2010年7月29日

たばこに甘いニッポン

厚労省は1999年当時、2010年までに喫煙人口半減という見通しを発表したが、これまでわずか7%減にとどまっている。
日本では毎年10万人超が喫煙関連疾患の合併症で亡くなり、英国のデータでも入院を必要とする疾患の40%がタバコに起因している。
医療経済研究機構が1999年度のデータに基づいた試算では、喫煙関連疾患による経済的負担(約7兆円)は、タバコ税収(約2兆円)をはるかに上回る。5兆円の損失ということになる。
先進国の大半は喫煙によるリスクとタバコの宣伝に対して厳しい姿勢を取っている。日本はWHOのたばこ規制枠組み条約(FCTC)に調印、批准したにもかかわらず、価格は先進国で最も低く、欧州の半分から四分の一。日本はFCTCに沿った行動を起こすべきだ。

日本経済新聞 サノティス・アベンティス日本社長(当時)フィリップ・フォシェ
2007年12月4日 夕刊5面掲載




たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約
(WHO Framework Convention onTobacco Control:略称WHO FCTC)は、
たばこを直接吸うことにだけでなく、
副流煙の被害をへらすことを目的とした条約です。
2003年5月21日に世界保健機関(WHO)
第56回総会で全会一致で採択され、
2005年2月27日に発効となりました。
この条約締約国は、たばこ消費の削減に向けて、
広告・販売への規制、密輸対策が求められます
(外務省による日本語訳あり)。
http://www.tbcopic.org/signature/

なぜこんなにたばこが問題視されるかというと、
たばこはがん、脳血管障害、心臓血管障害など
様々な健康被害をもたらすことが分かっており、
公衆衛生学的に大きな脅威だからです。
公衆衛生という概念は国や世界を病気から守るというものです。
たばこによる死者は毎年10万人以上というのですから、
社会的に大きな影響を与えていることがわかります
(2007年の死亡総数は1,108,334人)。

たばこは税収増加になるという意見もありますが、
労働力低下や医療費などによる7兆円の経済損失は
2兆円のたばこ税収を差し引いたとしても、5兆円のマイナスとなります。
これが毎年積み重なるわけです。

日本の大きな特徴として、
男性の喫煙率が年々低下しているのにもかかわらず、
女性の喫煙率が高くなっているということです。
http://www.health-net.or.jp/tobacco/product/pd100000.html
特に、20代、30代の若い世代の女性が
毎年約10%程度増えているのです。
1965年と比べるとなんと4倍となっています。
このような先進国の例を私は知りません。

女性の喫煙は、不妊や奇形児の確率を増加させることが
報告されていますから、
日本の少子化を助長する要因としても、
非常に重要です。

近頃、HPV(Human Papilloma virus)ワクチンの接種がさけばれていますが、
HPVウイルスの感染を予防することが、
どの程度子宮頸がんの死亡を減らすかは、
はっきりとは分かっていません。
※ HPVV(子宮頸がんワクチン)公費助成とワクチン行政 参照)
ワクチン接種に関しては、異を唱えるつもりはありませんが、
たばこが子宮頸がんを増加させるという報告も出されている中で※、
たばこを吸いながらHPVワクチンを受けに行くのは
本末転倒という気がします。
 
たばこは国際的に、大麻と同列にランクされている麻薬です。
日本は、大麻を厳しく取り締まるのに対し、
たばこに対して非常に甘い国です。
「たばこは有害物質である」という認識の欠如は、
厚労省の対策に反映されています。
FCTCに批准しているのですから、
それに見合った喫煙対策をする国際的義務があります。

消費税をあげるよりも、たばこ税を年10%増加させる、
という議論がまずなされるべきでは無いでしょうか。

※Kapeu AS, Luostarinen T, Jellum E, et al
Is smoking an independent risk factor for invasive cervical cancer?
A nested case-control study within Nordic biobanks.
Am J Epidemiol, 15;169(4):480-8, 2008


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2010年7月21日

Homœopathyに関する問題

「ビタミンK与えず乳児死亡」母親が助産師提訴

 生後2か月の女児が死亡したのは、出生後の投与が常識になっているビタミンKを与えなかったためビタミンK欠乏性出血症になったことが原因として、母親(33)が山口市の助産師(43)を相手取り、損害賠償請求訴訟を山口地裁に起こしていることがわかった。
 助産師は、ビタミンKの代わりに「自然治癒力を促す」という錠剤を与えていた。錠剤は、助産師が所属する自然療法普及の団体が推奨するものだった。
 母親らによると、女児は昨年8月3日に自宅で生まれた。母乳のみで育て、直後の健康状態に問題はなかったが生後約1か月頃にし、山口市の病院を受診したところ硬膜下血腫が見つかり、意識不明となった。入院した山口県宇部市の病院でビタミンK欠乏性出血症と診断され、10月16日に呼吸不全で死亡した。
 新生児や乳児は血液凝固を補助するビタミンKを十分生成できないことがあるため、厚生労働省は出生直後と生後1週間、同1か月の計3回、ビタミンKを経口投与するよう指針で促している。特に母乳で育てる場合は発症の危険が高いため投与は必須としている。
 しかし、母親によると、助産師は最初の2回、ビタミンKを投与せずに錠剤を与え、母親にこれを伝えていなかった。3回目の時に「ビタミンKの代わりに(錠剤を)飲ませる」と説明したという。
 助産師が所属する団体は「自らの力で治癒に導く自然療法」をうたい、錠剤について「植物や鉱物などを希釈した液体を小さな砂糖の玉にしみこませたもの。適合すれば自然治癒力が揺り動かされ、体が良い方向へと向かう」と説明している。
 日本助産師会(東京)によると、助産師は2009年10月に提出した女児死亡についての報告書でビタミンKを投与しなかったことを認めているという。同会は同年12月、助産師が所属する団体に「ビタミンKなどの代わりに錠剤投与を勧めないこと」な
どを口頭で申し入れた。ビタミンKについて、同会は「保護者の強い反対がない限り、当たり前の行為として投与している」としている。
(2010年7月9日 読売新聞)



Homœopathyとは、代替的治療薬を用いるもので、
1796年、ドイツ人医師SamuelHahnemannが提唱したものです。
今回の記事は、通常新生児に与えるべきビタミンKを与えず、
remediesと呼ばれる薬を投与したために、乳児が死亡したというものです。

ビタミンKは、血液を固めるために必要な成分であり、
骨の代謝にも関わる大切な物質です。
ビタミンKは大腸に常在する細菌から生成されますが、
新生児はそれを作る力が弱いので、
ビタミンK欠乏症になりやすいと言われています。
母乳だけを与えた場合、生まれてから1週間のうちに、
0.25-1.7%の新生児(10万人対2-10人)が
VitaminK欠乏になるという報告があります。
このため、0.5-1.0mgのビタミンKを含んだシロップを、
生まれてからなるべく早いうちにのませるよう、
アメリカ小児科学会の勧告が出されています。

ビタミンKが足りなくなると、血が固まりにくくなりますから、
出血をおこしやすくなります。
今回のように、頭に出血が起こると、意識障害、発達障害などが起こったり、
死亡することがあります。
これはシロップ一つで防げるわけですから、
そのシロップを与えないというのは重大な問題です。

Homœopathyに関する研究は数多くなされていますが、
その有効性は確立されていません。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1874503/?tool=pmcentrez
http://www.jclinepi.com/article/S0895-4356(99)00048-7/abstract
これらの結果を受けて、イギリスNHS(National health Service)では
2010年2月、homœopathyを国民医療保険から外すことについて、言及しています。
http://www.parliament.uk/business/committees/committees-archive/science-technology/s-t-homeopathy-inquiry/

日本ではplacebo(偽薬)と remediesの有効性を比較するための
大規模RCT等は行われていませんが、
厚労省はhomœopathyを代替医療の一つとして容認したスタンスをとっているようです
(2010年1月28日の予算委員会で長妻厚労相がホメオパシーに言及しています)。
人間の自然治癒力を高める、ということ自体は十分理解できる事です。
しかし、B型肝炎carrierの母胎から生まれる児へのワクチン接種のあり方など、
Homœopathyに関わる事例は今後も増えてくるものと思われます。
厚労省は早急に問題点を把握し、調査研究も含めた対処をする必要があると考えます。


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2010年7月15日

口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.8 公衆衛生の概念無きFMD対策

農水相が殺処分の代執行検討 宮崎県が応じない場合 口蹄疫

 宮崎県の口蹄(こうてい)疫問題で、県が特例で救済を求めている民間の種牛6頭について、東国原英夫知事は13日、東京・霞が関の農林水産省で山田正彦農水相と会談し、6頭の救済を改めて要請した。農水相は殺処分が必要との姿勢を崩さなかった。農水相は会談後、14日にも6頭を殺処分するよう、地方自治法に基づく是正指示を出すことを明らかにし、応じない場合は、国が代わって殺処分する「代執行」の手続きに入ることを表明した。

 総務省によると、国による都道府県の行政行為の代執行は「前例がない」という。代執行には裁判が必要で問題が長期化すれば、県の復興にも影響を与えそうだ。

 農水相は会談後の会見で「非常に多くの犠牲を払っており、例外を認めるわけにはいかない。今後、より強いウイルスが来るかもしれず、国家的危機管理ができなくなる」と述べた。

 一方、東国原知事も農水省で会見し、「目視検査で6頭には感染疑いはなく、現在、蔓延(まんえん)の危険性はないと判断している」とし、国が遺伝子検査を実施して安全性が確認されれば、殺処分は必要ないと主張した。

 農水相が「県に危機意識が足りない」と述べたことについては、国も口蹄疫に対する法整備を進めてこなかったなどとして、「的はずれな指摘」と反論した。

 農水省は6頭が殺処分されない限り、16日に予定されている発生集中区域での家畜の移動制限を解除しない方針を示している。

7月13日19時13分配信 産経新聞




FMDにおける殺処分は、明らかに感情論になっています。
今までにFMDに関する記事を書いてきましたが(同タイトルvol.1~)、
殆どの牛は回復し、肉を食べても問題ない、
人には罹らない病気に対して何故、どうして殺処分に固執するのか、
そして、10年前に様々な研究や意見がなされてきたこの問題に関して、
何の議論も起こらないのか、とても不思議に思います。

オランダ政府は、6月28日にFMD流行時の殺処分は今後一切行わない事を明言し、
その代わりに緊急のワクチン接種を提案しています。
この流れはオランダのみならずEU全体の流れとして進んでいます。
http://www.warmwell.com/euwpmay112010.html
 

殺処分が行われるようになったのは1940年代に入ってからです。
それまでは自然に治るまで放置されてきました。
何故殺処分が行われるようになったのか
はっきりしたことは分かりませんが、
その有効性については議論があります(同タイトル vol.2)。

殺処分だけでなく、何かの政策が有効である
(例えば、H1N1豚インフルエンザ騒動における水際対策)ことを証明するには、
その政策を行ったときと、行わなかった場合を同時に進行させて、
どちらが良かったかを比較する必要があります。
比較する物差しは、死亡率であったり、病気の起こった数であったりしますが、
必ず、比較する対象が必要です。

私たちは日常生活の中で、様々な比較を言葉にします。
例えば、「私は太っている」と言ったとき、
標準体重とか、ある特定の人に比べて太っているのか、
という対象が必要です。
それが無ければ、「私は太っていると、自分で思う」だけに過ぎなくなります。


公衆衛生(public health)とは、
国家国民に関する健康問題を考える概念です。
その証拠作りをするのが疫学(epidemiology)という学問です。
上に挙げた、水際対策は有効であるのかどうか、
FMDにおける殺処分は有効かどうか、といった問題も
疫学的に解決するべき問題です。

欧米では、公衆衛生大学院があり、
疫学部だけでなく、政策学部や、国際保健、基礎研究など、
公衆衛生に関わる問題について包括的に研究されます。
そこでのデータを基に国は政策を決定するわけですから、
公衆衛生大学院は政治的にも大きな力を持ちます。
研究する人の職種は多種多様です。
医師、歯科医師、獣医師、看護師、行政関係者、軍関係者、法学専門家など、
数え上げればきりがありません。

日本には欧米並みのレベルを持った公衆衛生大学院がありません。
公衆衛生学部は医学部の一角にあり、
細々と動物実験を行っているところが殆どです。
しかし、本来は、個体を使った大がかりな研究(疫学研究)をしない限り、
データを得ることは出来ません。

豚インフルエンザにしてもFMDにしても、
「この方法は効果があると思う」という域を超えないまま
政策決定がなされていると言えるでしょう。
その大きな原因は、政府に根拠を示すシンクタンク、
すなわち公衆衛生専門家集団が不在だということにあると思います。

科学的根拠に基づかない政策決定は、右から左へとぶれまくります。
「水際対策で新型インフルエンザを日本には入れない!」
と叫んでいたにもかかわらず、
入ってしまえば、「水際対策は国内流行を遅らせる効果があった」と
何の根拠も無しに論調を変えることからも伺えます。

このような思いつきや、思い込みで政策決定がされた場合、
もっとも困るのは国民です。
今回のFMD流行においても、
現在だけでなく将来的に大きな損失を残すのは紛れもない事実です。

専門家がいないのであれば、海外から呼び至急議論をすることが必要です。
感染症は今後もやってきます。
感染症から国家国民を守るためには、
感情論でも推論でもなく、科学的根拠に基づく政策決定であることを、
政府も国民も気がつくことが必要でしょう。

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2010年7月7日

HPVワクチン騒動 vol.2 -HPVV(子宮頸がんワクチン)公費助成とワクチン行政-

<参院選>子宮頸がん予防ワクチン、助成公約相次ぐ

若い女性に増えている子宮頸(けい)がんの予防に有効とされるワクチンが昨年承認されたのを受け、主要各党が接種の公費助成を参院選公約に打ち出した。背景には、ワクチンが保険適用外のため計5万円程度(接種3回分)が自己負担となる現状がある。一方、昨年の衆院選公約で「子宮頸がんに関するワクチンの任意接種を促進」と唱えた民主党の参院選公約から子宮頸がんの言葉が消え、患者団体などに落胆が広がっている。【坂本高志】
  埼玉県川越市の穴田佐和子さん(37)は29歳の時に子宮頸がんを告知され、全摘手術を受けた経験から、05年に患者のためのサポートグループ「らんきゅう」を設立。今年5月、「公費助成推進実行委員会」などがワクチン接種の公費助成を求める要望書を民主党に提出した際、穴田さんも同席した。
  しかし、参院選公約では、現行1万3000円の「子ども手当」の上積み分を、「ワクチン接種への公費助成」などの現物サービスに代えられるようにするとの内容で、衆院選時に明記された子宮頸がんは消えていた。
  同実行委共同代表の土屋了介・元国立がんセンター中央病院長は「ほとんどの先進国で公費助成がなされている」と指摘。穴田さんは「目先の財源とかではなく、女性の命を守る政策を実行してほしい」と願う。
  一方、自民党の公約は衆院選時にはなかった「子宮頸がん予防ワクチンの定期接種も含め感染症予防を推進」が登場。子宮頸がんにかかった経験を持つ女優の三原じゅん子氏(45)を比例代表に擁立するなど、積極姿勢に転じた。
  公明党も公費助成を提唱。5月には「子宮頸がん予防法」を参院に提出(廃案)するなど、前向きに取り組んできた実績を放映中の政党CMでPR。社民党は「接種費用の軽減」を、共産党も「国の予算による定期接種化を実現」とうたう。
  ほかの主要政党の公約には接種の助成などへの具体的言及はない。ただし、みんなの党は自民党衆院議員時代に自公の「ワクチン予防議連」事務局長だった病院理事長、清水鴻一郎氏(64)を比例で擁立。清水氏は接種無料化を訴える。
 
【ことば】子宮頸がん
  子宮の入り口付近にできる。主に性交渉でヒトパピローマウイルス(HPV)に感染して起き、性交渉の経験がある女性の8割が少なくとも生涯に一度はHPVに感染するとされる。日本では年間1万5000人前後が発症し、3000人前後が死亡していると推計される。予防ワクチンは100カ国以上で承認されており、100種類以上の型があるHPVのうち、発症原因の7割を占める二つの型の感染を防ぐ。一定の助成をする市区町村は130程度(6月現在)。

7月5日11時39分配信 毎日新聞





我が国はワクチン行政が最も遅れた先進国です。
ワクチンには必ず副反応が伴い、
稀に重症な後遺症を残すこともあります。
しかし、そのリスクを鑑みても、
ワクチンは国民全体にとって利益がある場合に使う、疾病予防の手段です。
公衆衛生とは、国民というマスの健康問題を考えることですから、
ワクチンはまさにに公衆衛生のツールと言うことができます。


子宮頸がんの患者全てには、
HPV(Human Papilloma Virus)が存在します。
HPVV(Human Papilloma Virus Vaccine)というのは、
このウイルスからの感染を予防するために作られたワクチンです。
HPVVはウイルスに感染していない15-25歳の女性には
効果があるというのが現在までの研究結果の総括です。
(参照:子宮頚がんワクチンをどう扱うべきか?
 

HPVVが子宮頚がんの死亡率を何処まで下げるという事については、
はっきり分かっていません。
それは、HPVの他にもがんの原因はあり、
まだ分かっていない要因も数多く存在するからです。
また、上記の研究はアメリカで行われたもので、
日本人に有効かどうか、といった調査も十分とは言えない、
というのも事実です。

確かに、子宮頚がんの1原因である
HPV感染予防がワクチンでできる、
という事は画期的なことであることは確かです。
そして、効果的なワクチンであれば公費で負担する、
というのは当然のことだと思います。

しかし、日本のワクチン行政は、
他の先進諸国と比べて大きく立ち遅れています。
副反応に対する補償なども十分ではありませんし、
ワクチンの有効性を調べるための大規模疫学研究を行おうにも、
極めて難しい状況にあります。
これは、国が公衆衛生の概念を持ち合わせていないからです。

確かにHPVVは社会的インパクトの高いものであります。
しかし、他国では公費で導入されているけれど、
日本では公費負担がされていない、
極めて有効なワクチンが他にもあります。
細菌性髄膜炎菌ワクチン(Hibワクチン)がその代表例と言えるでしょう。 1) 2)
 
また、ワクチンからの感染が問題となっている
OPVからIPV※への切り替えも早急にしなければならない課題の一つです。
また、B型肝炎ワクチンの乳幼児接種も大切です。
 ※2種類のポリオワクチン
 OPV(Oral Poliovirus Vaccine)…生ワクチンで口から接種
 IPV(Inactivated Poliovirus Vaccine)…不活化ワクチンで注射
 (参照:日本と欧米諸国のワクチンギャップ)   

 
HPVVだけを持ち上げれば、
社会的に必要なワクチンが取り残されてゆく可能性があります。
それ故、ワクチン一商品至上主義的な取り上げ方には問題を感じます。

それよりも、ワクチンインフラ整備の早期徹底を
政権公約の議論として盛り立てて欲しいと思います。



=参考文献=
1)
Teare EL, Fairley CK, White J, et al
Efficacy of Hib vaccine.
Lancet, 17;344(8925):825-9, 1994

2)
Madore DV
Impact of immunization on Haemophilus influenza type b disease.
Infect Agents Dis. 5(1):8-20, 1996


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このひまわりの名前は「ゴッホのひまわり」。ひまわりには沢山の種類があるのです。


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2010年7月5日

口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.7

さらに1~2件発生の可能性=口蹄疫で山田農水相

山田正彦農林水産相は5日、宮崎市で口蹄(こうてい)疫に感染した疑いのある家畜が約半月ぶりに見つかったことについて「人と物の流れは阻止できない。(新たな発生は)やむを得ない」との認識を示した。その上で「まだウイルスが家畜の排せつ物などにいる。どこで起きてもおかしくない。終息までに(さらに)1~2件の発生も考えられ、決して気を緩めてはいけない」と強調した。省内で記者団の質問に答えた。
 一方、ワクチン接種に同意していない農家に対して、口蹄疫特別措置法に基づいた強制的な殺処分を検討していることに関し「考えなければいけないという見解は変わらない」と述べ、引き続き検討する姿勢を示した。 
7月5日17時57分配信 時事通信



宮崎でFMDの牛が見つかり、
再び移動制限等が行われる事となりました。
今まで、FMDに関しての記事を書いてきましたが、
FMDとはどんな病気なのかをまとめたものをもう一度読んでいただき、
その上で他国の対応の変化から日本の対応について考えてみませんか。


【FMDの特徴】 
1.蹄が2つに割れている動物に罹る、感染力(他にうつす力)が強い感染症
2.牛の成体の場合、死に至ることは殆ど無く、通常動物は2週間程度で回復する(豚は牛よりも致死率高い)
3.罹った動物の他、carrierと呼ばれる生物や風等、不特定多数によって伝搬されるため封じ込め不可能
4.人にうつったという報告はない
5.感染した動物を食べても人には影響ない
6.治療法はない
7.ワクチンは100%の効果無し
口蹄疫問題を考える―危機管理の立場から―vol.5より)


FMDに罹った動物は痩せて、商品価値がなくなると言われていますが、
1922-24年にイギリスでの流行の際、FMDに罹った牛を介抱し、
1923年のRoyal Showでその牛を優勝させた
Charles Clover 氏の業績があります。
(“ Old cowmen’s cure served duke’s
pedigree herd”, The Daily Telegraph 12-3-01,p6)
 
こうしてみると何故多量殺処分が必要なのかよく分かりません。
何故なのかと考えれば、
(1)FMDには殺処分、とインプットされている
(2)FMDの事をよく知らない
(3)殺処分が有効と主張する獣医師、いわゆる専門家、官僚、政治家達に対して、そうでは無いという勇気がでない
などが挙げられると思います。

殺処分に関する議論は、
2001年イギリスで大流行が起こったときから活発に行われており、
mediaも多く取り上げているのですが、
日本では「殺す事が最良の方法」以外の意見が報道されないことは、
極めて不自然だと思います。
http://www.FMD.brass.cf.ac.uk/FMDreferencesnewspapers.html

殺処分は、発生のごく初期、
バイオテロの可能性も鑑みて行うことは
理にかなっていると思われます。
しかし、ある程度以上の広がりを見せてからは、
殺処分を行うことの方が損失が多くなります。

まず、経済的なダメージが大きいことが挙げられます。
畜産業そのものに関わる損失だけでなく、
観光や他の産業にも影響します。
また、貴重な種牛などを失うことは、
経済損失だけでは論じられないダメージがあります。

いつの間にか、感染拡大のための殺処分でなく、
殺処分自体が目的となっているのが現状ではないでしょうか。
イギリスの大流行でも、今の日本と同じ状況になりました。
英国国立農畜産組合(National Farmers Union)のトップだった
Richard MacDonaldの、
「我々はその科学とやらに行き詰まり、
自分たちが信じてやっている事が正しいとする結論に至った」という言葉は、
正にこの状況を的確に言い表したものだと思います。
その結果、イギリスは、殺処分の対象を緩和することとしました。
具体的には、明らかに健康だと思われる牛に関しては、
殺すか殺さないかは農家の決断にゆだねる、と言うものでした。
http://www.abc.net.au/rural/news/stories/s284276.htm
 

10年ほど前、多くの犠牲を払い、損失を生んだ英国の事例で、
これだけの議論がなされたのにもかかわらず、
日本ではどうでしょうか。
正に「殺す事に意義がある」という流れの中で、
冷静な議論などは何処かに吹き飛んでいるようです。
 
日本の悲惨な状況を鑑みてのことでしょうが、
2010年6月28日、オランダ政府は、
「今後FMDの流行の際、殺処分は2度と行わない」という声明を発表しました。
http://www.warmwell.com/
今の政策を推し進めたとき、誰が幸せになるのでしょうか。
将来もまた同じ事を繰り返すのでしょうか。
もし、幸せな人がいるとしたら、行動計画通りに業務を遂行した、
農水省官僚だけなのではないでしょうか。
 
殺処分に関する議論も無しに、このまま殺し続けることは止めませんか。
FMDは自然界にごくありふれた病気です。
感染経路も複数あり、特効薬や完全な予防法も無い以上、
封じ込めは不可能であり、根絶することは不可能です。
そうであれば、ウイルスとの共存をも含んだ判断が必要な時だと思います。


同タイトルvol.1

同タイトルvol.2

同タイトルvol.3

同タイトルvol.4

同タイトルvol.5

同タイトルvol.6

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