2010年9月30日

ワクチン導入の意義を厚労省は理解しているのだろうか

子宮頸がんワクチン概算要求、専門家が課題を指摘

 厚生労働省の来年度予算概算要求に盛り込まれた子宮頸がん対策は、予防ワクチン(HPVワクチン)の普及につながると評価する声がある一方で、「病気の根絶」という観点からは課題も指摘されている。国会議員向けに「子宮頸がん征圧をめざす専門家会議」が9月28日に開いた勉強会では、45%程度の接種率を想定している概算要求に対し、「社会全体の予防としては効果が低い」との見解が研究者から示された。

 厚労省の概算要求では、HPVワクチンの接種費用を補助する市町村に対し、その3分の1を国が補助する仕組み。要求額150億円は、市町村が行う補助事業について「補助対象は中学1年-高校1年の女児(約234.8万人)で、接種率45%」と想定して積算された。

 これに対し同専門家会議では、想定する接種率では集団免疫が十分に機能しないと指摘。概算要求の予算規模を変えないのであれば、▽対象を中学1年(約58.7万人)に絞る▽全額公費負担で無料化する-ことで、社会全体に予防効果が見込めるほどの高い接種率を目指すのが効率的だと提案している。

 この提案に基づき勉強会では、吉川裕之・筑波大産婦人科教授、今野良・自治医科大さいたま医療センター産婦人科教授、福田敬・東大大学院臨床疫学経済学准教授が講演。「一定の年代で接種率100%を狙うのが、世界共通の戦略」「医療経済学の面からも、(同専門家会議の提案は)経済性に優れる」「国費を投じるからには、最も無駄の少ないやり方を選ぶべきだ」などと述べた。

 同専門家会議議長の野田起一郎・近畿大前学長は、今回の予算要求を「大変ありがたい」と高く評価した上で、「ただし、われわれ専門家から見ると、いろんな問題がある。同じ金額を使うのでも、『ここをこう変えれば、もっと効果的なのに』という部分がかなりある」と語った。
医療介護CBニュース 9月29日(水)22時23分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100929-00000012-cbn-soci



HPVワクチンについての議論は、とりあえず振り出しに戻ったといえます。
すなわち、導入に関しては、有効性や社会的インパクト、
費用対効果などを検証が必要だということです。

日本はワクチンに関しては世界から取り残された途上国ですから、
追いつかねばなりません。
しかし、未だに、ワクチンは何のために使うのか、
という意味を理解していないのではないでしょうか。

個々の患者を対象にする臨床(みなさんが病院などで診て貰う)医学と
対比される物として公衆衛生(Public Health)があります。
公衆衛生は個々の症例ではなく、マスとしての国民全体の健康問題を扱います。
ワクチンには必ず副反応が伴いますが、
そのリスクを国民にとっての利益が上回った時に導入されるものです。
利益とは、ワクチンを打つことによってその病気に罹ることを防ぐ、というものです。
この概念は公衆衛生そのものです。
それ故、ワクチンは公衆衛生的ツールの代表と言うことが出来ます。


ワクチン政策は途上国だと書きましたが、
それは、其の国の公衆衛生行政が良くないことを示しています。

日本の予防接種にかかる法律をみてみればよくわかります。

予防接種法(1948年制定)第一章 総則 第一条
「この法律は、伝染のおそれがある疾病の発生及びまん延を予防するために、予防接種を行い、公衆衛生の向上及び増進に寄与するとともに、予防接種による健康被害の迅速な救済を図ることを目的とする」
となっていますが、ピントずれまくりです。
ワクチンに副反応は必発(程度の差はあれど)なのですから、
その救済が接種法の目的になること自体おかしいのです。

ちなみにWHOはワクチン行政について、
「ワクチンで予防可能な疾患(Vaccine Preventable Diseases)は、ワクチンで予防する」
と、極めてわかりやすくシンプルな表現です。

HPVワクチンは良くも悪くも国民の関心を引いたワクチンです。
ですから、これを機に日本のワクチン政策が正しく進むステップとすべきです。
現実的な話では、世界で広く使われている4価のワクチン(万有のガーダシル)の認可を待ち、
議論する必要があるでしょう。
ガーダシルは、HPV感染だけでなく尖形コンジロームなど、
他の性感染症を予防する効果も期待されているワクチンですから、
ワクチンを打つ本人がどちらかを選ぶ、
という選択肢があっても然るべきだと思います。


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