前々回、前回と引き続き、3回目となります。
疫学的には「検疫は有効だった」と言えるのかということについてです。
理論的にも、費用対効果的にも意味もない、
今回の水際強化ですが、
せっかくですからもう一つ別の側面から
切り込んでみたいと思います。
厚労省の記事などで、
「公衆衛生学的」といった文言を
目にする機会があると思いますが、
公衆衛生とはいったいなんでしょうか。
一言で言えば「森を見る」学問です。
これではなんだか分からないですか。
例えば、皆さんが病気になって病院に行くと
お医者さんが注射や薬などを出して治してくれます。
これを臨床医学と言います。
ところが公衆衛生の場合は、
個人ではなく国民全体の病気を治そう、
あるいは予防しようというスタンスです。
インフルエンザが流行したとき、
重症化しやすい人に重点的なケアをして、
インフルエンザの被害を
なるべく小さくしようというのが、
公衆衛生学的立場です。
そして公衆衛生学的立場に立ったとき、
どんなことをしたらよいのかという
科学的根拠を与えてくれる学問を疫学(epidemiology)
といいます。
疫学は「人間集団における因果関係のあるなしを調べる学問」
といえるでしょう。
(偉い先生はもっと難しい定義をしますが、
難しすぎてよくわかりません。)
因果関係があるかないかを調べるには、
Aの結果Bになったという「仮説」を立て、
これが正しいかどうかを証明する、
という手段をとります。
例えば、「“スリム茶モリヨン”を飲んだら体重が減少した」
というのが仮説となります。
今回の記事は、痩身に関するものではありませんので、
「検疫をやったら国内のH1N1患者発生が少なくなった」
という仮説になります。
仮説をどのように証明するかについては
また別の機会に説明することにしますが、
今回は、この仮説自体に意味があるかどうかを
検証する一つの指標があります。
アメリカ公衆衛生局長諮問委員会がまとめたもので、
5つの項目があります。
この5項目に基づいて、
検疫仮説が意味のあるものかどうか
見てゆくことにしましょう。
第1に普遍性(Consistency)です。
すなわち違った場所や集団、
あるいは時代が違っても
検疫は有効であることが言えるかどうかと言うことです。
サーモグラフィーを使った
SARSスクリーニングはほとんど意味がありませんでした。
第2に強固性(Strength)です。
検疫を行えば行うほど患者の国内発生は少なくなるかどうか、
ですが、このような事実はありませんでした。
第3に特異性(Specificity)です。
検疫をやったところは患者発生が少なく、
かつ患者発生が少ないところは
必ず検疫を行っている。
国内でこのような差があったとは聞きません。
関西では検疫を強化しながら、
国内初の患者が発生しました。
第4として時間の順番が間違っていないか(Temporality)です。
原因(検疫)と結果(患者発生が減る)を調べるとき、
検疫行った→患者発生減ったという時間軸を
無視していないかどうかと言うことです。
最後に今から調べようとする仮説が
既存の事実とかみあっているか(Coherency)です。
過去のインフルエンザも、SARSもペストも、
そして栗原中将も水際作戦に成功しませんでした。
これら5つを満たすものが
仮説として適当とされるのですが、
この5つを総合的に見ると、
仮説が常識的に正しいかどうか、ということでしょう。
とすれば歴史的に成功した試しもなく、
常識的に考えて効果のあるとは思えない検疫に関して
「有効であったかどうか」という
仮説を立てて議論すること自体、
あまり意味のないことだと思いませんか。
vol.4へ
___________________________
宜しければご感想等を
私宛に(@kimuramoriyoと付けて)twitterにお願いします。