2013年4月15日

インフルエンザ特措法は官製パニックを生み出す悪法


新型インフル対策の特措法、12日にも施行 

 政府は8日、昨年4月に成立し、毒性や感染力が強い新型インフルエンザの対策を定めた特別措置法を12日にも施行する方針を固めた。特措法は流行拡大を防ぐため、都道府県知事が外出自粛や学校の使用制限などを要請できることが柱。5月10日までに施行する予定だったが、中国での鳥インフルエンザの感染拡大を受け、前倒しで調整していた。
日本経済新聞 2013/4/9 0:49配信
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0804S_Y3A400C1CC1000/?%22%20class=%22cmnc-continue



2012年4月に制定された、新型インフルエンザ等特別措置法(以下、特措法)は、4月12日に施行(法律として実行力を持つこと)されることになっています。通常、法律が国会を通過しても、その施行にはおよそ1年かかるので、今回の特措法は異例だといえます。

この法律について論じる前に、今回、中国で発生しているインフルエンザとは、どういう病気なのかまとめてみたいと思います。

(1) H7N9インフルエンザは、通常トリにかかる病気であり、ヒトへの感染が報告されたのは、今回がはじめて(4月16日現在、ヒトヒト感染は確認されていない)
(2) H5N1トリインフルエンザのように、50%以上の致死率をもつ、スーパーキラーウイルスではない
(3) インフルエンザはインフルエンザウイルスによっておこり、気道(鼻や口)から感染する
(4) ウイルスが体の中に入って(感染して)いても、咳や熱などが出る(発病する)までに、数日から1週間程度の「潜伏期」があり、この時期は、健常人と区別できない。しかし、ウイルスは出ているので、他の人を感染させる可能性がある
(5) ウイルスに、特効薬はない
(6) 治療の基本は、休養と対症療法(水分補充、解熱剤使用など)で、ウイルスが体の外に出るまで待つ以外はない

これらの事実を踏まえた上で、特措法を見てみましょう。
特措法の基本は、「検疫、隔離、停留」です。2009年H1N1豚インフルエンザが世界的に流行した際、防護服に身を包んだ検疫官が、魔女狩りのごとく、空港内の患者を見つけようとやっきになっていた姿を思い出される方もいらっしゃるでしょう。
ずいぶん勇ましい姿でしたが、実際、何を行っていたのでしょうか。それは、サーモグラフィーという皮膚の表面温度を測る機械で、熱が出ている人を探したのです。しかし、前述でまとめたとおり、インフルエンザには潜伏期があり、インフルエンザウイルスに感染していたとしても、症状がなければ、その場はすりぬけてしまいます。また、暑かったり、アルコールが入ったりすれば、皮膚温が高くなる人もいます。逆に、体の中の温度は高くても、皮膚温は低いままの人もいます。この様な事例があることを考えれば、サーモグラフィーが、インフルエンザに罹った人を正確に検出できる、万能なものでは無いことがおわかりになると思います。

また、もっとも憂慮すべきは、前に述べた、低病原性のインフルエンザに対して、「隔離、停留」といった戒厳令に匹敵するような法律を適応することです。このような内容は、効果のない手法を導入するという、方法論の立場からもおかしいだけでなく、国民の人権無視とも言える行為を含んでおり、国民は、この法律を見ただけで、「とんでも無く、恐ろしい病気」と錯覚してしまいます。実際は、まったくそうではないことは、繰り返しになりますが、述べておきます。
2009年の検疫強化による水際作戦は、「国に絶対の権限を与えれば、インフルエンザは防げる」という幻想のもとに成り立っており、科学的根拠はありません。すなわち、国が幻想の上で作り上げた、「官製パニック」といえるでしょう。

インフルエンザは頭の良いウイルスであり、自分が捕まって殺されないように、次々と顔を変えるのです。それを「変異」と呼びます。変異しやすい特性から、ヒトからヒトへの感染が起こりやすい「顔」に変異する可能性も十分あります。そうなれば、今までヒトの間で広がったことのない(ヒトにとっては免疫のない)ウイルスですから、通常の季節性インフルエンザよりは大きな広がりを見せるでしょう。そして、ある期間を経て、いずれは終息してゆきます。

インフルエンザ対策の基本は、重症例をできるだけ少なくすることにあります。そのためには、重症化しやすい人たちに手厚い医療体制を敷くことが、もっとも重要なことです。重症化しやすい人とは、高齢者、小さい子供、抗癌剤治療を受けているような、免疫機能が低下している人、糖尿病患者などです。このような人たちが感染症に罹れば、健常人と比べて重症化しやすいのは、インフルエンザでも、他の感染症でも同じことです。2009年には「発熱外来」なるものが登場しましたが、このような代物を作れば、通常、病院に来なくても、水分を摂って休んでいれば治るような健常人も押し寄せ、医療機関がパンクしてしまいます。となると、先ほど挙げた、重症化しやすい人たちがいざ病院に罹りたくても、十分な治療を受けられないという状態になりかねません。「発熱外来」は、国自ら重症化を推進しているようなものですから、絶対行ってはならないものです。

繰り返しますが、今回のインフルエンザは、H5N1トリインフルエンザのように、高い致死率を有する、スパーキラーではありません。たとえヒトヒト感染が起こったとしても、低病原性であることは変わりありません。水分が摂れない、息が苦しいなど、自分で「いつもと状況が違う」と感じられたときは、もちろん医療機関を受診する必要がありますが、健常人であれば、水分を良く摂り、十分な休養をすればよくなります。病院には、抗がん剤治療をしている方、術後の方など、インフルエンザに罹ると重症化してしまうような方が大勢います。そのような方たちに、インフルエンザが広がれば、多くの重症例が発生し、死亡例が出ることは必至です。

行政にとってやらなければならないのは、正しいインフルエンザの知識と情報であり、幻想の上に構築された、検疫強化ではないのです。この悪法は速やかに廃止すべきだと思います。

最後に、国民ひとりひとりが、煽りや、虚偽の情報に踊らされることなく、冷静に対処されることを切に望みます。

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