2012年5月14日

医師国家試験問題から読み解く、厚労省の現実離れぶり


~阿呆はいつも彼以外のものを阿呆であると信じている~芥川龍之介

桜の季節も過ぎ、初夏を感じさせるこの頃です。
久しぶりにブログ更新します。
今回は、今年の医師国家試験問題を引用し、
そこから、今の厚生行政のおかしさを指摘したいと思います。

その問題とは、これです。

52歳の男性。糖尿病治療目的で外来通院中である。
体重を減量する必要性を本人も理解しているが、
これまでの5回の受診で体重が漸増している。
身長165 cm、体重82 kg。HbA1c 7.6 %(基準4.3~5.8)。
医師の発言として適切なのはどれか。
a  「何度説明しても無駄ですね」
b  「減量では何がつらいですか」
c  「体重が増えて透析になっても知りませんよ」
d  「次回までに体重が減らないと私は責任が持てません」
e  「今回できなかった分も加えて次回までに減量しましょう」

HbA1cというのは、糖尿病のコントロールの善し悪しを示すもので、
()にあるように、コントロールが良い場合は、低い数値に保たれます。
この症例は、明らかにコントロール不良な糖尿病患者です。

さて、みなさんはこの問題を読んでどの答えを選ぶでしょうか。
おそらく、正解は「b」です。
えー、どうして?と思われる方、自分が思ったとおりだった、と納得される方、
様々な反応があると思います。
なぜ、正解が「b」かというと、その背景は次のように考えられます。

まず、医師たる者、患者を突き放しネガティブな事を言ってはいけない、
という姿勢が求められる、という前提があります。
それとともに、患者の困っている事を把握して、
それを解決してゆくことによって、減量を達成させることが重要である、
という強いメッセージが受け取れます。
こんな解説をしていると、私自身、なんて優等生的な解答をしているのか、
悦に入ってしまいそうです。

でも、現実は本当にそうなのでしょうか。
患者の弱点を把握して指摘すれば、その人は減量に成功するのでしょうか。

この国試問題を見たとき、特定健診が頭に浮かびました。
特定健診とは、いわゆる、メタボ検診のことです。
具体的には、40歳~74歳までの公的医療保険加入者全員を対象に、
腹囲の測定及びBMIを計算し、
基準値(腹囲:男性85cm、女性90cm / BMI:25)以上の人は
さらに血糖、脂質(中性脂肪及びHDLコレステロール)、血圧、
喫煙習慣の有無から危険度によりクラス分けします。
そして、クラスに合った保健指導(積極的支援/動機付け支援)
を受けるというものです。


みなさん、ご自分の事として考えてみてください。
腹囲が多少大き目だから、コレステロール値が高いと言われて、
そんなに簡単に食生活を立て直し、規則正しい生活をするでしょうか。
たかが、検診医の一言だけで減量が成功するのだったら、
なぜ、ダイエット特集がこれ程「うける」のか、不思議でなりません。
たいていのメディアは、ネタが無くなったら「ダイエット特集」を組みます。
何度くりかえされても大人気の「ダイエットに関する話題」が続くことは、
それだけ減量できない人が多いことを示している、とも言えます。
また、指導をする医師自身がメタボ体型だったりすると、
その口からでる「ご指導の言葉」自体が、胡散臭さを醸し出すことだってあります。

このように、人の習慣をかえることはそんなに簡単なことではありません。



また、この検診は、メタボリック・シンドロームなるものが、
生活習慣病の大きな原因のひとつであって、
この症候群をコントロールすることで、医療費削減が見込まれる、
という前提にたっています。
しかしながら、この前提は推論であって、
メタボ検診が医療費を削減するなどという科学的根拠ははっきりしません。



国試問題の答えをもう一度みてみましょう。
答えは「b」だろうと書きましたし、おそらくそれが正解です。
しかし、現実の世界では、aからeまで、どれも有り得る解答です。
おそらく、この問題は、臨床現場をよほどわかっていないか、
あるいは、メタボ対策を推奨し、
厚生労働省のお褒めをいただきたい人が作ったのではないか、と思います。

私自身、この陳腐な問題をみて、現実の厚生行政も、
現実とはかけ離れた、机上の空論で作成されている事実がダブって、
笑うに笑えない気持ちになりました。

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