2011年4月19日

義捐金はどこへ行く ―被災者のために有効に使われているのか?-

東北地方太平洋沖地震に際し、「義捐金」を集める運動が盛んに行われています。
義捐金とは、日本赤十字社に対する寄付です。
被災では、家や家族を失った人がたくさんいます。
そのために、寄付を募る事はごく当たり前の事です。

しかしながら、その集めたお金なるものが、
果たして、被災者にとって良い方向性を持って使われているのでしょうか。
(参照:日本赤十字社義援金は能力なりの規模に:免罪符的寄付から自立的寄付へ

そんな疑問を抱いている折、一通のメールが飛び込んできました。
それは、アメリカに住む日本人医師からの「義捐金」を巡る動きをつづったものでした。


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今回の震災後に、多くの「組織」が、「アメリカの医療者」に「日本でのボランティア活動」の募集を繰り返ししています。

「義捐金を元」に、アメリカからの往復の交通費と宿泊費と食費が全額支給されるそうです。1週間ずつの滞在で交代するそうです。1チームが医師1-2名、看護士3-4名、理学療法士他、他の医療者1-2名の計6-7名を1週間毎に送る計画を立てているそうです。(もう始まっているそうです。)

アメリカ人の医療チームが被災地に入っても、医療体制の違いや、治療薬剤名の違いなど、なかなか「スムーズに行く」とは思えませんが、アメリカ人には「被災地をこの目で見てみたい」という「衝動」に駆られる人が多いようです。

「話題つくり」としては「インパクト」もあるし、アメリカで「被災地の現場の写真」をみなの前で「上映」すると、多くのアメリカ人が興味を持って聞いてくれます。

「相当額の義捐金」がこういう形で「アメリカに流れて来て」、飛行機代とホテル代と食費に消えているのを目にすると、これが「有効な使い方なのだろうか???」と疑問に思うことがあります。

多くのアメリカの若い独身の医療者が「ボランティア期間」の給与を、自分の病院から確保して、「ただで日本へ往復できる」と思っている「不届き者」もいるように聞きます。

とある日本のNPO団体が、義捐金から相当額を確保して、この「アメリカからの医師の派遣」を実現したとのことです。

今回の震災では義捐金の額も巨大で、また、それに群がるNPO団体も多数あり、その「使い道」をどうするかを決める人が誰なのかも不透明なのではないでしょうか。

アメリカにも「日本のNPO団体」と称する団体から、たくさんの人が「アメリカ支部勤務」として住んでいますが、、、、多くが「何をやっているのか不明」さらには「その団体の設立目的が不透明」なところが多々あります。
私個人としては信用できない団体ばかりで、関わり合いになりたくないと思っています。(多くが政府の外郭団体で、役人の天下りで占められているようなところばかりです。お金はふんだんにあるようで「日本からのお客さん」を招待したり、、、招待されたり、、、)

震災後に「日本の闇の部分を目の当たりにするよう」で、私個人としては「とても暗い気持ち」になっています。

私の所へ「日本へのアメリカ人医師派遣の誘い」をしているのはProject HOPE という団体です。
http://www.projecthope.org/where-we-work/humanitarian-missions/japan.html
http://www.projecthope.org/news-blogs/In-the-Field-blog/volunteers-assess-needs-in.html

彼らによれば、「資金の確保を日本のNPO団体からできているので、旅費、ホテル代、食費は全部まかなう。その手配も日本側で行ってもらえる。日本で医者の足りない病院に入って診療を行う」とこのことでした。
日本側の「政府の要請」だそうで、具体的な日本側のNPO団体の名前は知りません。

彼らのサイトに「アメリカ人医師が現地入りして、日本で何が必要かの調査を行っている」とあります。
また、「通訳として、その派遣団に同行したい」という「在米日本人通訳」も名乗りを挙げているようですが、、、、。私自身、「調査団」が「通訳を連れ立って」現地入りし、その全ての旅費・滞在費を日本側が「至れり尽くせり」で賄うというのは、やり過ぎのような気がしました。

まるで「アフリカの無医村へ、調査団を派遣して、医療テントを立ち上げる」かのような計画です。「日本の被災地」で「アメリカ人医療団」が「この村では何が必要か?」と調査する必要性があるのか?と疑問に感じました。

また、今回「アメリカ人医師でも自由に日本で医療行為ができるように」ということで、「超法規的措置」で「外国人医師の診療行為許可」が日本政府から出たそうです。ですので、「日本の医師免許を持たない」「日本の薬を使ったことが無い」アメリカ人医師でも、自由に診療行為が出来るとのことでした。


アメリカを含めて、世界中には「医療チーム派遣を積極的に行っているボランティア・チーム」が多数あります。
たぶん、一番有名なのが、フランスの「国境無き医師団」でしょう。勿論、こういった派遣ボランティアは重要な職務ですが、どうしても「お金」が絡んでくると「グレーな部分」「闇の部分」が出てくるのはしょうがないのでしょう、、、、。
「国境無き医師団」は、欧米では「短期間に驚異的な知名度と、資金を集めた組織」として、その方法論が「ビジネスモデル」として「研究対象」になっているほどです。彼らは「資金集め」「知名度向上のための宣伝活動」などを効率よく行うため、こういった「宣伝・資金集めのプロ」を多数雇用して、成功したとされています。(プロ集団による「知名度向上の成果」が「ノーベル賞受賞」という形になり、これが「更なる」知名度の向上と「金集めの成功」につながって、無限の「ポジティブ・スパイラル」に入っていると評されます。)

まあ、ボランティア団体に個人的な恨みは無いので、彼らがどうしようが「距離」を置いておけば良いかな、、、と思っています。


ただ、今回「募金したお金」がこういった形で使われているのを偶然知って、「ちょっと悲しくなっている」のが正直なところです。
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被災地の医療スタッフは不足しています。
ですから、海外の医療スタッフが手伝いに来てくれるというのは、
非常に喜ばしい事です。
政府も、超法規的措置をとり、日本の医師免許を持たない医師であっても、
診療行為が出来るようにしています。
しかし、このアメリカ在住医師のメールを見る限り、
善意で集められた寄付が、あまり良いやり方で消化されていないのではないか、
と感じます。
世界に名高い(悪い意味で)、我が国のばらまきODAを彷彿させます。

繰り返しますが、被災地の医療スタッフは、不足状態です。
ボランティアとして赴く医療スタッフたちは、交通費は自ら払い、報酬もありません。
彼らたちの作業は過酷であり、長時間にわたります。
それを「ボランティア」と言うだけで、お金を払わなくて良い、という考えでは、
活動自体長続きしません。
そもそも、ボランティア=無償、ではないのですから。

多額の義捐金が、海外の医療スタッフに出回る余裕があるのなら、
まず、ボランティアとして赴く医療スタッフに対しての金銭的補助と共に、
職場をある一定期間休めるようにするなどの整備に使ってほしいものです。

そのための具体的な方法として、集めた義捐金を、一度、
国庫金としてプールできるような仕組みを作るべきだと思います。
(参照: 日本政府の援助拒否ー危機管理の立場から考察する

義捐金とは、まさしく、人々の善意で集められたお金です。
それを、被災地の復興のために、最大限有効に活用する事が、
政府の責任であると考えます。

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2011年4月12日

ヒロシマ、ナガサキ、チェルノブイリから学ばない原子力政策 ―子どもたちに対する、的確な放射能被ばく対応を望む―

福島原発の状況は、今なお予断を許すものではありません。
今回は、放射性物質の人体への影響について書いてみます。
というのも、現在の政府対応は、妊婦や乳幼児に対してあまりにも「甘い」と感じるからです。
http://www.nsc.go.jp/bousai/page3/houkoku02.pdf
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r9852000001559v.pdf

人が放射線にさらされる事を「被ばく」と言います。
被ばくは、体の外側に受ける外部被ばくと、
体内に放射性物質がとりこまれる、内部被ばくに分かれます。
外部被ばくは、衣類を脱ぐ、あるいは洗う等により、影響を取り除く事ができますが、
体の中に入ってしまったものは、
放射性物質が自分で少なくなる(崩壊と言います)のを待つか、
尿や、汗、あるいは便から体外に排出されるのを待つ以外はありません。
このため、内部被ばくがより重要なのです。

放射能による最も重大な健康問題は、「がん」です。
がんは、細胞ががん化する事によって起こります。
その一つの原因が放射能なのです。
放射性物質は、遺伝子であるDNAを傷つけます。
傷ついた遺伝子は、がん細胞という、暴走する異常細胞を生みだすのです。

多量の被ばくをして、急性のがんが発症する事がありますが、
それ以上に問題なのは、将来起こるであろう細胞の「がん化」です。
がん化には約20年が必要と言われています。
このため、放射性物質が身体の中に居る期間が長いほど、
がん化する可能性は高くなるのです。
子どもは、大人より死ぬまでの時間が長いわけですから、
被ばくを受けた年齢が低いほど、がんになる確率も高くなってきます。

原発の事故等では、多くの種類の放射性物質が飛び散ります。
その中で、重要なのがヨード131、セシウム137、ストロンチウム90、といった物質です。
体内にどのように取り込まれるか、と言えば、
主に、鼻や口といった呼吸器から吸収されるものと、
食べ物から入る経路の2種類が挙げられます。

どちらから体内に入るのが多いか、というのは、
その放射性物質の種類によって異なります。
その種類ごとに、預託実効線量とか、等価線量等を用いて、
内部被ばくを計算する事が出来ます。
この計算は、想定する条件(放射性物質の種類、放射性物質の量、食べ物と、呼吸と、
どれくらいの確率で吸収するか、性、年齢、体重など)で、
違った計算式ができますし、同時に違った答えが出てきます。

ある人の計算では、そんなに高くない被ばく量が算出されます。
それをもとにして意見を言う人は、「特に健康問題には影響ない」と言うでしょうし、
シビアな状況を仮定した答えに対しては、「非常に危険である」と言う事になります。

この記事では、その答え一つ一つに対して意見を言うつもりはありません。
繰り返しますが、何が問題なのかと言えば、
今回の原発事故において、妊婦や小児(特に5歳未満の乳幼児)は、
大人以上に放射能の影響を受けやすいという事実を、
政府もメディアも、あまり認識していないのではないか、ということです。

忘れてはならないのは、子供は小さな大人ではないということです。
よく小児科医が私に言っていたことですが、
「子供は大人とは違った生物である」という言葉がぴったり当てはまります。
何が違うのかというと、放射能から受ける影響が、大人と比べてけた違いに大きい、
ということです。
お腹の中に居る時から、歩けるようになるまでどんどん成長します。
ですから、代謝すなわち、遺伝子の複写も活発に行われますから、
影響を受けやすいのも当然と言えます。


ここでは、放射性物質の代表格と呼べるヨード131とセシウム137の、
子どもへの影響について書いてみたいと思います。

まず、ヨード131です。
ヨード131の多くは、消化管から飲み物や食べ物と一緒に吸収されます。
吸収されたヨード131のうち、約20%は甲状腺に蓄積されます。
残りの80%は、体の外に出ていきます。

人類は過去、大きな放射能汚染を経験しました。
原爆、マーシャル諸島での核実験、チェルノブイリ原発事故、等です。
被ばくした乳幼児を追跡して分かった事は、
彼らたちは、大人と比べて、ヨード131の影響を受けやすく、
甲状腺がんになりやすい、ということです。 

特に新生児は、甲状腺機能が活発です。
生後10日は、成人の3~4倍のヨード取り込みが行われます。
また、小さければ、甲状腺の大きさも小さいですから、
成人と同じヨード131の被ばく量を受ければ、
小さな甲状腺に、大人より、高濃度のヨード131が凝縮します。
ヨード131は、食べ物から体内に入る経路が多い、と書きましたが、
子どもたちは大人と比べて、消化管から吸収しやすいのが特徴です。
すなわち、乳幼児、新生児などの小さな子どもは、
よりヨード131を体内に取り込みやすい、といえます。

ヨード131は、乳にも移行します。家畜も人間と同様に被ばくします。
一般的に、子どもの方が大人より牛乳を良く飲むので、
それだけ、被ばくを受ける機会が多い、と言えます。
また、母乳中にも出てきますから、ヨード131に汚染した母乳を飲んだ赤ちゃんにも、
放射性ヨードが蓄積されます。

ヨード131は胎盤を介して、お腹の中にいる胎児にも移行します。
甲状腺が機能し始める、妊娠12週ごろからは、活発にヨード取り込みが行われます。

http://www.atsdr.cdc.gov/toxprofiles/tp158.pdf
(The Agency for Toxic Substances and Disease Registry (ATSDR) , 米国保健省、毒物による疾患登録機構:ヨード)

ヨード131と小児甲状腺がんの関係はおわかりいただけたと思います。

それではセシウム137は、小さな子どもに、どのような影響を与えるのでしょうか。
セシウム137はヨード131以上に危険です。
なぜなら、ヨード131は比較的短い期間で体外に排出されるのですが、
セシウム137は長期間、体内に残ります。
放射性物質は、時間と共に減ってゆく(崩壊)のですが、
この目安となるのが、半減期(量が半分になる時間)です。
ヨードが約8日なのに対し、セシウム137は30年です。

セシウム137は、ヨード131と違い、
ほとんどが、口や鼻、といった呼吸器から体内に入ります。
甲状腺だけでなく、体内臓器にまんべんなく行きわたります。
特に、肝臓、腎臓、筋肉(特に心筋)に多く蓄積される、という放射性物質です。

原発事故などで放出されるセシウム137の量は、
他の放射性物質と比べて少ないのですが、健康への被害は大きなものがあります。
繰り返しますが、ヨード131と違って、長期間体内に残るためです。
長く体内にとどまるということは、がんを発生させる危険性が高くなるからです。

「セシウム137と発がんは関係ない」と言う人もいますが、
それは、原発事故等では多くの放射性物質が放出されるため、
どの放射性物質が原因だ、と決めることが難しいからです。

確かに、セシウム137は、ヨード131のように、甲状腺がんの発生を多くさせる、
といった、ある特定のがん発生に関する関係は証明されていません。
しかし、全ての放射性物質は、遺伝子であるDNAを傷つけるわけですから、
「発がん性がある」と考えるのが普通です。

子どもは外で遊ぶ機会が多いですから、
外気あるいは塵から舞い上がるセシウム137を吸い込む可能性が、
大人より多いということがあげられます。また、セシウム137は水に良く溶けます。
小さな子どもは、大人に比べて身体の水分割合が大きいので、
比率として、より多くのセシウム137を取り込む事になります。

また、母乳への移行も多い、という報告があります。
新生児と1歳児における調査では、40~50%の確率で、母乳から移行したという報告があります。
これは、ヨード131の25%程度と比べると多い数字です。

動物実験では、胎盤を介して胎児へ移行する事も認められています。

http://www.atsdr.cdc.gov/ToxProfiles/tp157.pdf
(The Agency for Toxic Substances and Disease Registry (ATSDR) , 米国保健省、毒物による疾患登録機構:セシウム)

所謂専門家と呼ばれている人たちや政府は、「直ぐには影響はない」と言います。
その背景には、有害放射能による、中長期的な研究があまりなされていない、ということがあります。
しかし、明らかに放射性物質は、ある一定期間体内にとどまります。
そして、遺伝子を傷つけていくのです。

その影響を最も受けるのは、新生児、乳幼児であり、お腹の中にいる赤ちゃんです。

危険性の程度が不確定、と言うのであれば、
最悪の状況を想定する事が必要なのではないでしょうか。
「最悪の状態を考えて行動するのが危機管理の基本だ」と言う事は、
前の記事でも何度も述べている事です。

日本の将来を担う、小さな子どもたちを守ることは、国を存続させるために必要です。
正に、大人の責任である、と言えます。
そのためには、現状のような、「屋内避難」といった、あいまいなことをせず、
乳幼児と妊婦については、半径30キロメートル圏内から安全なところに避難させる、
などの、思い切った対応が必要だと思います。

もうひとつ忘れてはならないのは、被ばくした子どもたちの追跡調査です。
今後どのような疾患が起こってくるか、いつ発症したかなどは、
長期的な疫学調査を行う以外にはありません。
しかし、一向にこのような調査を開始したという話を聞きません。
また、不幸にして、がんを発生した場合のがん登録なども、
都道府県単位で行われているのが現状です(行っていないところもあります)。
追跡には、どこに移り住んでも追えるような枠組みが必要ですが、
これも未整備と言ってよいでしょう。

今回の原発事故は、不幸な出来事です。
しかし、この事故で何が起こったか、そして将来何が起こっていくかという調査をし、
それを発表することは、今後の患者補償のためにも、
そして、世界の原子力開発に置いても、非常に重要な事です。

将来に向けて正確なデータを残すことは、危機管理の一つといえます。
失った命を無駄にしないために、そして、将来を担う世代を守るために、
政府と研究者は速やかに対応して欲しいと思います。

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2011年4月11日

原子力安全委員会の存在意義はどこに? ―御用学者は必要ない―

原子力安全委員会は1978年に原子力の安全体制を充実させるためできた、
専門家集団です。
現在の、原子力行政は、経済産業省原子力安全・保安院、文部科学省と共に、
原子力安全委員会が関わっています。
経産省、文科省には、原子力に関わる審議会があり、
所謂「専門家」と呼ばれる人たちで構成されています。

既に、専門家の集まりがあるにも関わらず、
なぜ、もう一つの専門家集団が必要かと言えば、
行政から独立した中立的な立場で原子力行政をチェックする、
という意味合いを持っています。
原子力安全委員会だけでなく、食品の安全について政府に意見を言うための
「食品安全委員会」というものもあります。
果たして、このような委員会は必要なのでしょうか。

本来の目的である「行政と一線を画し中立的な立場での専門家」
というのは必要な事です。
しかし、現実はといえば以下のような状態です。

原子力安全委員会。定例会議は週1回。委員は常勤の特別職公務員。
委員への報酬は年間約1650万円(月給93万6000円とボーナス)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E5%AE%89%E5%85%A8%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A
しかも、その議事録を見れば、「本当に必要なのか」と頸をかしげたくなる状況です。
http://www.nsc.go.jp/anzen/shidai/index.htm

原子力や食品などの安全を確保すべく立ちあがった委員会が、
なぜ、このような「開店休業」状態にあるのでしょうか。
それは、委員会が中立ではなく、
官僚たちの意向を代弁するために作られた組織だからです。

こうした委員会にはたくさんの人たちが働いています。
事務局のポストは官公庁からの出向です。
そうした中で、官僚たちの意向に反して異を唱える事が出来るかと言われれば、
難しいところがあります。
なぜならば、官僚たちは委員会のメンバーを牛耳るすべを持っているからです。

委員会のメンバーは、大学の教官が主です。
官僚たちは、こうした研究者たちに、研究するための費用(科研費)を、
誰に分配するかという裁量権を持っています。
つまり「お金を誰に、どれだけ与えるか」という事を決められるのです。
この、科研費配分を決めるプロセスは誰にも明かされていません。
つまり、官僚たちが秘密裏に行うのです。

「ホームページ等に、なぜこの人が選ばれたのか理由が書いてある」
という意見もあるでしょう。
しかし、理由づけなど後で何とでも出来る事です。
官僚の得意技は「文書を作成すること」にありますから、
何となく、もっともらしい文章にみな惑わされてしまうのです。
そして、結果的には、官僚の意に染まぬ研究者は排除されてゆくのです。

具体的な例を挙げれば、ある委員会のメンバーが、
事務局(官僚)が用意した筋書きに反対意見を唱えるとします。
委員の任期は、大抵2、3年程度です。
官僚にとって特に問題がない人材であれば、次も「継続」して委員任命されますが、
問題児は次回からは入れない、と言う事になります。
このような排除プロセスを繰り返す事によって、
一部の高級官僚の言葉を「専門家」として代弁してくれる「御用学者」が生まれ、
委員会は御用学者の塊になるわけです。

審議会の委員も、同じようなやり方で選ばれます。
こうなってくると、審議会と委員会と言う2つの専門家集団は、
どちらも官僚の言葉を伝えるイエスマンの塊と言う事が出来ます。

例えを少し日常的なことにしてみましょう。今回の震災でも多くの情報が流れました。
例えば放射性ヨードについても「イソジンをのめば大丈夫」という意見がありました。
イソジンにヨードが含まれています。
ヨードは甲状腺に取り込まれやすいので、
あらかじめ放射能を発しないヨードをたくさん摂っておけば、
有害な放射性ヨードが入る余地がない、という考えです。
これは「ヨードブロック」と呼ばれ、実際、医療現場で使われる事です。
私自身は特別な状況下以外は、イソジンを服用する必要はないと思っています。
ところが、「イソジンが効果がある」という噂が伝わると、
その真偽は別にして「効果があるかも」と信じてしまいがちです。
すなわち、言っている人が1人だけでなく、複数になると、人は納得してしまうものです。

専門家集団にしても同じような事が言えます。
つまり、審議会と委員会、という2つのグループが同じ事を言っているとしたら、
「その意見は正しい」と思うようになります。
それが如何に、科学的に間違っていたとしてもです。
何しろ、「専門家」と呼ばれる人たちが集まっているのですから、
普通は信じてしまうのではないでしょうか。
これが、官僚の手のうちです。

そんな事を、専門家たる人たちがすべきではない、という声が聞こえてきそうです。
全くその通りだと思います。
このような、御用学者だけが重宝されると
「正しい事を言っているが、官僚の意見と合わないもの」や、
「国益を考えて、反対意見を述べるもの」が排除されてゆくのです。

「これを読まれた方は、「本当にそんなことあるのか」と訝しがるかもしれません。
しかし、実際、私は厚労省で新しい審議会を立ち上げた事もあります。
委員を選ぶ際には、事前に「根回し」という事をし事務局が、
委員から発言して欲しい事に関して打ち合わせをします。
つまり、審議会自体が官僚の意見を通すためのセレモニーなのです。

また、科研費についても、分配担当の同僚のやり取りをよく見ていました。
科研費は、表向きは公募になっていますが、
実際は、既に厚労省の担当者が人を選んでおくのです。
そして、その人に「公募」という名目で科研費申請をさせるのです。
選ばれる人のほとんどが厚労省が内諾済みの、
「政策に反対しない」研究結果を出してくれる人たちなのです。


こうした仕組みは、早急に変える必要があります。
原発問題は、人の命に関わるものです。官僚を抑える事が出来るのは政治家です。
そして、その政治家を選ぶのは、国民です。
私たち一人一人が、この事実を認識し、
問題意識をもって政治家を選ぶ、という事が必要な事なのです。

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2011年4月2日

「遅れて」やってくるPTSD-「心の傷は生涯癒えないことがある」

3月11日、東北地方を襲った世界最大級の地震が発生してから、3週間が過ぎました。
けが等の目に見える障害とともに忘れてはならないのが、
被災を受けた人たちの精神的痛手です。

震災が発生した直後は、自分の住んでいた家を失ったり家族を亡くしたりといった、
予期せぬ出来事に対して、あまりのショックで「まさか、嘘だろう」といった、
現実を受け入れらない気持ちになります。
また、被災者自身も、「今度余震が来たら、今度は自分が命を落とすかもしれない」
といった死の恐怖に直面します。

心的外傷(あるいはトラウマとも言います。)という状態です。
体だけでなく、「心もけがをすることがある」と言えば分かりやすいかもしれません。

一方で、救助活動が活発になり、物資や寄付が各地から届くようになります。
メディアもこぞって報道をします。
被災者は、自分の置かれた状況にストレスを感じながらも、
こうした援助に対し、感謝の心を抱きます。
所謂、“ハネムーン期”と呼ばれる時期です。

しかし、援助に来た人たちも、いつまでも支援活動にたずさわれるわけではありません。
ボランティアはいずれ自分たちの仕事場に戻らねばなりませんし、
避難所も、永遠の棲家とはなり得ません。
また、メディアでも、被災地の報道が徐々に減っていく傾向にあります
(特に今回は、原発事故のことがありますから、なおさらです。)。
一般に、震災後1か月を経過しようとする時期から始まるのが、
“幻滅期”と呼ばれる時期です。
(今回は、あまりの被害の大きさのため、
ハネムーン期がもう少し長く続くと思いますが。)

みなさんは、PTSD(Post Traumatic Stress Disorder)をご存知でしょうか。
「危うく死ぬ、または重症を負うような出来事」を経験した後に起こります。
症状としては、強い不安や恐怖、イライラした気持ち、不眠、
そして、震災直後の状況がその時の恐怖心とともに生々しく記憶の中で蘇る、
フラッシュバックなどがあります。

なぜPTSDが問題かと言うと、震災のような重大な出来事の後、
1カ月以上経過してから発症し、人によっては長期化することもあるからです。
年単位で症状に苦しむ方もいらっしゃいます。

-「身体の傷は何カ月かで癒えるのに心の傷はどうして癒えないのか。
四十年前の傷がなお血を流す」 (ポール・ヴァレリー)

以前にもご紹介した精神科医の中井久夫氏
(阪神淡路大震災の当時の神戸大教授)は、
その著書で、ポール・ヴァレリーの詩を引用して、次のように述べています。
「心の傷は生涯癒えないことがある」

もうすぐ、大震災から1カ月が過ぎようとしています。
阪神淡路大震災の教訓を生かして
多くの精神科医たちが被災地に当初から入っています。
しかし、実際に現地で活動している精神科医たちからの話では、
人手が足りず、3次予防(震災前から治療中の精神科患者さんの悪化の予防)や、
2次予防(震災をきっかけに不眠、不安などを発症した患者さんの早期発見、早期治療)
に追われていて、1次予防(精神疾患が新たに発症しないよう予防すること。
今回は、PTSDなどの発症予防)には、十分に対応できていない、とのことです。

PTSDは、先ほど述べたように、震災後1か月を経過しようとする、
まさに今の時期に、顕在化してくる病気です。
「遅れて」やってくるのです。的確な対応や治療がされなければ、強いうつ病を引き起こし、
場合によっては、自殺等の悲劇的な結果を生むことさえあります。
これは、なんとしてでも防ぎたいところです。

しかし、PTSDに対応が出来る人手が絶対的に不足しているのが現状です。

精神科医でなければ、PTSDような重篤な精神疾患を予防できないのでしょうか。
予防できないにしても、病気をなるべく軽くすませることはできないのでしょうか。

そんなことはありません。災害時における精神科的なケアや対応については、
マニュアルが作成されています。
もし、精神科医が身近にいれば、話を聞いて、理解を深めることが得策ですが、
そうでなくても、以下のような文書が公開されています。

「心的トラウマの理解とケア 第2版」(じほう)
http://www.japan-medicine.com/jiho/zasshi/35433/k1.pdf
http://www.japan-medicine.com/jiho/zasshi/35433/k2.pdf
http://www.japan-medicine.com/jiho/zasshi/35433/k3.pdf

これをもとに精神科を専門としない医師、あるいは看護師はじめソーシャルワーカーなども、
被災者のPTSD予防に役立つ事が出来ます。
一般の方においても、被災者の方に接するとき何に注意すればよいのかについて知識を得ることで、
PTSDの予防に役立つことができます。

ただし、「いつ精神科医につなぐべきか」だけは、心得ていてください。
例えば、被災者の方が、
「自殺したい気持ちが強い」
「アルコールの量が増えている」
「食べ物を食べられないほど落ち込んでいる」
という事であれば、速やかに精神科医に紹介してください。

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