2014年10月9日

健診データを用いて日本経済の活性化をはかる

我が国は1年に一度以上の健康診断(以下、「健診」)が、無料あるいは少額の自己負担で受けられるという、世界で稀な制度を持っています。学校については、「学校保健安全法」で、企業に関しては「労働安全衛生法第六十六条」により、医師による健康診断が義務付けられています。

 健康診断の結果は、個人が見て「自分は太りすぎだから減量しよう」などとして、自分の生活習慣を見直したり、医療機関を受診するなどの目安とします。また、国などが、データを解析し、がんや生活習慣病といった疾患の危険因子をみつけることにより、予防に役立てるために使われています。けれども、学校や企業などがデータを活用するなどして、健診結果を効果的に利用しているかというと、あまりないというのが実情ではないでしょうか。これは、学校や企業が個々の努力で健康診断結果の活用を促すことは限界があることと、国や地方自治体などが個別の企業に介入することの問題が生じるからです。
 健康問題と企業業績などについての関連性は、欧米諸国で大きく取り上げられています。ある研究結果から、出世している人は肥満度も喫煙率も低い傾向が明らかになり、「体重コントロールと禁煙ができないと出世に響く」という概念が一般化されているのが例として挙げられます。実際、現代社会において、体調管理は自分を律することであり、自らをコントロールできない者が組織を東ねることができるのか、という論理は説得力がります。

 ところが、わが国においては、健康問題と企業業績などの関連性の議論が、欧米諸国と比べて希薄であるといわざるを得ません。健診結果はメガデータであり、身体だけではなくメンタルな事象をも含む包括的なものです。健康指標となるべき健診データが、学校や企業のパフォーマンスに生かされていないことは学術的にも社会的にも大きな損失だと考えます。
 そこで当会は長年にわたる学校健診のデータ分析と食育アンケートを行い、「健康問題に積極的に取り組んでいる学校は、教育面でも高い評価をえている傾向がある」との結果を得ました。この分析結果は2日発売予定の別冊『週刊ダイヤモンド「学校特集」』に掲載されています。今回の取り組みは、世論として最も関心のある「食育」を導入部分とし、地方自治体ごとの栄養教論(食育を担当する専門職員)の問題なども指摘しています。
 今後は学校健診データの比較検討をさらに広げるとともに、企業についても同様の取り組みを行う予定です。わが国と久慈の健診事業を通じて、企業が健康問題の重要性を認識し、その業績向上に貢献できることが、われわれの使命の一つです。私たちが取り組む研究が、日本経済全体のポトムアップになることを期待しています。


(これは平成26年9月1日、日刊工業新聞に記載された記事を、加筆修正したものです)