだ精神を、
後に伝える事だと思います。

国家を揺るがす、大きな打撃を受けた被災地の方々にとって、
恩師たちのメッセージが少しでも助けになれば、と願わずには居られません。


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2011年3月19日

日本政府の援助拒否ー危機管理の立場から考察する

米国で「日本に募金するな」といった報道がされ、
米国で地震の救済活動にあたっているNPO等では、ショックを受けています。
こうした報道がなされた背景には、「日本が援助を受け取ろうとしない」
という趣旨があるようです。
http://www.nytimes.com/2011/03/16/world/asia/16charity.html?_r=3&scp=1&sq=Japan%2C+Charity&st=Search

なぜ、このような事が起こるのでしょうか。
実際、我が国は人的にも物的にも大きな打撃を受けていますから、
金銭的な援助は大いに喜ぶべきではないか、と不思議に思う人も多いでしょう。

一つの原因として、今の予算の枠組みでは、
「想定外に国に入ってきたお金は、使えない」ということにあると、思います。

例えば、各国持ち回りで、国際会議が開かれたとします。
どの国も予算的に苦しいわけですから、参加国は、その負担をなくすため、
「参加費用」を支払う事にしました。
さて、ある年、日本での会議開催が決まりました。
この会議の予算は、あらかじめ、前年度に組み込まれてあります。
「明日、国際会議開きたいから、お金よろしく」と言う事は、まず出来ないのです。

会議の予算に関しては、会場代金、スタッフ、お茶代に至るまで事細かに計算されており、
その通りに使わなければなりません。
それ故、「参加費」という臨時収入は、貰っても、
国のお金(国庫金)として入れる事が出来ないのです。

予算は、主に国の税収によるものです。
いきなりビル・ゲイツが、日本国に「10億円寄付します」といっても、
民間団体は受け取れますが、国が「臨時収入があったから、すぐ予算の足しにしよう」
という、融通性がないのです。

今回の「日本に対する募金」についても同様の事が言えます。
つまり、国としては、「貰っても使えないお金」になってしまうからです。

予算は、「財政法」と言う法律に縛られています。
一度決めた予算の使い方を変えようと思うと、国会を通さなければなりません。
今回の震災のためのお金を、「子供手当ての上乗せ分」からまわす、
などという議論が起こっているのは、そのためです。

また、話は少し異なりますが、年度末になると、その年の予算を消化しようと、
特に緊急性のない出張や突貫工事が増える、というのも、
予算の使い方などの、融通の利かなさのためです。

つまり、予算とは、融通が効かない、お金なのです。
それは、国家の台所を扱うと言う意味では、当然のことと言えるかもしれません。

もし、今回の募金を日本が拒む理由として、今まで書いてきたような事が原因だとしたら、
予算の使い方、というロジスティックな問題に対応できていない、
すなわち「臨機応変」に対応する、という「危機管理」が出来ていないと言う事になります。
(参照 福島原発を、危機管理の立場から考察する vol.1  ,  同 vol.2
このような些細な事で、国際社会の批判を受けることは、
国益を考えた時、決して良い事ではありません。
緊急時に予算を動かしやすくするための法改正が、速やかに導入されるべきだと思います。
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2011年3月17日

福島原発を、危機管理の立場から考察する vol.2

アメリカ大使館が、「福島第一原発から、半径50マイル(約80km)圏内に居るアメリカ市民」
に対して、事実上の退去勧告を出しました。
この、80kmという数値は、アメリカ原子力規制委員会の勧告に基づくものです。
http://www.nrc.gov/about-nrc/radiation.html
すなわち、「核施設から50マイル半径内にいると、
平均1年間に0.01ミリrem(レム)の放射能汚染を受ける可能性がある」
というデータに基づいたものです。

日本では現在、放射線被ばく量の単位として、
Svが使われていますが、以前はremを使用していました。
1Svは、100remに相当しますから、Svになおすと、0.0001Sv、
つまり、0.1ミリSvの放射線を受けることになります。
これは、日本でも定められている、放射線被ばく量の上限です。

放射線量は核心からの距離の他、風向きや、天候によって左右されますから、
当然この値より低くもなり、高くなる可能性もあるわけです。

このデータに基づき、原発付近の人たちに対する対応を考えるべきだ、
というのは、前回のブログにも書いたとおりです。

さて、原発の状況を見る限り、決して楽観視できない状況にあります。
その最も大きな原因として、「誰も内部でなにが起こっているかわからない」
という状況にあるからではないか、と思います。

すなわち、政府の「一生懸命やっている」というメッセージだけで、
具体的なデータが殆ど示されていない状態なのです。
原発に関わっているのは、主に東京電力の職員たちですが、
彼らたちは、技術者ではあるけれども、所謂、原子力の専門家ではありません。
また、経済産業省にも、専門家集団がいるとは思われません。

前のブログで、危機管理の基本は、
(1)最悪の事態を想定し、(2)冷静に行動する、と書きました。
続けて、今回は、(3)臨機応変に行動する、事と、
(4)詳しいデータ収集、解析をし、後世の役に立てる
ということについて、論じたいと思います。


猫の目のように刻々と移り変わる状況下において、
既存のやり方が、通用しなくなることはしばしばあります。
それに気がつきながら、方向転換をしないと、「想定外」という人災を引き起こしかねません。
まさに、今の状況がそれに当たると思います。
東電と政府だけで、抑えきれない状況なのであれば、
それ以外に協力を求めることが重要です。
すなわち、状況に応じた柔軟な方向転換が必要だということです。
前回にも書きましたが、このような危機的状況では、自分たちの容量を超えたため、
他に助けを求めることは、決して恥ではありません。
逆にそれをしなくて、多大な被害を生じたとしたら、元も子もなくなります。


内外の専門家を招聘する必要性についても、前回書いたとおりですが、
海外の専門家を入れることにより、マンパワーが増え、
的確なデータが取れるようになります。
推察するに、現状下では、目の前にある出来事に対応するのが精いっぱいで、
政策決定の根拠となる、正確な情報が把握されていないのではないかと思います。
海外の専門家とは、所謂先進国の人たちばかりではありません。
日本のODAの助けで、欧米で学んだ開発途上国の人材は、世界のトップクラスです。
彼らたちをODAの一環として招聘し、技術的な支援を要請するとともに、
正確なデータをとり、それを分析して発表してもらう、というのは、
このような未曾有の危機にされされた、我が国だけができることです。

今回のデータをきちんと公表し、将来に向けての危機管理に役立てることが、
危機管理の大きな目的の一つと言えるでしょう。
このたびの震災で、被害にあわれた方、
尊い命を落とした方たちの犠牲を無駄にしないよう、
後世に役立てることこそ、私たちがしなければならないことなのですから。



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2011年3月16日

福島原発を、危機管理の立場から考察する vol.1

福島原発の状況について(危機管理の立場から)

福島原子力発電所は、1960年代に建設された、比較的古い施設です。
史上最大級と言う大震災において、
爆発等による放射能汚染が懸念されています。

福島原発については、メディアなどで様々な報道がされています。
そのため、危機感を抱いている人も多いと思います。
そこで、原発の状況について、危機管理の立場からまとめてみたい、と思います。

放射線は、自然界にも存在し、私たちは日常的に放射線をうけています。
問題はその量です。
なぜなら、多量の放射線を浴びることにより、健康被害をうけるからです。
放射線量はSv(Sievert)という単位が使われます。

多くの被ばく量を浴びると、様々ながんの発生が多くなります。
それ故、原子力発電をするための原子炉は、
何層もの頑丈なステンレス鋼で覆われています。

http://www.fepc.or.jp/learn/hatsuden/nuclear/genshiro/index.html

それでは、今回の震災における、原子炉のダメージによる、
放射線量はどれほどだったのでしょうか。
例えば、数日前に発生した、一時間当たり500マイクロSvと言うものでした。
これがどの程度の量か、と言えば、原発から20km離れたところでは、
一時間あたり、1.25マイクロSvくらいです。
もし、この地点に1カ月立ちつくしたとしても、国の安全基準である、
1年間に1000マイクロSv、という値には届かない事がわかります。
ちなみに、東京からシカゴに向けて10時間のフライトで浴びる放射線量は、
50マイクロSvです。

さて、3月15日、新たなる爆発とともに、
1時間当たり、400ミリSvという放射能被害が確認されました。
これは20Km離れたところでは、1ミリSvに相当します。
すなわち、瞬時にして、1年間に浴びる線量と同程度、と言う事が出来ます。
場所によっては、1年間に浴びる上限の10倍以上の被ばく量、と言えます。

そうはいっても、こうした線量を、毎日浴び続けると言う事自体は考えにくい事ですし、
現状では、受けたとしても、人生のある一時期の出来ごと、と言えるかもしれません。
そうなれば、それによって受ける健康被害は、特に重篤なものは予想されません。
報道で、「400ミリSvに惑わされるな」というのは、こうした理由によります。
http://www.kimuramoriyo.com/moriyotsubuyaki-medicine/20110314.html

しかし、危機管理の第一義は、「最悪の事態を想定する」と言う事にあります。
故に、これ以上悪くならない、と言う保証はないということです。
また、危機管理上の第二の掟は、「常に冷静に行動する」、と言えるでしょう。

こう考えると、「全く問題がない」という超楽観的な報道や、
「東電が1時間も官邸に連絡しない」といって怒りをあらわにしたり、
首相自ら、原発を訪れる、と言う事は、国民に対して、いらぬ不安を与える事になります。

政府と東京電力だけでこの事態をまかなえないのであれば、
国内、国外に向けて、専門家を要請することを、積極的に行うべきだと思います。
今回は、史上最悪の震災ですから、
世界的危機として、国外に援助を求めることは、恥ではありません。
むしろ、日本人特有の「身内の事」として処理してしまう事により、
「適切な危機管理対策を怠った」として、
国際社会から非難を受けることにもなりかねません。

日本は、ODA先進国として、国際貢献をしているわけですから、
その一環として、原子力関係の専門家を招へいする、という事も
十分可能な事だと思われます。

また、国内、特に原発付近の住民にとっては、
「今後どんな事が待ち受けているのか。政府はどうした対応をしてくれるのか」
という不安が大きくなっていると思われます。
繰り返しますが、危機管理の基本は、
「最悪の事態を想定し(1)、冷静に対応する(2)」ことにあります。

とすれば、もっとも悪い事態を想定し、念のため、
「特にとどまる理由のない人以外は、県外へ移動する」
という勧告を出しては如何でしょうか。
もし、仮に大げさな措置だったとしても、「政府はここまでやってくれるのだ」
という国民の安堵感をもたらすことにもなるでしょう。

実際、国によっては、「当面の間、関東からはなれるように」との勧告を出しています。
そのため、日本を離れる人たちも、私の周りにちらほら見かけます。
他国や他の地域に旅行に出かける人もいれば、自国に一時帰国する人もいます。
いずれも、特に大きなパニックはありません。

こうした取り組みは、「寝た子を起こすな」という、
日本の今までの考えとは、相反するものかもしれません。
しかし、これからも起こるであろう、国家の危機に置いて、
発想の転換が必要な時期に来ていると思います。



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2011年3月2日

活動を再開します

暫く体調を崩して休んでおりました。
この間、皆様方のご心配、励ましに力づけられました。本当にありがとうございました。
ようやく回復しましたので、ウェブの活動も再開しようと思っております。
今後とも宜しくお願いいたします。