3回目の今日は、FMDに対する危機管理体制について
考えてみたいと思います。
3月31日、宮崎県の農家に飼われていた水牛に
体調の変化がありました。
診察した獣医は「異変」を感じて県に報告したのですが、
衛生研究所の職員は特に異常事態だとは認識せず、
検査をしませんでした。
4月28日になって牛のFMDが確認されたのを受けて、
水牛から採ってあった検体を検査したところ、
水牛がFMDにかかっていたことが確認されたのです。
消毒剤などが農家に届けられたのは、
牛の罹患が確認後1週間以上経過してからと報道されています。
明らかに不適切な対応であったと考えられます。
3月31日の時点で検査をし、ある一定の家畜を処分し、
種牛の避難をすることが、
まず政府の取るべき道であったと思われます。
果たしてそうした措置を施したとき、
どれだけの効果があったかどうかを論じることは
あまり意味がないことです。
というのも、「Aをしたからこれだけの効果が得られた」
と結論する場合には、
同時に「Aをしなかった」という比較事例が必要だからです。
それでも私は「すべきであった」と言うのは、
効果云々の話というよりも、
危機管理上必要な事だからです。
FMDの流行に関して人間が出来ることは限られていますが、
その限られた手の内の中でも、
もっとも重要な一撃として位置付けることが出来ると思います。
結果として、この大切な一撃を打てずに終わったわけですが、
「初動対応がダメだったから広がってしまった」
と農水相を非難するばかりでなく、
何故こうなってしまったのか、
を考える必要があると思われます。
第1に、感染症に対して危機意識が足りなかった、
ということが言えるでしょう。
H1N1豚インフルエンザの際も、
「新型インフルは海外渡航の既往があるものだけから発生する」
という国の言葉を信じていたため、
神戸の開業医が渡航歴のない高校生のPCR検査をすることを保健所が拒んだ、
というのは記憶に新しいところです。
危機管理の第一歩は疑うところから始まります。
「おかしいな」と気がつくのは殆どが現場からです。
その声を躊躇することなく聞きいれて
対応するのが行政の在り方だと思います。
しかし、行動計画に代表されるように
殆どの役所業務がマニュアル化されている中で、
いつの間にか、頭で考えて行動することが
失われていることの典型例だと思います。
第2に、現場と地方自治体、
そして地方自治体と国の間の関係における融通のなさです。
現場は何かが起こったとき、
いきなり国(今回は農水省)に相談することは認められません。
必ず県(保健所)から国へ情報が行き、
また同じ道筋を通って現場にフィードバックされます。
県や国の中にも長い長い伝言ゲームのようなプロセスがあり、
これを飛び越えてゆくことは仕組み上許されないのです。
例えば、県の保健所職員が農水省の局長に連絡でもしようものなら、
その職員は大変な仕打ちをうけるでしょう。
しかし、これでは現場に指令が届くのに時間がかかり、
対策が後手後手に回ってしまいます。
これは今回のFMDに限ったことでなく、
豚インフルはじめ、各省庁と地方自治体が
延々と繰り返してきた事なのです。
結果として何が起こるかと言えば、
対応の遅れとともに現場の消耗です。
何度もやってきておかしいのであれば、
もう少し違う仕組みを考えては如何でしょうか。
例えば獣医から県と同時に農水省に連絡出来る
ホットライン構築などは
先ず取り入れなければならない事でしょう。
第3に、危機管理対応という組織的枠組みがないことです。
行政の縦割りによる弊害がその大きな要因でしょう。
緊急に何かを決定しなければならないときにも、
省内で、「あれはあの局の管轄だからわが部署には関係ない」とか
「これはわが局の担当だから他の局からの口出し無用」といった、
小さいピラミッドがそれぞれ勝手に動いていたのでは、
国策として早急に政策を実行するまでに、
時間ばかりがかかることになります。
今回は動物の感染症ですが、
感染症を取り巻く状況は昔と大きく様変わりしています
(H1N1豚インフルエンザ対策総括を検証するもよろしければお読みください)。
何かが起こったとき、はたして人為的なものなのか、
自然発生的なものなのかを見極める必要があります。
病原体が何かを調べるとともに、
どの動物まで広がる可能性があるのか、
ヒトには広がらないのか、といった考察も必要になり、
必要に応じて情報公開をすることが求められます。
今回のFMDは種牛の経済価値、
という問題もはらんでいますから、
少なくとも農水省だけが対策を行うというのは
無理があります。
役所の仕事はすべて法律で規制されますから、
FMDが農水省の法律に入っている以上、
基本的には、他省庁は口出すな!状態です。
そうではなく、危機管理に関わる感染症なるものを位置付け、
必要な感染症をその中に入れ、超省庁で対応をする。
流行が終息してきたら、
一番関連のある省庁が扱う感染症の範疇に戻す、
といった柔軟性のある法整備も
考える必要があるのではないでしょうか。
ウイルスはまたやってきます。
今回の流行から何も学ばなかったでは許されない、
ということを肝に銘じるべきでしょう。
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