2010年10月4日

HPVワクチンの公費助成にかかるもう一つの懸念

なぜそんなにHPVワクチンの導入を急ぐのか、
という問題については今まで様々な媒体で発信してきました。
今回は、その性急な活動に関する
新たな気がかりを問題提起したいと思います。

HPVワクチンの任意接種費用を助成する地方自治体数は、
2010年7月まではヒブワクチンの費用助成実施自治体数を下回っていたのですが、
現時点では逆転し、任意接種費用助成自治体数では
HPVワクチンがトップの座に躍り出たもようです。

長年、予防接種行政の改善を訴えてきた小児科医から見れば、
HPVワクチンの取り上げられ方は
その背景に十分な費用対効果等の検証も無いまま「極めて異常な増え方」であり、
お祭り騒ぎと揶揄されています。

HPVワクチン公費助成の費用対効果について、
地方自治体の大きな懸念の一つは、
接種した女児が、ワクチンの予防効果がでる10年、20年先に
地元に残っているかどうか分からないということです。
そうであれば、予防効果の有効性が確立されている、
ヒブや小児用肺炎球菌、水痘、ムンプスを進めたい、
と感じているところも少なくないようです。

このような効果判定の検討なしに助成に踏み切った自治体は、
遠くないうちに費用対効果を含めた成果を求められるでしょうし、
その段階で、その不適切な政策決定プロセスも含めて、
問題視される可能性もあります。
その場合、それ以降の任意接種ワクチンへの費用助成を
新たに起こしにくくなるというデメリットが残ります
(そもそも定期だの任意だのという考え方自体がおかしいのですが)。

我が国がワクチン後進国であることは、これまで書いてきたとおりですが、
科学的根拠に基づかないやりかたは、
早期に導入が必要な他のワクチンへも影響が及ぶことを考える必要があると思います。



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2010年9月30日

ワクチン導入の意義を厚労省は理解しているのだろうか

子宮頸がんワクチン概算要求、専門家が課題を指摘

 厚生労働省の来年度予算概算要求に盛り込まれた子宮頸がん対策は、予防ワクチン(HPVワクチン)の普及につながると評価する声がある一方で、「病気の根絶」という観点からは課題も指摘されている。国会議員向けに「子宮頸がん征圧をめざす専門家会議」が9月28日に開いた勉強会では、45%程度の接種率を想定している概算要求に対し、「社会全体の予防としては効果が低い」との見解が研究者から示された。

 厚労省の概算要求では、HPVワクチンの接種費用を補助する市町村に対し、その3分の1を国が補助する仕組み。要求額150億円は、市町村が行う補助事業について「補助対象は中学1年-高校1年の女児(約234.8万人)で、接種率45%」と想定して積算された。

 これに対し同専門家会議では、想定する接種率では集団免疫が十分に機能しないと指摘。概算要求の予算規模を変えないのであれば、▽対象を中学1年(約58.7万人)に絞る▽全額公費負担で無料化する-ことで、社会全体に予防効果が見込めるほどの高い接種率を目指すのが効率的だと提案している。

 この提案に基づき勉強会では、吉川裕之・筑波大産婦人科教授、今野良・自治医科大さいたま医療センター産婦人科教授、福田敬・東大大学院臨床疫学経済学准教授が講演。「一定の年代で接種率100%を狙うのが、世界共通の戦略」「医療経済学の面からも、(同専門家会議の提案は)経済性に優れる」「国費を投じるからには、最も無駄の少ないやり方を選ぶべきだ」などと述べた。

 同専門家会議議長の野田起一郎・近畿大前学長は、今回の予算要求を「大変ありがたい」と高く評価した上で、「ただし、われわれ専門家から見ると、いろんな問題がある。同じ金額を使うのでも、『ここをこう変えれば、もっと効果的なのに』という部分がかなりある」と語った。
医療介護CBニュース 9月29日(水)22時23分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100929-00000012-cbn-soci



HPVワクチンについての議論は、とりあえず振り出しに戻ったといえます。
すなわち、導入に関しては、有効性や社会的インパクト、
費用対効果などを検証が必要だということです。

日本はワクチンに関しては世界から取り残された途上国ですから、
追いつかねばなりません。
しかし、未だに、ワクチンは何のために使うのか、
という意味を理解していないのではないでしょうか。

個々の患者を対象にする臨床(みなさんが病院などで診て貰う)医学と
対比される物として公衆衛生(Public Health)があります。
公衆衛生は個々の症例ではなく、マスとしての国民全体の健康問題を扱います。
ワクチンには必ず副反応が伴いますが、
そのリスクを国民にとっての利益が上回った時に導入されるものです。
利益とは、ワクチンを打つことによってその病気に罹ることを防ぐ、というものです。
この概念は公衆衛生そのものです。
それ故、ワクチンは公衆衛生的ツールの代表と言うことが出来ます。


ワクチン政策は途上国だと書きましたが、
それは、其の国の公衆衛生行政が良くないことを示しています。

日本の予防接種にかかる法律をみてみればよくわかります。

予防接種法(1948年制定)第一章 総則 第一条
「この法律は、伝染のおそれがある疾病の発生及びまん延を予防するために、予防接種を行い、公衆衛生の向上及び増進に寄与するとともに、予防接種による健康被害の迅速な救済を図ることを目的とする」
となっていますが、ピントずれまくりです。
ワクチンに副反応は必発(程度の差はあれど)なのですから、
その救済が接種法の目的になること自体おかしいのです。

ちなみにWHOはワクチン行政について、
「ワクチンで予防可能な疾患(Vaccine Preventable Diseases)は、ワクチンで予防する」
と、極めてわかりやすくシンプルな表現です。

HPVワクチンは良くも悪くも国民の関心を引いたワクチンです。
ですから、これを機に日本のワクチン政策が正しく進むステップとすべきです。
現実的な話では、世界で広く使われている4価のワクチン(万有のガーダシル)の認可を待ち、
議論する必要があるでしょう。
ガーダシルは、HPV感染だけでなく尖形コンジロームなど、
他の性感染症を予防する効果も期待されているワクチンですから、
ワクチンを打つ本人がどちらかを選ぶ、
という選択肢があっても然るべきだと思います。


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2010年8月31日

HPVワクチン騒動 vol.4 -政治とマスコミ主導でのワクチン導入についての疑問-

http://healthpolicyandreform.nejm.org/?p=11935&query=home
HPV Vaccination Mandates — Lawmaking amid Political and Scientific


2010年8月18日発行のThe New England Journal of Medicineで、
米国におけるHPVワクチン義務接種に関する記事があります。

アメリカでは、2006年に認可された4価のワクチンを、
11~12歳女児に打つことを勧めています。
接種する人が増えるためには、
学校での義務化が一番手っ取り早いのですが、
義務化は良いのでしょうか。問題は無いのでしょうか。

2010年2月の時点では、
小学校から中学へ入学する時点で全員接種を掲げているのは
バージニア州とワシントンD.C.の2つだけです。
バージニア州では、HPVワクチン接種を希望しなければ
辞退することができます(opt-outといいます)。
国としてワクチンを推奨しているのに、
その義務接種をしていない州が多いのか、
という原因を調べたのがこの論文の主旨です。

2008年8月から2009年9月の間に、
カリフォルニア、インディアナ、ニューハンプシャー、
ニューヨーク、テキサス、バージニア州の関係者73人について
45-60分面接するという調査がされました。
その結果としていくつかの原因が浮き上がってきたのです。

第1に、HPVワクチンはが新しいワクチンであり、
全員に打つことを義務化する前に、もっと時間をかけたデータをとり、
安全性を確立する必要がある。
また、市民もHPVワクチンの内容や効果、必要性などについて
理解していない点が多く、もう少し丁寧な説明をするべき、
といった指摘です。

第2に、性感染症としてのHPVの位置づけです。
HPVワクチンが義務化となれば、HPV感染がどうして起こるのか、
ワクチンを何故うつのか、といった問題を
保護者が理解する必要があります。
これと同時に子供達への説明、話し合いもしなければなりません。
しかし、11~12歳というのは、
性行為に関して話を受け入れられるかどうか、という微妙な年齢です。
また、そうした話をするのは早いと考える親もいるでしょう。
HPV感染が性行為による感染症である限り、
センシティヴな問題をはらみ、いきなり中学出るまでに必須!
などという議論は如何なものか、という問題点があります。

HPVワクチンが義務化されれば、
sex=感染症という考えがインプットされ、
所謂純血主義(性行為自体に対する極度な恐れ)が
はびこる可能性もありますし、
逆に、ワクチンさえ打っていれば、コンドームを付けなくても
性感染症にうつらない、という無防備さも生むことにもなります。


第3に、製薬会社の関与です。
アメリカではHPVワクチンを製造している会社が、
ワクチン政策に介入している問題が指摘されています。
具体的には、全員接種できるような法案を通すべく、
政治家に対して製薬会社が働きかける、ということです。
こうした動きにはお金も絡んできますから、
国民とすれば不快感を持つのは当然のことです。

第4に、経済負担の問題があります。
アメリカで、HPVワクチンを3回うつと320ドルと、
他のワクチンよりかなり高いです。
日本の場合、この高額なワクチンを公費助成にすることを謳っていますが、
一体、費用対効果分析はきちんとためされているのかと疑問を持ちます。

今回アメリカで使用されるワクチンは、
HPV6・11・16・18という4価のワクチンです。
欧米では16と18型が多いのですが、
欧米型ワクチンが日本人にとってどれだけ有効か、
という包括的なデータはまだ出ていません。
HPVワクチン騒動 vol.1  参照

我が国のワクチン行政が他の先進諸国に比べて
大きく立ち後れていることは、
前にも書いたとおりですが(日本と欧米諸国のワクチンギャップ 参照)、
その導入が、声の大きい人や利害関係のあるなしで決まってはならないと思います。
欧米でも、政治家を巻き込んだ動きがあることは、
正にこの論文が示しているところです。
しかし、あまりに政治的な動きになりすぎると、
学術分野からの牽制が入るのが通常です。
それがこの論文の意図でもあります。

ワクチン導入に関しては、有効性や費用対効果、
社会的重要性など多方面からの議論が必要です。
そのためには、基となるデータが必要であり、
議論する専門家が必要です。
日本には、専門家集団がいないことが大きな問題です。
それは、必要なデータをとるための疫学調査を行うときに、
国は本当の専門家である人でなく、
自分たちの意に叶う人たち、すなわち御用学者に研究費を与えるからです。
これでは優秀な頭脳は海外に流出してしまいます。

ワクチンは公衆衛生学的ツールの代表です。
ワクチン行政が脆弱なのは、
その国の公衆衛生行政がうまくいっていないことを示しています。
感情論や、扇動的な動きでなく、科学的根拠を基に
ワクチン導入は行うべきだ、ということを繰り返し申し上げたいと思います。


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2010年8月25日

HPVワクチン騒動 vol.3 -科学的根拠を基にワクチン導入は行うべき-

子宮頸がん対策実現を求め超党派集会、議員連盟結成へ松氏が代表呼び掛け人
 ワクチンへの国費助成など、子宮頸(けい)がん予防対策の実現に向けた超党派国会議員の緊急集会が6日、国会内で開かれた。公明党の松あきら副代表(参院神奈川選挙区)を代表呼び掛け人に開催。与野党から約40人が参加し、議員連盟を結成する方針を確認した。

 次の臨時国会での予防法成立を目指す。出席したのは民主党の桜井充政調会長代理、自民党の松本純副幹事長(衆院比例南関東)、みんなの党の川田龍平政調会長代理ら。松氏は「生命にかかわる問題であり、党派を超えて取り組みたい」と呼び掛け。桜井氏は「子ども手当見直しにつながる最適な現物支給政策」などと推進を表明した。

 また、闘病体験を持ち選挙戦で同がん対策充実を訴えてきた三原じゅん子氏(参院全国比例、同党川崎市連所属)は「この病気から若い世代をはじめとしたすべての女性を救いたい。それこそが真の少子化対策だ」と決意を表明した。

 集会では自治医大の鈴木光明教授、日本医師会の今村定臣常任理事が予防対策のポイントなどを解説。闘病体験を語りつつ予防啓発運を進めている女優・仁科亜季子氏が寄せたビデオメッセージも披露された。

2010年8月6日 カナコロ



今までいくつかHPVワクチンについての記事を書きましたが、
HPVワクチンの流れがおかしな方向に進んでいるのではないか、
と危惧しています。
それは政府でその有効性と優先順位を議論せず、
一部のマスコミや政治家などによるお祭り騒ぎによって、
ワクチン公費助成が叫ばれているからです。
厚生労働省ではHPVワクチン公費助成のため150億円予算請求します。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100817/plc1008170928006-n1.htm



HPV(Human Papilloma virus)は子宮頸がんの患者には100%存在します。
HPV感染を予防するのがHPVワクチンです。
しかし、子宮頸がんの原因は複数存在します。
単独で影響があるといわれている原因(危険因子)はたばこである、
という報告があります。
その他にも人種差、遺伝、食生活など様々な原因があるのです。
HPVはその中のひとつであり、HPV感染を抑えたからと言って、
子宮頸がんの死亡率が低くなるかは未だ明らかになっていません。
同タイトルvol.1参照

この理由から、私は子宮頸がん(予防)ワクチン
というのは誤った呼び方であると思います。
本来はヒトパピロマウイルス(HPV)感染予防ワクチンと呼ぶべきでしょう。
私はHPV感染予防に関して積極的に反対してはいません。
むしろ、どれだけインパクトがあるかは別として、
性交渉を経験していない女性に対しては接種を進めても良いと考えています。

問題はその進め方です。ワクチンには必ず副反応があります。
稀ですが重篤な副反応では命をおとすこともあります。
そうしたリスクをおかしても、国民や世界人口という集団を、
病気から救うという、公衆衛生の代表的ツールです。

日本はワクチン対策において、先進諸外国から大きく立ち後れています。
これは我が国の公衆衛生インフラが脆弱であることを
如実に示しています。
遅れているものは進めなければなりません。
海外では接種されているのにもかかわらず、
日本では導入の目処すら立っていないワクチンは数多くあります。
その導入についてある特定のワクチンを、
科学的検証無しに優先させる事はおかしいのではないでしょうか。

例えば、細菌性髄膜炎菌(Hib)ワクチン、
IPV(ポリオ不活化ワクチン)、
肺炎球菌ワクチン、
HBV(B型肝炎ワクチン)など、
疾患に対する予防効果が認められ、
世界の多くの国々で使われながら日本では使われておらず、
導入にむけて早急に議論する必要があるものです。

病気のインパクトを子宮頸がんとその他の病気と比べてみましょう。
細菌性髄膜炎に罹ると、後遺症を残す例が10~20%、死亡率が2~3%です。
5歳未満の発症が多く、この年代に限れば、
700人の患児の中で、15~20人が死亡することになります。

B型肝炎は日本に100万人以上の感染者がいると言われます。
感染者の10%程度が慢性肝炎になり、
慢性肝炎から肝細胞がんなどを発症して死亡する例が0.4%程度です。
細菌性髄膜炎にしてもB型肝炎にしても、幼児期のワクチン接種が有効です。

これに対して子宮頸がんはどうでしょうか。
性交開始後に約60%がHPV感染し、90%は自然治癒(消失)します。
残りの10%のうちの一部が、20年くらいかけて
扁平上皮(子宮頸)がんになります。
最終的に子宮頸がんになるのはHPV感染した女性の
0.1%程度と報告されています。

この数字を見る限り、
HPVワクチンがHibワクチンやHBVより先行して導入される理由は
見つかりません。

また、がんの一つの種類に特化して法律を作り
政策が決定されていくというプロセスもおかしなものです。
他のがんに対してはどうして同じように扱わないのでしょうか。
HPVワクチン導入に関する一連の流れをみる限り、
予防接種、がん対策といった、国の公衆衛生に対する
認識の欠如による結果ではないでしょうか。

有効なワクチンによって最も利益を得るのは子供達です。
政府は「Children first」を謳っているのですから、
次世代にとって最も恩恵を受ける政策決定をしていただきたいものです。
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2010年7月29日

たばこに甘いニッポン

厚労省は1999年当時、2010年までに喫煙人口半減という見通しを発表したが、これまでわずか7%減にとどまっている。
日本では毎年10万人超が喫煙関連疾患の合併症で亡くなり、英国のデータでも入院を必要とする疾患の40%がタバコに起因している。
医療経済研究機構が1999年度のデータに基づいた試算では、喫煙関連疾患による経済的負担(約7兆円)は、タバコ税収(約2兆円)をはるかに上回る。5兆円の損失ということになる。
先進国の大半は喫煙によるリスクとタバコの宣伝に対して厳しい姿勢を取っている。日本はWHOのたばこ規制枠組み条約(FCTC)に調印、批准したにもかかわらず、価格は先進国で最も低く、欧州の半分から四分の一。日本はFCTCに沿った行動を起こすべきだ。

日本経済新聞 サノティス・アベンティス日本社長(当時)フィリップ・フォシェ
2007年12月4日 夕刊5面掲載




たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約
(WHO Framework Convention onTobacco Control:略称WHO FCTC)は、
たばこを直接吸うことにだけでなく、
副流煙の被害をへらすことを目的とした条約です。
2003年5月21日に世界保健機関(WHO)
第56回総会で全会一致で採択され、
2005年2月27日に発効となりました。
この条約締約国は、たばこ消費の削減に向けて、
広告・販売への規制、密輸対策が求められます
(外務省による日本語訳あり)。
http://www.tbcopic.org/signature/

なぜこんなにたばこが問題視されるかというと、
たばこはがん、脳血管障害、心臓血管障害など
様々な健康被害をもたらすことが分かっており、
公衆衛生学的に大きな脅威だからです。
公衆衛生という概念は国や世界を病気から守るというものです。
たばこによる死者は毎年10万人以上というのですから、
社会的に大きな影響を与えていることがわかります
(2007年の死亡総数は1,108,334人)。

たばこは税収増加になるという意見もありますが、
労働力低下や医療費などによる7兆円の経済損失は
2兆円のたばこ税収を差し引いたとしても、5兆円のマイナスとなります。
これが毎年積み重なるわけです。

日本の大きな特徴として、
男性の喫煙率が年々低下しているのにもかかわらず、
女性の喫煙率が高くなっているということです。
http://www.health-net.or.jp/tobacco/product/pd100000.html
特に、20代、30代の若い世代の女性が
毎年約10%程度増えているのです。
1965年と比べるとなんと4倍となっています。
このような先進国の例を私は知りません。

女性の喫煙は、不妊や奇形児の確率を増加させることが
報告されていますから、
日本の少子化を助長する要因としても、
非常に重要です。

近頃、HPV(Human Papilloma virus)ワクチンの接種がさけばれていますが、
HPVウイルスの感染を予防することが、
どの程度子宮頸がんの死亡を減らすかは、
はっきりとは分かっていません。
※ HPVV(子宮頸がんワクチン)公費助成とワクチン行政 参照)
ワクチン接種に関しては、異を唱えるつもりはありませんが、
たばこが子宮頸がんを増加させるという報告も出されている中で※、
たばこを吸いながらHPVワクチンを受けに行くのは
本末転倒という気がします。
 
たばこは国際的に、大麻と同列にランクされている麻薬です。
日本は、大麻を厳しく取り締まるのに対し、
たばこに対して非常に甘い国です。
「たばこは有害物質である」という認識の欠如は、
厚労省の対策に反映されています。
FCTCに批准しているのですから、
それに見合った喫煙対策をする国際的義務があります。

消費税をあげるよりも、たばこ税を年10%増加させる、
という議論がまずなされるべきでは無いでしょうか。

※Kapeu AS, Luostarinen T, Jellum E, et al
Is smoking an independent risk factor for invasive cervical cancer?
A nested case-control study within Nordic biobanks.
Am J Epidemiol, 15;169(4):480-8, 2008


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2010年7月21日

Homœopathyに関する問題

「ビタミンK与えず乳児死亡」母親が助産師提訴

 生後2か月の女児が死亡したのは、出生後の投与が常識になっているビタミンKを与えなかったためビタミンK欠乏性出血症になったことが原因として、母親(33)が山口市の助産師(43)を相手取り、損害賠償請求訴訟を山口地裁に起こしていることがわかった。
 助産師は、ビタミンKの代わりに「自然治癒力を促す」という錠剤を与えていた。錠剤は、助産師が所属する自然療法普及の団体が推奨するものだった。
 母親らによると、女児は昨年8月3日に自宅で生まれた。母乳のみで育て、直後の健康状態に問題はなかったが生後約1か月頃にし、山口市の病院を受診したところ硬膜下血腫が見つかり、意識不明となった。入院した山口県宇部市の病院でビタミンK欠乏性出血症と診断され、10月16日に呼吸不全で死亡した。
 新生児や乳児は血液凝固を補助するビタミンKを十分生成できないことがあるため、厚生労働省は出生直後と生後1週間、同1か月の計3回、ビタミンKを経口投与するよう指針で促している。特に母乳で育てる場合は発症の危険が高いため投与は必須としている。
 しかし、母親によると、助産師は最初の2回、ビタミンKを投与せずに錠剤を与え、母親にこれを伝えていなかった。3回目の時に「ビタミンKの代わりに(錠剤を)飲ませる」と説明したという。
 助産師が所属する団体は「自らの力で治癒に導く自然療法」をうたい、錠剤について「植物や鉱物などを希釈した液体を小さな砂糖の玉にしみこませたもの。適合すれば自然治癒力が揺り動かされ、体が良い方向へと向かう」と説明している。
 日本助産師会(東京)によると、助産師は2009年10月に提出した女児死亡についての報告書でビタミンKを投与しなかったことを認めているという。同会は同年12月、助産師が所属する団体に「ビタミンKなどの代わりに錠剤投与を勧めないこと」な
どを口頭で申し入れた。ビタミンKについて、同会は「保護者の強い反対がない限り、当たり前の行為として投与している」としている。
(2010年7月9日 読売新聞)



Homœopathyとは、代替的治療薬を用いるもので、
1796年、ドイツ人医師SamuelHahnemannが提唱したものです。
今回の記事は、通常新生児に与えるべきビタミンKを与えず、
remediesと呼ばれる薬を投与したために、乳児が死亡したというものです。

ビタミンKは、血液を固めるために必要な成分であり、
骨の代謝にも関わる大切な物質です。
ビタミンKは大腸に常在する細菌から生成されますが、
新生児はそれを作る力が弱いので、
ビタミンK欠乏症になりやすいと言われています。
母乳だけを与えた場合、生まれてから1週間のうちに、
0.25-1.7%の新生児(10万人対2-10人)が
VitaminK欠乏になるという報告があります。
このため、0.5-1.0mgのビタミンKを含んだシロップを、
生まれてからなるべく早いうちにのませるよう、
アメリカ小児科学会の勧告が出されています。

ビタミンKが足りなくなると、血が固まりにくくなりますから、
出血をおこしやすくなります。
今回のように、頭に出血が起こると、意識障害、発達障害などが起こったり、
死亡することがあります。
これはシロップ一つで防げるわけですから、
そのシロップを与えないというのは重大な問題です。

Homœopathyに関する研究は数多くなされていますが、
その有効性は確立されていません。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1874503/?tool=pmcentrez
http://www.jclinepi.com/article/S0895-4356(99)00048-7/abstract
これらの結果を受けて、イギリスNHS(National health Service)では
2010年2月、homœopathyを国民医療保険から外すことについて、言及しています。
http://www.parliament.uk/business/committees/committees-archive/science-technology/s-t-homeopathy-inquiry/

日本ではplacebo(偽薬)と remediesの有効性を比較するための
大規模RCT等は行われていませんが、
厚労省はhomœopathyを代替医療の一つとして容認したスタンスをとっているようです
(2010年1月28日の予算委員会で長妻厚労相がホメオパシーに言及しています)。
人間の自然治癒力を高める、ということ自体は十分理解できる事です。
しかし、B型肝炎carrierの母胎から生まれる児へのワクチン接種のあり方など、
Homœopathyに関わる事例は今後も増えてくるものと思われます。
厚労省は早急に問題点を把握し、調査研究も含めた対処をする必要があると考えます。


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2010年7月15日

口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.8 公衆衛生の概念無きFMD対策

農水相が殺処分の代執行検討 宮崎県が応じない場合 口蹄疫

 宮崎県の口蹄(こうてい)疫問題で、県が特例で救済を求めている民間の種牛6頭について、東国原英夫知事は13日、東京・霞が関の農林水産省で山田正彦農水相と会談し、6頭の救済を改めて要請した。農水相は殺処分が必要との姿勢を崩さなかった。農水相は会談後、14日にも6頭を殺処分するよう、地方自治法に基づく是正指示を出すことを明らかにし、応じない場合は、国が代わって殺処分する「代執行」の手続きに入ることを表明した。

 総務省によると、国による都道府県の行政行為の代執行は「前例がない」という。代執行には裁判が必要で問題が長期化すれば、県の復興にも影響を与えそうだ。

 農水相は会談後の会見で「非常に多くの犠牲を払っており、例外を認めるわけにはいかない。今後、より強いウイルスが来るかもしれず、国家的危機管理ができなくなる」と述べた。

 一方、東国原知事も農水省で会見し、「目視検査で6頭には感染疑いはなく、現在、蔓延(まんえん)の危険性はないと判断している」とし、国が遺伝子検査を実施して安全性が確認されれば、殺処分は必要ないと主張した。

 農水相が「県に危機意識が足りない」と述べたことについては、国も口蹄疫に対する法整備を進めてこなかったなどとして、「的はずれな指摘」と反論した。

 農水省は6頭が殺処分されない限り、16日に予定されている発生集中区域での家畜の移動制限を解除しない方針を示している。

7月13日19時13分配信 産経新聞




FMDにおける殺処分は、明らかに感情論になっています。
今までにFMDに関する記事を書いてきましたが(同タイトルvol.1~)、
殆どの牛は回復し、肉を食べても問題ない、
人には罹らない病気に対して何故、どうして殺処分に固執するのか、
そして、10年前に様々な研究や意見がなされてきたこの問題に関して、
何の議論も起こらないのか、とても不思議に思います。

オランダ政府は、6月28日にFMD流行時の殺処分は今後一切行わない事を明言し、
その代わりに緊急のワクチン接種を提案しています。
この流れはオランダのみならずEU全体の流れとして進んでいます。
http://www.warmwell.com/euwpmay112010.html
 

殺処分が行われるようになったのは1940年代に入ってからです。
それまでは自然に治るまで放置されてきました。
何故殺処分が行われるようになったのか
はっきりしたことは分かりませんが、
その有効性については議論があります(同タイトル vol.2)。

殺処分だけでなく、何かの政策が有効である
(例えば、H1N1豚インフルエンザ騒動における水際対策)ことを証明するには、
その政策を行ったときと、行わなかった場合を同時に進行させて、
どちらが良かったかを比較する必要があります。
比較する物差しは、死亡率であったり、病気の起こった数であったりしますが、
必ず、比較する対象が必要です。

私たちは日常生活の中で、様々な比較を言葉にします。
例えば、「私は太っている」と言ったとき、
標準体重とか、ある特定の人に比べて太っているのか、
という対象が必要です。
それが無ければ、「私は太っていると、自分で思う」だけに過ぎなくなります。


公衆衛生(public health)とは、
国家国民に関する健康問題を考える概念です。
その証拠作りをするのが疫学(epidemiology)という学問です。
上に挙げた、水際対策は有効であるのかどうか、
FMDにおける殺処分は有効かどうか、といった問題も
疫学的に解決するべき問題です。

欧米では、公衆衛生大学院があり、
疫学部だけでなく、政策学部や、国際保健、基礎研究など、
公衆衛生に関わる問題について包括的に研究されます。
そこでのデータを基に国は政策を決定するわけですから、
公衆衛生大学院は政治的にも大きな力を持ちます。
研究する人の職種は多種多様です。
医師、歯科医師、獣医師、看護師、行政関係者、軍関係者、法学専門家など、
数え上げればきりがありません。

日本には欧米並みのレベルを持った公衆衛生大学院がありません。
公衆衛生学部は医学部の一角にあり、
細々と動物実験を行っているところが殆どです。
しかし、本来は、個体を使った大がかりな研究(疫学研究)をしない限り、
データを得ることは出来ません。

豚インフルエンザにしてもFMDにしても、
「この方法は効果があると思う」という域を超えないまま
政策決定がなされていると言えるでしょう。
その大きな原因は、政府に根拠を示すシンクタンク、
すなわち公衆衛生専門家集団が不在だということにあると思います。

科学的根拠に基づかない政策決定は、右から左へとぶれまくります。
「水際対策で新型インフルエンザを日本には入れない!」
と叫んでいたにもかかわらず、
入ってしまえば、「水際対策は国内流行を遅らせる効果があった」と
何の根拠も無しに論調を変えることからも伺えます。

このような思いつきや、思い込みで政策決定がされた場合、
もっとも困るのは国民です。
今回のFMD流行においても、
現在だけでなく将来的に大きな損失を残すのは紛れもない事実です。

専門家がいないのであれば、海外から呼び至急議論をすることが必要です。
感染症は今後もやってきます。
感染症から国家国民を守るためには、
感情論でも推論でもなく、科学的根拠に基づく政策決定であることを、
政府も国民も気がつくことが必要でしょう。

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2010年7月7日

HPVワクチン騒動 vol.2 -HPVV(子宮頸がんワクチン)公費助成とワクチン行政-

<参院選>子宮頸がん予防ワクチン、助成公約相次ぐ

若い女性に増えている子宮頸(けい)がんの予防に有効とされるワクチンが昨年承認されたのを受け、主要各党が接種の公費助成を参院選公約に打ち出した。背景には、ワクチンが保険適用外のため計5万円程度(接種3回分)が自己負担となる現状がある。一方、昨年の衆院選公約で「子宮頸がんに関するワクチンの任意接種を促進」と唱えた民主党の参院選公約から子宮頸がんの言葉が消え、患者団体などに落胆が広がっている。【坂本高志】
  埼玉県川越市の穴田佐和子さん(37)は29歳の時に子宮頸がんを告知され、全摘手術を受けた経験から、05年に患者のためのサポートグループ「らんきゅう」を設立。今年5月、「公費助成推進実行委員会」などがワクチン接種の公費助成を求める要望書を民主党に提出した際、穴田さんも同席した。
  しかし、参院選公約では、現行1万3000円の「子ども手当」の上積み分を、「ワクチン接種への公費助成」などの現物サービスに代えられるようにするとの内容で、衆院選時に明記された子宮頸がんは消えていた。
  同実行委共同代表の土屋了介・元国立がんセンター中央病院長は「ほとんどの先進国で公費助成がなされている」と指摘。穴田さんは「目先の財源とかではなく、女性の命を守る政策を実行してほしい」と願う。
  一方、自民党の公約は衆院選時にはなかった「子宮頸がん予防ワクチンの定期接種も含め感染症予防を推進」が登場。子宮頸がんにかかった経験を持つ女優の三原じゅん子氏(45)を比例代表に擁立するなど、積極姿勢に転じた。
  公明党も公費助成を提唱。5月には「子宮頸がん予防法」を参院に提出(廃案)するなど、前向きに取り組んできた実績を放映中の政党CMでPR。社民党は「接種費用の軽減」を、共産党も「国の予算による定期接種化を実現」とうたう。
  ほかの主要政党の公約には接種の助成などへの具体的言及はない。ただし、みんなの党は自民党衆院議員時代に自公の「ワクチン予防議連」事務局長だった病院理事長、清水鴻一郎氏(64)を比例で擁立。清水氏は接種無料化を訴える。
 
【ことば】子宮頸がん
  子宮の入り口付近にできる。主に性交渉でヒトパピローマウイルス(HPV)に感染して起き、性交渉の経験がある女性の8割が少なくとも生涯に一度はHPVに感染するとされる。日本では年間1万5000人前後が発症し、3000人前後が死亡していると推計される。予防ワクチンは100カ国以上で承認されており、100種類以上の型があるHPVのうち、発症原因の7割を占める二つの型の感染を防ぐ。一定の助成をする市区町村は130程度(6月現在)。

7月5日11時39分配信 毎日新聞





我が国はワクチン行政が最も遅れた先進国です。
ワクチンには必ず副反応が伴い、
稀に重症な後遺症を残すこともあります。
しかし、そのリスクを鑑みても、
ワクチンは国民全体にとって利益がある場合に使う、疾病予防の手段です。
公衆衛生とは、国民というマスの健康問題を考えることですから、
ワクチンはまさにに公衆衛生のツールと言うことができます。


子宮頸がんの患者全てには、
HPV(Human Papilloma Virus)が存在します。
HPVV(Human Papilloma Virus Vaccine)というのは、
このウイルスからの感染を予防するために作られたワクチンです。
HPVVはウイルスに感染していない15-25歳の女性には
効果があるというのが現在までの研究結果の総括です。
(参照:子宮頚がんワクチンをどう扱うべきか?
 

HPVVが子宮頚がんの死亡率を何処まで下げるという事については、
はっきり分かっていません。
それは、HPVの他にもがんの原因はあり、
まだ分かっていない要因も数多く存在するからです。
また、上記の研究はアメリカで行われたもので、
日本人に有効かどうか、といった調査も十分とは言えない、
というのも事実です。

確かに、子宮頚がんの1原因である
HPV感染予防がワクチンでできる、
という事は画期的なことであることは確かです。
そして、効果的なワクチンであれば公費で負担する、
というのは当然のことだと思います。

しかし、日本のワクチン行政は、
他の先進諸国と比べて大きく立ち遅れています。
副反応に対する補償なども十分ではありませんし、
ワクチンの有効性を調べるための大規模疫学研究を行おうにも、
極めて難しい状況にあります。
これは、国が公衆衛生の概念を持ち合わせていないからです。

確かにHPVVは社会的インパクトの高いものであります。
しかし、他国では公費で導入されているけれど、
日本では公費負担がされていない、
極めて有効なワクチンが他にもあります。
細菌性髄膜炎菌ワクチン(Hibワクチン)がその代表例と言えるでしょう。 1) 2)
 
また、ワクチンからの感染が問題となっている
OPVからIPV※への切り替えも早急にしなければならない課題の一つです。
また、B型肝炎ワクチンの乳幼児接種も大切です。
 ※2種類のポリオワクチン
 OPV(Oral Poliovirus Vaccine)…生ワクチンで口から接種
 IPV(Inactivated Poliovirus Vaccine)…不活化ワクチンで注射
 (参照:日本と欧米諸国のワクチンギャップ)   

 
HPVVだけを持ち上げれば、
社会的に必要なワクチンが取り残されてゆく可能性があります。
それ故、ワクチン一商品至上主義的な取り上げ方には問題を感じます。

それよりも、ワクチンインフラ整備の早期徹底を
政権公約の議論として盛り立てて欲しいと思います。



=参考文献=
1)
Teare EL, Fairley CK, White J, et al
Efficacy of Hib vaccine.
Lancet, 17;344(8925):825-9, 1994

2)
Madore DV
Impact of immunization on Haemophilus influenza type b disease.
Infect Agents Dis. 5(1):8-20, 1996


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このひまわりの名前は「ゴッホのひまわり」。ひまわりには沢山の種類があるのです。


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2010年7月5日

口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.7

さらに1~2件発生の可能性=口蹄疫で山田農水相

山田正彦農林水産相は5日、宮崎市で口蹄(こうてい)疫に感染した疑いのある家畜が約半月ぶりに見つかったことについて「人と物の流れは阻止できない。(新たな発生は)やむを得ない」との認識を示した。その上で「まだウイルスが家畜の排せつ物などにいる。どこで起きてもおかしくない。終息までに(さらに)1~2件の発生も考えられ、決して気を緩めてはいけない」と強調した。省内で記者団の質問に答えた。
 一方、ワクチン接種に同意していない農家に対して、口蹄疫特別措置法に基づいた強制的な殺処分を検討していることに関し「考えなければいけないという見解は変わらない」と述べ、引き続き検討する姿勢を示した。 
7月5日17時57分配信 時事通信



宮崎でFMDの牛が見つかり、
再び移動制限等が行われる事となりました。
今まで、FMDに関しての記事を書いてきましたが、
FMDとはどんな病気なのかをまとめたものをもう一度読んでいただき、
その上で他国の対応の変化から日本の対応について考えてみませんか。


【FMDの特徴】 
1.蹄が2つに割れている動物に罹る、感染力(他にうつす力)が強い感染症
2.牛の成体の場合、死に至ることは殆ど無く、通常動物は2週間程度で回復する(豚は牛よりも致死率高い)
3.罹った動物の他、carrierと呼ばれる生物や風等、不特定多数によって伝搬されるため封じ込め不可能
4.人にうつったという報告はない
5.感染した動物を食べても人には影響ない
6.治療法はない
7.ワクチンは100%の効果無し
口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.5より)


FMDに罹った動物は痩せて、商品価値がなくなると言われていますが、
1922-24年にイギリスでの流行の際、FMDに罹った牛を介抱し、
1923年のRoyal Showでその牛を優勝させた
Charles Clover 氏の業績があります。
(“ Old cowmen’s cure served duke’s
pedigree herd”, The Daily Telegraph 12-3-01,p6)
 
こうしてみると何故多量殺処分が必要なのかよく分かりません。
何故なのかと考えれば、
(1)FMDには殺処分、とインプットされている
(2)FMDの事をよく知らない
(3)殺処分が有効と主張する獣医師、いわゆる専門家、官僚、政治家達に対して、そうでは無いという勇気がでない
などが挙げられると思います。

殺処分に関する議論は、
2001年イギリスで大流行が起こったときから活発に行われており、
mediaも多く取り上げているのですが、
日本では「殺す事が最良の方法」以外の意見が報道されないことは、
極めて不自然だと思います。
http://www.FMD.brass.cf.ac.uk/FMDreferencesnewspapers.html

殺処分は、発生のごく初期、
バイオテロの可能性も鑑みて行うことは
理にかなっていると思われます。
しかし、ある程度以上の広がりを見せてからは、
殺処分を行うことの方が損失が多くなります。

まず、経済的なダメージが大きいことが挙げられます。
畜産業そのものに関わる損失だけでなく、
観光や他の産業にも影響します。
また、貴重な種牛などを失うことは、
経済損失だけでは論じられないダメージがあります。

いつの間にか、感染拡大のための殺処分でなく、
殺処分自体が目的となっているのが現状ではないでしょうか。
イギリスの大流行でも、今の日本と同じ状況になりました。
英国国立農畜産組合(National Farmers Union)のトップだった
Richard MacDonaldの、
「我々はその科学とやらに行き詰まり、
自分たちが信じてやっている事が正しいとする結論に至った」という言葉は、
正にこの状況を的確に言い表したものだと思います。
その結果、イギリスは、殺処分の対象を緩和することとしました。
具体的には、明らかに健康だと思われる牛に関しては、
殺すか殺さないかは農家の決断にゆだねる、と言うものでした。
http://www.abc.net.au/rural/news/stories/s284276.htm
 

10年ほど前、多くの犠牲を払い、損失を生んだ英国の事例で、
これだけの議論がなされたのにもかかわらず、
日本ではどうでしょうか。
正に「殺す事に意義がある」という流れの中で、
冷静な議論などは何処かに吹き飛んでいるようです。
 
日本の悲惨な状況を鑑みてのことでしょうが、
2010年6月28日、オランダ政府は、
「今後FMDの流行の際、殺処分は2度と行わない」という声明を発表しました。
http://www.warmwell.com/
今の政策を推し進めたとき、誰が幸せになるのでしょうか。
将来もまた同じ事を繰り返すのでしょうか。
もし、幸せな人がいるとしたら、行動計画通りに業務を遂行した、
農水省官僚だけなのではないでしょうか。
 
殺処分に関する議論も無しに、このまま殺し続けることは止めませんか。
FMDは自然界にごくありふれた病気です。
感染経路も複数あり、特効薬や完全な予防法も無い以上、
封じ込めは不可能であり、根絶することは不可能です。
そうであれば、ウイルスとの共存をも含んだ判断が必要な時だと思います。


同タイトルvol.1

同タイトルvol.2

同タイトルvol.3

同タイトルvol.4

同タイトルvol.5

同タイトルvol.6

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2010年6月25日

事業仕分けが必要なのは国会議員の数

蓮舫氏、事業仕分け第3弾は特別会計

 民主党の枝野幸男幹事長と玄葉光一郎政策調査会長、蓮舫行政刷新担当相は23日、党本部で記者会見し、10月中旬から政府の行政刷新会議の事業仕分けの第3弾を、特別会計を対象に行うことを明らかにした。
 菅直人首相が参院選の公約として、消費税増税を打ち出しており、行政の無駄遣いの削減や財源捻出(ねんしゅつ)にも取り組む姿勢をアピールするねらいがありそうだ。
 蓮舫氏は「特会が既得権益になっている。(制度と)目的が一致しているかどうかも含めて制度の仕分けを行う。18会計51事業のすべてをゼロベースで見直したい」と語った。
 特別会計は、国が公共事業や社会保険などの分野で、特定の事業を実施するため一般会計と区別した会計。平成22年度の総額は約180兆円にのぼる。
 蓮舫氏は平成23年度予算の概算要求で、過去に行った仕分けの指摘が反映されていない事業について、「再仕分け」を実施することも表明した。

産経新聞6月23日18時20分配信



参議院選も公示され、選挙活動も本格化しています。
各党が選挙公約を掲げる中、
事業仕分け第3弾の目標設定もされています。
事業仕分けは、今まで闇の中で行われてきた予算配分決定を、
国民に見える形にした、
という意味で非常に画期的だと思います。
 
3回目は特別会計がターゲットとなっていますが、
もっと優先順位が高い仕分け対象があります。
それは国会議員の数です。
先日、舛添氏が「国会議員数を半減すべき」
といった趣旨の発言をしていますが、
果たして半数削減は妥当な数でしょうか。
私はそれでも多いと思います。

米国を例にとって見てみましょう。
アメリカの上下院合わせた議員数は535です。
では日本はというと722です。
アメリカの人口は日本の約3倍、国土の広さは約20倍です。
この数字から見れば、日本の国会議員数は
現在の3分の1以下で十分だ、ということになります。

議員の数を減らすと、民意を十分に拾いにくい、
そのため国民無視の政策決定が行われる危険性がある、
という意見もあります。
しかし、ここで言う民意とは何でしょうか。
何処どこに橋をかけて欲しい、道路をつくってほしい、
という要望でしょうか。
あるいは一部の営利団体に便宜を図るといったものでしょうか。

殆どの国民は汗水たらして働き、
国会議員に陳情に行く時間もないのです。
ですから、国会議員数が多いから本当に国民の声を聞けるか、
といえば大いなる疑問が残ります。
また、個々の意見を全て聞きいれるのではなく、
必要であるかどうかを選択することも求められます。
政治家とは、何が国にとって必要なのかという大所高所に立って、
物事を決める人たちなのですから。

日本の国会議員の給与は世界でもトップレベルにあります。
約2000万円の議員歳費の他、
秘書給与、政党助成金、事務方費用、交通費などを合わせると、
国会議員全てにかかる費用は約800~1000億円と言われています。
これが毎年必要であれば、10年で8000億円から1兆円になります。

数が多すぎるもう一つの弊害は、
意見がなかなかまとまらないという事です。
大勢でやっても少数であっても、
答えは法案可決か否決の2通りしかないのですから、
「会議は踊る」状態であっては、必要な法案もなかなか成立せず、
国民生活に影響が出ることもあります。
それなら少数精鋭の方が良いのは一目瞭然です。

ギリシャ経済破たんの原因は、
国家公務員天国による国の経営破たんです。
日本の国会議員は政治家とは言っても、
国家公務員(特別国家公務員)です。
日本の経済の将来は決して楽観できるものではありません。
日本を第2のギリシャにしないためにも、
国会議員数を3分の1に減らすことを、
事業仕分けの最優先課題にすべきであり、
消費税アップなどより、こちらこそ、切り込むべき案件ではないでしょうか。

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マリーゴールドが存在感見せます。花はすでに夏本番です。


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2010年6月22日

「乳がん検診、TBSに医師らが中止要望」はどんな意味があるか

番組きっかけの乳がん検診 TBSに医師らが中止要望

乳がんのため24歳で亡くなった女性を取材した番組「余命1カ月の花嫁」をきっかけに、TBSが展開している20~30代女性を対象にした乳がん検診を中止するよう求める要望書を、医師や患者ら38人が9日、同社に提出した。20~30代への乳がん検診の有効性に科学的根拠はなく、不必要な検査につながるなど不利益が大きいと指摘している。

 要望書を提出したのは、中村清吾・昭和大教授や上野直人・米MDアンダーソンがんセンター教授ら、乳がん治療の第一線で活躍する医師のほか、がん経験者、患者支援団体のメンバーら。

 「科学的根拠のない検診を、正しい情報を発信すべきテレビ局が行うことは倫理的に問題が大きい」として、検診の中止を含め活動の見直しを求めた。また検診を20~30代女性に限定している理由などを問う公開質問状も内容証明郵便で送った。

 国は指針で、乳がん検診は40歳以上を対象に、マンモグラフィー(乳房X線撮影)検査と、医師が胸の状態を診る視触診の併用を推奨している。要望書は、20~30代女性への検診は、放射線被曝(ひばく)やストレスを増やし、がんを見逃す場合もあると指摘。メディアの役割は、異常を感じたら医療機関へ行くべきと呼びかけることだとした。

 TBSは2008年から検診を実施。これまでに約7千人がマンモ検診を受けた。今年も、15日から舞台で上演されるのと連動し、東京や大阪などでエコー(超音波)検診を実施している。(岡崎明子)

     ◇

 TBSのコメント 要望書で指摘されている点は、現在の医学界の基準的な考え方で、反論するところはない。ただ、40歳未満の乳がん罹患(りかん)者は年々増えており、あくまでも自己責任・自己負担で検査を受けることは意味があると考えている。 asahi.com 2010年6月10日



TBS「余命1ヶ月の花嫁・乳がん検診キャラバン」の
内容見直しを求める要望書提出について
http://www.cancernet.jp/kenshin/index.html


~~~~~~~~~~

乳がんのスクリーニング検査を行ったとき、
検査を行わなかった場合と比較して
どの程度、効果があるか、と言うことについては
以前の記事にも書いたとおりです。
(「乳がんスクリーニングは効果があるか」vol.1 vol.2

この場合の効果と言うのは、
スクリーニングを受けることによって、
どれだけ命が助かるかどうか、を言います。

これを調べるには、スクリーニングを受けた群と受けない群を、
将来に向かって追跡調査し、
2つのグループの乳がんによる死亡率の違いを
比較することが必要です。

アメリカでは大規模な追跡調査が行われ、
現在出された結論は「スクリーニングによって、
乳がん死亡が低下したとする明らかな根拠無し」ということです。

今回医師らが、テレビ局に対して
要望書を出したのはこの研究結果によるものです。

スクリーニングは税金で行われます。
ですから効果のないスクリーニング検査は無駄です。

それだけでなく、病気でないのに、
病気だと誤って診断される確率(擬陽性率)も
検討されなければなりません。

今回の研究結果では、10年受け続けると約半数の人が、
どこかで間違って「あなたはがんの疑いがあります」と
言われる可能性があると言われています。
最終的に間違いであっても、精神的なストレスは大きいですよね。

がんの発生には様々な要因があります。
年齢、人種差、生活習慣の違い、などなど、
分かっていないものも多くあると言われています。

今回の報道でもっとも重要なのは、
科学的根拠に基づかない報道がされたというだけでないと思います。
日本では、アメリカが行ったような大きな調査(疫学研究調査)が、
殆どなされていないという大きな欠点があります。
例えば肺がん検診は、日本で広く行われていますが、
主要先進国では「有効でない」として行われていない代表例です。
しかし、日本で大規模な追跡調査がなされたという話はききません。

前にも書いたとおり、
がんには人種差や食生活などの生活様式が
大きく影響していることが分かっています。
アメリカ人での結果が即日本人に当てはまるか、
といえばそうではありません。

がんは放っておけば命を落とす病気です。
しかし、有効でないスクリーニングをしても、
無駄なだけでなく、いらぬ副産物ももたらします。

今回の報道をきっかけに、
政府はスクリーニング検査に関する大規模調査が出来る予算と、
インフラを整える事が必要でしょう。

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2010年6月15日

HIVスクリーニングは医療従事者の感染を防げる?

患者負担でHIV検査 院内感染防止で聖隷横浜病院

 横浜市保土ケ谷区の聖隷横浜病院(300床)が、院内感染予防を目的に、エイズウイルス(HIV)の感染の有無を調べる検査を入院患者のおおむね全員に患者の自己負担で実施していたことが10日、分かった。厚生労働省の「一律的な検査は不適切」との指摘を受け、該当者約五千人に検査費を返金する。

 同病院によると、HIV検査は未成年者を含む入院患者のおおむね全員に同意を得た上で実施した。治療目的ではないため、検査費約1300円は保険適用外となり、全額を患者の自己負担としていた。該当する患者数は、3年間で少なくとも約五千人に上るという。

 厚労省関東信越厚生局神奈川事務所が今年1月に行った調査で「半強制的になっている可能性がある」と指摘。自主返金と事実の公表を促した。

 病院側は「医療従事者への感染予防に成果があった。同意を得ていたが、検査費は病院で負担すべきだった」と指摘を認めているが、これまで事実関係を公表していなかった。公表が遅れている理由については「該当する患者数の調査に時間がかかった」と説明している。

MSN産経ニュース 2010.6.10



今回はHIVスクリーニング検査の記事について
考えてみたいと思います。
HIVはHuman Immunodeficiency Virusで
AIDS(Acquired Immuno Deficiency Syndrome)を
引き起こすウイルスです。

日本のHIV感染者は1万7千人以上いると
考えられていますが、
新しく感染する人は2006年度で、約1500件です。
http://www.yaaic.gr.jp/yaaic/centerinfo/808.html

これは、世界的に見ると多い数字ではありません。
しかし、日本は主要先進国の中で、
HIV感染者ならびにAIDS(AIDSとはHIV感染して、
白血球の1つであるTリンパ球が減り、
カポジ肉腫、カリニ肺炎、結核などの病気を併発した時に
付けられる診断名です)の新しい患者の数が、
主要先進国の中で増加している国だという事を
ご存じでしょうか。

この状況を考えると、HIV感染については
国が積極的に対策をとってゆかなければならない病気の一つ
だということがわかります。

 

今日の記事の内容は、
病院がHIVの院内感染を予防するために、
患者の同意を得て自費でHIVスクリーニングを検査させた、
というものです。

ここには2つの問題があります。
第1に、HIVのスクリーニングは
「職員への感染予防として必要なのか」どうか。
第2に、この検査は「自費ではなく健康保険で支払われるべきなのか」
ということです。


まず、病院内でのHIV感染についてですが、
HIVの院内感染は極めて少ない、
言い換えれば、とても稀だということです。
これに関してはAIDS/TB Committee of the Society for Healthcare Epidemiology of America が
ガイドラインの中で説明しています。
http://www.journals.uchicago.edu/doi/pdf/10.1086/650298  

また、HIVスクリーニング検査は「早期診断」のため、
というのが国際的な理解であり、
「医療従事者の感染予防になる」
という名目でスクリーニング検査をしているのは、
日本意外にお目にかかったことがありません。


そしてお金の問題ですが、
全例スクリーニングには莫大な費用がかかりますから、
疫学的にみて意味があるかどうか
(費用対効果分析も含めて)という議論が必要です。
議論するためには当然元となるデータが必要です。

米国CDCは、医療機関で受診する患者のうち、
疫学的にスクリーニングに意味があるのは、
13-64歳であることを2006年の勧告で付け加えました。
この年代ではスクリーニングにより
HIVを早期発見して治療をすることが有効であると
疫学的データをもとに、判断したのです。
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5514a1.htm


しかし、このスクリーニング検査も、
あくまでも「早期診断」のためであって、
医療従事者の院内感染予防、ではありません。
いったい院内感染予防の概念がどこからわいて出たか不思議です。

日本の献血者でのHIV陽性者数は、
1年間で、10万人あたり2人(0.002%)ですから、
無症状の人に、病院に来たから検査を受けましょう!
といっても費用と効果のバランス(費用対効果)が
とても悪いことが分かります。
ですから、これをすべて健康保険でまかなうのは
無理があります。

輸血前後の検査は
HIV感染症被害を救済するために
厚労省が積極的に勧めています。
最近アメリカでは救急外来や入院時の受診者に
スクリーニング検査が開始されました。
日本では手術前医学管理料に含まれています。


こうして見ると、HIVスクリーニングを
「医療従事者の感染予防」としてルチンとすることには
問題があると言えます。


しかし、もっと大きな問題は、
何故このような事例が持ち上がったか、
という背景にあります。
HIVに限らずスクリーニング検査を
1.何の目的で
2.どんな疫学結果に基づいて
3.どれくらいの予算を投入するのか
という明確な説明付けが必要です。
これが、すなわち国の対策方針になります。
ですから、HIVスクリーニングは
各病院が自由に方針を決めて行うものでなく、
国の方針のもとに行うべきものです。


ところが、HIVスクリーニング検査は、
各病院ごとの考えで行われている、というのが現状です。

なぜこのような状況になるのでしょうか。
それは、日本におけるHIV対策全般が、
何の目的で、どんなデータに基づいて、何を行うか、
という最も大切な部分が抜け落ちているからなのです。
公衆衛生という概念が
この国に根付いていないということ示す、典型例です。

もし、「医療従事者の感染予防のために、
患者のスクリーニングが有効」というのであれば、
疫学研究でこの有効性を立証させることを
先ずやらなければなりません。


公衆衛生とは患者個人の健康問題ではなく、
国家国民というマスを対象にします。
今までこのブログでも、ワクチンやスクリーニングの有効性など、
公衆衛生対策の代表例について論じてきましたが、
今回のHIVスクリーニングも同様の問題に突き当たります。

ワクチンやスクリーニングは手間も費用もかかります。
すべては税金からねん出されます。
貴重な税金が正しく使われているかを監視するためにも、
厚労省だけでなく、私たち一人一人が、
公衆衛生の知識をもって物事をみることが大切ですね。

__________________________


夏の花、芍薬があでやかです。


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2010年6月13日

口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.6

清浄国(FMD free)のお墨付きは意味があるのか。

国際的に、FMD freeであることが
貿易の面で重要とされていますが、
今回はFMD Freeとはどういうことか、
果たしてそれ自体、達成可能なものなのか、
という事について書いてみます。

現在の清浄国の定義は、OIE(国際獣疫事務局)の定義に基づき、
我が国では農林水産省が規定しています。(http://www.maff.go.jp/j/syouan/kijun/wto-sps/oie6.html
http://www.maff.go.jp/j/syouan/kijun/wto-sps/oie/pdf/rm5fmd.pdf
これを見る限り、
ある一定期間FMDの発生が抑えられているというのが
「清浄国」という条件のようです。

しかしながら、本当にdisease freeというのであれば、
この世界からFMDウイルスがなくなる事が必要です。
これは根絶(eradication)といい、
制圧(control)とは明確に分けられている概念です。

それでは、ウイルスを根絶するためには
どうしたらよいでしょうか。
ウイルスに特効薬はありませんから、
治療薬で退治することは不可能です。
となれば、感染経路を遮断する以外にはありません。

感染経路を潰すには2つの条件があります。
第1に感染経路が明らかであり、
物理的に遮断できること。
第2に有効な予防手段が存在することです。


この条件を満たし、
実際に地球上から根絶されたウイルス感染症は天然痘です。
ヒトの天然痘ウイルスは
感染したヒトの口や鼻から排出されるウイルス、
あるいは水疱が破れてかさぶたになった部分から
まき散らされるウイルスを吸い込むことによってうつります。

天然痘には、ほぼ100%効果的な予防方法である、
天然痘ワクチンがあります。
このため、天然痘患者を隔離し、
患者の周りにいる人20人にワクチンを打つことによって、
1980年、天然痘患者はこの地球上から消えました。
ポリオも感染経路が分かり、まだ根絶には至っていませんが、
WHOの取り組み方が間違っていない限り
近い将来根絶しうるウイルス感染症です。

それではFMDはどうでしょうか。
感染経路は明らかになっている中でも、多岐にわたります。
同種の動物間だけでなく、
他の動物、昆虫、水、風などです。
動物には人間も含まれますから、
これらの感染経路を全て遮断するためには
人間までも殺しつくさなければなりません。
たとえそうしたとしても、
水や空気の流れを遮断することは不可能です。
また、予防法についても、
ワクチンを含む有効な手立てはありません。


こうなると、FMDウイルスを
地球上から根絶することは無理だ
と言うことがわかります。
根絶できない以上、一度流行が収まっても、
必ずまたやってきます。
そのようなウイルスに対して、
「FMD free」という概念は当てはまらないのです。

ここでもう一度、FMDがどういう病気か振り返ってみましょう。
蹄が2つに割れている動物を襲う感染力の強い病気だが、
多くの動物は治癒します。
ヒトにうつることはなく、感染した肉を食べても問題ありません。
流行が収まっても、
またちょくちょくやってくる感染症であり、
super killerでもないウイルスに対して、
清浄国のお墨付きを与えること自体、
理にかなったことではありません。


科学的根拠に基づかない、
清浄国(FMD free)という概念は不適当だ、
と声を上げるのは「和牛」という希有なブランドを生産する、
我が国こそが先頭に立ってするべきことではないのでしょうか。


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2010年6月11日

口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.5

止まらぬ感染拡大、10年前の成功で油断

 宮崎県で口蹄疫(こうていえき)の感染拡大が止まらない。10日には日本トップクラスの畜産基地、都城市で感染が確認されたほか、日向市や宮崎市でも新たな感染の疑いが浮上した。戦後最大の家畜被害を生んだ背景には何があるのか。

 畜舎の床一面に剥(は)がれた豚の爪が無数に散らばっていた。蹄(ひづめ)を傷めた親豚が何度も立とうとしては崩れ、横には息絶えた子豚たちが折り重なっている。

 「こんな状態で生かしておいてもつらいだけ。いっそ早く殺してやりたいが、埋める場所もなく身動きがとれない」。宮崎県川南(かわみなみ)町で30年以上養豚業を営む男性(52)は涙ぐんだ。

 止まらない被害を前に、男性は「これほど広がるなんて。これは人災ではないのか」と憤った。



 「これじゃ無理だ。感染は防げない」

 同県都農町で感染第1例が発表された4月20日。都農町から川南町、宮崎市と県東部を縦断する国道10号を眺めながら、宮崎市の畜産業、尾崎宗春さん(50)は焦った。消毒ポイントは設けられているものの、消毒するのは畜産農家の車ばかり。一般車両は素通りしていた。尾崎さんの危惧(きぐ)通り、感染はその後、10号沿線に広がっていく。

 10年前の2000年3月、宮崎県は国内では92年ぶりとなる口蹄疫に見舞われた。この時は封じ込めに成功し、殺処分は3農家35頭にとどまっている。尾崎さんは「当時の方が対応が迅速で徹底していたような気がする」と振り返る。

 発生初日に設置した通行車両の消毒ポイントは、10年前は13か所だったが、今回は4か所。前回は、家畜の移動制限区域を20キロ圏内、搬出制限区域を50キロ圏に設定したが、今回はそれぞれ10キロ圏内、20キロ圏と大幅に縮小した。

 危機意識の薄さも目立った。感染が分かった4月下旬には、感染の飛び火を恐れ、県内外では様々なイベントの自粛が始まった。こうした動きに、県の渡辺亮一商工観光労働部長は4月28日の対策本部会議の席上、「ちょっと過剰な反応なのかな、とも思います」と語っていた。県が非常事態宣言で県民に活動の自粛を求めるのは、それから3週間も後のことだ。



 蔓延(まんえん)の背景には、埋却地や人手不足による処理の遅れもある。

 赤松前農相は6月1日の記者会見で、「(県に要請して)今週中には、感染した牛や豚の殺処分を終えたい」と、早期処理を明言した。ところが実際には、川南町周辺などで感染したとされて殺処分対象になった約19万頭のうち、殺処分も埋却もされていない家畜は6月9日時点で3万1820頭も残っている。

 このうち約1万7000頭は豚だ。豚はウイルスを体内で増殖させやすく、牛の100~1000倍も拡散させやすいとされており、「いわばウイルスの火薬庫を放置している状態」(農水省幹部)だ。蔓延の原因について、農水省や県は「今回のウイルスの感染力が10年前に比べて格段に強かったこと」と説明する。だが、口蹄疫問題の対策などを決めてきた同省の牛豚等疾病小委員会の委員は明かした。「甘かった。10年前はうまくいったという自信が、失敗の始まりだった」(東京社会部 十時武士、畑武尊、西部社会部 本部洋介) 最終更新:6月11日3時5分

読売オンライン




FMD(口蹄疫)が広がりを見せています。
今までFMDに関しては4つのブログ
口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.1~vol.4-
を書いてきましたが、
今一度FMDとはどういう病気かをまとめてみたいと思います。

1.蹄が2つに割れている動物に罹る、感染力(他にうつす力)が強い感染症
2.牛の成体の場合、死に至ることは殆ど無く、通常動物は2週間程度で回復する(豚は牛よりも致死率高い)
3.罹った動物の他、carrierと呼ばれる生物や風等、不特定多数によって伝搬されるため封じ込め不可能
4.人にうつったという報告はない
5.感染した動物を食べても人には影響ない
6.治療法はない
7.ワクチンは100%の効果無し

感染経路は多岐にわたるため、
「封じ込めは不可能」ですから、
ニュースにある「これじゃ無理だ。感染は防げない」は
当然のことなのです。
どれくらい広がるかはウイルスに聞いてみないと分かりませんし、
10年前のウイルスと今回のFMDウイルスは全く同一ではありませんから、
広がり方も違ってくるのは致し方ないことです。

しかし、広がったからといって、
多くの動物は回復し、
感染した肉を食べたところで人には影響ないのです。
これは農水省のHPにも書かれています。


2001年にイギリスでFMD大流行が起こりました。
その際のBBCニュースには多くの人の意見が挙げられています
パニックを起こした英国政府とは裏腹に、
多くの視聴者の声は、的を得ています。

「人にうつらないし、食べても安全。
殆どの動物は病気から回復すると言うのに、
なぜ殺す必要があるのか」

「1940年代まではFMDにかかっても治るまで放置してきた。
それが殺処分するという政策転換をし、
他のヨーロッパ諸国も同様の政策をとるよう説き伏せた」

「感染源はたくさんある。
全ての家畜を殺し、トリや昆虫を殺し、
はたまた人間をも殺すまで殺し続けるのか」

「埋められずに放置された家畜の肉をカラスなどがついばみ、
感染を広げているではないか」

「経済損失の大きさを考えているのか」

ケニアの獣医師のコメントは冷静です。
「ケニアではFMDはごくありふれた病気だ。
イギリスの対応は大げさすぎる」


今、日本のニュースで流れてくるのは
「なぜ防げなかったのか」「人災だ」といったものばかりです。
しかし9年前に多くの議論がされているのですから、
なぜ日本のメディアはこうした番組を作ってゆかないのか不思議です。

メディアだけでなく、
研究者からも多量殺処分に関する否定的な報告も出ていますが、 ※1)※2)
日本では殺処分が有効、と言ったものばかりですから、
違和感があります。

イギリスでの多量殺処分の結果、
経済損失は1兆6千億円程度と言われています。
日本の牛は国際的ブランドですから、
被害の程度はこれ以上になる可能性もあります。

 
今回流行しているのは突然変異を起こして、
人間にも感染するsuper killer ウイルスではありません。
そうであれば、多くの経済損失とともに農家の負担、
獣医師や担当者の疲弊を生み、
文化的価値も大きい種牛を失いながらも、
効果があるかどうか分からない多量殺処分をする意味は
全くないと思います。

動物の感染症として恐れられる感染症として
H5N1トリインフルエンザがあります。
このウイルスはヒトにも感染すると言うことで、
WHOが最も恐れている病気の一つです。
現在499人の症例がありうち295人が亡くなっています
(致死率約60%ですからこちらはsuper killer ウイルスといえます)。

繰り返しますが、FMD流行の歴史の中で、
ヒトが罹って死んだという確定例はありません。

今のままゆけば、H1N1豚インフルエンザに続く
「政府が生んだパニック=人災」になってしまいます。
今日本がすることは、殺処分をやめ、
世界に向けて「不必要な殺処分対策をやめる」よう訴えることでしょう。



=参考文献=
※1)
Thrusfield M, Mansley L, Dunlop P, et al
The foot-and-mouth disease epidemic in Dumfries and Galloway, 2001. 2: Serosurveillance, and efficiency and effectiveness of control procedures after the national ban on animal movements.
Vet Rec,156(9):269-78,2005


※2)
Honhold N, Taylor NM, Mansley LM, et al
Relationship of speed of slaughter on infected premises and intensity of culling of other premises to the rate of spread of the foot-and-mouth disease epidemic in Great Britain, 2001.
Vet Rec,155(10):287-94,2004


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2010年6月8日

政治家と官僚の関係はどうあるべき?

菅直人新総裁のもとで新しい体制が始まりました。
そこで、今回は民主党の掲げる、
「脱官僚依存」に関連して、
政治家と官僚の関係について書いてみようと思います。


官僚とは国家公務員で、
技官などの例外を除いては、
国家公務員試験に合格した人たちです。
これに対して政治家は、
国民による選挙の結果選ばれた人たちです。

官僚は公僕で、ある特定の企業ではなく、
国家国民に対しての仕事をすることが責務です。
ですから、官僚は国民の代表である
政治家のために働きます。
この関係は、官僚がPCで政治家がOSとでも
例えれば分かりやすいかもしれません。
OSがMacからWindowsに変わったのが
昨年の政権交代だ、とも言えるでしょう。


脱依存というからには、
今まで依存してきたという実態があるからです。
これは旧自民党政権の負の遺産であることは否めません。
長らく続いた政権の中で政と官のなれ合いが生じ、
結果的にPCであるべき官僚に
AI(Artificial Intelligence)を与えてしまったのですから。

政権が変わったことで、
AIを獲得した官僚との関係が
大きく変わる機会がもたらされました。
今やらなければならないことは、
政と官との関係を本来のものに戻す事です。
すなわち、官僚を政治家がきちんと使いこなすことです。

しかし、それは単に官僚を切り離す、
官僚を叩くという事ではないと思います。
勿論、現在の官僚制度は替える必要があります。
一部の高級官僚たちが、
自分たちの利権だけを求めたり、
天下りを繰り返したりする悪しき習慣は
断ち切るべきです。

そのためには、課長クラス以上の幹部と呼ばれる人は
政治任用として、
政治家が自ら任命することが必要です。
また、公務員というだけで、
どんな事をしても法に触れなければ責任が取らされないのは
全くおかしなことと言わざるを得ません。
H1N1豚インフルエンザで誤った対策をした健康局長が
何の責任も問われない、のが良い例でしょう。


そこで、幹部は公務員枠から外して、
自分の顔を出して仕事をするようにしてはどうでしょうか。
民間企業の役員を思い浮かべれば分かりやすいと思います。
もし、個人の責任を取るのが嫌な人は
幹部への昇進を諦めればよいのです。

こうした大鉈を振るうような改革は、
政治家がやらなければならないことです。
ごく一部を除けば、
多くの官僚は国民のために働きたいと思っている人たちです。
官僚は知識があります。
それ故その知識を使わない手はありません。
やる気のある若い世代を登用し、
政治家はもっと官僚との対話をすることが必要です。

国民はこうした政治家の取り組みを
しっかり見据えてゆかなければなりません。
それはPCやOSを実際に使うのは
ユーザーである国民なのですから。



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2010年6月6日

映画上映拒否から見る捕鯨問題

<米映画>「ザ・コーヴ」都内上映館ゼロに イルカ漁批判


 和歌山県太地町のイルカ漁を批判的に取り上げた米ドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」(ルイ・シホヨス監督)の上映中止問題で4日、東京と大阪の2館も中止を決め、東京都内での上映館はなくなった。2年前にドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」の上映中止が相次いだ際は、街宣活動実施後に中止が決定されたが、今回は抗議活動の予告だけで中止の動きが広がり、表現の自由の萎縮(いしゅく)を懸念する声が上がっている。

 「反日映画の上映は許せない。中止を求める」。今年3月、ザ・コーヴの配給会社「アンプラグド」(東京都目黒区)に、ある団体から電話が入った。この団体は、首相の靖国神社参拝を求める活動などをしている。電話は、米アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞した時期に重なる。

 4月になると、社長の自宅前や事務所の周辺でマイクを使った抗議活動が早朝から行われるなど、抗議活動がエスカレート。同社は抗議活動の中止を求める仮処分を東京地裁に申請し、認められた。

 ただ、最近までは東京や大阪などの全26館での上映方針に変更はなかった。中止のきっかけは、この団体がホームページで今月2日、上映を予定していた「シアターN渋谷」や同館を運営する出版取り次ぎの日本出版販売(東京都千代田区)に対する街頭宣伝や抗議活動の実施を予告したことだった。3日に中止を決めた同社は「観客や近隣への迷惑がかかる可能性があり、上映を中止した」と理由を話す。

 また、4日に中止を決めた東京の「シネマート六本木」と大阪の「シネマート心斎橋」を巡っては、両館を運営する「エスピーオー」の関連会社に対し、5日に街宣活動するとの予告があった。エ社は「関係各所に迷惑をかける可能性があるため」と中止を決めた。関係者は「自宅への抗議が中止の大きな要因になった」と明かす。

 フリージャーナリストの綿井健陽さんは「こんなに簡単に中止が決まっていいのか。『面倒な映画の上映はやめておこう』という萎縮を生みかねず影響は大きい。上映を待ち望んでいる人もいるという声を関係者に伝えることが重要だ」と指摘する。

 シホヨス監督は4日、「一部の過激な人たちが東京の映画館を脅かしていることを知り大変残念だ」とのコメントを発表した。

6月4日20時59分配信 毎日新聞




イルカ漁を描いた映画上映が
賛否両論を呼んでいます。
今回はイルカ漁問題と非常に近しい
捕鯨問題とともに考えてみたいと思います。


イルカ漁と捕鯨が何故近いかというと、
生物学的に似通った種類であることと、
我が国はイルカもクジラも採っており、
それを食用としているからです。
イルカ肉はクジラ肉と混ぜて販売されることが多いので、
捕鯨問題≒イルカ漁と置き換え得ることができます。
では、日本だけが捕鯨をしているかというと、
そうではありません。
ロシア、ノルウェー、アイスランド、カナダなど35の国があります。
一方捕鯨に反対している国は
オーストラリア、ニュージーランド、ラテンアメリカ等です。

なぜ、捕鯨やイルカ漁がこんな大きな問題になるのでしょうか?


第1に鯨やイルカは種として
絶滅の危機に立たされているのにもかかわらず、
それを採り続けるのは
自然保護の観点から違法だという意見です。
確かに、シロナガスクジラ、ヨウスコウカワイルカなどは
絶滅の危機にあり、国際的に保護されていますし、
種類も少なくなってきているのは事実です。
しかし、鯨やイルカは食物連鎖の頂点にあり、
鯨やイルカが増えすぎれば
中小の魚たちが少なくなるという大きな弊害があります。

自然界でいえば食物連鎖の頂点に立つ、
predatorは人間なのですから、
人間を保護するためには何をしても良い、
もっと言えば、バイオマスを一番必要とする
先進国の人間だけを保護するためには何でもすべきだ、
という議論と同じように思えます。


第2に鯨やイルカは他の海洋生物と比べて
知能が高いから殺してはいけない、
という主張です。
知能の問題と捕獲を一緒に論じるのは無理がありますし、
だったら知能が低い魚たちは採って食べてもいいのか?
という反論が当然出てくるところです。
むしろこの主張はホエールウォッチング等の
商業活動と関わってくる議論といえます。


第3に、鯨やイルカを食べることに対する
安全性に関する点です。
海洋でいえばプランクトンといった
一番小さなものを小さな魚が食べ、
次にもう少し、大きな魚が順々に食べ、
最後に鯨やイルカが自分たちより小さな魚を食べます。
現在の海洋汚染の問題から、
鯨やイルカは水銀などの有害物質が蓄積している分量が多いから
食べては危険だ、ということです。
これは鯨に限らず、
マグロなどの大きな魚についても同じことが言えます。
最後に食べるものほど、有害物質が濃縮してくるからです。
しかし、これは食べる量の問題です。
どんなに小さな魚でも量を食べれば有害物質は多くなります。


私は、鯨やイルカを採って食べるのは
その国の食文化の違いによるものだと思います。
例えば、オーストラリア等ではカンガルーを食べます。
しかし私たちにとってカンガルーを食べることは
馴染みのないことであり、
「食べたら可哀そう」という声も聞こえてきそうです。

 
実際、現在捕鯨に反対している国々も、
18~19世紀にかけては捕鯨を行っていました。
それは鯨から油を採るためです。
しかし油田ができて必要なくなったから、
鯨を採る国を非難するというのは
何ともしっくりこない話です。


捕鯨やイルカ漁が動物保護の立場から許されない
と言うのであれば、
人間は全ての動物を食べるのを
やめなければならないでしょう。
植物でさえ、食べられる際に「痛い!」
というという人もいるくらいですから、
そうなってくると人間は何も食べてはいけないことになります。


映画の上映を禁止するのではなく、
日本の捕鯨やイルカ漁に対して批判をする国々に対しては、
文化の違いであることをきちんと政府として伝えることが必要です。
外交とは海外からの意見を鵜呑みにすることではなく、
バランス感覚をもって
対等の主義主張をすることも必要なのですから。


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2010年5月31日

口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.4―

誤解招く表示やめて=口蹄疫で食品業界に要望-消費者庁

 宮崎県で家畜への口蹄(こうてい)疫感染が拡大している問題で、消費者庁は17日、食品業界や流通業界などに対し、販売の際に非感染を売り文句にするなど、消費者に誤解を与える不適切な表示を慎むよう要請した。
 同庁などによると、口蹄疫にかかった家畜の肉や牛乳は市場に出回っておらず、また摂取しても人体に影響はない。しかし問題発生後、量販店やインターネット上で、「宮崎県産は使用していません」「口蹄疫の恐れのない産地の肉です」などの表現で食肉や加工品を販売している例が数例確認されたという。(2010/05/18-01:50) 時事ドットコム



この記事をみて皆さん、どう思われますか。
明らかに、宮崎県と言うだけで避けられる、
というstigmatizationが生じています。
これは当初から私が恐れていた事態です。
なぜこんなことが起こるのでしょうか?
それはFMDという病気は
家畜が感染したらとんでもないことになる恐ろしい病気、
という概念にとどまらず、
人体にも悪影響をおよぼし、
食べたら感染して死んでしまう、
という誤った認識が広がり、
日本中が不安と恐れの真っただ中にいるせい
ではないでしょうか。

それでは、FMDとはどんな病気なのでしょうか。
それはFMDウイルスによって生じる動物の感染症で、
蹄が2つに割れている動物が罹ります。
代表例として、牛、豚、羊等があります。
感染力(他の個体に広げる力)は強いのですが、
成体では死にいたる確率は5%以下です。
症状は口や蹄の付け根などにできるぶつぶつ(水疱)と熱などです。
大体1~2週間で回復します。

人に対する影響ですが、人に感染することは極めて稀で、
感染した動物の肉を食べてFMDに罹ることはありません。

え?そうなの?と
意外に思われる方もいらっしゃるでしょうが、
これらの情報は「口蹄疫問題を考えるvol.1」に全部書いてあります。


FMDは症状をみると人間の手足口病によく似ています。
また感染力と致死率ということに関しては、
はしか(麻疹)と比較できる病気でしょう。
麻疹は麻疹後脳炎など重篤な後遺症が残る可能性がありますから、
重症度に関しては麻疹の方が高いでしょう。
FMDの後遺症としては、
乳が出にくい、肉質が落ちる、等がいわれています。
しかし、麻疹は有効なワクチンがありますから
予防可能という意味ではFMDと違います。

このようなFMDに対して
必要以上に過敏になっている私たちは
既にパニック状態になっているのです。


それではFMDの広がりを
どうやって抑えたらよいのでしょうか。
というよりもFMDを封じ込めることは出来るのでしょうか。
残念ながら封じ込めは不可能に近い感染症の一つだといえるでしょう。
まず、潜伏期があり、症状がないうちから感染させることがあります。
治療法はなく、予防に使われるワクチンは
100%の効果はありません。
となれば、FMDは封じ込め不可能な病気と言わざるをえません。

封じ込め不可能な病気の対策の基本は、
「入ったら広がる」ことを前提に、被害を最小限に抑えることです。

我が国のFMD対策は、「疑わしきは殺す」
というイギリス流のやり方です。
しかし、これはどれだけ効果があるかは
議論の分かれるところです(「口蹄疫問題を考える vol.2」参照)。
FMDの感染源は病気に罹った動物以外にも
carrierと呼ばれる生物です。
人間等FMDに罹る動物以外も
carrierになる可能性があると言われています。
このため、感染した肉を食べると危険だ!
というメッセージが出てしまうのでしょう。

このような過敏反応は、
かつて緒方洪庵が天然痘ワクチンを打ち始めたころ、
「(ワクチンを)打たれると牛になってしまう」
という風評被害が立ったことと似ています。
それはワクチンが牛の天然痘から作られたからですが、
当然牛になってしまうわけではありません。

FMDは動物の間ではごくありふれた感染症です。
実際、日本や韓国、中国以外にもブラジルで発生していますし、
ネパールにも疑い例が報告されています。
病気に罹った動物の他に
carrierが感染源となることは前にも書きましたが、
牛の集団でも15~50%のcarrierが存在すると
報告されています。
http://www.oie.int/eng/maladies/Technical%20disease%20cards/FOOT%20AND%20MOUTH%20DISEASE_FINAL.pdf
となればFMDは何時、どんな所で起こっても
不思議ではないのです。
それ故、清浄国(FMDfree)という概念自体がおかしいのです。

今のままの政策を続けてゆけば、
「抑え込み可能の危険な病気」という「空気」を信じている国民は、
不安がいらだちと怒りに変わり、
政府や地方自治体を非難し始めます。
しかしそうしたところで誰も救われないのです。
最後には多大なる被害と、憎しみだけが残ります。

この負の連鎖を断ち切るには発想の転換が必要です。
発生してから今までの経過をみれば、
今回のウイルスが突然変異を起こした
supper killerウイルスではありません。
となれば、FMDに感染しても危険はないのですから、
殺すこともやめて、通常の正肉として販売すれば良いのです。
感染した肉がさらなる感染経路になるのではないか、
という人もいますが、
蔓延した状況では不特定多数の感染経路が様々に絡み合って、
どれか一つを遮断してもあまり意味がありません。

また、流通を全て止めろ、という極論もありますが、
経済効率の極めて悪い畜産産物を
科学的根拠もないまま処分する経済損失に対する責任は
誰がとるのか、という意見もあります。

さらに、今回のように「口蹄疫が出た」というだけで
風評被害が大きくなってしまえば、
違う地域で発生したとしても、
非難を恐れるあまり、発生したことを隠してしまう、
といったことも出てこないとは限りません。
こうしたことが起こると、
どれだけ今回のFMDが広がりを見せたか、
どんなところに流行したか、
という疫学情報が不正確になり、
今後の対策に活かせなくなることが考えられます。

実際、ウイルスでもその存在が分かってない方が
分かっているものより断然多いのですから、
人体に影響のないFMDをこれ以上、
モンスターとして扱うことはまったく理にかなわないことです。
イギリスは政治不安を引き起こしたために、
多量処分をしました。
そうであれば、根拠に基づいた「殺さない」対策をし、
その成功を世界に示すべきだと思います。


FMDウイルスがありふれたウイルスである以上、
再び日本を襲うことも十分考えられます。
今回のFMDウイルスよりも感染力が強いtypeが来て、
もっと大きな広がり方をするかもしれません。
だからといってそのたびに家畜を殺していては、
経済損失も大きくなるばかりです。
これらの費用はすべて私たちの税金から支出される事も
考えてみては如何でしょうか。


今までやってきたやり方と違ったことをすると
始めは強い反応があることでしょう。
しかし、正しいことをやり遂げることは、
結果として、世界に尊敬される日本を創ってゆくのではないでしょうか。


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2010年5月27日

口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.3―

3回目の今日は、FMDに対する危機管理体制について
考えてみたいと思います。
3月31日、宮崎県の農家に飼われていた水牛に
体調の変化がありました。
診察した獣医は「異変」を感じて県に報告したのですが、
衛生研究所の職員は特に異常事態だとは認識せず、
検査をしませんでした。

4月28日になって牛のFMDが確認されたのを受けて、
水牛から採ってあった検体を検査したところ、
水牛がFMDにかかっていたことが確認されたのです。
消毒剤などが農家に届けられたのは、
牛の罹患が確認後1週間以上経過してからと報道されています。


明らかに不適切な対応であったと考えられます。
3月31日の時点で検査をし、ある一定の家畜を処分し、
種牛の避難をすることが、
まず政府の取るべき道であったと思われます。
果たしてそうした措置を施したとき、
どれだけの効果があったかどうかを論じることは
あまり意味がないことです。
というのも、「Aをしたからこれだけの効果が得られた」
と結論する場合には、
同時に「Aをしなかった」という比較事例が必要だからです。

 
それでも私は「すべきであった」と言うのは、
効果云々の話というよりも、
危機管理上必要な事だからです。
FMDの流行に関して人間が出来ることは限られていますが、
その限られた手の内の中でも、
もっとも重要な一撃として位置付けることが出来ると思います。

結果として、この大切な一撃を打てずに終わったわけですが、
「初動対応がダメだったから広がってしまった」
と農水相を非難するばかりでなく、
何故こうなってしまったのか、
を考える必要があると思われます。


第1に、感染症に対して危機意識が足りなかった、
ということが言えるでしょう。
H1N1豚インフルエンザの際も、
「新型インフルは海外渡航の既往があるものだけから発生する」
という国の言葉を信じていたため、
神戸の開業医が渡航歴のない高校生のPCR検査をすることを保健所が拒んだ、
というのは記憶に新しいところです。

危機管理の第一歩は疑うところから始まります。
「おかしいな」と気がつくのは殆どが現場からです。
その声を躊躇することなく聞きいれて
対応するのが行政の在り方だと思います。
しかし、行動計画に代表されるように
殆どの役所業務がマニュアル化されている中で、
いつの間にか、頭で考えて行動することが
失われていることの典型例だと思います。


第2に、現場と地方自治体、
そして地方自治体と国の間の関係における融通のなさです。
現場は何かが起こったとき、
いきなり国(今回は農水省)に相談することは認められません。
必ず県(保健所)から国へ情報が行き、
また同じ道筋を通って現場にフィードバックされます。
県や国の中にも長い長い伝言ゲームのようなプロセスがあり、
これを飛び越えてゆくことは仕組み上許されないのです。
例えば、県の保健所職員が農水省の局長に連絡でもしようものなら、
その職員は大変な仕打ちをうけるでしょう。

しかし、これでは現場に指令が届くのに時間がかかり、
対策が後手後手に回ってしまいます。
これは今回のFMDに限ったことでなく、
豚インフルはじめ、各省庁と地方自治体が
延々と繰り返してきた事なのです。
結果として何が起こるかと言えば、
対応の遅れとともに現場の消耗です。

何度もやってきておかしいのであれば、
もう少し違う仕組みを考えては如何でしょうか。
例えば獣医から県と同時に農水省に連絡出来る
ホットライン構築などは
先ず取り入れなければならない事でしょう。


第3に、危機管理対応という組織的枠組みがないことです。
行政の縦割りによる弊害がその大きな要因でしょう。
緊急に何かを決定しなければならないときにも、
省内で、「あれはあの局の管轄だからわが部署には関係ない」とか
「これはわが局の担当だから他の局からの口出し無用」といった、
小さいピラミッドがそれぞれ勝手に動いていたのでは、
国策として早急に政策を実行するまでに、
時間ばかりがかかることになります。



今回は動物の感染症ですが、
感染症を取り巻く状況は昔と大きく様変わりしています
H1N1豚インフルエンザ対策総括を検証するもよろしければお読みください)。
何かが起こったとき、はたして人為的なものなのか、
自然発生的なものなのかを見極める必要があります。
病原体が何かを調べるとともに、
どの動物まで広がる可能性があるのか、
ヒトには広がらないのか、といった考察も必要になり、
必要に応じて情報公開をすることが求められます。

今回のFMDは種牛の経済価値、
という問題もはらんでいますから、
少なくとも農水省だけが対策を行うというのは
無理があります。
役所の仕事はすべて法律で規制されますから、
FMDが農水省の法律に入っている以上、
基本的には、他省庁は口出すな!状態です。

そうではなく、危機管理に関わる感染症なるものを位置付け、
必要な感染症をその中に入れ、超省庁で対応をする。
流行が終息してきたら、
一番関連のある省庁が扱う感染症の範疇に戻す、
といった柔軟性のある法整備も
考える必要があるのではないでしょうか。


ウイルスはまたやってきます。
今回の流行から何も学ばなかったでは許されない、
ということを肝に銘じるべきでしょう。

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2010年5月26日

口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から― vol.2

今回は、FMD対策の中心をなす殺処分について書くことにします。
FMDの発生が小規模でごく初期における、
感染している可能性ある家畜含めての殺処分は、
危機管理上意味があることだと思います。
1997年香港でトリH5N1インフルエンザ発生において、
WHO事務局長のMargaret Chan氏が
遅れることなくトリを処分したことは、
高く評価されています。


それでは、ある程度の広がりを見せてからの
多数殺処分は意味があるのでしょうか。

もっとも酷いFMD大流行は2001年英国で起こったものですが、
病気に罹った家畜が2000頭以上見つかり、
700万頭以上の牛と羊を処分しました。
この大流行によって生じたものは、
約160億ドル(1兆6千億円)の経費と、
精神的、肉体的、経済的ダメージなどの社会的損失でした。

この時のイギリス政府の方針は、
FMDが見つかった農場にいる家畜のうち、
FMDに感染する可能性があるものは24時間以内に殺処分にし、
その農家と隣接したりして、感染の可能性がある家畜も処分する、
というものでした。
すなわち、疑わしきものはすべて殺す、という事です。

現在、日本はじめ世界のFMD政策も
基本的に英国のものと同じです。
しかし、感染の可能性があるものをすべて処分する、
という事に関しては批判も多くあります。
幼体は致死率が高いといわれますが、
成体ではFMDから殆どが回復すること。
ヒトに対する危険性は殆どないこと、等が
公衆衛生上からの視点として指摘されています。
また、「感染の疑い」というが
どこまでが疑いかを見極めることは不可能であり、
現場の大きな労力の負担になります。
そして、経済的側面から考えたときに、
多量処分による経済的損失があまりに大きいことが挙げられます。

実際に、FMDが流行期に入ったときに(現在の日本もそうですが)、
家畜をどの程度処分することが、
流行の早期終息に貢献するか、という比較は困難です。
というのも、多量処分が効果があったと結論するには、
多量処分をしなかった場合の例が比較としてまず必要です。
仮にこの比較をしても、
人口密度ではなく家畜がどの程度密接して飼われているか、
隣の農家とはどの程度離れているか、
他の感染源となる動物は周りにどれだけいたか、
という追跡不可能な条件も検討しなければならず、
純粋に多量処分が「効果あり、なし」といえるほど
単純ではないからです。 ※1)


実際、1951から52年に起こったカナダの事例と、
1967年での英国の事例を比較している論文があります。
いずれも起こった時は既にある程度流行していた
という共通点がありますが、
カナダはそのまま自然治癒を待ち、
イギリスでは殺処分にしました。
結局、どちらが良かったのかを結論付けるのは困難だ、
というところに落ち着いています。 ※2)

多量処分には他にもいくつかの問題があります。
感染の可能性のあるものを殺してゆくことは必ずしも、
FMDの早期終息には役立たないばかりではなく、
他の動物に感染を広げる可能性が指摘されています。
FMDと共に牛の重要な病気に結核があります。
ウシ型結核は牛だけでなくアナグマにも感染することが分かっており、
感染源淘汰のためにアナグマ駆除が行われています。
ところがアナグマを殺せば殺すほど、
牛の結核が増えることが
大規模RCTの結果として報告されているのです。 ※3)


この理由として、アナグマ狩りを行った周囲の牛結核は減るのだが、
近隣の地域の結核は増える、
すなわちアナグマが処分を逃れて移動するためではないか、
といわれています。
すなわちイタチごっこです。
FMDに関しても十分この可能性があります。
牛を殺せば豚にFMDが増える、といった具合です。
(牛は殺されればアナグマのように移動しない
という指摘もあるかもしれませんが、
FMD発生が分かっていない時期に
すでに感染した牛の肉からどこぞにウイルスは飛んでいるかも知れません。
感染経路は私たちが知り得ないところにもたくさんあるのです。)

最後に、マンパワーの不足による
不完全な殺処分の影響について考えてみましょう。
処分した家畜は埋めなければなりません。
それは、死んだ家畜からもウイルスが排出されるためです。
現状では獣医師はじめとする人的不足が大きな問題だと聞きます。
このため、死がいが埋められることなく放置される例も報道されています。
これから殺処分の数が増えれば
状況はもっと厳しいものになってゆくことが予想されます。
となれば、感染を封じ込めるために行ったことが、
逆に感染を広げることにもなりかねません。
また、埋められない死がいが別の病原体による感染源となって、
FMDだけでは収まらなくなることも十分考えられます。

FMDに罹った動物は通常8-15日で回復します。
そうであれば、現場の容量を超えて多量処分をするよりも、
回復を待つことも可能性として議論することが必要だと思います。
罹った家畜は商品にならないというのであれば、
回復してから処分する、という方法もあるのではないでしょうか。

FMDに限らずウイルスの流行は必ず終息します。
対策の基本は、いかに早く、多方面での損失を少なく、
その流行を抑えることにあります。
損失の中には家畜の損失だけでなく、人的、経済的、
あるいは文化的損失も含まれるということを忘れてはならないと思います。



=参考文献=

※1)
The role of pre-emptive culling in the control of foot-and-mouth disease
Tidesley MJ, Bessell PR, Keeling MJ et al
Proc Biol Sci. 2009 Sep 22;276(1671):3239-48

※2)
Comparison of different control strategies for foot-and- mouth disease: a study of the epidemics in Canada in1951/52, Hampshire in 1967 and Northumberland in 1966.
Sellers RF
Vet Rec.2006 Jan7;158(1):9

※3)
Positive and negative effects of widespread badger culling on tuberculosis in cattle.
Donnelly CA, Woodroffe R, Cox DR et al
Nature. 2006 Feb16;439(7078):843-6


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2010年5月25日

口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.1

蹄が2つに分かれている動物が罹る口蹄疫(FMD Foot-and-Mouth disease)が、
宮崎県の牛を中心に流行しています。
大手メディアだけでなく、
個人のブログやtwitterなどでも取り上げる人が多いことから、
皆さんの関心が高いことがわかります。

今回は、そのFMDの何が問題なのか、
そして今後何をしていったら良いのか
ということについて書いてみたいと思います。


口蹄疫という名前の由来は、
口の中や蹄の付け根などの部分に水疱が出来るところから来ています。
「疫」というのは疫病、すなわちうつる病気だということです。
症状としてはよだれが出て元気がなくなる等の症状があります。
人間で言えば原因ウイルスは違いますが、手足口病のような症状でしょうか。


感染力が強く、罹った動物は肉質が落ちる、
乳の出が悪くなるなどの理由で、
経済価値が下がることが大きな問題です。
成体では死に至ることは少ないのですが、
幼体だと半数が死亡するという報告もあります。

ではFMDはヒトに関してはどうなのでしょうか。
FMDに罹った動物に接触することにより
人間が感染源となることがある、との報告がありますが、稀です。
また、FMDに罹った動物の肉を食べても
ヒトにうつることはありません。
ですから、人体への影響はまずないと考えて良いでしょう。


日本では1899年に茨城県、1908年に関東甲信越地方で発生があり、
近年では2000年3月に宮崎県で起こりました。
世界的に最も口蹄疫に苦しめられたのは英国ではないでしょうか。
1967年、2001年、2007年と過去3回の発生を経験し、
特に2001年には大きな経済損失とともに、
政治的な乱れも生じました。


FMDは国際獣疫事務局(OIE)に届け出が義務付けられています。
感染した恐れのある動物が存在する群全てを殺す
という方法が我が国でも取られつつありますが、
それをやった英国はおそらく何とか口蹄疫を征圧しようと、
苦渋の選択として行ったのではないか、
と考えられます(CDC獣医師よりのコメント)。
すなわち効果があるとかないとかといった話では無いようです。


では、感染した動物の周りの群全てを殺すことが、
国際的に決められているのかといえばそうではありません。
制圧の方法はその国の事情に任されています。
しかしながら、殺す事をせずにいれば、
国際的にFMDフリーであるという認証が遅れることから、
現在の日本でも全頭を殺すという方針になっています。
ワクチンは100%効果的ではないとともに、
ワクチンを使用することにより、
FMDフリーの認証を与えられる期間が
先送りされるという問題があります。


これが世界を取り巻くFMDの状況ですが、
実際には多くの問題が生じます。
まず、全頭処分には労力もお金もかかります。
現場のマンパワーでどこまでまかなえるか、
というのが大きな問題です。
また、現在ワクチンを使用していますが、
ワクチンを打つ手間と同時に、
ワクチンを打つと症状が分からなくなる
と言う不利益も生じます。
また、国際的には、FMDフリーの認定が遅れ、
貿易上大きな障害となります。


我が国には、上記に加えて特別な因子があります。
それは、我が国が誇る和牛のブランドの維持という問題です。
海外から和牛の質は高く評価されています。
しかしその質を保つためには純血の種牛が必要です。
種牛を殺してしまうことにより生じる損失は、
経済的な側面だけでなく文化的にも大きな痛手を与えます。


繰り返しますが、FMDのヒトへの影響はまずありません。
現場の許容量(獣医師などのスタッフが大きな問題)、
経済的因子、和牛という国際的に特別のブランド等を考えると
これらの様々な条件を鑑みて、
何が最良の方法かを探る必要があると考えます。
その中には全頭処分だけではなく、
まだ罹患していない家畜を残す、ワクチンは止める、
等のオプションも含まれて然るべきだと思います。


感情論で考えたり、対外的あるいは政治的な側面ばかりを追って
現場を疲弊させてしまってはいけません。
目的は感染の広がりを如何に効率的に抑えるかであって、
現場を消耗させ、経済的なダメージを与えることではありません。
それが昨年のH1N1豚インフルエンザ騒動から
生かさなければならない教訓なのではないでしょうか。

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2010年5月17日

HPVワクチン騒動 vol.1 -子宮頚がんワクチンをどう扱うべきか?-

子宮頸がん ワクチン、小6に初の集団接種…栃木・大田原

医師から子宮頸がん予防ワクチンの接種を受ける児童=栃木県大田原市で2010年5月13日(代表撮影)
 栃木県大田原市で13日、小学校6年生の女子児童を対象に、子宮頸(けい)がん予防ワクチンの集団接種が始まった。1人当たり4万5000円の費用を市が全額負担する集団接種は、市などによると全国でも初めてという。来年度以降も続ける方針。

 市によると、市立小23校で来年1月までに、6年女子334人のうち希望者329人に接種する。福祉政策に力を入れており「女性の命を守ることは少子化問題の観点からも重要」として公費負担を決め1人3回分、計約3000万円を10年度予算で賄う。初日は金丸小の10人が接種を受け「がんになるのはいやなので、注射してよかった」「思ったより痛くなかった」と話したという。

 立ち会った自治医大の鈴木光明教授(産婦人科学)は「接種率を上げるには集団接種が有効で、学校での接種は素晴らしい」と話した。

 子宮頸がん予防には若年層へのワクチン接種が有効とされるが、3回で計5万円前後の費用がネックになっている。

5月13日23時7分配信 毎日新聞



日本のワクチン行政が
主要先進国の中で大きく立ち遅れていることは
以前にも書いたとおりですが、
今回は子宮頚がんワクチンについて
取り上げることにします。

子宮頚がんは30~45歳といった若い世代の女性に発生することが多く、
労働人口ならびに生産人口に影響するがんとして注目されています。
特に途上国では子宮頚がんが多発しており、
世界的にみると女性がんの第2位を占めるほど多いです。

原因としてはhuman popillomavirus(HPV)というウイルスが有名です。
HPVに対してはワクチンがあります。
ワクチンで予防できる唯一のがんと呼ばれるのもこのためです。
ウイルスによって引き起こされるがんで有名なものに
ATLという血液のがんがありますが、
こちらにはワクチンはありません。

さて、それではHPVワクチンはどの程度、
子宮頚がんによる死亡を減らせるのでしょうか。
ワクチンの効果を調べるには、
ワクチンを打つ群と打たない群に分けて、
2つの群での子宮がんの発生を比べることが必要です。

子宮頚がんの発生にはHPVだけでなく、
年齢、生活環境、人種差なども関わっていることが予想されますので、
ワクチンだけの効果を調べるには
こうした他の条件の影響を抑える必要があります。
ワクチンと子宮頚がんと両方に関与する条件を
交絡因子(第3の因子)と呼びます。

交絡因子の影響を抑えるためには、
統計的な処理でもある程度可能ですが、
ワクチンと子宮頚がんの関係に関する交絡因子は
すべて分かっているわけではなく、
未知のものも多々あると考えられます。
そのため、最初からワクチンを打つ、打たないという条件以外は、
調査する人たちが似ている必要があります。
例えば、年齢構成が同じであるとか、人種構成が同じであるとかです。

こうした条件をそろえるには
数が多ければ多いほどよいのです。
何百万という研究参加者がいれば
様々な条件が恐ろしいほどぴったりするのですが、
10人や20人ではバラバラです。

比較を行うときに既にあるデータを使う方が手はかからないのですが、
過去のものですからどうやって人を選んだのか、
どのようにデータを集めたのかなど、
分からないこともたくさんあります。
ですから新たに調べる方が良いのです。
精度高く管理された研究をRCTと呼びますが、
これについては前回の記事に詳しく書いてありますので、ご参照ください。

ワクチンの効果をみるために、
欧米で多くのRCTが行われました。
これを総括したMeta-Analysisによれば、
15-25歳の性経験がない女性に対しては、
高い予防効果を持つことが報告されています。
HPVというウイルスは性交によって感染しますから、
既に性経験がある女性のほとんどはHPV感染したことがあり、
そういう集団にはワクチンは無効です。

こうした結果をもとに米国はじめ諸外国では
ワクチンが認可されました。
現在日本でもHPVワクチンが認可されていますが、
問題はないのでしょうか。


最大の問題点はワクチンの有効性と副反応についてです。
欧米で認可されたワクチンは
HPV6・11・16・18という4価のワクチンと、
16・18型に対する2価ワクチンです。
HPVには様々な種類がありますが
(インフルエンザにもAH1N1やAH5N1等があるのと同じ)、
欧米では16と18型が多いのです。
しかし日本では52、58型が多いと報告されています。
ですから、日本で認可された欧米型ワクチンの有効性を実証するには、
日本人の中でRCTを行う必要があります。
また、副反応についてもワクチン導入と同時に
正確なデータの収集と解析が必要です。
そして必要に応じて情報をオープンにすることが
厚労省に求められることです。

長期的にみた場合、
どの程度ワクチンが子宮頚がんを減らせるか、
頚がんスクリーニングとの比較をした場合の費用対効果はどうか、
どんな副反応があるか等、大規模な疫学調査なしではわかりません。
日本では大規模な疫学調査が非常に出来にくい環境にあります。
それは国がその必要性を理解していないことがあります。

H1N1豚インフルエンザワクチン導入に関しても、
副反応に関する補償制度などの
ワクチンインフラは手つかずでした。
すなわち、重篤な副反応が起こっても十分な補償を受けられず、
訴訟という手段しか残されていないという悲劇があります。

今後新しいワクチンはどんどん増えてくるでしょうから、
豚インフルエンザで明らかになったワクチン制度の不備を
早急に解決することが必要でしょう。
そして、国策として必要であるワクチンに関しては
公費を投じることが当然です。
そもそもワクチンとは、国民というマスを、
ある疾患から守るために使うのですから、
国の事業そのものといえましょう。


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2010年5月7日

乳がんスクリーニングは効果があるか vol.2

前回の続きとなります。
同タイトル vol.1へ


乳がんのスクリーニングをすれば、
どれくらいの人が命をとりとめることが出来るのでしょうか。

このことを調べるためには、
スクリーニングをするグループと
しないグループに分けて、
どちらの群の乳がん死亡率が高いか、
前向きに追っていく必要があります。

そんな面倒くさい事をしなくても、
乳がんになった人に聞き取り調査をして、
スクリーニングを受けたかどうかを調べればいいのではないか、
と思う方もいるかも知れません。
確かにこの方法は手っ取り早くて費用もかかりません。
しかし人の記憶はあやふやなものです。
乳がんに罹った人は、
自分がスクリーニングを受けていなかったことを
より強く覚えているのが通常ですし、
逆に罹っていない人はスクリーニングを受けたとしても
忘れている事もあります。
これをリコールバイアスと呼びます。

また、スクリーニングを受けているかどうかを聞くときに、
「絶対受けていましたよね」などという聞き方で
誘導尋問をかけることがあります。
記憶があやふやな場合は「そうだったかもしれない」
と思ってしまうこともあります。
これをインタビュアーバイアスと呼びます。

スクリーニングを新たなビジネスチャンス
として参入する企業に関係した人がインタビューを行うと、
スクリーニングに有利な結果が出てしまいますし、
逆にスクリーニングに反対している人がインタビューを行うと、
不利な結果が出てしまう事もあります。

バイアスとは調査研究の結果を
間違った方向に変えてしまう曲者です。
残念ながら、聞き取り調査や過去のデータを拾う、
といった方法ではバイアスをなくすことは出来ません。


乳がんの発生には様々な原因が指摘されています。
年齢、食生活や生活習慣、
あるいは遺伝などが有名ですが、
スクリーニングだけの効果に限って議論する場合は、
こうした他の要因の影響を消してしまう必要があります。
そうしないと、スクリーニング以外の因子が影響して、
死亡率の差が、必ずしもスクリーニングの
有り無しによるものでは無くなることがあるのです。
こうした因子を交絡因子(第3の因子)と呼びます。
(交絡因子については、今後の記事などでもう少し詳しく説明したいと思います。)


過去のデータからスクリーニングの効果を調べるときには
影響がある交絡因子がどの程度含まれているか
分からないことがあります。
それは、「今からスクリーニングの有効性を調べるぞ!」
という意図のもとに集めたデータではないのですから、
仕方のないことです。
これだけいろいろなことを気にしなければならないので、
研究は前向きに追ってゆくことが必要なのです。
また、研究結果の信頼性をアップするためにも
集める人数は多ければ多いほどよいのです。

実際、アメリカでは大規模な研究が行われました。
結果は、マンモグラフィ(とても痛い検査です!)を使って
スクリーニングをした場合と、しなかった場合の
乳がんによる死亡率はあまり差がなかったのです。
この結果を受けて、アメリカ予防医学専門委員会は
乳がんスクリーニングに関する勧告を出しました。
内容としては「ルーティンなマンモグラフィ検査は必要なし」
というものでした。

(Screening for breast cancer: US Preventive Services Task Force recommendation statement. Ann intern Med.2009;151(10):716-26)


この結果はアメリカだけでなく世界中を驚愕させました。
特におひざ元のアメリカでは
「乳がん患者を見殺しにするのか!という声が上がり、
政治的力も加わって、専門委員会は勧告の変更を余儀なくされました。

日本では欧米諸国のような大規模前向き研究が行われません。
その大きな理由は国の関心の低さにあるでしょう。
スクリーニングやワクチンの有効性を調べるには
前向き研究の中でも
精度の高いRCTと呼ばれる研究方法が必要です。
となれば当然費用も莫大です。

しかし、国として考えたとき、
必要な検査か不必要なものかは正確に見極めなければなりません。
必要な検査をしなければ、国を支える人が少なくなり、
不必要な検査は無駄なだけです。

前にも書いたとおり、乳がん発生には様々な因子が関わってきます。
人種差というのも大きな因子ですから、
アメリカではあまり芳しくない結果が出たけれど、
日本人ではそうではないという事も十分考えられます。
それにはRCTをやってみなければなりません。


米国の研究結果からはもう一つの問題が指摘されました。
スクリーニングで「がん」だと言われた人は全体の11%なのですが、
もっと詳しい検査をしてみると、
0.3%しか本当はがんではなかったという事がわかりました。

前回はスクリーニングの敏感度と特異度についての話をしましたが、
この結果を見る限り特異度が低いのです。
すなわち「擬陽性」が多く出ることになります。

これが風邪のスクリーニングであれば、
陽性でも陰性でも大した問題にはならないかもしれません。
しかし「がん」という結果は、
受け取る側の精神的ストレスは多大なものですし、
それに引き続くもっと詳しい検査の数も
スクリーニング検査陽性の数に比例しますから、
費用もかかります。
そんな状況で「間違い」が多いことは、
個人にとっても国にとっても大きな負担となります。


日本には公衆衛生の基本概念自体が希薄だ、
ということは今までにも書いてきたとおりです。
問題なのはこれから必要な場面に、
新たにシステムを構築する努力です。
乳がんだけでなく、前立腺がん、子宮頚がんなどの
スクリーニングの評価(妥当性も含めて)や、
新たなワクチンの有効性についても
議論を避けることはできません。


厚労省や学術界が勇気を持って
一歩を踏み出すことが望まれます。

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2010年4月28日

乳がんスクリーニングは効果があるか vol.1


「がん検診受けてください」中村市長が市民に手紙



紀の川市はこのほど、今年度新規事業の「がん検診向上」を図るため、中村愼司市長直筆の手紙の複写914枚を対象者に発送した。主に国保加入者やその扶養者などの中で、 今年度満40歳になる男女。中村市長は「那賀病院とも協力し、今後本市だけでなく、県、また世界を動かすくらいに、がん検診向上推進に努めていく」 と話している。
同事業は、ことしが全身麻酔を使い世界で初めて乳がんを摘出した華岡青洲生誕250年を記念して企画。
手紙はB5の便せんに市長が考えた言葉がつづられている。 担当の健康推進課によると 「このような取り組みは、県内で初めて」という。封筒には、そのほか、青洲の功績を紹介したチラシと、集団検診の日程表などが同封された。
同市は、国保加入者などの対象者から算出した検診率が4割を越えるなど、乳がんの検診率は全国的にも高水準。しかし、検診申し込みに対し、「がんが見つかるのが怖い」などの理由で申し込んだにもかかわらず受診を断る人が約3割いるのが現状という。
同課は今後、がん初検診者向上と、検診申し込み者の受診率100%を目指した啓発を図るという。
わかやま新報Daily News  2010年4月20日



がん検診とは早期のがんの
なるべく早い段階に見つける検査で、
がんスクリーニングとも呼ばれます。
スクリーニング検査は、
国や地方自治体が「やろう!」と決めて導入するのですが、
やって意味があるかどうかを、どのようにして決めるのか、
といった話をしてみたいと思います。

国全体としてみれば貴重な労働力が病気にならないことが、
国を維持するためには大切なので、
がんや、心臓疾患系の障害をなるべく早く見つけて、
早いうちに治療をすることを考えます。

とはいっても1ミリに満たない
小さながんを発見するための高価な検査を
国民すべてに行うのは労力もお金もかかりすぎます。
また、検査を受ける側も
1日がかりの検査をしょっちゅうやられていたのでは
たまったものではありませんから、
スクリーニングはなるべく簡単に、
時間もお金もかけずに、
かつ精度が高い検査がのぞまれます。


検査の正しさ(有効性)はどうやって測るのかといえば、
「妥当性」と「信頼性」の2つの指標でみます。
妥当性とは本当に病気の人をきちんと病気だと認識できるか、
そして正常な人を正常だと認識できるか、ということです。

信頼性というのは、
何回か検査をしたときにどれだけ同じ結果が得られるか、
ということです。
ある人がはかると陽性、違う人がはかると陰性、
というのでは結果がてんでばらばらです。
信頼性とは正しい(真実の)数値を
誰がはかっても同じような結果が出る検査の能力であり、
再現性と呼び替えることができます。
妥当性も信頼性も高いのが良い検査ですよね。



(講談社新書「厚労省と新型インフルエンザ」木村盛世著よりP.156一部改編)






それでは妥当性に関してもう少し、見てみることにしましょう。
妥当性が低い、言い換えれば
正しい値が検査で出てきにくい、ということです。
それ故、妥当性というのは検査の生命に関わる
もっとも大切な特性です。
ですから、スクリーニング検査は
この妥当性がいかに高いかがとても重要なのです。


少し専門的になりますが、
妥当性をあらわす物差しとして、
「敏感度」と「特異度」という2つがあります。
敏感度とは、本当に病気を持っている人たちの中から
どれだけ検査で陽性(+)と出すか、ということであり、
特異度とは本当に病気を持っていない人を
どれだけ正しく陰性(-)と示すか、
という検査の能力のことです。

敏感度も特異度も高ければ高いほどよいのですが、
残念ながらどっちも完璧という検査は無いのです。
一般的に特異度が上がれば敏感度が下がる
というシーソーのような関係になっているので、
100パーセント妥当なスクリーニング検査は存在しないのです。
 

(講談社新書「厚労省と新型インフルエンザ」木村盛世著よりP.160一部改編)





それでは次回は、スクリーニング検査が実際どれだけの人を救えるか、
ということについての話をすることにしましょう。


__________________________
春のブーケです。かわいらしい花がブーケになりました。バラ、ガーベラ、モカラ、オーニソガウム、ヒペリカム!


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2010年4月23日

H1N1豚インフルエンザ対策総括を検証する vol.4

このタイトルについてお話しするのも最終回となります。
1回目2回目3回目を読む)
最後は「学校閉鎖の効果」についてです。


検疫とともに力を入れたのは学校閉鎖ですが、
はたして効果はあったのでしょうか。
WHOは1959年に
「北半球では夏休みが終わって学校が始まることが
大流行の引き金を引くように思われる」としながらも、
「学校閉鎖の効果は限定的」と結論しています。
これは1957年に流行した
新型インフルエンザ「アジア風邪」の流行による
解析の結果です。

今回のH1N1豚インフルエンザでも
海外では学校閉鎖がそれほど積極的には行われませんでした。
しかしわが国では当初から1人の生徒でも患者が出たら
学校閉鎖が徹底されました。
しかし、ある高校では学校閉鎖が行われたと同時に
暇を持て余した生徒たちがカラオケ店に並びましたから
これでは何のための学校閉鎖かわかったものではありません。


カラオケに生徒が押し掛けたように
人間の行動を規制するのは難しいものです。
インフルエンザなどの呼吸器感染症で子供たちが休み始め、
ある一定以上の数の学童が休むと学級閉鎖をします。
学級閉鎖は、学校などで人が集まる場所は
お互いにうつしあうので
この場をなくせば病人も減る、
という理念にもとづくものです。

しかし、1週間の学級閉鎖の後
まだ治りきっていない子供達が
咳をしながら登校してきます。
こうなってくると学校は始まった途端に
また病気のうつしあいが始まり、
喜んだのは元気な子供たちだけでしょう。

今回行われた学校閉鎖の有効性を示す話として、
1920年にアメリカの小さな島で
インフルエンザが流行った時に学校閉鎖が行われ、
「学校閉鎖は完全に感染をシャットアウトできないかもしれないが
流行を遅らせることができた」
という報告が持ち出されます。
しかし、これはあまり人口密度が高くない場所だったから、
かもしれません。


1918年のスペイン風邪が流行した際、
学校を休みにしたアメリカ大都市部と、
授業が行われていた田舎を比較した際、
都市部の学校ほうがインフルエンザ罹患率が高かった
という研究報告もあります。
この理由としては学校が休みであっても
映画館等で生徒間の交流が活発だったからかもしれません。
今回のカラオケ店に並んだ生徒の姿と
重なるところがありますよね。

学校閉鎖だけでなくコンサート、
集会の自粛なども行われました。
同じような試みはスペイン風邪が流行した
90年前にも行われました。
カナダのエドモントンでは徹底的な患者隔離とともに、
全ての集会禁止、学校、教会、映画館等
人が集まるところはことごとく閉鎖されました。
加えて職場における就業時間も短縮されたのですが、
インフルエンザ流行が抑えられたという話は聞きません。


歴史的に見てみると、
インフルエンザなどの呼吸器感染症で、
特別な治療法がない病気に関しては
学校閉鎖や集会の自粛などは、
効果があるとはいえないことがわかります。
たとえ人の行動を徹底的に制限したとしても、
必ず誰かは包囲網を潜り抜けるからです。

咳や熱のある人を片っ端から捕まえて隔離したとしても、
熱や咳だけがインフルエンザの症状ではありません。
たとえば体がだるいとか、
頭痛などから始まる人もいます。
とすれば、H1N1豚インフルエンザを
完全に封じ込めるためには、
他人との接触が全くないであろうヒマラヤの奥地へ行くか、
呼吸をやめること以外にはないように思えます。

(学校閉鎖に関する一番新しい総括:Caushemez S, Ferguson N, Wachtel C et al, “ Closure of Schools during an Influenza Pandemic”. The Lancet Infect Dis, Aug;9(8):473-81.2009)


常識的に考えても完璧な封じ込めは不可能なのですから、
不可能なことを行えば様々な弊害を生じます。
その一つが経済的ダメージです。
国交省によると、首都圏の感染拡大を防ぐため
車内で乗客同士がある程度以上の間隔を空けられるよう
乗車制限した場合、
乗車率が通常の1割程度の落ち込むとのことです。

そうなるとたとえば
山手線の内側回りの電車では、
日中の乗客がいつもの3分の1になるといいます。
同省国土交通政策研究所試算によれば、
山手線の内回りで電車通勤する人は1日に約300万人です。

2%の致死率を示すスペイン風邪なみのインフルエンザでは
4分の1の人が出勤しないというアンケート結果がでています。
その他にも田舎に避難するなどして
乗車人数が減れば
山手線内回りに乗る人は197万人としています。
加えて、2メートルの間隔を空けて乗車するとなると、輸送人員は53万人に減り、
鉄道会社の乗員が4割欠勤という事態になれば27万人を運ぶのが精いっぱい
ということですから商売あがったりになります。

輸送機関だけでなく旅行も減りますから
旅行業界はじめとするサービス産業は
大きな痛手を受けることになります。
今回のような検疫、学校閉鎖などを繰り返せば
その経済損失は数兆円といわれています。


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先日作ったスイートポテトムースです!焼き芋を焼いた残りと、水切りしたヨーグルト、生クリーム、卵というシンプルなものですが、娘たちに好評でした^^



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2010年4月16日

H1N1豚インフルエンザ対策総括を検証する vol.3

前々回前回と引き続き、3回目となります。
疫学的には「検疫は有効だった」と言えるのかということについてです。



理論的にも、費用対効果的にも意味もない、
今回の水際強化ですが、
せっかくですからもう一つ別の側面から
切り込んでみたいと思います。


厚労省の記事などで、
「公衆衛生学的」といった文言を
目にする機会があると思いますが、
公衆衛生とはいったいなんでしょうか。
一言で言えば「森を見る」学問です。
これではなんだか分からないですか。
 
例えば、皆さんが病気になって病院に行くと
お医者さんが注射や薬などを出して治してくれます。
これを臨床医学と言います。
ところが公衆衛生の場合は、
個人ではなく国民全体の病気を治そう、
あるいは予防しようというスタンス
です。
インフルエンザが流行したとき、
重症化しやすい人に重点的なケアをして、
インフルエンザの被害を
なるべく小さくしようというのが、
公衆衛生学的立場です。


そして公衆衛生学的立場に立ったとき、
どんなことをしたらよいのかという
科学的根拠を与えてくれる学問を疫学(epidemiology)

といいます。
疫学は「人間集団における因果関係のあるなしを調べる学問」
といえるでしょう。
(偉い先生はもっと難しい定義をしますが、
難しすぎてよくわかりません。)


因果関係があるかないかを調べるには、
Aの結果Bになったという「仮説」を立て、
これが正しいかどうかを証明する、
という手段をとります。
例えば、「“スリム茶モリヨン”を飲んだら体重が減少した」
というのが仮説となります。

今回の記事は、痩身に関するものではありませんので、
「検疫をやったら国内のH1N1患者発生が少なくなった」
という仮説になります。
仮説をどのように証明するかについては
また別の機会に説明することにしますが、
今回は、この仮説自体に意味があるかどうかを
検証する一つの指標があります。
アメリカ公衆衛生局長諮問委員会がまとめたもので、
5つの項目があります。
この5項目に基づいて、
検疫仮説が意味のあるものかどうか
見てゆくことにしましょう。


第1に普遍性(Consistency)です。
すなわち違った場所や集団、
あるいは時代が違っても
検疫は有効であることが言えるかどうかと言うことです。
サーモグラフィーを使った
SARSスクリーニングはほとんど意味がありませんでした。
 
第2に強固性(Strength)です。
検疫を行えば行うほど患者の国内発生は少なくなるかどうか、
ですが、このような事実はありませんでした。

第3に特異性(Specificity)です。
検疫をやったところは患者発生が少なく、
かつ患者発生が少ないところは
必ず検疫を行っている。
国内でこのような差があったとは聞きません。
関西では検疫を強化しながら、
国内初の患者が発生しました。

第4として時間の順番が間違っていないか(Temporality)です。
原因(検疫)と結果(患者発生が減る)を調べるとき、
検疫行った→患者発生減ったという時間軸を
無視していないかどうかと言うことです。

最後に今から調べようとする仮説が
既存の事実とかみあっているか(Coherency)
です。
過去のインフルエンザも、SARSもペストも、
そして栗原中将も水際作戦に成功しませんでした。


これら5つを満たすものが
仮説として適当とされるのですが、
この5つを総合的に見ると、
仮説が常識的に正しいかどうか、ということでしょう。
とすれば歴史的に成功した試しもなく、
常識的に考えて効果のあるとは思えない検疫に関して
「有効であったかどうか」という
仮説を立てて議論すること自体、
あまり意味のないことだと思いませんか。
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2010年4月13日

H1N1豚インフルエンザ対策総括を検証する vol.2

前回に続いて水際検疫に関する検証です。


サーモグラフィーを使って体表温度を測り、
これでインフルエンザ封じ込めをはかったのが
水際作戦だったわけですが、
この機械は1台約300万円かかります。
今回のH1N1豚インフルエンザに対応するため
300台のサーモグラフィーが購入されました。

機械を増やせば、その画面を見て
熱がある人を見つけるための“人”が必要です。
例えば羽田空港では1台のサーモグラフィーあたり、
実際に見る人が1人、
機械の前に乗客を停止させる人が1人、
それに、注意喚起の黄色い紙を渡す人が1人。
この黄色い紙は検疫を通過したという踏み絵のようなもので、
あまりに馬鹿馬鹿しく時間がかかる検疫に
腹を立てて握り潰した場合は、拾ってのばさないと、
次に通る入国管理局を通過することが出来ません
(民主主義国家でしょうか!)でした。

この他に、汚染地と称されたアメリカなどの国の人や、
そこを経由した人、熱がある人に、
個別に対応する医師や看護師が必要です。
このためトータルで2450の人員が動員されました。
通常の検疫職員の数は約500人ですから、
そのほぼ4倍のにわか検疫官が仕上がったわけです。

この検疫強化でもっておよそ10万人のスクリーニングが行われました。
その結果見つかった患者は何人だったかといえば、
たったの5人でした。


皆さんは「費用対効果」という言葉を聞いたことがありますか。
もともとは経済分野で使われていたもので、
現在でもコストベネフィトという言葉で使われています。
医療などの分野では
ベネフィットの代わりに「エフェクティブネス(効果)」
という指標を使いますが、
この指標はその解析対象によってまちまちです。
H1N1豚インフルエンザに関して言えば、
検疫総数あたりの患者数が適当な指標でしょう。

費用対効果分析は専用の統計ソフトもありますが、
要は、効果をかかった費用で割ったものです。
効果が高ければ費用対効果が高いので、
効率的な政策ということができます。


今回の検疫はといえば、
300万のサーモグラフィー300台と、
2000人分の日当×検疫をしていた日数を計算すれば
何十億というお金がかかっています。
これだけ力を入れても見つかった患者は高々5人ですから、
費用対効果は果てしなく悪い、
ということはお分かりになると思います。


「費用対効果が悪くてもやらなければならない時もある」
という意見もあります。
これはもっともな言い分です。
それしか方法がない場合、
あるいは社会的に必要な場合などです。

しかし検疫強化はそれに値するでしょうか。
インフルエンザである限り、熱をワンポイントで測っても
必ず患者はくぐりぬけます。
そして広がってゆきます。
低病原性であれ高病原性であれ、
インフルエンザ対策の基本は
重症化しやすい人に重点を置くことです。
となれば、国内の医療機関の医療スタッフの確保や、
感染症病棟などの整備に力を注ぐべきなのです。

こともあろうにただでさえ不足している現場の医師を
検疫のために連れてくるなどということは
あってはならないことです。
進んで国民の命を危険にさらす愚策といえるでしょう。
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2010年4月10日

H1N1豚インフルエンザ対策総括を検証する vol.1

【キブンの時代】危険はどこに 新型インフル「偏執病」
(4/4 産経新聞紙面掲載)

「『もう言わんとこ』って決めたんです。話したくないのは当然だけど、思いだしたくもない」
 大阪府寝屋川市にある公立高校の校長は、やんわりと取材を断った。
 昨年5月、この高校は、新型インフルエンザの大騒動に巻き込まれた。短期留学で訪れたカナダから帰国した生徒4人が、成田空港での検疫で新型インフルに感染していることが判明。同じ航空機に乗っていた同級生ら乗客48人が空港近くのホテルに停留される羽目になった。
 新型インフルの日本での初の感染確認だった。
 高校が追われたのは、生徒らへの対応ばかりではなかった。「謝れ!」「大阪へ帰ってくるな!」「バカヤロー」。伏せられていたはずの高校名をどこで知ったのか、電話が殺到した。
 「まるで危険物扱い。誹謗(ひぼう)中傷も、マスコミの取材もすごかった。でも1週間もして、日本各地で感染が確認されると誰も騒がなくなった。あの雰囲気、世間の気分は、いったい何だったのか」。校長は1年近くたった今でも納得がいかない。
     ◇
 厚生労働省では、国内での感染が確認された時点など要所要所で、当時の厚労相、舛添要一(61)が深夜、早朝を問わず自ら会見を開いた。
 国が騒ぎ過ぎたので、日本中が大騒ぎになったのではないか-。そんな声は当初からあった。舛添から「緊急時なのに連絡がつかない」と指摘された横浜市長(当時)の中田宏(45)が発した「大臣自身が落ち着いた方がいい。カリカリし過ぎ」という言葉が反発を象徴している。

 厚労省幹部によると、首相官邸からも「何で大臣が深夜に会見するんだ」といった牽制(けんせい)があったという。
 これに対し舛添は今年2月、日本環境感染学会で講演し、「反省点は山ほどある」としながらも、「見えない敵との戦争だ。危機管理の問題で情報を公開することが大切。位が上の人が言うほど情報の信頼性が高まる」と反論。「ワクチン対応などで長妻昭厚労相が国民の前で語るのを見たことがない。これではだめだ」と切り返した。
 国の対策の事務方の責任者である厚労省健康局長の上田博三(60)は一連の情報発信について、「大臣が会見したことで、国民にしっかりとメッセージが伝わった」と肯定的に振り返る。一方で、「情報が強く伝わってしまった点もあった。われわれがもっと積極的に情報の背景説明などをすべきだった」と語る。
     ◇
 マスク、手洗い、そして感染者が出た学校への誹謗中傷…。米紙ニューヨーク・タイムズは、新型インフルをめぐって日本中を覆った雰囲気を奇異にとらえ、「パラノイア(妄想症)の国」と伝えた。
 記事は「下着からボールペンに至るまで抗菌性」と日本社会を揶揄(やゆ)し、「もともと衛生状態への強迫観念がある」と分析する。
 なぜ、日本中で「パラノイア」と称される光景が生じたのか。ものものしい防護服に象徴された検疫体制を検証してみる。

“新型インフル・パニック” 恐怖心、国全体を支配
 「空港の検疫体制は過剰ではなかったのか」。メキシコでの新型インフルエンザ感染確認から約1年がたった今年3月31日。厚生労働省で開かれた新型インフル対策を検証する委員会で、そんな批判が紹介された。
 新型インフルの“恐怖”を視覚的に日本中に伝えたのが、メキシコでの感染確認から間もない昨年4月29日から5月22日まで続けられた航空機内での検疫だ。ゴーグルをつけ、白い防護服を着た検疫官が機内で乗客の健康状態をチェック。島国・日本だからこその“水際作戦”だった。
 だが、当初から専門家は検疫強化による効果に懐疑的な見方をしていた。
 政府の新型インフルエンザ対策本部専門家諮問委員長を務める尾身茂(60)は今年3月、日本記者クラブ(東京都千代田区)での会見で、「水際作戦に限界があったことは皆が承知していた。だが病気についてよく分かっていなかった時点で、水際作戦をやめることに国民は耐えられただろうか」と、世論の動向が検疫強化につながったという見方を示した。
 当時厚生労働相だった舛添要一(61)もインフル対策を振り返る中で、「水際作戦の継続のように、医学的にみれば『あまり合理的でない』ということはあるかもしれない。しかし、人間の心理や感情を考慮しなくてはいけない」と語っている。

 厚労省内でも感染確認直後から、「ものものしい検疫をいつまでも続けるより、早く病院など国内の体制整備に力を向けたい」という声が聞かれるようになっていた。同省健康局長の上田博三(60)は「5月の連休明けにも検疫体制を縮小することも考えた」と振り返る。
 しかし、まだ連休中だった5月9日。成田空港の機内検疫で感染者が見つかった。カナダへの短期留学から帰った大阪府寝屋川市の高校の生徒たちだった。
 上田は「検疫で見つかることが分かった途端、『もっとやれ』という声がいろいろなところから届き始めた。風向きが急に変わった」と話す。
 検疫の強化は、国内で感染者が確認された後も継続されていくことになる。
     ◇
 羽田空港検疫所で働く医師、木村もりよ(45)は、厚労省のとってきた政策を正面から批判する。インフル対策で歯にきぬ着せぬ発言をし続け、国会に参考人として呼ばれたこともある現役の厚労省職員だ。
 「そもそもインフルエンザの感染を封じ込めるなんて無理な話で、検疫を強化しても仕方ない。季節性インフルでも何千人と死ぬことがあるのだから、腹をくくり、重症化しやすい人への対策に力を入れるべき」。木村はそう主張する。
 そして「公衆衛生や医療現場を分かっていない役人が、誤ったメッセージを国民に伝えるからパニックになった。この騒動は『官製パニック』。国民は踊らされた」と一刀両断にする。
 世界的にみて、今回のインフルで、これほど検疫強化に努めた地域はない。厚労省の立ち上げた検討会では、その評価も含めた検証が始まるが、昨年の日本社会が官僚も国民も含め、新しいウイルスへの恐怖感で満ちていたといえる。
 検疫業務に参加した女性スタッフ(42)が話す。「『大げさだ』と怒られたこともあるが、検疫を受けた人や、多くの国民から『安心した』『頑張って』という声を随分かけてもらったことも事実。少しでも安心な気分になってもらえたなら意味があった、と思う」(敬称略)
     ◇
 新型インフル、中国製ギョーザを契機とした冷凍食品問題など、日本人の健康や安全に影響が出るような事象が相次いでいる。マスクをしたり、購入をやめたりと、敏感に反応する日本人。その反応に“キブン”的なものはないのか。健康や食の安全をめぐるキブンを考える。

2010年4月4日産経新聞紙面掲載 (ここまで引用):
http://sankei.jp.msn.com/life/trend/100404/trd1004040800002-n1.htm



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2009年に流行したH1N1豚(新型)インフルエンザについての
政府総括が始まりました。
いわゆる新型インフルエンザと呼ばれているこの疾患に関して、
政府の主導中心として活躍した尾身茂氏は
「やりすぎもあったが、大成功だった」と結論しています。
(木村盛世オフィシャルサイト:日本記者 クラブ石岡荘十氏「現役医系技官がインフル総括に反論」参照)


すべての政府の活動は行動計画に基づいています。
すなわち、箸の上げ下げにいたるまで
政府が決定するということです。
行動計画の中心となったのは水際対策と学校閉鎖でした。

尾身茂氏のいうとおり、
今回のインフルエンザ対策は大成功といえるのかどうか、
検証してみることとしましょう。

先ずは水際対策ですが、
成田空港などの主要空港を中心とした機内検疫、
防護服を着込んで勇ましく空港を駆け巡る
検疫官の姿を思い浮かべる方も
多いのではないでしょうか。

ある経済界の集まりで話をしたとき、
「検疫とはみなさん何をしていると思いますか?」
という質問をしたところ、
「何か特別な検査で、H1N1豚インフルエンザに
罹っているかどうかを調べているのではないか」
という答えが大半でした。

実際、水際検疫とは何をしているかと言えば、
サーモグラフィーと呼ばれる機械で、
体表温度をはかることです。
え!まさか、それだけですか?
と言われるかもしれませんが……
では、熱が出る病気はH1N1豚インフルエンザだけでしょうか。
そんなことはありませんよね。
カゼ、インフルエンザ以外による
気管支炎、肺炎、細菌性胃腸炎などなど数えればきりがありません。

サーモグラフィーという体の表面を測る温度計が
どれだけ脇の下や舌下で測る体温と
同じような数値を示すのか本当のところわかりません。
病気でなくても、アルコール飲んでも
暑い場所を歩いてきただけでも
サーモグラフィーでは真っ赤っかになることもあります。

これに加えて、インフルエンザに限らず、
細菌やウイルスによる感染症には
必ず潜伏期間というものがあります。
これは体の中には病原体が入っていても、
症状がないため見た目は健康な人と同じです。
当然熱も出ません。
これでは潜伏期の時にサーモグラフィーを
通過しても捕まえられるわけはありません。
インフルエンザではこの潜伏期から
人に病気をうつすことが知られていますから、
検疫すなわちサーモグラフィーだけで
全ての感染源をシャットアウトすることなど
不可能な事がお分かりいただけるでしょう。

もし、検疫が有効であったということを
証明するのであれば、
検疫をやった場合とやらなかった場合にわけ、
2つのグループにおけるインフルエンザ発生率の違いを
比較する以外にはありません。
しかし今回の騒動では「検疫を行わなかった」
という事例は存在しませんので
比較自体、あり得ないことになります。
ですから、「検疫が効果があった」と結論するのは、
なんとなくそう思うから、
という程度の信ぴょう性しかなくなります。
カゼの時、みかんをいっぱい食べたら良くなった(ような気がした)
というのと同じレベルのものなのです。
そうはいっても、それでもやったよりは
やらないほうがましだった、という人がいるかもしれません。

では、次回は「費用対効果」という観念から
検疫の有効性について説明することにします。
vol.2へ


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